窓を変えれば暖かくなる。分かっていても後回しにされる理由

「広がる屋根」2階に設置されたトリプルガラスの入った樹脂窓の前で岩崎氏(左)、宇都宮氏「広がる屋根」2階に設置されたトリプルガラスの入った樹脂窓の前で岩崎氏(左)、宇都宮氏

マンションから普及したリノベーションが一戸建てへも広がってきている。間取りも含めてマンションよりも一戸建てのほうが自由度が高く、より自分の暮らしに合わせた住まいを実現できるはずだが、そこでひとつ残念なのが、世の中では住宅の性能に目が向き始めているにも関わらず、一戸建てのリノベーションではそこまで意識されていないように見受けられることだ。

それには理由がある。一戸建てのリノベーションでは建物情報がマンションと比べて少なく、躯体の状態が外から見ただけでは分かりにくく、不確定要素が多いため、工事コストが読みにくい。建物そのものについてだけでなく、購入後に適法でない部分が見つかって是正する必要が出たりすることがあるなど思っていたより予算がかかることも。となると、どうしても必要な部分、水回りや内装など見えている部分に出費を振り向けてしまいがちで、断熱や耐震強度のように見えない、感じにくい部分については後回しにされがちなのである。

2015年にリノベーション事業部(現リノベーション本部)を立ち上げた建材メーカー・株式会社YKK APも早々にその傾向に気づいた。2010年の鳩山由紀夫内閣時に緊急経済対策として登場、その後、何回か実施されてきた「省エネ住宅ポイント」(いわゆる「住宅エコポイント制度」)でポイントが利用できるからと内窓の普及が進んだものの、ポイントの後押しがなくなると今ひとつ。施工に関わる工務店などに聞くと「ポイントがあるから使ったまで」とインセンティブがないと内窓、断熱性能の高い窓を使いたがらない状況が見えてきた。新築では断熱性能の高い窓を採用する住宅が増えている一方で、中古のリノベーションでは既存窓をそのまま使用するケースが多いのである。

夏は74%、冬は52%の熱が窓から逃げていく

だが、窓は生活の質を大きく左右する。日本の家は暑くて寒いと言われるが、その元凶ともいうべき断熱の弱点は窓。熱は窓から入り、窓から逃げていくのである。下の図は夏、冬それぞれの熱の流入出比率を図化したもの。夏はせっかく冷えた室内に窓から74%もの熱が侵入してきており、冬は暖めた室内から52%もの熱が逃げていく(YKK APによる試算)。ここをシャットアウトするだけで、冷暖房で冷やした、暖めた空気は外気の影響を受けにくくなり、より快適に過ごせるようになるのである。

しかも、この試算で使った窓はアルミの複層ガラス。窓は枠とガラスからなるが、そのいずれもが年を追うごとに進化している。枠でいえばアルミから樹脂へという進化で、その間に外側にアルミ、内側に樹脂という混合タイプがある。ガラスは単層、つまり1枚のシングルガラスから複層、2枚になり、さらにその間にアルゴンガスを入れたもの、外側のガラスをLow-E金属膜でコーティングして遮熱、断熱をするもの、さらには3枚というガラスすら登場している。窓の性能アップは著しいのだ。

その状況を踏まえた上で築年数の古い住宅の窓をみてみると、築30年超のわが家もそうなのだが、驚くことにたいていがアルミにシングルの、現在、すでに販売されていない窓が使われている。試算で使われた窓よりも性能が劣るわけだから、熱のだだ漏れ状態は試算よりも激しいはずで、暑くて寒いのは当然。それをそのままにしてリノベーションをしても果たして快適な暮らしが望めるか。答えはもちろん、ノーである。表面だけがきれいになっても相変わらず暑くて寒い家。このままではせっかく盛り上がってきた中古住宅活用の機運が「やっぱり中古はダメね」としぼみかねない。

だが、住宅の性能は目に見えない。見えないものの良さをどう伝え、選択してもらうようにするか。同社が考えたのは実際に中古住宅を性能にこだわってリノベーション、それをモデルハウスとして取引先である工務店などに公開、見学会などを開くことで体感してもらう「戸建性能向上リノベーション実証プロジェクト」。見えないなら感じてもらおうというわけである。

窓を変えれば室内の環境が大きく変わることが分かる窓を変えれば室内の環境が大きく変わることが分かる

全国各地で実証実験、体感してもらう場を作る

2017年度に世田谷区、富山市、2018年度に横浜市、神戸市、福岡市、札幌市、京都市、そして2019年度は広島市、熊本市、長野市、高松市で工事中と着実に事例は増えており、リノベーション・オブ・ザ・イヤー2019ではうち2019年12月までに完成していた5軒分のプロジェクト全体で無差別級部門の最優秀賞を射止めた。

これらの住宅は地元のそれぞれ異なる工務店などと組み、その土地の気候風土、立地に合わせて耐震、断熱改修を行い、さらに魅力ある住宅となるようなリノベーションが行われている。完成後は3~4ヶ月、物件によってはさらに長期にわたってモデルハウスとして利用されると同時に販売活動を行っている。第一号案件として株式会社リビタと協業、改修された世田谷区の物件は販売開始から短期で契約に至り、モデルハウスとして使うため、しばらく入居を待ってもらったという。

と聞くと住宅の性能アップが評価されたか!と思うだろうが、残念ながらそうではない。「立地環境含め、家そのもの、そこでの暮らし方が気にいって購入を決めてくださっており、断熱性能だけが購入の決め手ではありません。家の断熱性能はひとつの必要条件だと思います。入居後、暮らし始めて冬の室内環境を体感してみて『この住宅の断熱性能による快適性が分かった』と。断熱性能は体感してみないその価値が分かりづらく、情報の可視化、伝え方が重要です。」(リビタ分譲事業本部戸建事業部・宇都宮惇氏)。

やはり、伝わらないのかとがっくりするところもあるが、一方で新築の注文住宅とほとんど変わらない価格で売れていることから正当に評価されていることが分かる。「この物件に限らず、新築だから、中古だからではなく、この建物がこの場所でと住まい全体を評価して購入されています」。築年にこだわらず、質で選ばれるようになっており、その要件のひとつとして断熱要件もあるというわけだ。

リノベーション・オブ・ザ・イヤー2019の無差別級部門で最優秀賞を受賞、話題になったリノベーション・オブ・ザ・イヤー2019の無差別級部門で最優秀賞を受賞、話題になった

家が暖かいと間取りも、暮らしも自由になる

実際にリノベーションした住宅を見学させていただいた。横浜市にある「広がる屋根」と名付けられた、大きく張り出した屋根が目を惹く住宅である。1981年築の木造軸組在来工法の家で、改修前の建物はごく普通の、昭和によくあった家。それをスケルトン状態まで解体して、基礎補強することに始まり、屋根、外壁、窓と大きく手を入れ、元のままなのは玄関、階段の位置、2階の広さくらい。かつての居住者が我慢していたのであろう西日の厳しさを緩和するために2階のバルコニーを増築、1階にも土間を増築しており、外観、室内ともに従前とは大きく異なる姿となっている。

「実証実験なので、各地でそれぞれに異なる課題にチャレンジしています。この物件では躯体の断熱、耐震はもちろん行っていますが、それに加え、西日の厳しさを増築した屋根で抑え、1階に大きく開口できる窓を作ることで風が抜ける住まいにするなど、この土地ならではの自然のエネルギーを活かす試みをしました。通風、日照をシミュレーション、それぞれをどう取り込むかを検討し、間取り、窓を配置しています」(YKK AP株式会社リノベーション本部・岩崎武氏)

取材にお邪魔したのは2月の頭。到着した時点でエアコンをつけ、それで上下階合わせて110m2が寒さを感じることがない程度になるのだから、断熱改修の効果は歴然。しかも、エアコンは1階に1台だけ。築30年超の、リビングは暖かいのに、廊下、洗面所が寒い家に住んでいる身からするとまんべんなく暖かい家は羨ましい。

また、住戸内の温度を均一に保てることからほとんどワンルームに近い、開放的な空間が可能になっている。断熱改修では光熱費の削減がメリットとして挙げられるが、住まいの自由度が増すのも大きなポイントなのだ。特にこれから成長する子どもがいるなど、家族の変化が予測される世代なら可変性の高い住まいはどんな時にも暮らしやすいはずだ。

増築された大きな屋根も魅力。遠くに富士山を望む立地でもあり、バルコニーで外の空間をわが家に持てるのは贅沢。近隣相場並みの価格で、これだけ、他とは異なる質の高い住宅が手に入ると考えると築年にこだわらない人が増えているのも分かるというものである。

左上から時計回りに以前の建物、現在の開放的な1階室内、増築した2階の芝生のバルコニー、温熱環境の変化。冬の朝でも起きた時にひやっとしない家になっている左上から時計回りに以前の建物、現在の開放的な1階室内、増築した2階の芝生のバルコニー、温熱環境の変化。冬の朝でも起きた時にひやっとしない家になっている

住宅のみならず、地域の課題解決にも

「京都 醍醐の家」の改修前と改修後。今回は温熱環境に絞って取り上げたが、窓と耐震フレームを一体化させることで耐震性能を高めることもでき、この物件ではそうした商品フレームⅡを配した「京都 醍醐の家」の改修前と改修後。今回は温熱環境に絞って取り上げたが、窓と耐震フレームを一体化させることで耐震性能を高めることもでき、この物件ではそうした商品フレームⅡを配した

ちなみに断熱性能の良い窓にするとリノベーション費用はどう変わるのか。「定価ベースで考えると内外ともにアルミ枠の複層ガラスの窓を1とした場合、外側がアルミ、内側が樹脂で複層ガラスの窓が1.2、枠がオール樹脂で複層ガラス、Low-Eガラスの窓で1.4くらい。ただ、窓は家全体の予算の10%ほども占めない程度なので、全体としてはそれほどは上がりません」(岩崎氏)

リノベーションの予算が総額1,000万円だとして、少し多めにそのうちの10%で試算したとしても、100万円が窓にかかる場合なら、それが120万円あるいは140万円。1,000万円に対して20万円あるいは40万円アップという計算である。この額で一生ヒートショックなどの温度差由来の不安が軽減され、健康に暮らせる可能性が高くなることをどう考えるか、ということだろう。

住宅単体の質の向上以外にひとつ、全国各地で実証実験を行う意義として感じたのは実験が地域が抱える課題への糸口にもなっているという点。たとえば京都の物件は築100年以上の町家。ご存じのように京都には独自の景観条例があり、内部がボロボロでどんなに寒かろうが建替えできないエリアがあり、建材、色味その他外観にも条件がある。そこでどうやって安心、安全で快適に住み続けられるリノベーションを行うか。京都以外でも古都と言われるまちでは中心部に歴史的、景観的に重要な建物が残されているが、居住の質の劣悪さから出ていく人が少なくない。だが、それを新築に劣らない快適さに変えられたら住み続けられるようになり、まち自体にもプラスになるのではなかろうか。

これまで建材メーカーは住宅の一部を作っているとして、あまり表に出てくることはなかったと岩崎氏。今回は窓の重要性を伝えることで新たな市場を作っていきたいと取り組んでおり、各地の事業者のまとめ役として実験を続けているという。

住宅にはまだまだ変わる余地があり、それが家族の幸せや健康に寄与すると考えると、これからもまだ積み重ねるべき知見があるはず。これからの実験を楽しみにしたい。

2020年 02月20日 11時05分