アイデアをプラスして新しい価値を。アップサイクルをテーマにした複合施設がオープン

浜松市伊佐地町の「UPCYCLE STUDIO」。約200坪の敷地内にコの字型に建物が立ち、各部屋から中庭が眺められる元保育園ならではの造り。中庭にはブランコや滑り台をアップサイクルさせたテーブルや椅子が並ぶ(筆者撮影)浜松市伊佐地町の「UPCYCLE STUDIO」。約200坪の敷地内にコの字型に建物が立ち、各部屋から中庭が眺められる元保育園ならではの造り。中庭にはブランコや滑り台をアップサイクルさせたテーブルや椅子が並ぶ(筆者撮影)

3R(リデュース、リユース、リサイクル)を優先させる、循環型社会形成推進基本法が制定されてからおよそ20年。その概念は、すでに私たちの生活に定着しているように感じるが、ここ数年で「アップサイクル」というワードもよく耳にするようになった。
元の物質を原料にして再利用するのがリサイクル。それに対し、元の物質の形質をそのままに技術やデザインなどアイデアをプラスして新しい価値を生み出すことをアップサイクルといい、最近ではファッションなどのさまざまなシーンで注目が集まっている。

2019年4月、浜松市西区の伊左地町にアップサイクルをテーマにした複合施設「UPCYCLE STUDIO」がオープンした。2年前に閉園した「伊左地保育園」を活用した同施設の再生までの道のりと、テーマとして掲げているアップサイクルについてお話を伺った。

デザイン性とアイデアが光るアップサイクル品が並ぶ

「UPCYCLE STUDIO」は、2017年まで保育園だった建物をリノベーションしてつくられている。アップサイクルのテーマに沿って、園舎の面影をできるだけ残し、教室や体育館、事務所だった場所を改装。中庭には、ブランコやジャングルジムをアップサイクルした机や椅子が並ぶ。

「捨てられてしまうものに新しい価値を付けるという点がアップサイクルの最大の魅力です。昔からデザインが変わらないものって、丈夫で使いやすいとかそれなりの理由があって残ってきたものだと思うんです。ですから、その利点を生かして新しいものに生まれ変わらせるというのがアップサイクルの考え方。例えば、アイロン台の脚の丈夫さを活かして、壁掛けフックにするというのもアップサイクルのひとつです」
と話してくださったのは、施設の運営ディレクターを務める羽広雄太さん。

取材のために通されたスペースは、体育館として使用されていた場所で、古いロッカーを土台として作られた階段があり、壁際には釣り竿を使った照明や拡声器の花瓶、自転車のサドルを座面にした椅子などが並んでいた。これらはすべて、廃棄されるものを引き取ってアップサイクルして作られたものだ。作品を手掛けるのは羽広さんと親交の深い地元アーティスト・松本憲さん。デザイン性とアイデアが光るものばかりで、思わず「なるほど~」という言葉が漏れる。

【左上】アイロン台の脚を壁に取り付けてフックとして利用。強度があるので木製の椅子を掛けることもできる<br>【右上】巨大なライトは街灯! こちらも廃棄されるものを使ってアップサイクル(筆者撮影)<br>【左下】もともと保育園で使用されていた書類入れやロッカーなどを基礎につくられた階段<br>【右下】ゆたんぽや雪かきのスコップを座面に利用した椅子。「北海道では雪の日に子どもをスコップに座らせて、そりみたいにして引っ張って移動したりするんです。長時間はしんどいですけど意外と座り心地はいいんですよ」と羽広さん(筆者撮影)【左上】アイロン台の脚を壁に取り付けてフックとして利用。強度があるので木製の椅子を掛けることもできる
【右上】巨大なライトは街灯! こちらも廃棄されるものを使ってアップサイクル(筆者撮影)
【左下】もともと保育園で使用されていた書類入れやロッカーなどを基礎につくられた階段
【右下】ゆたんぽや雪かきのスコップを座面に利用した椅子。「北海道では雪の日に子どもをスコップに座らせて、そりみたいにして引っ張って移動したりするんです。長時間はしんどいですけど意外と座り心地はいいんですよ」と羽広さん(筆者撮影)

子ども服を循環させる“洗着”という新しいシステムを考案

現在、無農薬のお米を使ったおにぎり店や、ふんどしで下着を作る作家のアトリエ、羽広さんが講師を務める鉛筆画の教室などユニークなテナントが入っているが、なかでも2019年8月にオープンしたテナント“洗着(せんぎ)”について紹介してみたい。

“洗着”とは羽広さんが考案した造語で、着られなくなった子ども服をクリーニングに出し、クリーニング代金と同等の衣類またはポイントと交換、持ち込まれた服はクリーニングされまた新たな利用者へと提供されるシステムのこと。

自身も4人のお子さんをもつ羽広さん。
「子ども服ってすぐ小さくなって着られなくなってしまうので、お古をいただいたり、リサイクルショップで購入することも多いんですけど、汚れやシミが付いていることがよくあるんですよね。これが綺麗な状態で循環できたらいいんじゃないかと考えたのが洗着です。綺麗にシミ抜きをしてクリーニングされた状態の服が手に入るので、古着に苦手意識がある人でも利用してもらえると思います」

すぐにサイズアウトしてしまう子ども服を、綺麗な状態で循環させる“洗着”という新しい仕組み、実は「UPCYCLE STUDIO」の核でもある。

S~Dのランクに分けられた服の中からクリーニング代と同等のものを持ち帰ることができる“洗着”。服をかけるラックは鉄棒をアップサイクルしたものだS~Dのランクに分けられた服の中からクリーニング代と同等のものを持ち帰ることができる“洗着”。服をかけるラックは鉄棒をアップサイクルしたものだ

そもそもの発端は―。企業の課題をクリエイター目線で解決したい

お話をきかせていただいた羽広さん。写実的な鉛筆画家としての顔ももち、同施設では羽広さんの絵画教室も開催されている。バックに少し写っているのは、海外アーティストのピーランダー・イエロー氏を招き、子どもたちと描いた壁画(筆者撮影)お話をきかせていただいた羽広さん。写実的な鉛筆画家としての顔ももち、同施設では羽広さんの絵画教室も開催されている。バックに少し写っているのは、海外アーティストのピーランダー・イエロー氏を招き、子どもたちと描いた壁画(筆者撮影)

そもそも「UPCYCLE STUDIO」は、浜松でクリーニング店を展開する株式会社浜松白洋舎が、新規事業の拠点として立ち上げたもの。同社では不要になった服を引き取るサービスを実施していたが、どんどん持ち込まれる「まだ着られる服」をどうにか有効活用する方法はないものかと探っていた。そこで、社長とプライベートでも親交のあった元美術教員でクリエイターとして活動する羽広さんに相談を持ち掛けたことでプロジェクトが始まった。

「社長から、クリーニングを軸にしつつも新しい事業として環境や教育といった面で面白いことをして社会貢献につなげたい、という話をいただいていたのがそもそものスタートです。
企業の課題をクリエイターの目線で解決できたらという想いで、いくつか企画書を制作しました。そこで考えたのが“洗着”という新しいシステムだったんです」(羽広さん)

浜松白洋舎社長と羽広さんは“洗着”の新事業を展開する場所を探し、たどり着いたのが2年前に閉園となった「伊左地保育園」だったというわけだ。

子どもを遊ばせながらお母さん同士がつながれる場所を目指す

施設では、月に1度、野菜やスイーツを販売するマルシェなどのイベントを開催。中庭やレンタルスペースを使って、ときには地域住民が主催するイベントが開催されることもあるという。

「僕たちがやっているのはあくまで補助線的なことです。場所を提供したりルールを作るなどある程度の線は引くけれど、最後までは作り上げない。ここをどのように利用するのか、利用する方たちの自由な発想で作り上げてもらえたら嬉しいです。それが僕らにとっても利用者さんにとっても双方でいい刺激になると思うんですよね。
このエリアは転勤族の方も多いんです。公園で母子だけで遊んでいる風景を見かけますが、たまにはこういう場所に来て子どもを遊ばせたりしながら、お母さん同士のコミュニティが広がっていったらいいなと思います」(羽広さん)

子どもを遊ばせながらお母さん同士がつながれる場所を目指す「UPCYCLE STUDIO」。アイデアが詰まったアップサイクル品が随所に光るクリエイティブな施設は、きっと子どもの目にも新鮮に映るに違いない。


【取材協力・写真提供】
UPCYCLE STUDIO
https://www.upcycle-studio.com/

中庭はバーベキュースペースとして貸し出しも行っている。苔を使ったアップサイクルイベント「苔リウム」やマルシェなども開催され、地域の人たちとの輪は少しずつ広がっている中庭はバーベキュースペースとして貸し出しも行っている。苔を使ったアップサイクルイベント「苔リウム」やマルシェなども開催され、地域の人たちとの輪は少しずつ広がっている

2019年 10月05日 11時00分