「戸建性能向上リノベーション実証プロジェクト」の目的と必要性
故障や老朽化、使い勝手の悪い部分を直し新しくするリフォーム、より快適に心地よい空間を生み出すことを目的としたリノベーション。厳格な定義はなく線引きも曖昧だが、リノベーションには、暮らしをよりよくする、という意味が含まれている。
都市部を中心に、マンションのリノベーションは多くみられ、施主のこだわりを反映した空間づくり、オリジナルなデザインの施工例も増えている。マンション購入を検討する消費者にとっては、希望する立地や条件などから、新築にこだわらず中古マンションを購入し、リノベーションによって好みの住まいに仕上げる、という選択肢も一般的になってきていると言えるだろう。デザイン性を得意とした、リノベーション専門の施工会社も多くみられるようになってきた。
しかし、戸建て住宅では状況が異なる。「マンションに比較すると、消費者の中でも、中古を購入しリノベーションする、ということが、まだまだ一般的な選択肢となっていないと感じています」と話すのは、YKK APリノベーション本部営業統括部営業企画部長の米山浩志さん。
「消費者から中古の戸建て住宅が敬遠される理由のひとつは、建物は大丈夫なのだろうか、という不安があるから。しかし、施工次第で新築と変わらない、もしくは新築以上の性能を確保することも可能なのです。性能への不安を払拭できないのに、デザインだけこだわっても根本的な解決にはならないと思っています」(米山さん)。
潜在的なニーズがあるはずの戸建て住宅のリノベーション。建材メーカーであるYKK APが「断熱」や「耐震」を軸として、その可能性を検討しているのが「戸建性能向上リノベーション実証プロジェクト」だ。
2017年度改修案件以降、全国各地に6物件。地域性を考慮した性能を付加
「このプロジェクトは、全国各地の工務店やリフォーム施工会社の方々と連携して行っているものです」とYKK APリノベーション本部営業企画部販売促進課課長の松倉優貴さん(所属は取材当時)は話す。
「地域の施工会社さんは、水まわりを取り替えるような部位交換のリフォームが主で、リノベーションの方法や提案手法も含め、分からないというケースが多い。ビジネス的に可能なのか、という不安も感じています。そこで、地域の施工会社さんとのコラボレーションによって、地域に適した実際のリノベーションモデルをつくり、ノウハウを提供することで、その可能性を理解してもらうことも目的としています」(松倉さん)。
2017年度に2物件、2018年度に4物件着工。それぞれ、地域性を取り入れたモデルケースとなっている。
これらの物件は、プロユーザーを対象に、コンセプトハウスとして、施工後だけでなく構造見学会、断熱性能を確認するため冬場に見学会なども実施。その性能を体感するとともに、ノウハウの提供や情報発信に利用される。地域によっては、数百名の見学者が訪れたというモデルもあるという。
吹き抜けのある物件(神戸)や地域性を取り入れた物件(福岡)も
2019年に竣工した、「神戸 六甲の家」と「福岡 橋本の家」をみていく。
「神戸 六甲の家」は、神戸市の眺望のよい住宅街にある築37年の木造住宅をリノベーションしたもの。KIMURA-GRITグループ(神戸市)とのプロジェクトだ。
吹き抜けのある大空間を新たに設けたプランながらも、壁・天井・基礎の断熱強化はもとより、高い断熱性能を持つ真空トリプルガラス仕様の樹脂窓などに交換することで、住宅の断熱性能が改修前の5倍以上に向上、年間の冷暖房費も約6割削減可能に。耐震性能は、開口部耐震商品を使用することなどで、震度6強の地震でも倒壊しない耐震等級3相当の強度に高められている。コンセプトハウスとして事業者向けに公開後、施主入居後もエネルギー収支や光熱費の定点観測など、性能向上リノベーションの実証を行う予定という。
「福岡 橋本の家」は、福岡市の中心部に近い住宅街に立つ築36年の木造住宅。健康住宅(福岡市)と協同した物件だ。
断熱改修では、壁・天井・基礎の断熱を強化、窓はアルミサッシ+単板ガラス窓から、トリプルガラス樹脂窓に交換することで、住宅全体の断熱性や省エネ性がアップ。断熱性能が改修前の4倍以上、年間冷暖房費も約5割削減が可能とか。また、耐震性能は、開口部耐震商品を使用することなどで、震度6強の地震でも倒壊しない耐震等級3相当の強度に。また、構造材や仕上げ材には、福岡県産材など九州の素材を用いるなど、地域性も取り入れた住まいとなっている。
断熱性には窓などの開口部、耐震性には壁量が重要
このプロジェクトでは、いずれも窓・開口部のプランニングが重要なポイントとなっている。
断熱性能を高める建材として効果的なのが樹脂製の窓。窓フレームの素材には、馴染みのあるアルミ、樹脂、木製、異なる素材(アルミ+樹脂など)を組み合わせた複合構造がある。断熱性能を重視した場合に用いられているのが樹脂窓。主な材料は、塩化ビニール樹脂で、熱伝導率が低く、断熱性に優れる特徴を持つ。寒冷地(北海道や東北地方など)での使用されるケースが多くみられるが、最近では、全国的に取り入れられる傾向にあるという。
加えて、性能に大きく影響するのがフレームに組み込まれるガラス。最近では、スペーサーと呼ばれる部材で2枚または3枚の板ガラスの間に中空層を持たせ、乾燥した空気やガスを挟み込むことで断熱性を高めた複層ガラスやトリプルガラスが多く用いられている。結露しにくく、冷暖房エネルギ―の消費を抑えることができるので、省エネ効果があるのが特徴だ。今回のプロジェクトでも、これら樹脂フレームと複層ガラスやトリプルガラスを組み合わせることで、高い断熱性能を実現し、快適性と省エネ性を高めている。
また、耐震性を高めるには、窓を少なくし、壁量を増やす方法があるが、このプロジェクトでは開口部を活かしながら耐震性能を向上する方法をとっている。間取りプランに適した耐力壁を配するとともに、開口部耐震商品などを使用することで、既存の開口部を活かしながら耐震性を確保することが可能になった。
新築にこだわらず、中古住宅を購入しリノベーションすることも選択肢に
米山さんは、「新築戸建てを求める一次取得の方の場合、資金的に厳しいケースも多いため、まず、土地を見つけるのが難しいのが現状と思われます。例えば、共働きだから駅近くがいい、子どもの学区を変えたくないなどを希望すれば、土地探しには限界がある。新築にこだわらず、中古住宅を購入しリノベーションをする、という選択肢を加えることで、全体としての選択肢も広がるのではないでしょうか」。
快適に心地よく、安心して暮らすためには、建物本体の性能が重要であることは言うまでもない。しかし、建築物の性能の良し悪しは、消費者にとって専門的で分かりにくく、また、目に見えないため、施工会社に任せてしまうケースも多くみられる。特に一戸建ての場合は、個々の条件が異なるため、消費者だけでなく施工会社にとっても難しい面も多い。
性能に関わる商材を持つ建材メーカーと、地域に根ざした施工会社が共同し、性能を向上するためのリノベーションのノウハウを公開、情報発信をすることは、戸建てのリノベーションの広がりを一歩進めるひとつの方法かもしれない。
新築需要が厳しくなる中、施工会社にとって、新築と同程度のボリュームが期待できるビジネスモデルは性能向上を含めたリノベーションということになる。このプロジェクトを通じて、新築とリノベーションの両方について提案でき、性能に対する消費者の不安に的確に応えることができる施工会社が増えることを期待したい。
■取材協力
YKK AP https://www.ykkap.co.jp/
公開日:
![[神戸 六甲の家] 2019年4月改修竣工 (上)外観after(下)外観before](http://lifull-homes-press.s3.ap-northeast-1.amazonaws.com/uploads/press/2019/07/kobe001-300x400.jpg)
![[福岡 橋本の家] 2019年5月改修竣工 (上)外観after (下)外観before](http://lifull-homes-press.s3.ap-northeast-1.amazonaws.com/uploads/press/2019/07/fukuoka001-300x400.jpg)
内観after (下)内観before](http://lifull-homes-press.s3.ap-northeast-1.amazonaws.com/uploads/press/2019/07/kobe002-300x400.jpg)
![[神戸 六甲の家] 設置された建材(上左)高性能樹脂窓「APW 330 真空トリプルガラス」 (上右)耐震フレーム+窓「FRAMEII 」
(下左)UA値と冬季室温シミュレーション比較 (下右)冷暖房費シミュレーション比較](http://lifull-homes-press.s3.ap-northeast-1.amazonaws.com/uploads/press/2019/07/deta0.jpg)
内観・リビング (下)内観・子ども部屋](http://lifull-homes-press.s3.ap-northeast-1.amazonaws.com/uploads/press/2019/07/fukuoka002-300x400.jpg)


