煉瓦造りの建物が多いベルギー

ベルギーにはこんな言い伝えがある。“Les Belge sont nés avec une brique dans le ventre.”
――つまり、「ベルギー人はお腹に煉瓦(れんが)を持って生まれてくる」というものだ。欧州をよく知る人なら、ベルギーに煉瓦造りの建物がとても多いことを知っている。言語も文化も全く異なるゲルマン系とラテン系の人々が南北に分かれ住んでいるのだが、この言い伝えだけは全国的に共有されている。ベルギー人がこよなく愛する煉瓦の魅力とその背景を探ってみた。

ブルージュは今も、中世そのものの煉瓦造りの家並みが保たれている ©Michiko KURITAブルージュは今も、中世そのものの煉瓦造りの家並みが保たれている ©Michiko KURITA

20以上のメーカーが競い合う煉瓦大国ベルギー

ウェイナーバーガー社のカタログには、伝統的なデザインからモダンなものまで煉瓦造りの家が掲載されている
©Michiko KURITA
ウェイナーバーガー社のカタログには、伝統的なデザインからモダンなものまで煉瓦造りの家が掲載されている ©Michiko KURITA

ベルギー煉瓦製造業者連盟によると、人口1,000万人余りの小さなベルギーでは、大小合わせて20以上のメーカーが今も競い合っている。その中でも最大規模のメーカーが、世界最大の煉瓦メーカー「ウェイナーバーガー」(本社:オーストリア)傘下の「ウェイナーバーガー・ベルギー(Wienerberger Belgium)」だ。良質な粘土を産出するベルギー北西部のコルトレイクに本社を置き、11の生産拠点を持つ。ベルギーでの創業は数世紀前にさかのぼり、国内の建築用煉瓦市場ではトップレベルのマーケットシェアを誇っている。

同社マーケティング部長のサビン・メルレヴェデゥさんは、冒頭の言い伝えについて「ベルギー人や、ベルギーの家々を知っている欧州の人なら誰もが『確かに』と同意するでしょう」と話す。ベルギーの煉瓦メーカー産業連盟(FBB/BBF)によると、ベルギーで生産される建築用煉瓦が約90万平方メートルのうち輸出向けは約3割。輸入はほとんどないため、国内市場だけで7割が消費されていることになる。これは、英国、フランスなど人口がベルギーの5倍以上ある周辺諸国の市場規模に匹敵するという。

煉瓦生産量としては、英国やオランダ、アジアでは中国などが多いが、大半は路面舗装用や倉庫・工場といった産業建築物用。このような大量生産されたものでなく、表面の質感や微妙な色合いの違いを大切にした個人住宅用煉瓦、学校や商店などの小規模施設用煉瓦の市場は、ベルギーが世界でも群を抜いているとのこと。ウェイナーバーガー社だけでも、100以上の色みや風合いの製品を取り揃えている。

石造りから煉瓦造りに。そして街並みは統一、保全へ

かつて欧州では、重厚かつ長大な宮殿や大聖堂が大理石などの石材で造られていたが、その後、鐘楼や教会、ギルドハウス、倉庫などの多くが煉瓦で造られるようになった。サビンさんによると「19世紀末の時点で屈指の経済大国だったベルギーでは、国策として個人による一戸建て建築が奨励された。国の隅々にまで高速道路が整備され、郊外や田舎に個人が庭付き一戸建てを建てるマイホーム造りがスタンダードになっていった」とのこと。現代になると、住宅地や地域全体としての景観を「文化」や「公共のもの」として大事にするようになり、煉瓦造りが主流だった美しい街並みは緩やかに統一され、保全されるべきだと考えられるようになった。

今、わが家があるブリュッセル南部の地域でも、地域の条例で外観の仕様が大枠で定められている。家の大きさや形はもちろんのこと、屋根瓦や煉瓦の色みが色番号で指定されている。指定された範囲以外の色みや素材を使いたい場合には、市に届け出て何ヶ月も公示する必要がある。さらに、周囲50メートル範囲内にあるすべての家に色つき完成予想図面を郵送して通告し、反対者がいないかどうかをはらはらしながら待たなければならないのだ。

色合いや風合いが異なる手作りの建築用煉瓦
©Michiko KURITA
色合いや風合いが異なる手作りの建築用煉瓦 ©Michiko KURITA

50年以上価値を失わない煉瓦造りの建物は「賢い資産」

13世紀のチャペルの一部を購入し、家族4人の心地よい住まいを実現した友人の家 ©Michiko KURITA13世紀のチャペルの一部を購入し、家族4人の心地よい住まいを実現した友人の家 ©Michiko KURITA

建材としての煉瓦の利点は、もちろん美的な個性の演出だけだったわけではない。耐火性、安定性、遮熱と音響面、そして何といっても耐久性に優れている。雨が多く、冬には底冷えするベルギーの気候には煉瓦は最適なのだ。50年以上たってもその価値を失わない煉瓦造りの建造物。サビンさんは「ベルギーの著名な建築家Bob Van Reethは、いつまでも生き生きとその素晴らしさを持続させることから、intellectual ruins(賢い資産)と称した」と教えてくれた。

これは大げさな表現ではなく、ベルギーで「家」といえば、100年以上もつことを想定して建てられる。実際に中古物件は、「土地付き古家」として家の値段が評価され、土地はどんなに広くてもおまけのようなもの。私の義妹夫婦は、ベルギー南部のミューズ川沿いに築150年の煉瓦造りのボロ家を購入。せっせと改装し続け、驚くような豪邸によみがえらせた。友人夫婦は、13世紀のチャペルの縦3分の1を購入し、内側の空間を自在に仕切って超コンテンポラリーなマイホームを実現させている。

ベルギー人のこだわりが煉瓦を進化させ続ける

欧州では、あらゆる産業で「循環経済」への転換が加速している。そんな中で、建築界でも「循環建築」への革命的な転換が起こっている。2年越しの改築が終わった近所の小学校も、モダンな煉瓦造りのパッシブ建築(エネルギーを自給自足する建物)だ。私のご近所のお宅も地下からポンプで上げた暖気を循環する完璧なパッシブハウスを建てている。もちろん「煉瓦の選定にはこだわりまくった」と言っていた。

煉瓦に関しては、その特性と製造の両面で、エネルギー効率が徹底的に追求されているというのだ。ベルギーの厳しい消費者は、美観と同時に、パッシブ建造物を造るための優れたエコ煉瓦を求める。ベルギーで鍛えられた煉瓦が、世界の建物に使われる日もそう遠くないかもしれない。

2年越しの改築で完成するモダンな煉瓦造りのパッシブ建築小学校
©Michiko KURITA
2年越しの改築で完成するモダンな煉瓦造りのパッシブ建築小学校 ©Michiko KURITA

2019年 11月08日 11時05分