賃貸住宅に住む世帯割合が欧州で最も高いドイツ

ドイツは賃貸住宅に住む世帯の割合が58%(2018年、統計・データ市場研究機関のスタティスタ調べ) と欧州で最も高い。ドイツの経済誌「キャピタル」によると、ドイツ人の3分の1が「持ち家のためにほかのことを犠牲にするのは嫌だ」と考え、「家を持つと自由でなくなる」と考えている人は、不動産を持たない40歳以下の44%に上るという。

そんなドイツ人にとって親しみ深い賃貸住宅をめぐり、今さまざまな動きが出てきている。最新の動向を紹介する。

ドイツ ベルリンの景色ドイツ ベルリンの景色

礼金なし、改装自由の賃貸住宅に家賃高騰の波

ドイツの賃貸住宅は、礼金はなく、基本的に無期限契約となるので契約更新料もない。退去のときには入居時と同じ状態で返すことが条件だが、自由に改装でき、ペットも飼育できる。古い建物に賃貸で入居する場合は、壁塗りや床の張り替えなどを自分で行うため家賃が安く、戦後に建てられた社会的弱者用アパートに長い間住んでいた人も少なくない。最近では、長く住んでいる人が退去すると、バスルームや暖房設備を新しくする家主も多く、その場合家賃が他の部屋より高くなる傾向がある。私の住む北ドイツのハノーファーの集合住宅は1900年代初頭に建てられたもので、現在10世帯が住んでいる。私は13年前から住んでいるが、3年前に入居した人は私より2割ほど家賃が高い。

ここ数年、ドイツでは古い建物に人気が集まっている。ベルリンでは、ベルリンの壁崩壊(1989年)後、ボロボロの旧東ドイツの建物に安く住めたのだが、現在、古い建物はノスタルジックな外観と近代的な内装が相まって人気が急上昇。観光客はもちろん、国内外から住みたい人がやってくる。そのため家賃が上がり、アーティストや学生、また経済的弱者など以前からの住民が住み続けることが難しくなっている。スタティスタによるとベルリンにおける2019年第一四半期の家賃は前年比1.5%上がり、連動する形で持ち家の価格も12%上がっている。このような賃貸住宅の家賃の値上げ傾向も相まって、今ドイツでは住宅に関して大きく2つの動きが出てきている。

人気が高まっている昔ながらの賃貸住宅 © Riho Taguchi人気が高まっている昔ながらの賃貸住宅 © Riho Taguchi

不動産会社が開発に力を入れる「古くて新しい分譲住宅」

1つ目が、安い賃貸住宅を改装して分譲マンションとして販売する「古くて新しい分譲住宅」の動きだ。築100年余りの古いレンガ造りの建物でも、内部を改装するだけでよく、新築に比べてコストも安いため不動産会社が開発に力を入れている。戦前に建てられた建物だけあって、効率一辺倒でなく全体にゆとりがあり、住み心地がよい。建物外観の彫刻や木の階段、中庭には緑があり、椅子を置いて住民がくつろぐスペースがあったりする。多くの物件が都市部の一等地にあるため、都市部に家を持ちたいという層向けに人気を集めている。都市部中心地はそもそも新築のためのスペースが限られており、住むとなると賃貸か中古の改装住宅を購入となる。しかし中古といっても日本の中古住宅とはまったく違い、場所によっては新築より人気が出るほど価値がある。石造りで数百年持つため、まさに資産となるのだ。

2つ目は、経済的に余裕がある人たちの間で賃貸住宅から持ち家という流れが加速していることだ。小さな子どものいる若いファミリー向けに、郊外に新興住宅地の開発が増えている。ドイツではレンガや石造りが主流なため、きちんとした家やアパートを買うと、子や孫の世代も十分使える。もちろん時代に合わせて内部を改装する必要は出てくるだろう。しかし、日本のように20年、30年後に建て替える必要はなく資産となる。ドイツで最も視聴されているニュース番組「ターゲスシャウ」によると、賃貸住宅派が多かったドイツで持ち家が増えている背景には、家賃の高騰とともに、住宅ローン金利が低いうちに家を買いたいと考えている人が多いことも要因だと伝えている。1998年40.9%だった持ち家率は、2006年は41.6%、2018年には46.5%(いずれも連邦統計庁)と増加傾向にある。

古い建物は共同スペースの廊下もゆったりとし、昔のままの鮮やかなタイルが使われているところもある © Riho Taguchi古い建物は共同スペースの廊下もゆったりとし、昔のままの鮮やかなタイルが使われているところもある © Riho Taguchi

退去攻勢に翻弄される賃貸住宅の生活者をどう守るのか

このように「住」のスタイルが変化しつつあるドイツでは、一部で賃貸住宅の生活者を脅かすような状況も生まれている。その一つが、既に紹介した「古くて新しい分譲住宅」に関わる問題。改築予定の賃貸住宅の住人を、あの手この手を使って追い出すということが社会問題になっている。ドイツでは家賃の値上げが法律で年間最大15%までと決まっているが、その値上げを毎年のように行ったり、ベランダの新規設置やバスルームを改修するなどして家賃を引き上げ、住民が経済的に住めないような状況に追い込むのだ。これに対して各地で反対運動が起きている。

このような状況は適切な家賃の賃貸住宅を増やす政策を掲げる政府にとっても看過できない事態となっている。ドイツには2015年から家賃値上げを規制する法律があるが、2020年2月にその法律を2025年まで延長することを決めた。「家賃はその地域の標準的な額の10%を超えてはいけない」というもので、過度に支払った分は、30ヶ月さかのぼって返金を要求できるとしている。一方、地方政府・住民も本格的な対策に乗り出している。例えば、一部の地域で家賃の値上がりが顕著なベルリンでは「2019年6月時点の家賃を5年間は据え置きとする」とする条例を市が制定した。ドイツで一番家賃が高いミュンヘンを州都に抱えるバイエルン州でも、住民が署名を集めて「6年間家賃を据え置きにする条例」の制定を求めている。

堅牢で瀟洒な建物に手頃な家賃で住み続けられることを前提に、多くの人がワーク・ライフ・バランスを整えてきたドイツ。ライフスタイルや環境の変化は、今その根底となる賃貸住宅のあり方を大きく変えようとしている。住宅ビジネスの成長を阻害することなく「いかに快適な住居を市民に行き渡らせるようにするか」。難しいかじ取りが今、政府に求められている。

右半分は改装して分譲住宅に、左半分は改装工事中の古い建物       © Riho Taguchi右半分は改装して分譲住宅に、左半分は改装工事中の古い建物      © Riho Taguchi

2021年 01月03日 11時00分