境界を溶かす。ひとつの空間に複数の用途

上が「ここで何しようって考えるとワクワクして眠れない!〜喫茶ランドリー」、下が「暮らしを自由にするオフィス。『12shinjuku(ジュウニシンジュク)』」上が「ここで何しようって考えるとワクワクして眠れない!〜喫茶ランドリー」、下が「暮らしを自由にするオフィス。『12shinjuku(ジュウニシンジュク)』」

これまで、建物、場にはそれぞれに個別の機能があった。場ごとに「ここでは何をする」が定められていたと言えば分かりやすいだろう。リノベーション・オブ・ザ・イヤー2018では、その機能の境界が溶けだしていることを感じさせてくれる作品が散見された。

もっとも分かりやすい例が、無差別級で最優秀賞を受賞した「ここで何しようって考えるとワクワクして眠れない!〜喫茶ランドリー」(ブルースタジオ)だろう。グッドデザイン賞や、その他受賞も多くご存知の方もあろうが、ここは喫茶店であり、ランドリーである。お茶を飲む、洗濯をする場ということだが、実際にはそれだけには留まっていない。ご近所さんにとっては茶飲み話の場であり、会議をしている人もいれば、モノを作っている人も。何をやっても良い場なのである。

住宅が増えているにも関わらず、人の姿を見ることの無かったまちに喫茶ランドリーができたことで、人が家から出てくるようになってまちに賑わいが生まれた。喫茶ランドリーを介して人と出会い、何かを作るなどの作業を通じてこのまちでの暮らしを楽しく思う人が増えた。使い方が限定されていない場には、まちやひとを変える機能があるのかもしれない。

ワーク&ライフスタイル提案賞を受賞した「暮らしを自由にするオフィス。『12shinjuku(ジュウニシンジュク)』」(リビタ)も、オフィスの機能を働くことだけに限定せず、キッチン、シャワー、ランドリーや趣味の空間までを付加することで働き方、暮らし方を変えようというもの。これまで物理的、精神的に離れて存在することが一般的だった働く場、暮らす場の境界を取り払ったのである。働く場に住むという機能があれば、住宅選びは会社からの距離、広さなどの制約から自由になるし、多拠点に暮らす選択なども可能になる。場が固定的な機能から自由になることで人の生き方も自由になるのでは?そんな期待を抱かせてくれた事例である。

時間と価値の関係を変える

上は建売一戸建てをリノベーションした事例「『MANISH』新しさを壊す」。下はリノベーションで全室から海の眺望を得られるようにした事例「黒川紀章への手紙」。物語としてとても興味を惹いたのだが、ビジュアルではそれが伝わりにくい気がした上は建売一戸建てをリノベーションした事例「『MANISH』新しさを壊す」。下はリノベーションで全室から海の眺望を得られるようにした事例「黒川紀章への手紙」。物語としてとても興味を惹いたのだが、ビジュアルではそれが伝わりにくい気がした

リノベーションは基本、築年数を経た建物を活かすためのもの。だが、気に入らない部分があるなら、新築でもリノベーションをすればいい。今回、1,000万円未満部門で最優秀賞を受賞した「『MANISH』新しさを壊す」(ブルースタジオ)は新築建売一戸建てを660万円かけてリノベーションしたものである。

現在の住宅市場では、価格が高騰するマンションに比べ、建売住宅は相対的に安価で人気を呼んでいるが、住まいとして考えると画一的で面白くないと感じる人もいる。それをどう自分のスタイルに合った満足いくものにしていくか。新築を是とする人がまだまだ多い中にあって、新築をあえてリノベーションという選択は新鮮。無駄、もったいないという考え方もあろうし、今後、追随する人が出るかは不明だが、これまでにない選択肢を示してくれたという意味では面白い。審査員間でも議論噴出だったそうである。

時間を切り口に考えると、総合グランプリの「黒川紀章への手紙」(タムタムデザイン+ひまわり)も示唆に富んだものだった。これは1999年に建築家・黒川紀章が手がけた、眺望自慢だが、リビングからしか絶景が望めない高層マンション「門司港レトロハイマート」の20階部分をリノベーションによって全室から海景を楽しめるようにしたもの。当時の黒川紀章に成り代わって、新たな解を示したともいえ、建築には時間を越えて同じテーマに取り組むという楽しみがあることに気づかされた。

もうひとつ、ヘリテイジリノベーション賞を受賞した「築187年 執念のお色直し」(連空間デザイン研究所)にもうるっとした。1831(天保2)年建築の民家を、店舗にリノベーションした事例で、リノベーション・オブ・ザ・イヤーのなかで最古の物件。しかも、完成間近に熊本地震が起こり、事業自体の存続すら危ぶまれたという。すでに歴史となっている時代の建物が現在も使われているすごい事例である。

建物の存在が地域を動かす「てこ」になる

ここ2~3年ほど空き家になった、地域のシンボル的な建物を再生、それを地域再生のてことする動きが増えてきている。2018年のリノベーション・オブ・ザ・イヤーにもそうした物件が数多く登場した。個人的に強く惹かれたのはデスティネーションデザイン賞を受賞した「国境離島と記憶の再生」(タムタムデザイン+コナデザイン)。人口減少が進む、長崎県壱岐島勝本町の漁港に沿った商店街にある築90年木造3階建ての、20年前に閉鎖された旅館と、隣にある酒蔵をリノベーションして、新たな宿と飲食店にしたもの。東京からの移住者がこの施設の運営に当たっている。建物の再生によってまちの中心部に新たな光が灯ったことを象徴するような写真が秀逸だった。

地域再生リノベーション賞を受賞した「再び光が灯った地域のシンボル『アメリカヤ』」(アトリエいろは一級建築士事務所)も名称通り、山梨県・韮崎中央商店街で長く地元で愛された複合ビルを再生したもの。それを機に、シャッター商店街となっていた通りに再び、人の流れが生まれつつあるとか。当時の雰囲気を残しながらのリノベーションが魅力的である。

それ以外では世代継承コミュニティ賞の「笑顔が再び集結。世代を越え、地域コミュニティーの場に生まれ変わった複合施設『ROUGH LAUGH須賀川』」(イーコンセプト)、共感リノベーション賞の「そらのまちほいくえん〜街のまんなかの、子どもも大人も育つ保育園」(内村建設)も使われなくなった建物を再利用することで地域にインパクトを与えたもの。空き家、空き店舗は悪者のように言われるが、きちんと活用できれば地域の資源になる。建物は使い方次第と強く思わされた。

左上から時計周りに「国境離島と記憶の再生」、「再び光が灯った地域のシンボル『アメリカヤ』」「笑顔が再び集結。世代を越え、地域コミュニティーの場に生まれ変わった複合施設『ROUGH LAUGH須賀川』」「そらのまちほいくえん〜街のまんなかの、子どもも大人も育つ保育園」左上から時計周りに「国境離島と記憶の再生」、「再び光が灯った地域のシンボル『アメリカヤ』」「笑顔が再び集結。世代を越え、地域コミュニティーの場に生まれ変わった複合施設『ROUGH LAUGH須賀川』」「そらのまちほいくえん〜街のまんなかの、子どもも大人も育つ保育園」

初参加、初受賞多数など、裾野、幅の広がりを実感

上の「リビ充団地」と下の「OMOTENASHI HOUSE」の価格の幅の大きさを考えると、リノベーションでできることの幅が広がっていることが実感できる上の「リビ充団地」と下の「OMOTENASHI HOUSE」の価格の幅の大きさを考えると、リノベーションでできることの幅が広がっていることが実感できる

覚えておきたいのは、今回18の賞のうち、初参加で初受賞をした会社が6社(その他初受賞も1社)もあったこと。ここまで紹介してきたように離島、地方都市や地域、住宅、旅館、ビルなどと対象となる物件、価格の幅も広がっており、全体としての裾野の広がりが感じられた。

好例だと思うのが、コストパフォーマンス賞の「リビ充団地(タムタムデザイン+不動産プラザ+不動産中央情報センター)。これは北九州市の築45年、専有面積35.59m2のコンパクトな団地を母子家庭・父子家庭などの親子2人暮らしを想定、2017年のトレンドキーワードになったリビ充(リビング充実)を提案する形でリノベーションしたもの。自分で家に手を入れるつもりの人、余裕のない人にも、これまでにない空間を体験してもらえる機会になるのではないかと思う。

路地奥にあり、再建築不可で築130年という京町家に6,000万円をかけてリノベーション、再販したという「OMOTENASHI HOUSE」(八清)も価格の幅を大きく拡大した事例。日本文化を好む海外の富裕層向けの別邸を想定したそうだが、その大胆さはベストバリューアップ賞にふさわしい。海外では富裕層向けにフルリノベーションした歴史的な建造物を見ることがあるが、日本でもいよいよ、そうした例が出てくるのだろうか。だとしたら、今、あちこちで買い手を探しているお屋敷にも再生の可能性が出てくる。期待したいところである。

質、嗜好へのこだわりを実現する人たちの増加

上の「家具美術館な家」と下の「もっと黒くしたい」。このふり幅の大きさも面白い上の「家具美術館な家」と下の「もっと黒くしたい」。このふり幅の大きさも面白い

インテリアへのこだわりを感じさせる事例も多かった。代表的なのは1,000万円以上部門で最優秀賞となった「家具美術館な家」(grooveagent)。施主が海外生活で開眼したという北欧家具のために作った家で、隅々にまで行きわたる美意識が応募物件数の多い1,000万円以上部門でもひときわ目立った。

まず住宅、それから家具と考える人が多い中、それを逆転した考え方を、今回ゲスト審査員として初めて登場した雑誌「カーサ ブルータス」の編集長・西尾洋一氏が高く評価したそうで、審査員によって結果が変わることも感じた。もちろん、悪い意味ではない。仲間内の閉じたイベントにならないためには、新しい感性、視点を取り入れる開かれた感覚は大事。面白い変化、意外な結末を楽しみたい。

同じくインテリアで度肝を抜かれたのがこだわりデザインR1賞の「もっと黒くしたい」(ニューユニークス)。タイトル通り、床、壁はもちろん、キッチンその他置かれているものに至るまですべて素材、質感は異なるものの黒一色。さらに完成後に施主はもっと黒くしたいと……。超を付けても良いくらい個人的な空間だが、それを実現できるのがリノベーションでもある。とことん好きなものにこだわった空間がもっとどんどん生まれてきて欲しいものである。

最後にリノベーション文化功労賞を受賞した、日本でリノベーションが誕生した1998年から20年を振り返る展覧会「リノベーションの20年」(アート&クラフト)にも触れておきたい。この数年ほどで認知度がアップ、個人宅から地域、社会をも変えるものとして認識されるようになったリノベーションだが、誕生から20年である。立場や見方によって長いとも短いとも言えようが、20年でここまで変わったということが大事なのではないかと思う。続けることで時間が志を後押ししてくれる、リノベーション業界の動きはそんなことを実感させてくれる。

2019年 01月12日 11時00分