札幌の下町、菊水。地元の方から観光客までが訪れるカフェとは

札幌の中心から地下鉄でいうと2駅、「菊水」という地域がある。戦後、工場と住宅が混在する地域として発展してきた。最盛期には、数百という中小工場がひしめいていたそうだ。しかし、事業拡大に伴い移転していく工場や、高齢化による廃業によって、今では数える程しかない。ほとんどの工場跡は、マンションに建て替えが進み、準工業の街から住宅街へと移り変わってきている。
しかし、それでも菊水には古い建物が多く残っている印象だ。初めて訪れた時は、比較的新しい建物が多い札幌にも、下町の雰囲気がまだ残っている場所があるのだなと感じた。札幌の中心から近いといえども、なかなか訪れる機会のなかった「菊水」だったが、最近は、多くの人を惹きつける場所がある。
元ボイラー工場をリノベーションしたカフェ「Plantation」だ。美味しいコーヒーはもちろん、その素敵な空間に、一度は訪れてみたいというファンも多い。今や地元の方から観光客までと幅広い層が訪れる場となっている。
どんなところなのだろうか、取材に行ってきた。

元ボイラー工場をリノベーションしたカフェ「Plantation」。1人客からカップル、子連れの主婦、シニア等、老若男女が集う元ボイラー工場をリノベーションしたカフェ「Plantation」。1人客からカップル、子連れの主婦、シニア等、老若男女が集う

札幌の有名なカフェが手がけるカフェ兼焙煎工場

「Plantation」を手掛けるのは、道内で13店舗を展開する「MORIHICO.(モリヒコ)」だ。
画一的な店舗ではなく、コーヒー&サムシングを軸に、店鋪それぞれ異なるコンセプトを持つため、内装や販売する商品なども異なるのが特徴だ。今や、市内のいたるところでMORIHICO.の名前を見かけるようになったが、なぜ、菊水の元工場をカフェにすることに至ったのだろうか。

MORIHICO.広報担当の水戸さんにお聞きした。
「まず、代表が『菊水』という地域を気に入っていたというのがあります。都会的な最低限のつき合いというよりかは、醤油の貸し借りがあるような、人の人情味がある部分に代表が惹かれたそうです。また、この建物の屋根裏部屋に一目惚れをしたと聞いています。」

そうして、当時築50年ほど経っていた200坪の元工場のリノベーションが始まり、2011年、直営3号店であるカフェ兼焙煎工場としてオープンした。設置された大きな焙煎窯では、MORIHICO.全店分のコーヒー焙煎をここで行なっている。客席から焙煎の風景を見ながら、煎りたてのコーヒーを楽しむことができる上、MORIHICO.の店舗では唯一本格的なランチを楽しむことができる。

Plantationの外観。工場時代の外観をそのまま残しているPlantationの外観。工場時代の外観をそのまま残している

元工場だからできる贅沢な空間使い

Plantationは、菊水駅から8分ほど歩くと見えてくるが、外観に「Plantation」という文字の看板は見受けられない。「coffee」の文字の入ったタープはあるが、「蔦が生えた大きな倉庫?」というのが率直な感想で、いわゆるカフェを想像して行くと、いい意味で裏切られるかもしれない。

建物正面の大きな扉は開放され、最初に大空間のエントランスに迎えられる。壁一面は焙煎を待つ生豆の入った麻袋で埋め尽くされ、運搬用の重機があり、まさに工場のようだ。さらに奥へ進むと、「Plantation」のサインをはじめて見つけることができる。そこがカフェの入り口だ。扉を開け中へ入ると、大きな焙煎釜と薪ストーブがコーヒーの香りとともに出迎えてくれる。奥にはキッチンとショップスペース。客席は大きなスチール階段を上がった2階だ。元工場だっただけあり、これだけのものがあっても、狭さを感じるどころか、その贅沢な空間使いに開放感すら覚えた。
店内は、テーブルやイス、小物に至る細部まで選び抜きこだわってつくられている。古いドアを利用してテーブルとして使っていたり、アンティークのイスや照明など古いものが工夫して使われている。もともとあったものなのか、新しくつくったものなのかがわからなくなってしまうほどに、すべてが空間に溶け込み、居心地の良さをつくっている。

左上:圧倒的なスケール感のエントランス、右上:2階の客席の様子、左下:客席からは焙煎の様子を見ながらコーヒーを楽しむことができる、右下:入り口に入って右手にある手洗いスペース。コンクリートの手洗い場は新しく誂えたものだが、前からあったかのような雰囲気を醸し出している左上:圧倒的なスケール感のエントランス、右上:2階の客席の様子、左下:客席からは焙煎の様子を見ながらコーヒーを楽しむことができる、右下:入り口に入って右手にある手洗いスペース。コンクリートの手洗い場は新しく誂えたものだが、前からあったかのような雰囲気を醸し出している

MORIHICO.の建物や空間へのこだわり

「建物に寄り添ってリノベーションをするように心がけています。経過した年月でしか出せないものの痕跡(エイジング)を大切にしていますね。」

客席に関わるところの断熱や壁などは直しているが、建物の魅力を大事にするためにできるだけそのままにすることを大切にしているという。やむを得ず新しいものを入れなければならない時は、素材へのこだわりを徹底している。

「新しいものを買ってくるよりも、建物に合わせて新しく誂えるか、古いものを集めてきたりしていますね。『この椅子はアフリカからきたんだぞ。』などと代表が椅子一つで熱く語れるほどのこだわりです」と水戸さんは笑う。

MORIHICO.の店舗づくりは、「建物」から始まることが多いそうだ。それは、1996年、札幌円山にある本店「森彦」がはじまった頃から変わらないという。

「素敵な木造の民家だなと思っていたところ、当時そこで暮らしていた年配のご夫婦が出ていくのを機に、代表の家族で改装してオープンしたのがはじまりです。」

まだ「リノベーション」という言葉が一般化していなかった頃だろう。

「代表は、今でも雰囲気のいい民家や空き地を見つけては、『ここ、いいと思ってるんだよ〜』とよく語っています。しかし、その夢のような話を本当に形にしてしまうところに、人の縁や巡り合わせなどを引き寄せる力を感じています。」

他の店舗をみても「コーヒー&サムシング(コーヒーに寄り添うもの)」を軸とした、コーヒーとアート、コーヒーと旅、などのコンセプトで展開されている。真新しいものを量産するのではなく、新しい発想を持って古いものの魅力を引き出す、ということだろう。

札幌円山にある森彦本店。古い木造民家を改装しており、外国人観光客も多く訪れるという札幌円山にある森彦本店。古い木造民家を改装しており、外国人観光客も多く訪れるという

茶室文化を引き継いだ、社交場

こだわりの空間を持つMORIHICO.だが、実は始まりは「茶室」なのだという。

「森彦本店が始まる前は、茶室だったんです。元々は、代表が千利休の茶の湯の精神に関心があり、そこでのおもてなしを『一期一会』とよく言っています。そういった精神を持った場所で社交場的なものを作りたいという思いからはじまってるんです。」

茶室からコーヒーと変化してはいるが、コーヒーを介して本当にMORIHICO.が提供したいものは、社交場なのだ。

「よく感度の高い人が集まって刺激しあえる場になれば、と言っています。人同士だったり、空間からも刺激があったり、互いに作用しあえる場になったらいいなと。そのために、なるべく本物にこだわって置くようにしています。」
これが、MORIHICO.が空間づくりにこだわる理由だ。

現在休止してはいるが、Plantationでは、年に2回マルシェも行なっていた。代表さんが一目惚れをしたという3階の屋根裏空間(フランス語でグルニエ)を会場に、近郊のクリエイターが一堂に会す「マルシェ・ドゥ・グルニエ」というイベントだ。クリエイターの集いの場として、クリエイターと客をつなぐ出会いの場として開催されていたそうだ。カフェとしての社交場だけではない、まさに一期一会の場がそこにはあったのではないだろうか。

「現在はグルニエがオフィスになったので、会場を見直している状況ですが、エントランスなどで規模を小さくして開催することも検討しています。」

コーヒーを軸に数々の社交場を作ってきたMORIHICO.。今後、ここにどんな人が集い、どんな一期一会が生まれるのだろうか、期待したい。

MORIHICO.  https://www.morihico.com

上:マルシェ・ドゥ・グルニエの様子。代表の市川さんが一目惚れしたという屋根裏空間。現在はオフィスとして使われている。下:水戸さん(左)とPlantationのスタッフの方上:マルシェ・ドゥ・グルニエの様子。代表の市川さんが一目惚れしたという屋根裏空間。現在はオフィスとして使われている。下:水戸さん(左)とPlantationのスタッフの方

2019年 01月24日 11時05分