歴史ある奈良町

世界遺産の興福寺や春日大社、元興寺に近く、昔ながらの風情を残す奈良町は、かつて平城京の外京で、中世から近代に至るまで商業や文化・宗教都市として栄えた土地だ。古い町家も残っており、のんびりとした時間を過ごすことができる。最近では、 ⽇本らしい情緒が味わえると外国⼈観光客からも⼈気だ。
「奈良町にぎわいの家」は、そんな奈良町の中⼼部にある文化庁の登録有形文化財。大正時代の商家を復元改修し内部を無料開放しているだけでなく、奈良らしいイベントも開催している。
今回、総合プロデューサーの小野小町さんに、その取り組みについて聞いてきた。

奈良町にぎわいの家はもともと古美術商の住居で、 建てられたのは約100年前。 大変裕福な家だったとのことで、商いと居住を兼ね、部屋数も多く、 10畳の離れを合わせて9室もある。

現在の所有者は奈良市で、運営は奈良町にぎわいの家管理共同体。
「奈良町でも古い町家が減ってゆく中、地元の皆さんの声や町づくり団体の保存を願う声によって残された町家。自然と共に暮らし、四季を愛でた昔ながらの暮らしをイメージしやすいように、二十四節気をテーマにしています」。節気の⼀つ⼀つをデザイン化したアイコンをモチーフとしたスタンプや、節気ごとのオリジナル短歌を展⽰、季節感を感じさせる⼯夫もされている。

奈良町にぎわいの家の外観奈良町にぎわいの家の外観

施主の遊び心を感じる意匠

玄関から裏手に出る「通り庭」など、自由で近代的な発想で建てられている玄関から裏手に出る「通り庭」など、自由で近代的な発想で建てられている

「この家は間口が狭くて奥に深く、典型的な町家の敷地でありながら、細長い庭に沿って配置されるなど、自由で近代的な発想で建てられています。仏間には天井絵があり、襖の金具の意匠も独特で、施主の美意識や遊び心が感じられます。それだからか、どんな新しいものも、古いものも許容してくれる奥深さがあるんです。床の間に現代アートを置いても違和感がありませんし、現代の暮らしの感性で ⽣け花を飾ってもしっくり落ち着きます。この家が建てられたのは西洋文化が続々と輸入された大正期ですから、それが反映されているのかもしれません」と、小野さん。

普通誰も注目しないような 廊下の金具が ⽉と兔の形をしているなど、面白さを感じる点もたくさんある。
奈良町の文化成熟度も見逃せない。例えば、当家の茶室の炉の位置は通常とは異なっているが、それはルールにとらわれることなく、大らかに茶道を楽しむ文化が奈良町の旦那衆に息づいていた証左だろう。店の間の真上にある「つし二階」もユニークだ。二つの部屋を結ぶ戸口は茶室のにじり口のように小さく、這って出入りすることになる。100年前は一体なんのために、どのように使われていたのか、 想像力をかきたてられて興味深い。

しめ縄作りや梅干し体験など、日本の昔ながらの伝統をイベントに

奈良町の魅力は、密集しながらも、隙間があることだと小野さんは考えている。
私道を入ると隠れ家的な空間があったり庭があったりするのもその例だが、それ以上に、新しいものを阻害しない「隙間」を感じるそうだ。「新しい人が転入してきてもよそ者扱いせず、取り込んでくれるのが奈良町なんです。新しいオシャレなお店もたくさんありますし、古い伝統的なものと新しいものが結びつき、融合できるのが魅力だと思います」

奈良町にぎわいの家でも、体験茶会やかまど体験、しめ縄作りなどのイベントを随時開催しており、日本の伝統的なものをあまり知らない若い人や外国人観光客でも、古くから培われてきた日本の文化に触れられる。「餅つきに参加したり、自分でお茶を点てたり、気軽に体験できる家です」。

かまどでご飯を炊き、味噌汁などを作って食べる 「かまど体験」は、少し前までは当たり前だった⽇常を体験できる機会として人気が高い。季節行事にあわせた、おはぎ作りや奈良のっぺなども企画している。そうして老若男女が共同活動をすることで世代を越えた多様な話題が飛び出し、昔ながらの日本の良きコミュニケーションが生まれている。そしてそれこそが、「町づくり」につながっていくのではないかと考えているそうだ。

「たとえばしめ縄作りは80代半ばの先生を招いているのですが、しめ縄を作る稲は特別なもので、普通の水稲の藁ではダメなのだと教えていただきました。でも私たちはそんなことも知らずに過ごしています。さまざまな年代の人が共に活動をすることで、知識も共有できればと思います」

かまど体験には子どもたちも参加かまど体験には子どもたちも参加

新たな奈良の魅力を発信するイベント企画中

奈良町にぎわいの家では、町家全般に関する講座のほか、町家を活かす住まいの相談室も開いており、町家を残していく取り組みもしている。事務局スタッフは、講談やコンサート、奈良町家めぐりなど、この「家」のにぎわいが感じられる、様々な事業を企画。近所に住まいのあった、一刀彫りの匠・森川杜園など、奈良町ゆかりの物に特化した朗読劇を一般参加で開催するなど、奈良の人物に注目してもらう工夫もしている。

「資料的なものは残っていても、それだけでは認知してもらえません。たくさんの人にどう知らしめていくかを考え、イベントにしていきたいですね」と、今後もコミュニケーションを大切に、奈良の良さを発信していく予定。

奈良町にぎわいの家は⼊館無料。 「おばあちゃんの家に来たみたい」という感想も多いというから、奈良町でのんびりと⽇本の良き伝統を味わいたい⼈は、⼀度覗いてみてはいかがだろう。

奈良町にぎわいの家公式サイト:http://naramachi-nigiwainoie.jp/

森川杜園など、奈良町ゆかりの物に特化した朗読劇も一般参加で開催森川杜園など、奈良町ゆかりの物に特化した朗読劇も一般参加で開催

2018年 04月06日 11時05分