部員は役割分担が明確な8人

北海道南部の浦河町に、30~40代の社会人有志でつくる一風変わった〝部活動〟がある。その名も「浦河リノベ部」。約20年前に閉店し、活用されず眠っていた畳店を借りてコツコツとリノベーションし、シェアオフィスやイベントスペースなどのある「シェアスペースtatamiya(タタミヤ)」に生まれ変わらせた。本業の傍ら、遊び心とそれぞれの「得意」を持ち寄り、シャッターを下ろす店舗が増えた商店街に新しい風を送っている。

浦河リノベ部が再生したのは、中心市街地にある商店街で畳の製造・販売をしていた「三好畳店」。通りに面した広いガラス戸越しに見える、手仕事に勤しむ職人の姿が町民のなじみになっていた。大きな畳を扱う店ならではの広い土間や、時代を感じさせる太い梁、2階に続く急階段が特徴的だ。

後にリノベ部メンバーになる観光協会職員がこの物件情報をつかみ、所有者に確認したところ、「改修工事をして自由に使ってよい」という意向が確認できた。この30年で商店街の店舗は約4割までに減り、観光や地域経済の面からも、空き物件の再生は素通りできない課題だった。もともと商工会議所青年部などで旧知だった仲間で物件の活用法について話し合ううちに、自然と輪が広がり、2018年3月、有志8人による「浦河リノベ部」が発足した。

メンバーは自営業が中心で業種は木材卸、建設、建材卸、金物店、いちご栽培、コーディネート業、デザイン、観光と多岐にわたる。息の合う仲間であり、本業がさまざまなことが幸いして、「リノベーションする上で勝手に役割分担ができていました」(部長の上埜友介さん)。

上埜さんは、旧三好畳店と同じ商店街で仕事をしている関係で部長を引き受けた。地元の高校を卒業後に札幌に進学。12年間札幌を拠点に、建築金物の卸会社でルート営業を担当していた。30歳になって浦河に戻り、父の経営する金物店を継ぎ、3代目になる前提で常務に就いた。帰郷してから、浦河は少子高齢化が進んでいると肌で感じ、「どんどん若い人がいなくなっているし、どうにかしなきゃいけない」と思うようになったという。商工会議所青年部の活動を通じて、地域づくりへの意識が自然に芽生えていった。

「tatamiya」の外観(左)。畳店を閉じてからも、畳やゴザが大量に残っていた(右上、右下)「tatamiya」の外観(左)。畳店を閉じてからも、畳やゴザが大量に残っていた(右上、右下)

リノベーション担当は1人1面の壁

結成後から上埜さんらは、町民を徐々に巻き込んでいく取り組みを始めた。

2018年5月には、店内に山積みになっていた畳とゴザを搬出し、希望者に無償で譲った。同年7月には「レトロ市」として、残されていた家具や雑貨などを広く販売。残置物の整理と、改装費用に充てるための資金稼ぎを両立させた。これらのイベントを通じ、かつて畳店が紡いでいた地域の記憶が呼び覚まされ、住民に浸透していった。この頃からリノベーションの作業が始まった。

図面や完成イメージは作らず、決まっていたのは「畳屋だったという要素を残して、メンバー1人ひとりの個性を生かそう」という方針のみ。壁の面ごとに担当者を決めた上で、それぞれの本業の合間に、都合のいいタイミングで作業を進めていくことになった。

1階の壁の内装では、木材会社のメンバーが残っていたゴザと色とりどりの畳縁を木材の表面に巻き、幾何学的な紋様を生み出した。畳の製作用としてかつて使われていた木製の台を天板に転用したテーブルも自作。2階に続く階段横の壁は、イチゴ農家のメンバーが担当した。あえて使い古されたような雰囲気を出すことを狙い、モルタルを塗って描く「モルタル造形」という技術でタイル風の重厚な質感を表現した。2階のコワーキングスペースでは、「ブリキゾーン」と呼ばれている空間を上埜さんが受け持った。金物店で培った知識と仕入れを生かし、屋根に使われる亜鉛のトタンを壁に貼り付けたり、釘や古材を組み合わせたりし、遊び心のあるレトロな空間に仕上げた。

大規模な改修までは手を出さず、下地を入れる作業と、2階のフロア貼りはメンバーの大工に依頼した。リノベ部のロゴ制作はメンバーのデザイナーが手がけた。

2019年3月に約10ヶ月を要したリノベーション工事が終わり、同年5月にはオープニングイベントを開いてお披露目をした。

モルタル造形が施された階段横の壁(左上)、1階部分のテーブル(右上)、2階コワーキングスペースの「ブリキゾーン」(左下、右下)モルタル造形が施された階段横の壁(左上)、1階部分のテーブル(右上)、2階コワーキングスペースの「ブリキゾーン」(左下、右下)

本業が優先の、無理のない運営

2階のシェアオフィスはメンバーでもある地元企業が入居し、コワーキングスペースも貸し出している。1階のイベントスペースは年会員が利用しているほか、青年会議所や地元小学校が会合や授業のために使うこともある。これまでお祭りの休憩所として使われたほか、イベントも次々と企画。

物件は賃貸借契約のため毎月の家賃が発生する。メンバーの持ち出しもあるが、レンタル収入を活動資金に充てている。「あくまでみんな本業があるので、一人ひとりの負担が大きくならないよう、うまく回せていると思います」と上埜さん。生徒や学生の本分は学業であって部活動ではないように、「浦河リノベ部」もそれぞれ抱えている仕事に支障をきたさないことを大事にしている。それは、活動を地道に積み重ねることにもつながるからだ。

「tatamiya」を会場に行われた、観光協会の会合「tatamiya」を会場に行われた、観光協会の会合

あこがれる〝先輩〟として

浦河リノベ部の目指す姿を話す上埜さん浦河リノベ部の目指す姿を話す上埜さん

地元で広く知られることになった浦河リノベ部は、畳店の他にも空き物件を手がけて活動を広げていくのか。上埜さんに聞くと、「リノベ部が新しい物件に着手する、という気持ちはあまりありません。むしろ、リノベ部じゃなくていいんです。やりたいのは、種まきです」と意外な答えが返ってきた。

空き店舗の活用や地域づくりは、多様な担い手がいたほうがよいという考えがベースにある。「『町を変えるぞ』というガチンコな感じではなく、『浦河って、なんか面白いことやってるな』と思われたらいいんです。そうじゃないと、若い人が入ってこないので。移住を含めて、若い人がリノベ部の活動を見てもらって、リノベ部みたいな団体が次々生まれてくることを期待しています。そして、その団体を育てていけるようになりたいですね」

部長は、いずれ現れるかもしれない〝後輩〟への思いを語ってくれた。これもまた、部活動らしい。

2020年 01月29日 11時05分