三州の地に、熱き「瓦伝道師」あり!

先回【観光立国を目指す中「日本瓦」も貴重な観光資源に?!】を綴るにあたり、全国シェア7割を誇る三州瓦の産地・愛知県高浜市を訪ねたが、そこで1400年以上前から我々に深く根付く日本瓦の特性や趣に触れてから『瓦は単に屋根材に非ず』と感じた筆者。さらに深堀りしたくなり、再び高浜市を訪ねることに。
是非とも“かわら愛”に溢れる方のお話が訊きたいと思ったところ、三州に数多いらっしゃる瓦関係者の中から『瓦伝道師』なる御仁をご紹介頂いた。
長く瓦に携わる匠が登場するのかと思いきや、現れたのは瓦職人とも違うネクタイ姿の好青年!イメージとのギャップに少し驚きながら、瓦伝道師こと神谷英嗣氏にお話を伺った。

瓦伝道師としても活動する、1913年創業の三州瓦メーカー 株式会社山平 代表取取締役社長の神谷英嗣氏(38)。</br>同社では平板瓦を製造。カラーバリエーションは10種類以上あり、ストレート葺き・千鳥葺きによっても見た目の印象は随分変わる瓦伝道師としても活動する、1913年創業の三州瓦メーカー 株式会社山平 代表取取締役社長の神谷英嗣氏(38)。
同社では平板瓦を製造。カラーバリエーションは10種類以上あり、ストレート葺き・千鳥葺きによっても見た目の印象は随分変わる

「瓦伝道師」を名乗る理由、その役割とは?

「屋根を描いてと言うと、多くの人が『~』と波打ったカタチの和瓦を描きます。でも、屋根にもいろいろな形状・色・特徴があることをもっと知ってもらいたい!」と神谷氏。</br>同社では南欧風瓦も唯一国産で製造していて、輸入材のメーカー廃盤などでメンテナンスが難しくないよう対応している「屋根を描いてと言うと、多くの人が『~』と波打ったカタチの和瓦を描きます。でも、屋根にもいろいろな形状・色・特徴があることをもっと知ってもらいたい!」と神谷氏。
同社では南欧風瓦も唯一国産で製造していて、輸入材のメーカー廃盤などでメンテナンスが難しくないよう対応している

三州瓦を製造する株式会社山平の4代目である神谷氏。
『瓦伝道師』と聞いて、日本瓦を後世まで伝え継ぐことを目的に活動をしていると思っていたが、日本文化でもある瓦を“伝承”するのはもちろん、大きく力を入れているのは“発信”の方。ブログ・フェイスブック・ツイッター・インスタグラム・YouTube・・・主にSNSでの情報発信を積極的に行い、自社の瓦をPRするのではなく、瓦全般について広く伝えようと、取締役社長に就任した3年ほど前から『瓦のもたらす価値』を発信することに情熱を注いでいるという。

キッカケになったのは、瓦を漢字で書けない人が多いことを知ったこと。
なんでも『互』の字の真ん中に『点』を入れて書く人が少なくないようで、

「僕達にとって瓦は身近なモノで、漢字も書けて当たり前と思っていたけれど、そうじゃないことに驚きました。それと同じで、自分達が瓦を“良くて当たり前”の屋根材と思っていても、他の人には決して当たり前ではなくて、もしや身近でもないのかも?と疑問に思って」と話す。

そこで、自分達の“当たり前”を取り払って瓦を伝えていくことを決意。
性能だけでなく、職人の姿や施工についてなど瓦を様々な面から発信しようと試みたのだとか。

「東京で行われた建築建材展で『鬼師』と呼ばれる鬼瓦の職人にパフォーマンスをしてもらったところ、鬼瓦づくりの実演を見て多くの方が足を止め、写真を撮ったり話しかけてくれたんです。そして、その展示会をキッカケに、雑誌に鬼瓦が取り上げられたり、表彰用の盾を鬼瓦で作らせてもらったりもしました。
普段どんなに良いモノを作っていても、それがどう受け入れられ評価されているか、使い手の顔は見えにくいですし、その逆も然りです。
業界が苦境にあって、元気のない職人さんも少なくない中、『自分の仕事や作品はこんなにも価値のあるものなんだ!』と誇りを持って欲しいとも強く思います。
腕の確かな熟練の職人さんは、作ることに長けていても、それを発信することは弱いもの。
その弱い部分を、職人ではない・瓦を作ることはできない僕のような者が担い、瓦業界のコネクターでありスピーカーの役割を果たすべく活動しています。
ソーシャルの時代だからこそ、個がメディアになる時代。他社や異業種との交流も積極的に行いながら、“お金はかけずに手間暇をかける”手法を活用しながら発信をしています。」(神谷氏)

100年を超える自社の歴史においても、また長く続く瓦業界の中でも異端児的な考え方とアイデアで今日も情報発信に努めている。

見えない部分の“見える化”が、瓦屋根に対する安心感に

展示会やイベントなどでは『かわらマン』に変身することも!「大企業ではないからこそ、自由に・柔軟に動けるのは魅力」と語る神谷氏は、「お前バカだなぁ~!を最高のホメ言葉と捉えてます」と笑う展示会やイベントなどでは『かわらマン』に変身することも!「大企業ではないからこそ、自由に・柔軟に動けるのは魅力」と語る神谷氏は、「お前バカだなぁ~!を最高のホメ言葉と捉えてます」と笑う

断熱性や遮音性、塗り替え要らずで割れても1枚から交換できる優れたメンテンス性、そして和心を満たす景観美・・・ 日本瓦の魅力は先回の記事でも多く触れたが、そのような『性能』よりも『想い』を伝えたいと言う。

屋根にある瓦は遠くから目にすることが殆どで、一枚一枚の様子やどう施工されるのかなどは分かりづらい。見えない部分へのジレンマから、特に情報発信に力を入れている事があるのだとか。

「消費者相談センターに寄せられる内容で一番多いのは屋根に関することなんです。
残念ながら屋根施工の悪徳な訪問販売業者が多いのも事実。それが本当に悔しくて、全国の優良施工業者が集まるサイト【屋根セイバーズ】を起ち上げ、各自がブログ発信もしています。

以前、ラバーロックという屋根工事を親御さんが訪問業者に頼んだという娘さんが、気になってインターネットで検索したところ僕のブログに辿り着いて相談をしてくれたことがありました。
ラバーロックとは瓦を接着剤で付けるもので、瓦が固定されるので屋根が飛ばずに安心だと思われがちですが、塞いでしまうと空気の逃げ道がなく屋根の下地が腐ってしまうこともあるので避けたいですし、大した作業でなくても高額を請求されるケースもある工事。それを伝えたことで、その方は工事を止められて被害を防ぐことができました。
今の状況を少しでも改善できるように、今後も同志の輪を広げていきたいですね。」(神谷氏)

もっと身近なモノとして、瓦の価値を伝えるために・・・

「瓦自体が無くなることはなくても、身近なモノとしての可能性をもっと広げていかなければ」と神谷氏。モチーフも様々な鬼瓦であったり、坪庭に用いたり、表札やオブジェや傘立て・・・和に限らず、もっと自由に瓦を取り入れてみるのも良さそうだ「瓦自体が無くなることはなくても、身近なモノとしての可能性をもっと広げていかなければ」と神谷氏。モチーフも様々な鬼瓦であったり、坪庭に用いたり、表札やオブジェや傘立て・・・和に限らず、もっと自由に瓦を取り入れてみるのも良さそうだ

「瓦は『日本文化』でもあるけれど、基本的には『日用品』のカテゴリー。
例えば、マンションに住んでいる方は瓦は関係のないモノと思われがちですが、もともと魔除けの意味がある鬼瓦ならば、玄関先にシーサーを置く感覚で置いても良いし、瓦は屋根の上にあるだけではないんです。いぶし瓦のコースターなど日常使いできる品も作っているので、それを“見て貰える発信”もしていきたい。」
そう話す神谷氏に、改めて、瓦を伝えるための軸となる想いを訊いてみた。

「モノは作れば売れる時代ではありません。
昔は屋根と言えば瓦とトタンだけだったのが、今はいろいろあって、選ばれる率が下がるのは当然です。情報過多の“選ばれにくい時代”だからこそ、見て貰える工夫が大切。知らずに興味すら持ってもらえないことの無いように、軽いか重いか・安いか高いかの単純な選択ではなく、屋根材としての特性をよく知ってもらった上で“選ばれる努力”をしなければ。

以前の感覚では、産地が違えばライバルになりますが、今は『同じ瓦を扱う仲間』と考えます。
僕達はどこの瓦か見れば分かりますが、一般の方からすれば産地がどこでも全て『瓦』。危機感がつのる瓦業界内で、産地や会社でのライバル争いをしている時でもないと思うんです。
垣根を超えた捉え方で発信をしていくべきと考え、『競争』ではなく『協調』をしながら“相手に伝わる方法”を模索したい」と、その口調はどこまでも熱い。


屋根と外壁は毎日毎日いつでも働いている。
でも、こんなに頑張っているのになかなか気づいてもらえない。
どんな気象にも負けず住む人を守っている屋根を、ちょっと気にして見て欲しいですね。

最後にそう話してくれた笑顔が印象的で、家並みの屋根を眺めながら帰路に着いた筆者だった。

■株式会社 山平 http://www.yamahei.jp/
■屋根セイバーズ http://www.yane-savers.jp/

2015年 12月05日 11時00分