工夫によって幅が広がるバリアフリーリフォーム

バリアフリーリフォームのポイントを教えてくれた牧野さん。左奥に見えるのは、リハビリにも使える収納ベンチバリアフリーリフォームのポイントを教えてくれた牧野さん。左奥に見えるのは、リハビリにも使える収納ベンチ

住み慣れた家で、いつまでも同じように暮らしたい…。誰もがそう願ったとしても、自分や家族がいつ、けがや障がいを負ったり、高齢で思うように体が動かなくなったりするか分からない。その時、選択肢になるのが住宅のリフォームだが、どう始めればいいのか。車いすで生活し、バリアフリー対応の助言をする札幌市の建築士の牧野准子さんによれば、手すりの設置や段差解消だけがバリアフリー対応ではない。「必ずしもお金をかけなくても、工夫や配慮で解消できることがあります。普段の家事ができれば生きる意欲にもつながります」と強調する牧野さんに、リフォームのポイントや心構えを聞いた。

子どもの時から建築の仕事に興味があった牧野さんは、北海道立の高等技術専門学院で建築を学び、1998年に建築デザイン会社「有限会社 環工房」を起業した。2005年に進行性の脊髄の難病を発症して徐々に歩行が困難になり、車いすユーザーになった。2017年に、発症のため休業していた会社を再開させ、公的施設や宿泊施設のバリアフリーチェック、研修会の講師など幅広く手掛ける。発症後すぐの2005年と2016年に2度、自宅マンションをリフォーム。現在、室内では車いすに乗らずに動けるが、将来は車いす移動もできるように自身でデザインした。

家具や床材、家電の変更で様変わり  

改修前(左上)と改修後(右上)のトイレ。かつてあった和室(左下)と、転用後の洋室(右下)改修前(左上)と改修後(右上)のトイレ。かつてあった和室(左下)と、転用後の洋室(右下)

バリアフリーリフォームで欠かせないものとしてイメージしやすいのが、手すりだ。牧野さんもリビングの壁やトイレ、浴室のシャワーなど多くの場所に手すりを設けている。だが数を増やせばいいというものではなく、腰板やカウンター、テーブルなど家具伝いに歩けるように工夫したのがポイントだ。

手すりが多すぎると家具が置けなくなるし、手すりのない場所では動けなくなってしまう。そこで、安定したコンパクトなキャスター付きワゴンで料理を運び、歩行器の代わりとしても活用。つかまったり、座ったりするためにスツールも置いている。トイレには垂直と水平を組み合わせたL字型手すりはあるが、タンクレス型便器で広くスペースを確保し、手をかけることができる台付きのペーパーホルダーまで設置した。「自分の好みも踏まえて、家具をうまく配置して、ユニバーサルデザインで解消できることはいっぱいありますよ」とアドバイスをくれた。

発症による動き方の変化や危険性に応じて、さまざまなリフォームを施した。

すり足で歩くようになり、和室は畳が傷んでしまうため、洋室に転用。和室にあった座卓は脚が取り付けられ、リビングのテーブルとして活躍している。また転倒しやすくなって肩の骨がずれたり、肋骨にひびが入ったりとけがをしていたため、リビングなどのコンクリート直貼りの床材を、柔らかいコルク材に変更した。手の筋力が落ちてやけどをした経験があったため、キッチンはガスからIHに。火事になると自力で逃げられなくなると考え、暖房もガスストーブから、換気の必要がない寒冷地仕様のエアコンに取り換えた。

家事のしやすさを考えるのがコツ

「普段の生活や家事をすることが何よりのリハビリで、生きる意欲がわいてきます」と言う牧野さん。家事のしやすさを考えて、さまざまな設備を検討した。

牧野さんは料理好きだが、キッチンは高額なバリアフリータイプを選ばなかった。「講演会の後によく相談を受けますが、『車いす=バリアフリーキッチン』という固定概念が、設計や施工会社にはあるようです。でも、工夫することで一般のキッチンでもできることはあるし、今のキッチンでできる範囲の中でやっていくのがリハビリになります」と力を込める。例えば、既にあるキッチンでも高さを調整し、車いすだと届かないハンドルレバーを長い製品に交換するなど、対応策はいくつもある。

牧野さんは一方で、今後家事をどこまでできるかも想像した。「将来、自分で体を支えられなくなって、料理が難しくなった時は作るのをやめて、違うことを楽しもうと考えました」。キッチンはガスから、掃除の手間が少ないIHに変えた。牧野さんはそのキッチンに寄り添うように高めの椅子に座り、今も料理を楽しんでいる。

浴室はかつて内開きだったドアを引き違いの2枚戸に取り換え、5cmあった段差をなくし、手すり付きのシャワーを設置した。注目されるのは、家事が効率的にできるよう動線を工夫した点。天井近くには物干し竿を置き、浴室乾燥機を取り付けた。すぐ横に置いた洗濯機で洗い、浴室用の椅子に座って干す。また将来的にヘルパーに介助してもらうことを想定し、洗濯機の上の壁につるした棚は扉をつけず、家事がしやすいようにした。

照明は掃除しやすいように、ぶら下げる形のペンダント型から、天井に埋め込む形のダウンライト型に変更、リモコンで調光できるようにした。電球交換も大きな負担になるので、長寿命のLEDを採用した。

改修前(左)と改修後(右)の浴室。手すり付きシャワーなどが設けられた改修前(左)と改修後(右)の浴室。手すり付きシャワーなどが設けられた

マニュアルや固定概念に縛られず、その人に合ったプランを 

リフォームに関してはさまざまな基準やノウハウ本などがあるが、牧野さんは「それぞれの人に合わせた設計をしないと失敗する」と警鐘を鳴らす。例えば、手動車いすの全幅はJIS規格で70cm以下と定められ、国は通過できる有効幅員として80cm以上のバリアフリー基準を示しているため、設計者には80cmで事足りると考える人もいる。ただ、この数字は真正面から進入する場合に限ったもので、曲がりながら通過するときは140~150cmは必要になるという。キッチンでもバリアフリー型をよく推奨されるというが、本人の希望や特徴に応じて考えることで、選択の幅が広がる。

建築士として気にかかっていることがある。障がいのある当事者から「自分の思いを汲み取ってもらえない」「建築会社さんと気持ちが通じない」という悩みを打ち明けられることだ。ある物件で、設計担当者が、顧客が将来的に車いすで暮らすことを想定してトイレや居間をリフォームしたものの、実際には使えないものを設置していたこともあった。設計者の「自分の作品」としての思い入れが強すぎて、使い勝手よりデザイン性を優先してしまうケースもあるという。

牧野さんは「マニュアル的な固定概念で考えず、その人にとって必要なもの、不必要なもの、できること、できないことも全部あわせてプランをすると、いいものができます」と語る。家族ら周囲が検討を始めるときも、当事者を交えて考えるよう促す。

牧野さんの生活に合った活用がされているキャスター(左)と、将来の暮らしを見据えて設置された扉なしの棚(右)牧野さんの生活に合った活用がされているキャスター(左)と、将来の暮らしを見据えて設置された扉なしの棚(右)

契約前の準備こそ大切

では実際に、自宅をリフォームしようと思ったとき、まずどうするべきか? 聞くと、「契約すると、あっという間にどんどん進んでしまう。契約前の準備期間がすごく大事。早めに準備していると、行政の助成金も活用しやすくなります」と教えてくれた。

まず大切なのが設計や施工の会社選び。「大手だから、有名だからではなく、見積もり段階など契約する前に相性が合うかを確かめてください。何を言っても通じない会社とやりとりするのは、ストレスになります」。そして契約前に、自分の希望を固めて整理し、頭の中だけでなく書きだしたり、住宅雑誌などの写真を参考として用意したりすることも有効だという。

「リフォームやユニバーサルデザインによって住環境を整えることで、できなかったことができるようになり、自信や自立につながります。介護負担も軽くできます。その人に必要なことや望む生活を細かく聞き取り、その環境づくりのお手伝いをしていきたいですね」

2019年 07月06日 11時00分