子育てしやすい街ランキングは毎年のように発表されるが、順位だけを頼りに住まいを決めるのは危うい。評価軸の置き方一つで顔ぶれが入れ替わるからだ。医療費助成で見るか、保育園への入りやすさで見るか、公園の多さで見るか。そして忘れてはならないのが、支援が手厚い自治体ほど住居費も高いというトレードオフである。

本稿では、東京23区の公式制度と保育・治安などの公開データを突き合わせ、「子育てしやすい」を評価軸ごとに分解して点検する。そのうえで、世帯属性別にどの区が現実的な選択肢になり得るかを整理したい。

【LIFULL HOME'S】子育てのしやすい街ランキング。東京23区で1位は待機児童数が多めの練馬区!?

23区は「共通の土台」がすでに全国最高水準

まず押さえておきたいのは、23区の場合、経済的支援の土台部分にはほとんど差がないという事実だ。

医療費については、23区が都の助成に独自の上乗せを行うことで、保護者の所得に関係なく、高校生までの子どもは入院も通院も無償になる体制が整った。多摩地域では通院時の自己負担(1回200円程度)を残す市が今も多く、所得制限を残す市も一部あるのと対照的で、「23区に住むこと」自体がすでに一つの子育て支援といえる。

学校給食も同様だ。物価高騰を背景に区立小中学校の給食費無償化が加速し、2023年度中に20区が無償化を実施、残る3区も翌年度から実施する方針となり、23区すべてで無償化が実現した。

さらに東京都は、2025年9月以降、年齢や所得にかかわらず認可保育所等を利用する世帯を対象に、第1子の保育料無償化を実施している。3~5歳児クラスの保育料は2019年10月から国の幼児教育・保育の無償化により無償となっているため、都の制度で新たに無償となったのは主に0~2歳児クラスの第1子の保育料である。これにより、23区では子どもの医療費助成、区立小中学校の給食費無償化、認可保育所等の基本保育料無償化という共通の支援基盤が整っているといえる。

ただし、保険外診療や入院時の一部費用、保育施設の通園送迎費、食材料費、行事費などは、原則として自己負担となる。認可外保育施設や幼稚園なども、施設や利用条件によって無償化の対象範囲や上限額が異なるため、「三大固定費が一律にゼロ」ではなく、「基本的な負担が大きく軽減されている」と表現するのが適切だ。

つまり「医療費・給食費・保育料」という三大固定費は、23区内ならどこに住んでもほとんどかからない。区選びで差がつくのは、この土台の上に各区が「上乗せでどんな独自支援を積んでいるか」である。

なお、筆者には神奈川県川崎市に住んでいる知人がいるが、「川の向こうの大田区は子育て支援が充実しているのに悔しい」と嘆いていた。全国でも子育て支援に力を入れる自治体は増えつつあるものの、23区は依然として「羨望される存在」なのだ。

(出典)
東京都福祉局「乳幼児医療費助成制度(マル乳)」
東京都福祉局「義務教育就学児医療費の助成(マル子)」
東京都福祉局「高校生等医療費の助成(マル青)」
東京都福祉局「保育料等の無償化について」

差がつくのは「独自上乗せ」

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三大固定費の無償化が「共通の土台」となった今、区ごとの個性が最も表れるのが、出産期の経済支援と住宅関連支援である。前者は「産む瞬間」の自己負担をどこまで埋めるか、後者は「住み続けるコスト」をどこまで支えるかという、性格の異なる2つの上乗せだ。

出産・育児期の独自給付|実費を補う「補填型」は少数派

国の出産育児一時金(50万円)や、2025年4月に法定化された「妊婦のための支援給付」、都の「赤ちゃんファースト」は23区共通で受けられる。以下はあくまで、各区が独自に上乗せする部分の例である。

制度・支援内容(例) 特徴
港区 出産にかかる分娩費や入院費等について、区が定める助成金算出上限額または実費額のいずれか低い額から、出産育児一時金等を差し引いた金額を助成する。単胎の場合、助成金算出上限額は81万円、実際の最大助成額は31万円 出産費用の自己負担を補う実費補填型
千代田区 出産費用が出産育児一時金を上回った場合、自己負担分を一度の出産につき最大31万円助成。加えて中学生・高校生世代の児童1人につき月額1万5,000円の独自手当を支給 ほかの制度・支援と連続することで出産から高校卒業まで切れ目なしを実現
中央区 2歳児がいる家庭へのWebカタログギフトを、第1子6万円相当、第2子7万円相当、第3子以降8万円相当へ大きく拡充 給付が薄くなりがちな幼児期に追加支援
豊島区 バースデーサポート事業として、1歳の時期に第1子6万円、第2子7万円、第3子以降8万円分のWebカタログギフトを支給 多子ほど手厚い設計
足立区 出産費用の総額から出産育児一時金や健康保険の給付等を差し引いた自己負担分について、子ども1人につき最大10万円を助成する 出産費用の自己負担を補う実費補填型

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23区全体で見ると、出産費用の「かかった実費を埋める」補填型の上乗せを行う区は少数派で、一時金やギフトを一律に支給する型が主流である。無痛分娩や個室利用で出産費用が一時金を大きく超えがちな都心の医療事情を踏まえると、港区・千代田区の補填型は実利が大きい。
なお、港区・千代田区・足立区の実費補填型はいずれも「出産日以前から申請日まで継続して1年以上の区内居住」が要件で、転入直後の世帯は対象にならない。制度を比較する際は、表示された金額だけでなく、実際の最大助成額や対象となる費用、居住条件も含めて確認する必要がある。

(出典)
こども家庭庁「妊産婦への伴走型相談支援と経済的支援の一体的実施」
港区「出産費用の助成」
千代田区「出産費用助成(区独自制度)」
千代田区「中高生世代応援手当(区独自制度)」
中央区「バースデーサポート」
豊島区「妊娠から出産・子育て期の相談支援および経済的支援について」
足立区「出産費助成事業」

住宅支援で「家賃を直接支える区」は少数派

一方、住居費そのものに切り込む支援を持つ区は限られており、だからこそ差別化要因になる。

制度・支援内容(例) 特徴
千代田区 次世代育成住宅助成:親世帯との近居のために住み替える新婚・子育て世帯や、子の成長に伴い区内でより広い住宅へ転居する世帯が対象。助成期間は最長8年間で、世帯人数に応じて助成額が設定され、たとえば6人世帯の親元近居なら1年目は月額8万8,000円 賃料水準は高いが助成の厚みも随一
新宿区 次世代育成転居助成:区内転居時の家賃差額を月額最高3万5,000円、引越し代を最大10万円まで助成。子世帯と親世帯が区内で近居・同居する際の初期費用を支援する制度も併設 「区内で広い部屋へ」を後押し
豊島区 多世代近居・同居支援事業:区内に1年以上住む親世帯と近居・同居するために転居する子育て世帯を対象に、引越しの初期費用や同居のための住宅改修費を最大20万円助成。なお、従来の「子育てファミリー世帯家賃助成」は、2026年4月1日以降に区内で転居・区外から転入した世帯は原則対象外となった 親世帯との近居・同居を初期費用で後押し
北区 親子住まいる応援事業:区内で親と近居・同居するための住宅を取得する際、登記費用の一部を上限20万円まで助成 購入派・三世代近居を想定
板橋区 子育て世帯住宅リフォーム支援事業:18歳以下の子ども(妊娠中を含む)を扶養する世帯を対象に、手すりの設置や段差解消など子どもの安全に配慮した住宅リフォーム費用の2分の1(上限50万円)を助成 持ち家・賃貸とも対象の改修支援型

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注目したいのは、住宅支援には「親元近居」を条件とする制度が多い点だ。千代田区・新宿区・豊島区・北区の制度はいずれも祖父母世帯との近居・同居を促す設計で、送迎や急な発熱対応を親族で分担できる世帯には、金銭以上の価値を持つ。

反対に実家が遠方の世帯はこの類型の恩恵を受けにくい。家賃を直接支える助成は縮小傾向にあり、新宿区のような区内転居時の家賃差額助成や、板橋区のようなリフォーム費用の助成が現実的な選択肢になる。

ただし住宅系助成は、募集枠・所得要件・専有面積要件が細かく設定された「狭き門」であるだけでなく、助成額や運用が年度ごとに改定される。転居計画の初期段階で、各区住宅課に最新条件を確認しておきたい。

(出典)
千代田区「次世代育成住宅助成」
新宿区「次世代育成転居助成」
新宿区「多世代近居同居助成」
豊島区「子育てファミリー世帯家賃助成制度」
豊島区「多世代近居・同居支援事業」
北区「親子住まいる応援事業」
板橋区「板橋区子育て世帯住宅リフォーム支援事業」

「待機児童ゼロ」の看板を鵜呑みにしない

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保育については、数字の読み方に注意が必要だ。2025年4月1日時点では、待機児童が発生していたのは23区中7区であり、統計上の待機児童は大幅に減少している。ただし、待機児童数がゼロでも、希望する年齢・地域・保育園によっては入園競争が生じる可能性がある。

また、0歳児人口を0歳児定員で割った数値は、保育園への申込者数を基にした入園倍率ではない。区内の0歳児全員が保育園を申し込むわけではないため、この数値だけで「入りやすい区」「入りにくい区」を順位付けすることは難しい。保活の実態を把握するには、年齢別・地域別の募集枠、申込者数、一次選考の内定状況、直近の空き情報を確認する必要がある。学童についても、利用時間や長期休暇中の昼食対応など、実際の運用を併せて確認したい。

(出典)
東京都「都内の保育サービスの状況について」
東京都「表4 区市町村別の状況」
千代田区「保育所等の定員と空き状況および待機児童数の状況」

「手厚いが高い区」と「費用対効果重視の区」で選ぶ

ここまでの評価軸を住居費と重ねると、23区は大きく2つに分かれる。

一つは千代田・港・中央の都心3区に代表される「フルスペック型」。制度は最も手厚いが、ファミリー向け物件は分譲・賃貸とも23区最高値圏にある。「番町小に通わせたくて引越したが、物件価格は高かった」という子育て世帯の声が象徴するように、支援の手厚さは住居費に織り込まれていると考えるのが自然だ。

もう一つが足立・葛飾・板橋・練馬などの「費用対効果型」。23区共通の三大無償化はフルに享受でき、住居費は都心の半分以下の水準も狙える。浮いた住居費を教育費に回せると考えれば、トータルの子育てコストではむしろ優位に立つ世帯も多いはずだ。

世帯属性別・現実的な選び方

最後に属性別の視点を示す。共働き世帯は0歳児の保育定員倍率と学童の充実度が生命線であり、需給に余裕のある千代田区や、待機児童ゼロを維持する葛飾区・練馬区が候補になる。

多子世帯は給食・医療・保育料無償の恩恵が人数分受けられるうえ、中央区・豊島区のような多子加算型ギフトも得られるため、広い住まいを確保しやすい城東・城北エリアの費用対効果が高い。ひとり親世帯は共通制度に加えて家賃助成やひとり親医療費助成を受けられるが、運用が区で異なるため、窓口での事前確認が必須だ。専業・時短世帯なら、保育の逼迫度より公園・児童館の密度や治安を優先してもよいだろう。

「子育てしやすさ」は1つのランキングでは測れない。共通の土台は全区で整った今、問うべきは「各家庭の優先軸はどこか」と「その区の住居費を払い続けられるか」の2点である。制度は毎年度更新されるため、候補区の公式サイトで最新情報を確認したうえで、住まい探しを進めてほしい。

ホームズ君

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