知らないうちに衣類に穴が…

衣替えをしているとき、衣類に小さな穴を見つけてドキッとしたことはないだろうか。
引きつれ傷ではなく、丸くポツンとした穴なら、衣料害虫の被害だと考えられる。特に、高価な服やお気に入りの服に知らないうちに虫食い穴ができていたときのショックは大きいもの。衣類の害虫はどこから来て、どこに潜んでいるのだろうか。また、どうしたら被害を予防できるのだろうか。

今回は、クローゼットやタンスの衣類用防虫剤などを製造・販売している大日本除虫菊株式会社中央研究所第2化学研究室薬剤師の田丸友裕さんに、衣料害虫の種類や防虫方法について教えていただいた。

虫食いの犯人、衣料害虫とは

イガの幼虫は2週間で衣類に2~3ミリ程度の穴を開けてしまう(上)。実験用に虫に食わせたセーターの一部(下)。右下のように大きな穴になることはめったにないが、丸くポツンとした穴があれば衣料害虫がいる証拠イガの幼虫は2週間で衣類に2~3ミリ程度の穴を開けてしまう(上)。実験用に虫に食わせたセーターの一部(下)。右下のように大きな穴になることはめったにないが、丸くポツンとした穴があれば衣料害虫がいる証拠

一般的に衣料害虫と呼ばれているのは、大きく分けてイガ類とカツオブシムシ類の2種類。イガ、コイガ、ヒメカツオブシムシ、ヒメマルカツオブシムシなどがいる。虫の姿が見えないのにいつの間にか衣類が食べられてしまうのは、小さくて目立たないうえ、暗い場所を好む性質があるからだ。
「衣料害虫は幼虫が衣類を食べ、成虫は衣類を食べません。幼虫はエサとして衣類を食べて成長し、成虫になるとメスは衣類に卵を産みつけ、その後は屋外で活動します。そのため虫食い穴はあっても犯人である虫はいない、というケースが多いのです。
また、衣料害虫は冬の寒さには弱いのですが、屋内は暖かいうえ、クローゼットやタンスの中は衣類が詰まっていてさらに過ごしやすい環境です。ですから、被害の可能性は一年中あると考えたほうがいいでしょう」と、田丸さん。

イガは暖かい場所であれば時季を問わず孵化と産卵を繰り返すのに対し、カツオブシムシは幼虫の姿で300日程度を過ごし、成虫となってからは1~2ヶ月が寿命だそうだ。主に4月から5月の連休くらいの時季に成虫になるという。

イガ、カツオブシムシともに刺したり噛んだりせず、毒もないし、病原体を媒介することもないが、衣類を食べるスピードは速く、2週間ほどで2~3ミリ程度の穴を開けてしまう。表面だけをかじる虫食いパターンもあり、そこだけケバがなくなるので、例えばカシミヤなどは生地表面の光の濃淡に違和感が出るのだそうだ。
「衣料害虫は動物性のものが好きですので、化学繊維のものよりウールなどを好みます。しかし化学繊維でも、衣類に皮脂汚れなどがついていると、汗や皮脂を食べたときに繊維までかじってしまうのです」(田丸さん)
ニットなど着るたびに洗うことが難しい服は、皮脂汚れなどが残りやすい。そのため、化学繊維であっても虫食いができることがあるのだという。

衣料害虫の侵入を防ぐには

ヒメマルカツオブシムシの成虫(上)、幼虫(下)。ほとんど目にすることはないが、衣替えなどで衣服を取り出したときに幼虫に遭遇することはあるかもしれないヒメマルカツオブシムシの成虫(上)、幼虫(下)。ほとんど目にすることはないが、衣替えなどで衣服を取り出したときに幼虫に遭遇することはあるかもしれない

では、衣料害虫はどこからやってくるのだろうか。

成虫は、屋外では花の蜜などをエサに飛び回っている。そのため家庭への侵入経路は、外出したときに成虫が服に付着したのを家に持ち帰る、あるいは卵を産みつけられるケースと、外干しの洗濯物に成虫が付着しているのを取り込んでしまうケースもあるそうだ。

田丸さんは、こまめなケアで屋内への侵入を防ぐことが可能だと言う。
「衣料害虫やその卵は、簡単に落とせます。ですから、帰宅してすぐ洗濯する、なかなか洗えないコートなどの衣類はブラッシングをするなどの対策が効果的。外に干した洗濯物はしっかり振ってから取り込めば虫を除くことができますから、心がけ次第で侵入を防げる虫なのです」

しかし、そこまで徹底するのは難しいし、一度侵入を許すと人目につかない。虫食い穴を見つけたとしても、虫はポケットの中に潜んでいたりするので、見つけ出すのは至難の業だ。衣料害虫の対策には、衣類用防虫剤を使うのが現実的であり、引き出し用の衣類の上に置くタイプやクローゼット用の吊り下げタイプや、衣類に吹きかけるだけで卵を産み付ける成虫を寄せ付けない噴霧タイプも市販されているので、外出が多い人は使用すると効果的だろう。大切な洋服に傷をつけたくないなら、しっかり防虫するのが肝心なのだ。

防虫剤の効果的な使い方

引き出し用やクローゼット用などの衣類用防虫剤は、いずれも収納空間中に薬剤が拡散することで効果を発揮する。だから、衣服を詰め込みすぎると、洋服の隙間などに薬剤が行き渡らず、効きにくくなってしまうという。また、密閉空間でなければ薬剤が行き渡らないので、クローゼットの扉やタンスの引き出しは開けっ放しにしないほうがいいそうだ。

ハンガーラックなど、密閉していない場所で保管している場合には、薬剤の効果が十分に発揮できない。防虫剤を吊り下げたうえで全体にカバーなどをかけるのも一つの対処法だが、「衣服が多くて収納しきれず、タンスやクローゼットの外に置かざるを得ない場合は、普段よく着るものをオープンな場所に置くとよいと思います。着る機会が多いと、着脱の際に物理的な衝撃があるため、害虫にとって住みにくいのです。また、衣料害虫は暗い場所を好みますから、外掛けにしている衣類のほうが虫にとっては繁殖しづらい環境といえます」(田丸さん)と、着る頻度によって収納場所を分けることにも一定の効果は期待できそうだ。

防虫剤の設置時期は、衣替えなどで衣類を収納するタイミングがよい。最近の商品は取り替え時期になるとサインが出るものも多いが、有効期間が1年など長いものが多く、取り替えを忘れてしまうこともある。そこで、防虫剤に取り替えた日時をメモしておいたり、あらかじめ交換予定日をカレンダーに書き込んでおいたりするとよい。記念日などの忘れにくい日に取り替えるようにするのもいいだろう。

衣類用防虫剤は収納空間内に徐々に薬剤が拡散する仕組みなので、薬効を発揮するまで一定の時間がかかる。そのため、大切な衣類を守るには、虫食いを見つける前にあらかじめ設置したほうがよい。もし防虫剤を設置し忘れていて、虫食いを見つけた場合、衣料害虫はとても小さく、暗い場所に潜むので、探し出すのは難しい。たまたま見つけたときも、見つけた虫は殺虫剤を使って駆除できるが、すでに繁殖してほかにもいる可能性が高い。すべての衣類を一旦取り出し、洗い直してから防虫剤を使用するのも、虫食いをしっかり防ぐ一つの手段だ。

「防虫剤の効果を最大限に発揮するためにも、用法・用量をきちんと守って使ってください」と田丸さん。虫食い被害がなければあまり神経質になる必要はないそうだが、お気に入りの服を長く着るためにも、しっかり防虫したいもの。防虫剤と併せて、洗濯やブラッシングなど、日ごろからの対策も行いたい。

衣替えの際には虫食いがないか確認したうえで、防虫剤も忘れないようにしたい衣替えの際には虫食いがないか確認したうえで、防虫剤も忘れないようにしたい

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