住宅の省エネ化が待ったなしで注目される「ZEH」

住宅のチラシ広告や雑誌で、「ZEH(ゼッチ)」という横文字を目にする機会が増えてきた。年間の消費エネルギー収支をゼロにする高性能住宅のことで、正式には「ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス」という。外皮の断熱性能を大きく向上させ、設備・システムを効率化し、室内環境を維持しながら大幅な省エネを達成。あわせて再生可能エネルギーを導入し、年間のエネルギー消費量が正味で相殺できる、環境フレンドリーな住まいだ。エネルギーを上手に使い極力消費を減らし、自ら生み出すイメージだ。

政府が2018年7月に閣議決定した「第5次エネルギー基本計画」では、「2020年までにハウスメーカー等が新築する注文戸建て住宅の半数以上で、2030年までに新築住宅(集合住宅を含む)の平均でZEHの実現を目指す」と明記されており、国も推進に本腰を入れている。普及に向けて経済産業省、環境省、国土交通省の3省は連携して補助事業を展開しており、2019年3月6日には札幌市で事業者向けの3省合同説明会が開かれた。その模様をお伝えする。

ZEHの普及促進に向けた政策動向が紹介された3省合同の説明会ZEHの普及促進に向けた政策動向が紹介された3省合同の説明会

ZEHシリーズの普及率は2017年度で15%

ZEHの普及状況などが説明された経済産業省の資料ZEHの普及状況などが説明された経済産業省の資料

経産省資源エネルギー庁の担当者は、2030年度までに5,030万キロリットル(原油換算)を削減する国の施策である「長期エネルギー需給見通し」を達成するために、家庭部門で1,160万キロリットルの削減が求められていて、ZEHをはじめとする住宅の省エネ化が待ったなしになっていることを説明。事業部門では、省エネ化を進めることでコストを下げるインセンティブが働くものの、家庭部門では、照明やエアコンの使用制限など、生活にしわ寄せが生じかねない。このため担当者は、「我慢を強いる前に、もし新築を検討しているならなるべく省エネ性能の高い家を建ててもらい、暮らしの中のストレスを少しでも取り除くことができないかという思いも詰まっている」と狙いを説明した。

「ZEH」と一口に言っても、性能や建築条件によってさまざまなタイプがある。

再生エネルギーの創出分を含めて正味で100%以上の省エネを達成しているものは「ZEH」。これが75%以上の省エネなら「Nearly ZEH」となり、経産省ではこの2つをまとめて「ZEHシリーズ」と呼んでいる。

経産省によると、新築注文住宅についての「ZEHシリーズ」の2017年度実績は約43,000戸で、持ち家の注文住宅(約28万戸)に占める割合は15%だった。ただ施主にとってZEHの知名度はまだ低いとみられ、担当者は、施主の7%しか知らないという民間の調査結果も紹介。「住宅サイトの中でZEHという言葉がたくさん出てくるようになれば、普及が一段と進むと考えている」と伝えた。

2020年度までにZEHシリーズの割合を50%以上とする目標を定める住宅関連の事業者が登録する「ZEHビルダー・プランナー」は7,000社近くの登録があるが、2018年10月末の時点でZEH普及実績50%以上を達成しているのは全体の8.1%にとどまり、実績0%が57.1%と過半数となっている。担当者は普及目標を達成した事業者への聞き取り結果も示し、「ZEH仕様の商品の設定や、モデルハウスの建設などが達成できた理由の一つに挙げられている。国は1つのきっかけとして補助金を出しているが、これらの理由を参考にしてもらい、営業活動に役立ててほしい」と呼びかけた。

地域別に普及率をみると、雪が多く日射量の少ない地域で少なくなっている。新築注文一戸建てに占めるZEH補助金の交付決定数は北海道と青森・岩手・宮城・秋田・島根の各県で1~2%ほど、新潟・富山の各県で2%ほど。雪下ろしをしないですむ無落雪屋根の住宅では太陽光パネルの耐荷重に制限があり、2019年度以降はこの問題への対応も検討するという。

一般社団法人「環境共創イニシアチブ」の調査(2018年)によると、ZEHの平均的なエネルギーコスト収支は、年間の売電額がエネルギー購入費を上回ってプラスになっている。ただ、経産省によると再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)での売電価格が低下傾向にあるため、担当者は「自家消費の割合を増やし、電力会社から買わなくてすむメリットを訴求しないと、消費者にとって、太陽光発電を導入しようという機運が高まらないのではないか」と懸念を示した。

集合住宅にも広がるZEH

環境省の担当者が示した、2019年度の補助事業案の概要環境省の担当者が示した、2019年度の補助事業案の概要

経産省は2018年度、性能をさらに高めた「ZEH+」の実証事業を新たに始めた。「+」は、電気自動車への充電設備の導入などにより太陽光発電の自家消費率を引き上げ、FITからの自立を目指すもの。同年度の補助金額は「ZEH」が一戸当たり70万円に対して「+」は115万円に引き上げられ、ZEHビルダー・プランナーの405社から22,036件の応募があり、最終的に1,956件を採択した。都市部の狭小地で、十分な屋根面積がなく太陽光パネルを置きにくい住宅を対象にした「ZEH Oriented」も新たに定義された。

経産省は2030年の施策目標達成に向けて、戸建て以外でもZEHの普及を図ろうと、集合住宅(分譲・賃貸)版の「ZEH‐M」も誕生させた。棟全体で正味100%の省エネができる「ZEH‐M」を筆頭に、同75%以上の「Nearly ZEH‐M」、同50%以上の「ZEH‐M Ready」、同20%以上の「ZEH‐M Oriented」と細分化した。2018年度の「高層ZEH‐M実証事業」に採択された事例では札幌市内の賃貸物件もあった。担当者は「賃貸住宅なら家賃にどう反映させるか、イニシャルコストがかかることに対して入居者の理解を得られるのか、という課題もある。戸建て以上に、どれだけ光熱費を削減できるのか表示する必要があるのかもしれない」と話した。

一方、国土交通省住宅局の担当者は、同省の補助金を活用した2017年度実績で、全体の1,356戸のうち80%が施工実績の少ない工務店が供給したことを紹介。「ZEHの経験を積んでいる事業者の裾野が広がっているものと考えている」と見方を示した。

またZEHをまちづくりに応用した例として、大阪府の分譲モデルタウン「SMA×ECO(スマ・エコ) TOWN晴美台」を紹介。太陽光発電システムと蓄電設備を充実させ、集会所や防犯灯など共用部のエネルギーは自給自足できるようにし、停電時には集会所に電力を供給できるよう整備した。2015年度の年間データでは、モデルタウンのうち約92%の住宅がZEH基準を達成し、生み出したエネルギー量をエネルギー消費量で割ったZEH率は平均で約125%だったという。

2019年度も充実が進む補助事業

ZEH普及に向けた3省の2019年度事業をまとめたパンフレットZEH普及に向けた3省の2019年度事業をまとめたパンフレット

2019年度は経産省と環境省が施主(注文住宅)や購入者(建て売り)へ、国交省が事業者へそれぞれ補助し、各々の立場でZEHの普及を後押しする。合同説明会では、具体的に予定されている支援メニューが紹介された。

経産省は、より高性能な「ZEH+」の建築を促進し、2018年度と同様に公募する見込み。集合住宅では、超高層(21層以上)を支援する。新たな取組みとしては、2018年の胆振東部地震や関西の大規模停電を受けて、「ZEHを活用したレジリエンス強化事業費補助金」を設ける。停電した場合に普段とほぼ変わらない生活を送るため、蓄電システムや太陽熱利用システムを導入するものを対象とする。1,100戸程度の採択を予定している。

環境省は、一戸建て住宅のほか、低層(1~3層)・中層(4~5層)・高層(6~20層)の集合住宅を補助対象にする。一戸建てZEHでは採択方式が変更される。2018年度は先着順だったが、公平を期すため一定期間の公募を行った後、抽選をへて交付決定される。またZEHを造った実績のない新規ビルダーの取組みを促そうと、予算を超える申請がある場合は「予約枠」を設けて申請できるようにする。

国土交通省は地域の中小工務店などが連携して建てるZEHについて、ZEHの施工経験が少ない事業者を優遇する。ZEHの基準を満たし、建設前から廃棄に至るまでの長期間でCO2収支をマイナスにするなど、一定の要件を満たした「LCCM(ライフ・サイクル・カーボン・マイナス)住宅」への補助も継続する。

2019年 05月16日 11時05分