寂しくなった中心市街地をなんとかしたい! 開業を支援する『トバエン』

2009年の鳥羽市の調査によると、1~4丁目の空き店舗は54軒。新しい調査結果はまだ出ていないが、『トバエン』によると空き店舗は年々増え続け、54軒を大きく上回っていると推定される2009年の鳥羽市の調査によると、1~4丁目の空き店舗は54軒。新しい調査結果はまだ出ていないが、『トバエン』によると空き店舗は年々増え続け、54軒を大きく上回っていると推定される

江戸時代から交易船が行きかう港町・鳥羽市。“風待ち港”と呼ばれ、読んで字のごとく、風を待つ間の船の退避港だった歴史があり、さまざまな文化が交錯し粋な要素がある。そのイメージにマッチした出店を促進し、粋な街並みを再構築しようという計画がスタートしているという。

先の伊勢志摩サミットでも注目され、外国人観光客が増えていることは周知のとおり。観光客をもてなす国際的な街として、全国12都市ある国際観光文化都市のひとつに認定されてる鳥羽市だが、人口の減少が悩みの種となっており、それを解決するため市役所に移住定住専門の窓口を設けるなど、取り組みが始まったばかり。その一方で開業を含めた移住を促進する動きについて今回はお届けしたいと思う。

市役所の移住定住担当は、いわゆる一般的な市民向けの窓口。それに対し、鳥羽での開業を含めた移住を促進するのが商工会議所のメンバーで構成された“鳥羽リノベーション委員会”、通称『トバエン』だ。活動エリアは、市が定めた中心市街地である鳥羽1丁目~4丁目。鳥羽駅周辺の商店街を中心としたエリアだ。
2014年から本格始動した『トバエン』の事務局でもあり、商工会議所経営指導員の吉川龍さんに、結成までの経緯を聞いてみた。

鳥羽で移住・定住・開業を考えている人と「縁」をつなぐ地域コンシェルジュ

中心市街地の空き店舗を調査して回る『トバエン』のメンバーたち。月に一度定例会を開き、街づくりについての方向性など議論しているという中心市街地の空き店舗を調査して回る『トバエン』のメンバーたち。月に一度定例会を開き、街づくりについての方向性など議論しているという

「鳥羽は伊勢神宮の恩恵もあり、参拝する人に足を運んでいただける場所。多くのお客さんが来てくれる場所だったのです。しかし、時代の流れもあり観光客が減り、旅館も減ってしまった。そうすると、夜、飲み歩く人も少なくなり、繁華街のお店も閉めてしまうところが増えてしまったんです。このままでは街が消えてしまう。何とかしなければと、商工会議所のメンバーで話し合い、もう一度鳥羽の魅力を伝えられる街づくりをしていこうという話になったのです。
商工会議所の中でも30代、40代の僕らがアクションを起こし、空き家、空き店舗を紹介したり、鳥羽のよさをたくさんの方に知ってもらい、街を活性化していきたいという思いで『トバエン』が発足しました」
と吉川さん。

ネーミングの由来はさまざまな「エン」。
家族のように「円」でつなぐ地元民との絆、生活を「宴」のように楽しく、人生の楽「園」を鳥羽で見つけてほしい、鳥羽で移住定住を考えている人にたくさんの出会いや「縁」がありますようにとの願いが込められている。

具体的な活動としては
○空き家・空き物件、住居情報の紹介
○開業・創業のサポート
○リノベーション支援
○補助金・助成金の紹介
○移住に関する相談

など、移住・開業に必要なことはほぼすべてサポートしている。まさに、地域のコンシェルジュだ。

子連れ移住も行政のバックアップで不安解消

実際に鳥羽に移住、カフェを開業した『MUSEA(ミュゼア)』の遠藤隆宏さんにお話を聞いてみた。
移住する前は、大阪や東京でアパレル、飲食、音楽関係の仕事をしていたという遠藤さん夫妻。子どもが大きくなる前に都会の喧騒から離れた生活をしたいと、鳥羽への移住を決めたそう。
物件探しは慎重に、時間をかけたというご主人。
「遠方で仕事をしながらでしたので、グーグルマップのストリートビューなんかを見ながら、時間をかけて探しました」。大好きな海の近くで、店舗兼住宅、駅が近いことといった条件をクリアできる場所が、今の物件だったという。
遠方からの移住の場合、現地の情報が入りにくい。そういった意味で、行政の空き家バンクや『トバエン』などのシステムが頼りともいえる。
遠藤さんの場合、そういった情報とともに旅行を兼ねて何度か鳥羽に足を運んでいたそう。
しかし、子連れでの移住は学校の問題や環境など、さまざまな面で不安はなかったのだろうか。
「子育てに関していうと、のびのびしていて本当にいい環境だと思います」と、奥様のミキさん。鳥羽市の定住応援事業と中心市街地空き店舗活用事業費補助金、中学3年生まで子どもの医療費無料と、行政からの手厚いバックアップがあったのも、移住の決め手となったようだ。

遠藤さんは、開業ののちに『トバエン』のメンバーとなり、自身の経験を踏まえて開業希望者へのアドバイスなどを手掛けているという。
「駅が近くて大阪や名古屋にも直結していて便利。適度な田舎暮らしがしたい人には最適だと思いますね」と遠藤さんが言うように、鳥羽は都会と田舎のちょうどいい具合の空気感を感じられる場所かもしれない。

『MUSEA』の遠藤さんご夫婦は音楽、アパレルに精通したご夫婦だけあって、店内にはDJブースがあったり、作家系アクセサリーも販売していたりと、とにかく洗練された雰囲気。写真左は住居兼店舗。築40年のRC物件をシンプルにリノベーションした『MUSEA』の遠藤さんご夫婦は音楽、アパレルに精通したご夫婦だけあって、店内にはDJブースがあったり、作家系アクセサリーも販売していたりと、とにかく洗練された雰囲気。写真左は住居兼店舗。築40年のRC物件をシンプルにリノベーションした

元ラーメン店がクレープcafe bar に! 「“普通の人”でもお店やれる」と証明したい

さて、次は昨年オープンしたクレープcafe bar『KILLIBILLI(キリビリ)』をご紹介しよう。

「鳥羽の街には食べ歩けるものがない。ちょっと変わっていて、それでいて食べ歩きに適したものはないか」と思いついたのが、クレープだったと話す、オーナーの坂田祐紀さん。大阪ナンバー1と言われている有名店へ出向き、レシピなどを考案したというクレープは、店内のカフェでも食べられて、包んでもらって食べ歩きもできる。

『KILLIBILLI』は、長年続いていたラーメン店をリノベーションして開業。
長年の油汚れが染みついた店内の掃除から、壁紙の張り替え、ペンキの塗り替えなど、できることは自分たちで手掛けたそう。
「不器用な男が必死でペンキ塗り替えしていると、近所の腕に覚えがある人たちや子どもが自然と手伝ってくれるんです。地域の人たちの手で作りあげたお店というのは、可愛がってもらえますよね」と坂田さん。

実は坂田さん、『トバエン』空き家対策部会の副委員長も務めている。他の人に鳥羽での開業を勧めるためには、まず自分自身が成功しなくては、という思いもあっての開業だったそう。「めちゃくちゃ貧しくはないけど、お金持ちでもない、そういった“普通の人”でもお店やれるんや、っていうのを証明したい」と話す坂田さん。開業を考える人にとって、やはり資金面は不安なところも多いだろう。坂田さんは開業までにかかった資金の明細をすべて「トバエン」のホームページで公開している。

「人口が減り、お客さんが減っても個人でまだがんばっている人もいる。でもそういった方たちはもう70歳くらいの方もいたり高齢化しています。世代交代ができればいいですけど、それもできずろうそくの火が消えてしまったお店が多いのが現実です」と坂田さん。『KILLIBILLI』しかり、こうした居抜き店舗が安く借りられることを商店街の財産としてアピールしたいというのが『トバエン』の狙いでもある。

『KILLIBILLI』のオーナーであり『トバエン』空き家対策部会の副委員長でもある坂田さん。自ら開業し実践してみる先駆者。写真右下は、持ち帰り用のクレープ。クレープ片手に街歩きを楽しみたいものだ。夜はBarスタイルで飲むこともでき、おかず系クレープも豊富『KILLIBILLI』のオーナーであり『トバエン』空き家対策部会の副委員長でもある坂田さん。自ら開業し実践してみる先駆者。写真右下は、持ち帰り用のクレープ。クレープ片手に街歩きを楽しみたいものだ。夜はBarスタイルで飲むこともでき、おかず系クレープも豊富

復活劇はこれから! まずは観光客に“選んでもらえる街づくり”を

『KILLIBILLI』の隣の空き家には、鳥羽市初のゲストハウス『かもめnb.』がオープン。オーナーの鼻谷年雄さんは、三重県津市から移住し開業した。『トバエン』を利用して空き家を探したわけではないが、開業するにあたってリノベーションの相談などで活用したという。「こういった田舎での開業は、地域とのつながりが大事。『トバエン』のみなさんにはそうしたご縁をつないでもらっています」と鼻谷さん。

前出の坂田さんはこれからの街づくりをこう話す。
「昔は、個人がそれぞれ得意なものを売り物にして、だんだん商店街ができていった。そこで子どもが生まれて学校ができて、コミュニティが形成された。もう一度、それをやってみようと思うんです。小さくて力のないお店でも個性があって面白いお店が集まれば『あれ?なんか鳥羽って面白そうじゃない?』って、観光客も増える。こんなお店がいくつもできたら雇用が生まれるし、開業・定住も可能になってくる。だから何よりもまず“選んでもらえる街づくり”が先だと思うんです」。行ってみたいと思える街になれば、観光客は増え、旅館も潤う。旅館が潤えば、周辺の飲食店、土産物店なども集客が増えると坂田さんは予測している。

昨年から、街を散策してもらうためのレンタサイクルをスタートさせ、今年の秋には、県外から飲食店、雑貨店などを呼び集めた『トバエン』後援のマルシェを開催する予定も。県外で個人店を開業している人に、鳥羽の魅力を知ってもらういい機会になりそうだ。

地方移住に関心がある人向けの総務省の相談窓口「移住・交流情報ガーデン」(東京)が集計した、移住したい地域は長野がトップ。2位は北海道、3位は山梨(2016年3月集計)。 長野や山梨は民間調査でも移住希望先として人気が高く、総務省は「首都圏に近く交通アクセスがいいことや、移住相談会に力を入れていることが影響した」と分析している。
鳥羽も名古屋や大阪まで直通で行けて、鳥羽市も移住定住係を設置し相談会など積極的に行っている。今回お伝えした『トバエン』の活動で、若い層にも受け入れてもらえるようなスタイリッシュな街づくりが実現すれば、人気の移住地になるかもしれない。

鳥羽の復活劇はまだ始まったばかり。どんなストーリーが展開されるのか…。
“風待ち港”に新しい風が吹くことに期待している。


◆取材協力・写真提供:トバエン(鳥羽リノベーション委員会)  http://toba-en.com/

海外での生活経験もありフリーランスでライターをしているという鼻谷さんは鳥羽の魅力を知り尽くした人でもある。「風情ある街並みは外国人にとっても魅力的。国内外を問わず鳥羽に遊びに来てほしい」と話していた海外での生活経験もありフリーランスでライターをしているという鼻谷さんは鳥羽の魅力を知り尽くした人でもある。「風情ある街並みは外国人にとっても魅力的。国内外を問わず鳥羽に遊びに来てほしい」と話していた

2016年 07月20日 11時02分