化学物質過敏症、アレルギー、アトピー……。住環境が影響する病気、増加中

国産の無垢材を使うことで有害化学物質フリーを目指したという室内。裸足で歩いてみるとその感触の良さがよく分かる国産の無垢材を使うことで有害化学物質フリーを目指したという室内。裸足で歩いてみるとその感触の良さがよく分かる

2013年夏。環境省が提唱した女性のクールビズの中に、汗の臭い対策として、香り付き柔軟剤や制汗剤使用の勧めがあった。これに対し、化学物質過敏症に悩む人たちへの配慮が足りないと反対の声があがり、環境省が当該箇所を削除するという騒ぎがあった。化学物質過敏症とは、洗剤や壁紙、香水その他身の回りのあるあらゆる化学物質に敏感に反応、頭痛、めまい、吐き気、ひどい人になると呼吸困難に陥るというもので、近年増加傾向にあるという。

化学物質過敏症に限らず、アレルギー、アトピー、花粉症など、現代の生活では住まいの環境が気になる病は数多い。少しでも、健康に良い住まいを選びたいと思う人も多いはずだ。そのうちの一人がアトピーに悩んでいた宮原元美さんだ。

「4~5年前から化学物質を使わず、無垢の国産木材など、天然素材だけで建てる住宅に関心を持ち、見学会などに参加してきました。自分自身も含め、こういう健康に良い住まいを求めている人もいることが実感できました」。

一方で農村の耕作放棄地に関心があった宮原さんは現地訪問などの活動の中で、都会に暮らしていても、土に親しむ暮らしをしたい人が少なからずいることにも気づく。そこで計画したのは自然素材で作られた、家庭菜園付きの賃貸物件である。

自然素材と菜園に自然エネルギーをプラスした賃貸、モーラの家

といっても、自然素材で作られた家庭菜園付き賃貸だけであれば、先行事例がある。宮原さんは横浜、足立区などの先駆を見学、そこに自然エネルギーを加えた物件、モーラの家(埼玉県志木市)を企画する。具体的には太陽熱温水器(太陽熱を利用した給湯器。熱効率がよく、長持ちする)、ペレットストーブ(おが粉やかんな屑など製材副産物を圧縮成型した小粒の固形燃料と利用するストーブ。化石燃料を使わず、環境に優しい)、共有の井戸を設置、家庭菜園と合わせると災害時にも自給自足ができるようになっている。

「ただ、自然エネルギーに関心のある人は少なく、また、この物件を過敏症専用などと特定の人向けにするつもりはありません。実際の入居者もコンセプトに同意した方もいらっしゃれば、ふらっと見に来て気に入ったという方もいらっしゃいます。同じ考えの人ばかりが集まるより、違う考えの人がいて、でも、ここに住むことで過敏症を知ったり、土と触れ合うのが楽しいと思うようになる人がでてきてくれたらうれしいなあと」。

全戸に設置されたペレットストーブ。上部に鍋をかけておけば時間をかけた煮込み料理が出来上がる全戸に設置されたペレットストーブ。上部に鍋をかけておけば時間をかけた煮込み料理が出来上がる

入居者間、地域との間に緩やかなコミュニティのある住まい

各住戸の前、室内から望める場所に家庭菜園スペースがある。各戸のスペース間には仕切りがなく、庭全体がコミュニケーションの場に各住戸の前、室内から望める場所に家庭菜園スペースがある。各戸のスペース間には仕切りがなく、庭全体がコミュニケーションの場に

入居者間、地域との間に緩やかな人間関係を作る住まいにするというのも当初からの目的だった。もともと、宮原さんの実家はこの地で16代続く地主。コミュニティの中心になれる立場でもあり、入居者に地域の店を紹介するなど、地元とのつながりのコーディネートを積極的に行っている。

入居者間では入居者の方が呼びかけたバーベキューパーティーをきっかけに交流が始まり、家庭菜園をコミュニケーションスペースとして、今では昼間在宅している女性だけでお茶を飲んだり、実家から送られてきた野菜をおすそ分けし合ったり。良い人間関係が生まれているようだ。

「一目見て気に入ってしまい、ここに住むために千葉から誰も知り合いのいない埼玉に引っ越してきました。今ではお隣りにたくさん友人がいるという感じ。何かあっても助け合える安心感があります」とは取材時に住み心地を語ってくださった入居者の弁。リビングに吊るしたハンモックでゆらゆらしている時間が大好きという彼女は「居心地が良すぎるので、ここに引っ越してきてから引きこもりになっちゃいました」とも。賃貸で我が家が最高という言葉はあまり聞かない。羨ましい話である。

エコ・フレンドリーな住まいを紹介しようと、ミドリムシ不動産を立ち上げ

エコ・フレンドリーという観点から考えると、建物自体も長持ちするものである必要がある。モーラの家は100年以上残る、社会ストックとなる建物を目指したというエコ・フレンドリーという観点から考えると、建物自体も長持ちするものである必要がある。モーラの家は100年以上残る、社会ストックとなる建物を目指したという

現在では満室状態のモーラの家だが、その状態に至るまでには苦労もあった。「何度か説明しても、モーラの家のコンセプトを理解してくださる不動産会社が少なく、その結果、ユーザーにもこういう物件があることが伝わりにくい。先行事例の大家さんにも同じ苦労をした人が多く、それなら、エコ・フレンドリーをキーワードにした物件だけを集めたサイトを作ってしまおうと、2013年9月にミドリムシ不動産を始めました。登録物件数は多くはありませんが、数よりも、こうした、ちょっと変わった物件を探したい人がいつでも最新情報を入手できるようにすることが大事だろうと思います」。

借りたいという人がいるのであれば、もっとこうした物件が増えて良いのでは、もっと都心にあってもいいのではと思う人もいるだろうが、それは難しいのではないかと宮原さん。

「先行事例もモーラの家もそうですが、いずれも地主で土地があったからできたこと。無垢材など自然素材で建てると、どうしても費用が嵩むので、土地を購入して建てるというのは難しい。都心の大家さんでこういう物件を建てたいという人がいれば実現できるかもしれませんが……」。

確かに家庭菜園に敷地を使う贅沢は土地の高い都心では難しい。また、そもそも化学物質などに敏感な人は都心にいるだけでも、体調に変化をきたすことがあるという。その意味では都心ではなく、緑が多いなど環境に恵まれた場所の大家さんがこういう物件の存在を知り、建てる気になってくださると、賃貸市場の多様化が進み、面白いと思う。

増えています、化学物質過敏症(滋賀県彦根市ホームページ)
モーラの家
ミドリムシ不動産

2013年 10月30日 10時56分