JR東日本で一番新しい駅が「子育ての街」に

厚生労働省の「人口動態統計」によると、2013年の合計特殊出生率(※15~49歳までの女性の年齢別出生率を合計したもの)は1.43。2012年より微増してはいるものの、諸外国と比較すると依然として低い水準だ。周知の通り少子化は日本の重要な課題の一つであり、行政・民間とも様々な対策やサービスを打ち出している。
住宅業界にも当然その傾向はあり、教育関連企業とコラボした住宅や設備を開発するメーカーも増えている。

そんな中、物件だけでなく街自体のコンセプトを「子育て」とした大規模な開発を行うプロジェクトが進行中だという。
JR武蔵野線の吉川美南駅は、越谷レイクタウン駅と「IKEA」や「ららぽーと」のある新三郷駅、商業施設で近年著しく発展したこのエリアに、現在JR東日本では最も新しい駅として2012年に開業した。
田園風景の残る吉川美南駅周辺が、住宅・商業・保育・医療が複合した「子育ての街」になるという。開発面積は16ヘクタールに上り、総世帯数1400戸以上、保育園や商業施設の誘致も予定している大規模な「子育ての街」は、一体どんな魅力があるのだろうか?

この「IKUMACHI(育まち)吉川美南」プロジェクトについて、大和ハウス工業株式会社マンション事業推進部の堀達雄さん、東京本店マンション事業部の松本諭吉さんにお話を伺った。

「IKUMACHI吉川美南」総合イメージ図。東京ドーム約3.5個分の総敷地面積に、</br>住・商・育・医が複合した広大な街が完成する「IKUMACHI吉川美南」総合イメージ図。東京ドーム約3.5個分の総敷地面積に、
住・商・育・医が複合した広大な街が完成する

日本を代表する「イクメン」を、街のプロデューサーに

現地の視察から始まった活動は、街のコンセプト、戸建て住宅、マンション等について、プロデューサーのおち氏を含めた議論を重ねてきた現地の視察から始まった活動は、街のコンセプト、戸建て住宅、マンション等について、プロデューサーのおち氏を含めた議論を重ねてきた

吉川美南駅のある埼玉県吉川市は、もともと子育て支援に積極的な行政だ。基本医療費を中学校卒業まで無料にするなどの政策の他、2012年には待機児童ゼロを実現した。さらに、都心からの円周で考えると浦和やたまプラーザと変わらない距離にありながら、田園風景も残る自然の豊かな環境をもつ。
「私たち大和ハウスグループは、ここを『子育てのまち』とすることで、少子化の解決策の糸口を見いだせないか、という想いに至りました」とプロジェクトの始まりについて松本さんは語る。

実は埼玉県は、男性有業者の平均育児・家事時間が1日あたり72分で全国1位。(※全国平均39分 総務省統計局 平成23年社会生活基本調査による)日本一「イクメン」が多い県と言っていい。その要因は?と質問したところ、松本さんは「個人的な見解ですが、都心から多少離れても、子どもや家族のためにゆとりのある環境を優先される方が多いのではないでしょうか」と話してくれた。
開発者視点にとどまらず実際に子育てをする生活者視点を盛り込むため、子育ての第一人者をまちのプロデューサーとして迎えた。厚生労働省の「イクメンプロジェクト」の推進メンバーでもある、“おちまさと氏”だ。おち氏は2012年12月のプロジェクト開始から計画に参加。商業施設街区のイオンタウンや、ファミリー向けモデルハウスなどをプロデュースするという。

コンセプトは「まち全体で子育てするまち」

「IKUMACHI吉川美南」のコンセプトについて、松本さんは以下のように説明してくれた。
「私も子どもを持つ身として経験していますが、子育て中の親は、何かと周囲に気を遣う場面が多いんです。しかし、周囲の人たちごと子育てに参加する状況であれば、お互いに協力的になり“すみません”より“ありがとう”をたくさん言うことができる。そんな街を目指します」
それを実現するため設けた「IKUMACHI憲章」に沿って街づくりが行われる。憲章の具体的な内容は以下の3つのポイントだ。

(1)チャイルドファースト
(2)まち全体で育てよう
(3)シェアする子育て

“チャイルドファースト”とは、「子どもと、子育てをするママ・パパを優先して暮らすまちを一緒に目指す」という考えを街の開発計画や住宅のコンセプトに取り入れているという。

“まち全体で育てよう”について、松本さんは「近所の家の子どもの名前を覚えるという風に、みんなが親心を持って子どもたちを育てる街を目指しています」と説明してくれた。
この街では戸建て住宅も管理組合があり、住居種別に関わらず一本化させた「IKUMACHI協議会」を発足する。協議会では街路の植栽管理やイベントを企画するなど資金面・運用面で結合し、「街」の概念が永続的に失われないようコミュニケーションの活性化を目指す仕組みだという。

“シェアする子育て”とは、どういう意味なのだろう?
「例えば使わなくなった子育て用品を他の方に譲ったり、子育ての悩みや喜びを親同士がシェアする関係を作るまちを目指しています」と、松本さん。「IKUMACHIクラブハウス」を設け、子どもの成長とともに使わなくなった絵本やおもちゃ等をシェアできる「シェアライブラリー」や交流スペースを設置し、モノと人間関係を通して「子育てをシェアする」場所にしたいと考えている。

「チャイルドファースト」の住まい

プロジェクトが完成すると、分譲マンション4棟984戸(予定)、戸建て住宅270区画、賃貸住宅15棟の計1400世帯以上が暮らす街となる。現在はマンションと戸建て住宅が分譲中で、それぞれが「チャイルドファースト」の観点からプランニングされているという。

「グランセンス吉川美南 ステーションコート」は、埼玉県が設けた管理運営面や共用・専有部分の工夫などの項目について要件を満たすと認定される「子育て応援マンション」でもある。
具体的には「電気のスイッチ高さを子どもの手も届く100cmに設置したり、汚れた靴なども外で洗えるようバルコニーにスロップシンクを設けました。スロップシンクを設置したマンションは最近少ないのですが、実は後付けできない設備のため、お客様にも好評です」と、松本さんが説明してくれた。
マンション内にパーティールームやキッズルームを設け、体操教室などのイベントの開催や、子どもの誕生会を開くなど、住民が交流できる仕組みも考えられている。

次に戸建て住宅「スマ・エコシティ吉川美南」の特長について、販売を担当する砥上忠裕さんにお話を聞いた。
「戸建て街区は、季節毎に見所の多い植栽を植えて彩りのある街並みになっています。さらにフットパス(歩行者専用道路)やイメージハンプを設けて車両速度を抑えるなど、子どもたちの安全も考えた街路計画です。また、太陽光発電システム・リチウムイオン蓄電池・D-HEMSⅡを搭載した大和ハウス独自のシステム“スマ・エコオリジナルⅡ”を全戸に採用し、環境に配慮しながらも発電・売電で家計を助ける、ファミリーに嬉しい仕組みです」
現在、50もの子育てアイデアを盛り込んだ、おちまさと氏プロデュースのモデルハウスを秋のオープンに向けて準備中だ。

(左上)ゆったりとした敷地に美しい街並みが特長の戸建て街区外観(左下)マンション内のキッズルーム(イメージ図)</br>(右)自走式駐車場も完備。マンション外観イメージ図(左上)ゆったりとした敷地に美しい街並みが特長の戸建て街区外観(左下)マンション内のキッズルーム(イメージ図)
(右)自走式駐車場も完備。マンション外観イメージ図

子どもに優しい街=みんなに優しい街

今回お話を伺った、大和ハウス工業株式会社の松本さん(左)と堀さん(右)</br>今回お話を伺った、大和ハウス工業株式会社の松本さん(左)と堀さん(右)

現在分譲中の住戸について、やはり契約者は子育て世代が多いのか?と質問すると、意外な答えが返ってきた。
「実は戸建てでは約1割、マンションでは約2割強がシニア世帯です。街並みがきれいで駅から近い所が良いと、地縁のない方が遠方から来場されるケースも多いですよ」
駅距離の近さから資産価値に魅力を感じたり、子育て夫婦の見学に付き添ってきた親世代も気に入って一緒に検討するというケースもあるようだ。子育てを経験したシニア層の多くは、街のコンセプトである「子育て」の取り組みにも賛同されるという。「子どもにとって優しい街は、シニアや多世代にとっても住みやすい街なんです」と、堀さんは語ってくれた。

今後、イオンタウンや保育園・医療施設の開業を控え、街はさらに発展して行く。子育て色でスタートするこの街は、子どもが育った20年後、30年後はどんな街になるのだろう?
「ここで育った子どもが戻ってきてまた子育てをする、世代が入れ替わっても人が住み続ける街を目指しています。過去に開発された大規模団地で、駅から遠いために数十年経って人がすっかりいなくなってしまった所もありますが、ここは駅から近いので、ずっと人が住み続ける街になるはずです」

ここでのびのびと育った子どもが、将来この街に戻ってまた子育てをする事が、このプロジェクトの本当の意味での成功のように感じた。現在だけでなく将来の活気も視野に入れたこの街づくりは、数十年後には成熟した街のモデルケースとして、再度注目を集めるかもしれない。

2014年 08月14日 10時58分