断熱改修なんて素人にできるわけないという思い込み

これが鈴木氏宅のお手製内窓。作り方は以下を読んでいただきたいこれが鈴木氏宅のお手製内窓。作り方は以下を読んでいただきたい

日本の家は8割近くが無断熱、あるいはそれに近い状態だと言われる。だから、暑くて寒いわけだが、それを実感したのは1月末に鎌倉で行われたWEBマガジンgreenz.jp主催の「エコハウスDIYクラス」取材の前日、ある飲み会でこの取材について話した時のこと。その場にいた6人全員が、口を揃えて「ウチも寒いんだ、自分で何かできるなら、知りたい」と反応したのである。全員が自分の家は寒いと思っていたのである。だが、それに対して何もしていないのは、断熱改修など素人にできるわけはないという認識があるからだ。私自身もそう思っていた。いくらDIYが流行っているといっても、素人に断熱なんかできるわけはない、と。

greenz.jpの鈴木菜央氏もそう思っていた一人。鈴木氏が住んでいるのは6年ほど前に作られたトレーラーハウス。下に車輪が付いた2×4の細長い家で、古民家よりは断熱性能は高いものの、広く見せるために窓が多い。ダイニングテーブルのそばに窓、ベッドの枕元に窓といった具合で、夕方以降、そこからどんどん室内が冷えてくる。結露する。カビが生える。床も冷たい。

寒い毎日をなんとかしたいと、鈴木氏が相談したのが建築家の竹内昌義氏である。エコハウスに詳しい竹内氏が最初に鈴木氏にアドバイスしたのは内窓を作ること。そのアドバイスに従い、2,000円ほどの予算で内窓を自作したところ、窓辺の寒さを感じなくなり、結露も激減したとか。「一戸建てをフルに断熱改修しようとすると500万円~1,000万円くらいの予算がかかりますが、自分でやるなら数万円から数10万円で済む話。それだけでも今より格段に暖かい住まいになりますよ」(竹内氏)。

この経験から自分でも家を暖かくできることに気づいた鈴木氏は断熱改修を学ぶクラスを始めることに。2015年春、夏と開催、今回で3回目となるクラスは全5日間。初日は参加者同士が知り合う場であり、かつ国内最高レベルの断熱性能がある住宅を見学、暖かさを体感する。2日目は座学で熱の仕組みを知り、3日目は実際に手を動かして断熱改修を行う。それに基づいて4日目には我が家の改修計画を立て、5日目はそれをプレゼン。最終的には自分の家を改修するプロジェクトを実行できるようになるのが理想だそうだ。

空気を通さない素材で床からの冷気をシャットアウト

参加者が座っている床を見ていただきたい。銀色に見えるのが保冷シートだ参加者が座っている床を見ていただきたい。銀色に見えるのが保冷シートだ

さて、クラス初日は鎌倉で行われた。向かったのは築80年、昔は別荘だったと思われる和洋折衷の家屋である。当日の案内には部屋が寒いかもしれないので防寒具、板張りの床に座るので気になる人は座布団持参とあり、私は非常な寒さを想像し、不安だった。築80年で断熱性能が良いわけはない。だが、実際にはそれほど寒くはなかった。というより、十分暖かかった。それには2つの要因があると思われる。

ひとつは写真にも写っているが、床に敷かれた銀色の保冷シート。これは冷凍食品などを包む時に使われるもので、この日はこれを床に2枚、隙間を作らないように重ねて敷いた。この敷いた部分と敷いていない床部分の温度差は2度ほど。シートを敷くだけで暖かく過ごせるのである。それが分かった瞬間、そうか、これならDIYできると思った。畳の下あるいはカーペットの下にこれを敷くだけで、床からの冷気を遮断することができるからだ。実際、参加者の中にはすでに試している人もおり、「これを一枚敷くだけでかなり暖かい」とのこと。DIYというほどのことをせずとも、できることはあるのだ。

簡易的にはそれだけでもOKだが、もっと本格的にやる方法としては「畳を上げて下に空気を通さないシートを敷き、テープできちっと隙間ができないように止め、さらにそこに薄くてもいいので断熱材を敷けば下からの冷気を防げ、和室の断熱性能は大きく向上します」とのこと。これなら、畳を上げる、シートを敷く手間はいるが、材料はネットで買え、素人でもなんとかなりそうだ。ポイントは空気を通さない素材を使うことで上昇気流を抑えることと竹内氏。新聞紙を敷く方法も知られてはいるが、さほど効果はない。

一度に全部ではなく、手の届く範囲から少しずつ改修

シンプルな外観の鎌倉パッシブハウス。壁、窓、ドアなどすべてが分厚く、驚くほど暖かかったシンプルな外観の鎌倉パッシブハウス。壁、窓、ドアなどすべてが分厚く、驚くほど暖かかった

もうひとつの理由はその後に向かった鎌倉パッシブハウスの中にあった。ここは日本で最初に建てられた、ドイツのパッシブハウスの基準を満たす高さの断熱性能を備えている。当日の施主の弁によれば、夏にエアコンは使うものの、冬場の暖房費はゼロ。それでも朝起きた時点で18度、3日くらい留守にしても室温は16度くらいという、非常に性能の良い魔法瓶のような家である。だからだろう、十数人がお邪魔すると室内は1月末だというのに、窓を開けないと汗が背中を流れるほどに暑い。というのも、この家は大人2人、子ども2人の4人家族向けに設計されているためだ。

という説明に「?」と思った人も多いだろう。日常、ほとんど意識することはないが、人間は常時放熱している。食物から摂取したエネルギーのうち、運動エネルギーに使われるのはそのうちの20%で、残りの80%の熱を体から放出しなければ体はオーバーヒートしてしまう。冷却しないとエンジンがすぐオーバーヒートしてしまう車のようなものである。具体的には一人きりの部屋と、満員電車状態の部屋で後者がむんむんすることを想像すれば分かりやすいだろう。特に鎌倉パッシブハウスは厳密な計算の上に断熱、気密が考えられているので、定員大幅オーバーの状態になるとすぐに室温が上がってしまうのだ。

そこまでの室温上昇ではなかったものの、クラスが行われた部屋にも満員御礼と言ってよいほどの人数がいた。そのために、部屋の室温が少し上がり、床との相乗効果で想像していたより寒くない状況だったのだろうと思う。これは逆にいえば、小さな空間であれば自分ひとりの熱でも暖められるということである。テントを想像してみれば良い。大きなバンガローに一人でいると寒いが、小さなテントならば一人でも暖かいという状況である。

ここまでのことから、素人の断熱改修の2つのポイントが見えてくる。ひとつは身近にあるもの、簡単に買えるものでも部屋は暖かくなるということ。もうひとつは家全部をやらなくても、一部に暖かいところを作るという手があるということである。「工務店などに頼むと一部だけやっても意味がないから、家全体をやりましょうと言われ、多額な費用が必要になりますが、自分で少しずつ効果を確認しながらやっても良いのです」。

マンションで手を入れるべきは窓、玄関

ネットで購入。我が家で試してみると玄関脇の窓は8度。だが、同じ窓でも断熱カーテンをしている場所では12度。面白くて家中あちこち測定してしまったネットで購入。我が家で試してみると玄関脇の窓は8度。だが、同じ窓でも断熱カーテンをしている場所では12度。面白くて家中あちこち測定してしまった

クラスではその後、今後の授業の中で行う断熱改修をサポートする建築集団HandiHouse projectの加藤渓一氏と実際に改修する部屋を提供する鈴木晴喜氏が加わり、どのような改修をするかを話しあった。参加者からも多くの意見が出る、興味深い時間だったのだが、ここではそれよりも多くの人が知りたいであろう、我が家を暖かくするノウハウのいくつかをご紹介しよう。

それにあたってぜひ、手に入れていただきたいのは放射温度計。モノに触れることなく温度が測れるもので、2,000円~で手に入る。まずはこれを使い、部屋の中でどこが寒いかを調べ、そこから順に改修していくのが効率的である。同時にどこから隙間風が入ってくるかもチェック、そこを塞ぐ手も考えよう。「部屋を暖かくするためには断熱すると同時にすきま風を防ぐこと。放射温度計で温度を確認しながら作業をすると、暖かくなったことが如実に分かり、やる気になります」。

マンションで中住戸の場合にはそもそもが暖かいので、主に窓、玄関ドアが手を入れるべき個所になる。窓で一番簡単なのはサッシの隙間にモヘアシールなどと呼ばれるテープを貼ること。窓以外でもドア、襖などからの隙間風を防ぐために使える。もっと暖かくと思うなら、鈴木氏がやったように内窓を作る手がある。具体的には窓の内側に1cm角の角材で枠を作る、あるいはコの字レールなどと呼ばれる枠型の品をテープで貼り、そこに中空ポリカーボネイト(以下ポリカと略す)というプラスチック樹脂パネルをはめ込むというもの。ポリカは薄くて、柔らかくてたわませることができるパネルで、容易にはめたり、外したりができる素材。家庭にあるカッターなどで簡単に切れる。

一戸建て、アパートなら屋根の断熱がポイント

限られた費用、時間でどこに手を入れるのが効率的か。いろいろな案が出された。この経験を踏まえて以降、自分の家をどう変えるのかを考えていくことになる限られた費用、時間でどこに手を入れるのが効率的か。いろいろな案が出された。この経験を踏まえて以降、自分の家をどう変えるのかを考えていくことになる

鉄など金属製の玄関ドアも寒さの要因。「人間が室内で体感する温度は回りの面の温度と室温の平均。つまり、壁やドア、窓などが冷たいと寒く感じるのです。それを防ぐためにはドアの内側に発泡スチロールのボードを貼り、表面の冷たさが内側に入ってこないようにします。その上にきれいな壁紙でも貼れば、見た目が悪くなることもありません」

マンションでも角部屋や最上階、下に車庫があるなどして外界と接する面がある住戸はその面の寒さ対策が必要になる。てっとり早いのは寒い面に断熱ボードを貼る、あるいは天井から床までのカーテンを吊ること。その際、カーテンを壁に密着させすぎると結露しやすくなるため、壁との間に少しすき間を作っておきたい。

マンションに比べ、断熱性能で大幅に劣っているのは古い一戸建てやアパート。マンションの場合の方法に加え、屋根裏の断熱なども可能ならやってみたいところ。上階がある部屋なら不要だが、そうでない場合には屋根から熱が逃げていってしまうからだ。

方法は屋根裏にグラスウールなどの断熱材を敷くというもの。ただし、この作業はさすがに一人では難しい。大工さん、あるいはDIY仲間に手伝ってもらうなどする必要が出てくる。エコハウスDIYクラスの場合、参加している間に仲間ができるため、互いに手伝いあってそれぞれの家を改修するケースもあるとか。人数が集まれば作業は早く、楽になる。クラスには仲間を作る意味もあるわけだ。ちなみに予算だが、以前ワークショップでやった時には材料費が3部屋で5万円以内だったとか。大家さんに許可を取る必要も出てくるだろう。

どこもかしこも寒いという一戸建て、アパートなら、いつも自分がいる場所だけを暖かくするという方法も考えられる。今回のクラスでは寝室となる場所に断熱材で作った移動式、吊り下げ式のテント状の空間を作ることを検討しているとか。夏場に使う蚊帳の断熱バージョンとでも言えば良いだろうか。とりあえず、寒くて朝、起きられないということだけは防げそうだ。

3月後半より「グリーンズの学校」Webが別途立ち上がる予定とのことだが、それまで次回開講のお知らせなどは以下のサイトでチェックを。
greenz.jp

2016年 02月19日 11時08分