生活騒音の発生源は電気機器がトップ

“防音”というと楽器演奏家や音楽愛好家たちの特別仕様という印象があるかもしれないが、意外と身近な問題である。例えば、隣近所の生活音が気になって、ストレスを抱えているという人も多いのではないだろうか。実はご近所トラブルで一番多いのが騒音に関するものだといわれている。

平成28(2016)年度環境省による騒音規制法施行状況調査の生活騒音の発生源内訳(全国)を参考に見てみると、電気機器による騒音の割合がトップとなっている。ライフスタイルが多様化したことで、洗濯や掃除といった生活音が、時間帯によっては不快な騒音として捉えられることもあるのだろう。ほかにも
「休日になると子どもたちの遊ぶ声が騒々しくてゆっくりできない」
「二世帯住宅を建てたが、2階の音が響いてストレスがたまる」
「近隣の排水の音が丸聞こえ」
「飼っているペットの鳴き声がうるさい」
など、騒音に関する悩みはさまざま。
マンションなどの集合住宅だけでなく、一戸建て住宅の密集地でも騒音トラブルは尽きない。

そこで今回は、快適な暮らしのための防音性能について考えてみたいと思う。名古屋で防音リフォームを手がける株式会社クリエート代表取締役、田中久喜さんにお話を伺った。

平成28(2016)年度環境省による騒音規制法施行状況調査の生活騒音の発生源内訳(全国)<br>
生活騒音とは、家庭のピアノやクーラー、家庭用ヒートポンプ給湯機等から発生する騒音、集合住宅でのバス・ト
イレの給排水音、自動車のアイドリングなど、住宅内及び住戸まわりで発生するものを指す平成28(2016)年度環境省による騒音規制法施行状況調査の生活騒音の発生源内訳(全国)
生活騒音とは、家庭のピアノやクーラー、家庭用ヒートポンプ給湯機等から発生する騒音、集合住宅でのバス・ト イレの給排水音、自動車のアイドリングなど、住宅内及び住戸まわりで発生するものを指す

断熱性能の向上でマンションの騒音に関する相談が増加

田中さんによると防音工事の依頼はやはり楽器演奏家や音楽愛好家が多いそうだが、最近増えているのがマンションの騒音に関する相談だという。快適な生活を守るための防音工事を検討する人も増えてきているのだという。

「断熱性能の向上で、気密性の高い住まいが増えています。気密性が高いということは、空気を伝わる音も物を伝わる音も響きやすいということ。弁護士をたてて訴訟になっているケースもあるのですが、生活音レベルだと法的に騒音の基準となる数値が定められていないので、原告側が負けてしまう場合が多いんです。とはいえ、住んでいる人にとっては毎日のことですし、騒音によって眠れない、不快だという気持ちはぬぐえませんよね」

そもそも、騒音というのはどのレベルをいうのだろうか。閑静な住宅街の日常音はおよそ40db。このレベルだと特に何も気にならない程度。この環境で、例えば隣の家の人がピアノを弾いたとするとだいたい100dbの音が出ていることになる。
その差は100db-40db=60db。

「差が20dbを超えると人は『うるさい』と感じ始めますので、60dbのこの場合は、かなりの騒音と感じられる可能性があります。防音対策としては、特に気にならないレベルの40dbまで低減させる必要があります」

環境省発行「生活騒音パンフレット」(2019年3月)掲載の「騒音の目安」<br>
田中さんによるとピアノの音は、アマチュアで100db、プロで120dbほどになるという。<br>地方自治体によっては騒音計の貸し出しを行っているところもあるので、気になる人は一度測ってみよう環境省発行「生活騒音パンフレット」(2019年3月)掲載の「騒音の目安」
田中さんによるとピアノの音は、アマチュアで100db、プロで120dbほどになるという。
地方自治体によっては騒音計の貸し出しを行っているところもあるので、気になる人は一度測ってみよう

開口部の音漏れを防いで防音・遮音を

騒音の対策として行われるのが防音・遮音工事。音は、自分が出す音を外に漏らさないための対策。遮音は、外部からの音を遮断するための対策。この両輪で住まいの快適性を上げることになる。

防音・遮音工事で重要なのは、原因となる出入り口のドアや外窓などの開口部の音漏れを防ぐこと。具体的な方法としては、インナーサッシや防音ドアを取り付ける、遮音マットやパネルなどの専用の建材を使って防音する方法があり、これらを組み合わせて減音していく。

インナーサッシを取り付けた場合、シングルガラスで25db、PGガラスでは35~40db、LOW-Eガラスでは40~45dbの削減ができるという。

「防音を検討する方の多くは100db以上の騒音からの低減を求めています。そうなると、インナーサッシだけでなく、四方の壁、床、天井の6面に対しての遮音と組み合わせて、減音していくことになります」

クリエートで施工した防音工事の平均予算としては150万円程度、工事期間は約7日間程度だという。マンションでも一戸建てでも壁、床、天井の防音・遮音の方法や防音室を作る方法は同じだが、当然、どれくらいの効果を出したいのか、希望する削減音域と種類によって工事の内容と費用が変わってくる。

防音の肝は開口部。外窓とインナーサッシとの間にできる空気の層で音を吸収するのだそう。ほかにも、遮音マットや防振ベースなどの床材、遮音壁マットなどと合わせて、理想の防音空間を作っていく防音の肝は開口部。外窓とインナーサッシとの間にできる空気の層で音を吸収するのだそう。ほかにも、遮音マットや防振ベースなどの床材、遮音壁マットなどと合わせて、理想の防音空間を作っていく

自分の生活を守るための防音について考えてみよう

お話を伺った株式会社クリエートの田中さん。防音・遮音工事は一般的なリフォームよりも高額になることが多く、施工する地域や立地条件、削減したい音域や種類などは人それぞれ。細かい相談に乗ってくれる会社選びをすることも大切だ

お話を伺った株式会社クリエートの田中さん。防音・遮音工事は一般的なリフォームよりも高額になることが多く、施工する地域や立地条件、削減したい音域や種類などは人それぞれ。細かい相談に乗ってくれる会社選びをすることも大切だ

自分でできる防音・遮音の方法も聞いてみた。

「防音マットやシート、パネルなど市販のものを購入してDIYする方法もありますが、削減できるのは10db程度です。一般の方では、よっぽどうまくやらない限りつなぎ目から音が漏れていき、思ったような効果は得られない」とのこと。

どれくらいの効果を期待するのかにもよるが、本格的に考えるならやはりプロの手を借りるのが賢明ということか。

「家を建てたり、リフォームを考えている人はぜひ防音対策をセットで考えてほしい。特に二世帯であれば、どんな工事をするよりも先に2階の床と1階の天井に防音・遮音工事を施して、お互いのライフスタイルが守られる環境づくりをおすすめします」と田中さん。

騒音問題は思った以上にデリケート。夜中に隣戸の音が気になって眠れなくなり、健康に支障をきたすことだってある。
自分にとって心地よい音でも周囲にとっては騒音でしかなかったりするし、その逆も然り。隣近所が良好な関係ならやんわりと伝える手もあるだろうが、ご近所トラブルに発展することもないとはいえない。だからこそ、自分の生活を守るために防音について一度考えてみてほしいと思う。


取材協力:株式会社クリエート
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