減り続ける銭湯。ピーク時の9割減に
ケロリン、コーヒー牛乳、煙突、壁画と聞いて思い浮かべるものといえば「銭湯」。
銭湯とは公衆浴場のひとつで、風呂屋、湯屋(ゆや)とも呼ばれ、古くから日本人の疲れを癒し、まちの社交場としても機能してきた。
SNSでは銭湯好きな人たちの集いも見受けられ、一部では熱い支持を感じられるものの、利用者の減少、設備の老朽化や後継者問題により、銭湯の数は年々減少している。ピーク時(1964年、1968年)愛知県内に816軒あった銭湯は、現在84軒にまで減ってしまった。
愛知県公衆浴場業生活衛生同業組合が運営する「あいち銭湯資料館」(名古屋市中区)は、こうした廃業した銭湯から引き取った設備や小物を展示した施設。組合事務長を務める鈴木聡さんに館内を案内していただきながら、銭湯の今とこれからについて聞いてみた。
眠っていた廃品も貴重な資料に
JR鶴舞駅から徒歩10分ほどの場所にある組合事務所の2階にあるのが「あいち銭湯資料館」。2017年12月に組合創立60周年を記念して開館した。
階段を上り資料館に入ると「ゆ」の暖簾の奥に畳敷きの部屋が広がる。入り口すぐの場所にはレトロな番台が。
「この番台は昭和区の銭湯から譲り受けたものです。今はカウンターになっていますので、番台自体がもう珍しいんですよ」と鈴木さん。実はご自身も2017年まで銭湯を経営していたという。
「銭湯を廃業すると、倉庫やらいろいろなところから眠っていた石鹸とか、使われなくなった設備が出てきます。僕ら銭湯の当事者からすると、それはゴミでしかないんですけど、ほかの人からみたら価値あるものだったようです。
資料館の開館を提案したのは前事務長なのですが、銭湯とは関係のない職種の方だったので、こういったものがとても新鮮に映ったようで、ぜひ資料館を作ろうという流れになりました」
レトロ感満載のパッケージに包まれた石鹸、マニアにはたまらなくトキメク宝物なのではないだろうか。なかでも一番珍しいのは「ケロリン桶」の白。
「”白ケロリン”はレア物とのことで、来館者のマニアな方から、こんな無造作に置いておいたらダメだよ!と言われることもあります(笑)」
ほかにも湯かき棒とか、アルミ桶や、衣類をいれる藤カゴなど当時を知っている人には懐かしく、知らない世代には新鮮に映るようなものばかりが並んでいた。
ランナーズ銭湯、シールラリーなどで活路を
先述したように愛知県で銭湯を営んでいるのは現在84軒、名古屋市内だと64軒にまで減り、熱田区にいたっては2018年についに0軒となった。
「2017年に100軒を切ってから、ドッと廃業の流れが進みました。銭湯が廃業すると困って電話をかけてくる人もいるんです。近くにほかの銭湯はないのかって。特に一人暮らしの高齢者の方は、自宅にお風呂があっても掃除が大変だし、1人でお風呂に入っていて何かあったらという心配から銭湯を利用する方が多くいらっしゃいます。高齢者の方にとっては、銭湯が社交場でもあり見守りの場なんです」(鈴木さん)
食事処があったり岩盤浴ができるなど、さまざまなオプションがついたスーパー銭湯がレジャーであるのに対し、銭湯は“生活”だと鈴木さん。
生活に根付いた銭湯を残すため、組合でも試行錯誤を続け企画を考えてきたという。そのひとつが「ランナーズ銭湯」。荷物や着替えを置きたい、着替える場所がほしい、運動後に汗を流したい、そういうランナーのニーズに応えた企画だ。
入浴料440円(税込)のみで荷物をロッカーに預けて走りに行けて、ランニング後は広いお風呂へザブン!といけるのだ。愛知県内で実施しているのは33の銭湯。ナゴヤドーム近くや白川公園、瑞穂競技場近くの銭湯は特に人気があるそう。
また、3カ所の銭湯をめぐってシールを集めると賞品が当たる銭湯シールラリーや、風呂おけをモチーフにした公認キャラクター「おけお」のグッズで銭湯のPRを行っている。
絵本イベント、マルシェ、落語、ライブで集客を図る銭湯も
厳しい局面が続いているなか、面白い仕掛けで独自に集客を図る銭湯もある。
名古屋市東区の「平田(へいでん)温泉」では、落語や弾き語りライブ、マルシェなどを開催して話題となっている。4代目の八木宏庸(ひろのぶ)さんにお話を聞いた。
「お客さんがずいぶん減ってきていますからね。今まで受け身の商売をしてきましたが、このままじゃダメ。何かやらなくてはという危機感から、イベントを開催するようになりました」
2019年の夏休み期間には「パンダ湯」を企画。人気絵本「パンダ銭湯」をモチーフに、作家、出版社の協⼒を得て、湯船に浸かりながら絵本を眺められるようにした。また、脱衣所を会場にしたアート作品の展示や、落語、弾き語りライブも開催。過去に開催した「震災と銭湯展」では写真や資料を展示し、銭湯がある日常や銭湯が人々に与える力、存在意義を再考するきっかけづくりに励んできた。
「イベントをやれば珍しがってメディアで取り上げてもらえますが、正直、直接銭湯の集客につながるわけではないんですよね。それでも、地域の人にこんな場所に銭湯があったんだと知ってもらって、何かの機会に思い出して来てもらえたらと思ってやっています」
と想いを話してくれた。
生き残りのヒントは当事者以外からの視点!?
高度成長期に建てられた銭湯は耐用年数を消費。
「今後も銭湯は減り続ける」と、鈴木さんも八木さんも口を揃える。
江戸時代から庶民の憩いの場として賑わってきた銭湯の斜陽化は寂しい限り。
しかし、「銭湯当事者にとってはゴミ」だったものが別の視点からみると宝物―。「あいち銭湯資料館」がそういった場所ならば、銭湯自体も当事者以外からの視点を取り入れることで生き残るためのヒントが見えてくるのではないだろうか。
組合が不定期に開催する、銭湯経営者と銭湯ファンによる”湯る~い”交流会「あいち銭湯ファンの集い」では、「銭湯人材バンクの設立」というアイデアもあがっているという。こういった場所から銭湯の生き残りへの道が切り開けるのかもしれない。
愛知県の銭湯の入浴料は2019年8月時点で大人(中学生以上)440円、中人(小学生)150円、小人(小学生未満)70円。この料金で大きなお風呂につかってゆっくりと過ごすことができるならコスパもなかなかいいのでは。銭湯のよさを知らない世代にもぜひ体験してみてもらいたい。
【取材協力】
愛知県公衆浴場業生活衛生同業組合
https://aichi1010.jp/
平田温泉
https://www.facebook.com/heidenonsen/
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