古い家を再生させる「京ぐらしネットワーク」のモデルハウスとして活用
京都市南部の伏見区に位置する世界文化遺産・醍醐寺。京都府下最古の木造建築物として有名な五重塔がそびえる名刹である。
この醍醐寺の目の前にあるのが、「醍醐の家」。1907年(明治40年)に建てられた2階建ての木造住宅(一部、1965年/昭和40年に増築)を全面改修、「京ぐらしネットワーク」のモデルハウスとして公開されている。
「『京ぐらしネットワーク』とは、木工事によって耐震・断熱の性能を上げるリノベーションを行う団体です。15軒ほどの工務店、建材メーカー、設計事務所、宅建業者で構成しています」そう話すのは、同ネットワーク事務局の平安建材企画部・部長の水嶋弘明さん。
「私たちが、新築ではなくリノベーションにこだわるのは、京町家を守りたい、思い入れのある家での暮らしを続けていただきたいという願いがあるから。さらに、京都には再建築が困難な建物が多いことと、日本に820万戸あるといわれる空き家の問題も関わっています。今あるものを大切にし活用するためには、リノベーションが必要なんです」これまでに20軒近くのリノベーションを行ってきた同ネットワークだが、今回は初めての試みに挑戦したという。
「『醍醐の家』のリノベーションは、窓サッシメーカー『YKK AP』が全国で進めている『戸建性能向上リノベーション実証プロジェクト』の一環で実施したんです。このプロジェクトのコンセプトは、『古くなった建物に、新築以上の価値をあたえる』。改修でどのくらい家の性能が上がるかを実証するのが目的です」
耐震・断熱の性能向上に加え、さらに、「醍醐の家」にはIoT技術の活用という価値もプラスされた。築100年を超える家が現代の技術で生まれ変わったのだ。
テレビやエアコンのオン・オフ、浴槽の掃除も音声のみで可能
上/テレビの前に置かれている白い機器がベックス。「テレビをつけて」「お風呂を掃除して」といった音声を認識し、家電をコントロールする 下/平安建材の水嶋弘明さん。「生まれ育った家で生涯暮らしたい、京都の風情を残したいという方や、京都に憧れを持つ他府県や外国の方、皆さんの“京都ぐらし”を応援したいと思っています」「Alexa(アレクサ)、ベックス(※)でテレビをつけて」
水嶋さんがそう声を発すると、リビングにあるテレビがついた。IoT、つまり身近なモノがインターネットとつながる“モノのインターネット”の働きで、テレビの電源をオン・オフできるのだ。ほかにも、エアコンや照明をつけたり消したり。浴槽の掃除・お湯張りも音声だけで操作できる。これが「醍醐の家」の特徴の一つ、IoT技術の活用だ。
「キッチンで洗い物をしているときに『もうすぐ家族が帰ってくるな』と思ったら、声だけでお風呂の準備ができます。今は1階の家電しか制御できませんが、取り付けをすれば2階でも使えます。設備を整えると、どのご家庭でも利用することは可能。近い将来、セキュリティ面や見守りといった分野でもこの技術が生かされていく予定です」
こうしたIoT技術等を活用した住宅は、国土交通省もリーディングプロジェクトを支援し始めている。注目が集まる新しい住まいの形だ。
「これから家を購入しようという人は、小さいときからパソコンやスマホに触ってきた世代です。IoT住宅が当たり前になる時代は、間もなくやってくるでしょう」
※ベックス…さまざまな家電や住宅設備とつながるデバイス
震度6強の地震でも倒壊しない、耐震等級3相当の強度を誇る家に
1階リビング。窓や玄関といった開口部は、大きいほど地震に弱くなる。それをカバーするために「YKK AP」の木質耐震フレームと高性能樹脂窓をあわせた開口部耐震商品「FRAMEⅡ」が採用された(写真上は、施工中の様子)。完成後も窓の上部は隠さず、あえて見えるようにしている(写真下)次は耐震について紹介しよう。明治時代に建てられたこの家は、当然ながら現在の建築基準を満たしていない。
「震度6強の地震が起きた場合の耐震シミュレーションの結果、リノベーション前は上部構造評定(家の構造物の耐力)は0.14でした。これは“倒壊の可能性が高い”という数値。それがリノベーション後は、“倒壊しない”という評価である1.5にアップしました。耐震等級でいいますと最高レベルの『3』に相当します。大手ハウスメーカーが手がける新築クラスです」
この等級を実現させたのが「YKK AP」の木質耐震フレームと高性能樹脂窓をあわせた開口部耐震商品「FRAMEⅡ」。1階リビングの大きな窓に設置されている。
「窓や玄関といった開口部に取り付けることで耐力壁と同等の働きをする補強枠です。これを採用すると、通常、耐震面では弱点となる大きな窓も設置できます。地震の際、強固な枠が窓の倒壊を防ぐため、いざというときには脱出ルートの確保にもつながります」
北海道並みの断熱レベルの理由は、窓と断熱材
断熱の面でも性能は格段にアップしている。
「断熱性能は、外皮平均熱還流率と呼ばれる屋外にどのくらいの熱が移動するかを表す指標でみることができます。数字が小さいほど性能が優れていることになるのですが、リノベーション前は3.49という値だったところ、リノベーション後は0.46に。実に7倍以上向上しました。0.46という値は北海道の住宅並みの断熱レベルです」
昨年の冬でいうと、外気温が12度のときに室内の温度は21度だったこともあるという。もちろん、暖房はオフのままだ。この断熱効果は窓の働きによるものが大きいと水嶋さん。
「もともとこの家は、アルミサッシと単板ガラス窓が使われていました。アルミは熱伝導率が高いので、屋外が寒ければその外気を室内に取り込んでしまうんです。そうしたこともあり、この家の窓枠はすべて樹脂に変更し、窓の内側に断熱効果のある金属膜を入れた複合ガラスを採用しています」
併せて、壁、天井、基礎にさまざまな種類の断熱材を使い分けることで断熱性能を上げたという。
長い年月を刻んできた部屋が現代風に変身して子ども部屋に
取材も終盤にさしかかったころ。1階のリビングから2階へと案内してもらった。リノベーション前は昔ながらの急な箱階段だったそうだが、今はゆるやかなこう配の階段に付け替えられている。2階にあるのは和室と子ども部屋だ。
この子ども部屋は、京都の雑貨店「INOBUN」のデザイナーが内装、家具、雑貨をコーディネートしている。フィンランド発のアパレル企業「マリメッコ」のテキスタイルやおしゃれな照明が印象的だ。長い年月を刻んできた家をどのように現代的な空間に変身させるかも、古い住まいの再生には大きなポイントになるのだろう。
「住宅というのは安心安全で、快適なものじゃないといけません。最新の技術を活用し、現代風のエッセンスをプラスすることでリノベーションでも新築以上の価値をもたせられるはず。リノベーションの力で、京町家、そして京都の風情・町並みを残していきたいと思っています」
リノベーションでここまでできる。それを体感したい方は、「醍醐の家」を見学してみてはどうだろう。
■取材協力
「醍醐の家」
申し込みは「京ぐらしネットワーク」事務局 平安建材株式会社へ。℡)075-312-3221
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