名鉄瀬戸線高架下に誕生した「SAKUMACHI商店街」

名古屋の繁華街の一つ、栄エリアと愛知県瀬戸市を結ぶ名鉄瀬戸線。栄エリアの起点となる栄町駅から3つ目の尼ケ坂(あまがさか)という駅の高架下に、カフェなど7店舗が入居する商業施設「SAKUMACHI商店街」が2019年3月29日にオープンした。

この施設は、名古屋に本社を構える大手私鉄、名古屋鉄道株式会社が手掛けた。今回オープンしたのはⅠ期エリアで、全体では、栄町駅から2つ目の清水駅と3つ目の尼ケ坂駅間の高架下開発となる。

名称は、桜並木の続く立地に由来し、明るくにぎわいのあふれるまちの商店街のような交流拠点でありたいという思いを込めた“花咲くまちの商店街”を意味する。

オープンした時期は、桜が満開を迎えようというとき。名古屋市内に誕生する注目施設として、多くの報道機関でニュースとなり、実際に大勢の客でにぎわいを見せた。

名古屋鉄道が高架下においてまちづくりに焦点を当てた初の取り組みになった施設について、不動産事業本部開発部の後藤俊幸さんと矢野雄輝さんに伺った。

桜が美しく咲き誇るなかでオープンした「SAKUMACHI商店街」桜が美しく咲き誇るなかでオープンした「SAKUMACHI商店街」

鉄道会社として、沿線のまちの魅力を盛り上げたい

名古屋鉄道株式会社 不動産事業本部開発部の後藤俊幸さん(右)と矢野雄輝さん(左)名古屋鉄道株式会社 不動産事業本部開発部の後藤俊幸さん(右)と矢野雄輝さん(左)

観光スポットなどは近くになく、駅の利用者は、近隣に住む人や、学校に通う学生が中心。2つの駅の乗降客数は決して多くない。

開発のきっかけについて、後藤さんはこう語る。「鉄道会社として、沿線に広がる地域の魅力を高めていくことが必要だと考えています。これまで、乗降客数の多い駅ナカや駅前の開発として、商業施設や賃貸マンションの開発を行ってきましたが、それと合わせて、今回は視点を移し、まち全体の魅力を高めるまちづくりの取り組みを初めてやっていこうとなったのです」。

高架下を前提にしていたわけではなかったが、「名古屋でも有数な住宅エリアである白壁地区に近く、桜並木の続く環境の良い場所なので、10年以上前から何か活用できないかと注目はしていました」と、今回のエリア選定の理由の一つをあげた。

実は、筆者はこの地域に住んでいたことがあり、尼ケ坂駅を最寄り駅として利用していた。栄まで5分というアクセスの便利さと、閑静な住宅街という雰囲気で、住み心地はとてもよかった。だが、当時、すぐ近くにコンビニや飲食店があまりなかったのは、少し残念に思っていたので、今回の「SAKUMACHI商店街」の誕生でまず感じたのは、地域の人々にとっての利便性の向上だった。

コンセプトは「あたらしいまちの景色を、高架下から」。駅間をつなぐことで、まちに更なる一体感を出し、にぎわいを生み出すことを目指した。

安心して暮らせるまちという視点も取り入れた

上/閑静な住宅街に、新たな明かりをともす「SAKUMACHI商店街」。下/店舗前にはベンチを設置。店舗利用者だけでなく、憩いの空間として、ここを訪れた人がひと休みできるようにと設けた上/閑静な住宅街に、新たな明かりをともす「SAKUMACHI商店街」。下/店舗前にはベンチを設置。店舗利用者だけでなく、憩いの空間として、ここを訪れた人がひと休みできるようにと設けた

「弊社の沿線は愛知、岐阜と広く地域に根差しており、当然ながら鉄道会社のため、電車をご利用いただくこととの相乗効果を念頭に開発を進めています。
今回開発したSAKUMACHI商店街では、地域にお住まいの方を対象としており、生活シーンやご利用シーンをイメージして企画を進めました」と後藤さん。

今回の施設ができる前は月極駐車場として利用されていた。それを商業施設に生まれ変わらせるにあたり、住民との話し合いも定期的に行ったという。

清水駅と尼ケ坂駅の駅間の距離はおよそ500m。来春を予定しているⅡ期エリアを含め「歩くのにちょうどいい距離ですので、どちらかの駅で降りていただき、自然と歩いて回って楽しんでいただけるような施設づくりを意識しています」。回遊性のよさも活性化の大切なポイントだ。

また、「にぎわいの面とともに、安心して暮らせるまちといったところも盛り込みました」と後藤さんは言う。

閑静な住宅街という一面から、夜はとても静か。筆者も、女性1人で歩くには静かすぎる、と感じたこともあった。そんな中で、この商業施設に入る店舗は22時までオープンしているところもある。さらに、同社が新たに照明を配置した。

「太陽がかげる夕方から暗くなってもお店の前を歩いてみたいなと思ってもらえる雰囲気にしました」。

地元で活躍する店舗、企業の新店が集結

Ⅰ期エリアのテナント選定は、「まちづくりという視点から、一緒になってまちを盛り上げていこうという思いを持った方に集まっていただきたく、地元で活躍されている方にお声がけしました」。

名古屋で飲食業を展開する企業の新業態店で食パン専門店&カフェの「つばめパン&Milk」、パフェの名店として知られるカフェの3号店「カフェドリオンパレット」、駄菓子店「OKASHItabetai-おかしたべたい-」、無添加にこだわったおはぎが看板メニューの「OHAGI3」、弁当や惣菜を販売する「デリカキッチン」。そして、保育所と学童保育施設で構成されている。

日々利用したい店がバラエティ豊かにそろった印象を受ける。「Ⅰ期エリアは日常的に、周辺にお住まいの方が主に利用してくださるようなお店が並びました。来春オープンを目指すⅡ期エリアはまだ明確に決まっていませんが、遠方のお客様にも遊びに来ていただけるようなお店を検討しています」。

店舗の外観と内観デザインは、名古屋で店舗や住宅のリノベーションなどを手掛けるデザイン会社「エイトデザイン」が担当。まちに彩りが出るよう、各店の外壁はそれぞれ違う色を配色した。

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今後についても「今回の尼ケ坂のような、これまでの駅前、駅ナカとは違った場所でも、地域の特長を活かした開発を、引き続き進めて行きたい」と矢野さんは話す。

同社の手掛ける商業施設についての資料には、「地域ナンバーワンのまちづくり会社に」という言葉があった。愛知、岐阜と広く路線がまたがる鉄道会社ならではの可能性はまだまだあるだろう。新たな視点を取り入れた「SAKUMACHI商店街」のⅡ期エリアのオープンも楽しみにしつつ、今後のまちの盛り上げに期待していきたい。


取材協力:名古屋鉄道株式会社 https://top.meitetsu.co.jp/

SAKUMACHI商店街 https://sakumachi-syoutengai.jp/

左上/名鉄瀬戸線尼ケ坂駅。左下/2020年春のオープンを目指す「SAKUMACHI商店街」第Ⅱ期エリアの清水駅寄りの高架下。右上/「SAKUMACHI商店街」の店舗デザインは、「複数色の外壁を用いて彩りを加えることで、高架下に新しいまちのにぎわいが生まれること」をイメージしたという。右下/店舗ごとにさまざまな色が使われた外壁が、まちの景観を新しいものに左上/名鉄瀬戸線尼ケ坂駅。左下/2020年春のオープンを目指す「SAKUMACHI商店街」第Ⅱ期エリアの清水駅寄りの高架下。右上/「SAKUMACHI商店街」の店舗デザインは、「複数色の外壁を用いて彩りを加えることで、高架下に新しいまちのにぎわいが生まれること」をイメージしたという。右下/店舗ごとにさまざまな色が使われた外壁が、まちの景観を新しいものに

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