高架化で新たな空間が生まれた京急沿線

新しい空間が生まれた京急の高架下新しい空間が生まれた京急の高架下

東京都の都市計画事業として進められてきた京急蒲田駅付近連続立体交差事業が2017年に完了した。これにより環状八号線、第一京浜などの踏切が除却され、交通渋滞が解消。同時期に京急蒲田、糀谷駅周辺の再開発も行われた。

だが、工事終了後も使い方を巡り、模索が続けられてきた場所がある。高架下だ。かつては駐輪場、駐車場、倉庫、飲食店といった、単に場所を貸すだけが主な活用法だった高架下だが、昨今の使い方は百花繚乱。保育園や託児所、福祉施設、オープンスペースを備えた商業施設、図書館から野菜栽培までと多種多様に及ぶようになっているのである。収益だけではなく、沿線、地元の賑わいに寄与することをキーワードにしている例も多く、となるとただ貸せばよいとするのは安易であろう。

模索を続ける中、京急が出会ったのは蒲田を中心に活動する「@カマタ」というプロジェクトである。これは大田区蒲田に拠点を置いて活動するクリエイターの共同体で、ここ5年ほど前からものづくりのまちという歴史を持つ蒲田に制作環境と町工場との協働機会を生み出す活動を続けてきた。かつては1万社以上、減ったとはいえ今でも3,000社以上のまち工場が集まる、東京屈指のものづくりのまち大田区の土地の、これからの使い方としてはなるほど!という感がある。

2019年春開業を目指してラウンドテーブルスタート

京急と@カマタとの約1年余のやりとりの結果、京急大森町から梅屋敷間の敷地面積約2283m2はものづくり拠点として整備することが決定。梅屋敷駅に近いほうから2棟の飲食店、シェアオフィス、デジタル工房、スタジオの4棟、2棟のまち工場の計8棟が建つ。開業は2019年春を予定しており、それまでの間に定期的にラウンドテーブルが開催されるという。テーマはこれから作られる施設のありかた、使い方や将来像についてなど。2018年7月7日に第1回のラウンドテーブル、及び@カマタがこれまでに作ってきた拠点を巡るミニツアーが開かれ、参加してきた。

ミニツアーで訪れたのは2カ所。ひとつは2014年にオープンした「カマタ_クーチ」という、建物の前に広がる空地(クーチ。ネーミングはここから)が印象的な複合施設である。L字型の敷地は一方は公道に面しているものの、もう一方は暗渠(あんきょ。閉ざされた川のこと)に面しており、その部分には廃墟化した家があった。道のように見えるが道ではない暗渠沿いでは再建築はできない。そこで建物を取り壊した後はそこをそのまま、地域にも開かれた空地としたというのがカマタ_クーチ。現在は雨ざらしにしておいても平気な中国製の卓球台が置かれ、春秋には地元の人たちが卓球に興じているそうだ。

空地に面した一軒家には建築関係のオフィスが、その背後にある3階建てのマンションには1階にものづくり工房兼ショップが入り、2階以上はSOHO、シェアオフィスも可能な住宅。1階には階段状のテラスがあり、ここや空地を利用して屋外でのイベントも開かれるそうだ。

左上から時計周りに公道から見たカマタ_クーチ。奥に見える白いタイルのマンションとその左側の一戸建てを含む空間がカマタ_クーチ。<br>マンションのベランダ部分を階段状にして人が集えるように改装されている。<br>暗渠に面した廃墟を撤去した場所はあえて空地にし、卓球台などを置いている。<br>マンションの1階に入居している屋外広告を再利用したグッズを作るアトリエ、蝉の内部左上から時計周りに公道から見たカマタ_クーチ。奥に見える白いタイルのマンションとその左側の一戸建てを含む空間がカマタ_クーチ。
マンションのベランダ部分を階段状にして人が集えるように改装されている。
暗渠に面した廃墟を撤去した場所はあえて空地にし、卓球台などを置いている。
マンションの1階に入居している屋外広告を再利用したグッズを作るアトリエ、蝉の内部

まち全体を大きなシェアオフィスに見立てる

こちらはカマタ_ブリッヂ。住む場所の下に働く場があることになる。今後はこういう形が増えるかもしれないこちらはカマタ_ブリッヂ。住む場所の下に働く場があることになる。今後はこういう形が増えるかもしれない

続いて訪れたのは2015年にオープンした「カマタ_ブリッヂ」。呑川にかかる太平橋のたもとに建つ築39年の4階建てのマンションを「創りながら暮らす街、未完の共同住宅」をキーワードに工房・シェアオフィス付き集合住宅に改修したものだ。シェアオフィス、工房は1階にあり、複雑な形状に木をカットする大型マシンなど、デジタル工作機材が揃う。2階には共用の打ち合わせスペースもある。ちなみにここに入居した人は下の機械を使って木材1枚分の範囲で好きに家具を作ってもらうことができるのだとか。賃貸住宅サービスとしての新しい試みである。

この日は2拠点を見学したが、@カマタではもう1カ所、羽田空港近くの古い倉庫を再利用した期間限定の「カマタ_ソーコ」というポップアップイベントスペースも運営している。取材時は、青森県立美術館の東京の飛地として同美術館とリンクするような展示を行っていた。

こうした拠点それぞれが面白いだけではなく、@カマタの面白いところは拠点や機材、人、知識やノウハウをメンバーで共同管理し、蒲田のまち全体を大きなシェアオフィスに見立てているという点だ。メンバーになれば、他の拠点も自分が借りている拠点同様に使えることができるようになっており、全体がネットワーク化されているのである。

クリエイター間だけではなく、カマタ_ソーコでの展示作品を共同で制作するなど、地元のまち工場との連携も生まれ始めている。大田区のまち工場は一社ごとに独自の、高い技術を持っているのが特徴と聞くが、それが他の、これまでと違うクリエーターなどとコラボし始めれば、面白いものが生まれてくるのではなかろうか。

スモールビジネスの時代には住まいの選び方も変わる?

高架下でのイベントでは様々な形でモノを作る、生み出す人たちがトークを繰り広げた高架下でのイベントでは様々な形でモノを作る、生み出す人たちがトークを繰り広げた

ミニツアーの後は対象地となる高架下でラウンドテーブルが開かれた。気持ち良い高さのある空間である。さて、ラウンドテーブルでは全体説明の後に4名のゲストが登場、意見が交わされた。当日の話題の中から私たちの暮らし、住まい、蒲田のこれからに関係がありそうな部分をご紹介したい。

ひとつはテクノロジーを切り口に未来を考える雑誌「WIRED」で長く編集長を務めた若林恵氏が見ているこれからの働き方だ。若林氏はこれからは大きな企業が大量の雇用を生む時代ではなくなり、多くの人がフリーランサーになっていくという。アメリカでは現在3割ほどがフリーランスで、10年後には半数を超えると言われているとか。デジタルテクノロジーがそれを促進、スモールビジネスが増えるだろうとも。これから高架下に生まれるスペースはそうした人たちをサポートできる場になるかどうかが大事なポイントではないかと若林氏。これからの時代を先取りするような場になる必要があるということだろう。

ここで思ったのは、それはこの高架下に、大田区、蒲田に限ったことではないだろうということ。これまで住む場所を選ぶ時には利便性、住環境を指標にしてきたが、今後、働き方が変わり、オフィスばかりが働く場でなくなっていくとしたら、住まいを選ぶ時にも近くに働く場があるか、働く人をサポートしてくれるネットワークがあるかなども条件になってくるかもしれない。働き方の変化が住みやすいまちの要件を変えるかもしれないのである。

京急沿線、梅屋敷駅などのポテンシャルに注目

梅屋敷駅周辺の商店街の賑わい。あまり知られてはいないが、価格も安く、品揃えも良い、歩いて楽しい商店街である梅屋敷駅周辺の商店街の賑わい。あまり知られてはいないが、価格も安く、品揃えも良い、歩いて楽しい商店街である

もうひとつは京急沿線、梅屋敷駅などのポテンシャルである。首都圏にある数多くの沿線のうちには実際の利便性、住みやすさに比べ、知名度が相対的に落ちるものが少なからずあるように思う。京急沿線もそのひとつだが、羽田、成田へダイレクトにアクセスでき、品川へ出れば新幹線も、将来はリニアも利用できる路線である。今後、観光なども含め、海外との繋がりがより重要になると考えると、この利便性は得がたい。また、乗り入れる都営浅草線は都心の主要オフィス街を繋ぎ、並行する東京メトロ銀座線よりも混雑率が低い。
(国土交通省 都市鉄道の混雑率調査結果より。混雑率:東京メトロ銀座線160%、都営浅草線129%)

今回、高架下拠点の最寄り駅のひとつとなる梅屋敷は賑やかな商店街で知られ、今どきは少なくなった鮮魚店も健在。生鮮食料品が安く買え、日常生活で利用するには非常に便利な場所でもある。近くには大学病院もある。

並行するように走るJR京浜東北線、東海道線などのサブ的な沿線と認識されている節もあるが、今後、沿線に新しい拠点や動き、活動が生まれてくればもっと認知度が高まるのではなかろうか。蒲田、梅屋敷以外にも面白いまちは多数ある。今回の新拠点がきっかけとなり、変わっていくことを期待したい。

@カマタ
http://www.atkamata.jp/index/

2018年 09月04日 11時05分