ご縁が生まれる交流施設

瀬戸内海に浮かぶ広島県の江田島へは、広島市からフェリーで約30分、または、呉市から車で橋を渡っても行ける。その江田島の西側、沖美町というエリアに「フウド(風海土)」という交流を目的とした複合施設が2018年からスタートしている。地域の住人同士の交流や、移住間もない人たちのネットワークづくりなど、ここの「場」が媒介し人の縁を結んでいる。建物は、瀬戸内海の美しい夕日を望む丘にあり、華やかな外観が特徴だ。

立ち上げに携わった後藤峻さんは、2016年に地域おこし協力隊として、移住促進を目的にこの島に赴任。もともとは広島市で育ったが、大学進学とともに首都圏へ出て、社会人生活の後、いわゆる「Jターン」してきた。島暮らしをしたかったので、江田島を選んだそうだ。江田島での様々な出会いを経て2019年の春に任期を終え、現在は一般社団法人フウドの代表理事として移住促進支援、そしてスタンドアップパドルというスポーツのインストラクターをするなど、島を盛り上げるべく様々な活動をしている。
そんな後藤さんに、江田島のことや、この施設についてうかがった。

瀬戸内海に面したフウドは、崖地にあり景観が素晴らしい。特徴的な外壁は、インパクトを持たせたいと考えた後藤さんが、島の若いアーティストにお願いしたそうだ。近所のおじいさん、おばあさんたちからは、「派手なお菓子のようだね」と言われた瀬戸内海に面したフウドは、崖地にあり景観が素晴らしい。特徴的な外壁は、インパクトを持たせたいと考えた後藤さんが、島の若いアーティストにお願いしたそうだ。近所のおじいさん、おばあさんたちからは、「派手なお菓子のようだね」と言われた

施設名の意味するところは?

上:1階の移住促進の窓口では、ゆっくりとコーヒーを飲みながら相談にのってもらえる/下:1階の受付カウンターは、手作り感があり親しみやすい印象だ上:1階の移住促進の窓口では、ゆっくりとコーヒーを飲みながら相談にのってもらえる/下:1階の受付カウンターは、手作り感があり親しみやすい印象だ

施設名の「風海土(フウド)」は、「風が海を渡ってきて、島の土と交わる」ことをイメージしたそうだ。その交わりによって、化学反応が起き、地域が面白くなることを願って名付けられた。

江田島の魅力は、瀬戸内海の景色もさることながら、そこに暮らす人々でもある、と後藤さん。
「2016年4月に江田島市に移住して、いろんな方々と会ってお話をしてきて感じたことは、想像していた以上に江田島市には面白い人がたくさんいることでした」。

この人たちの魅力を外の人に紹介できれば、単なる物見遊山の観光ではなく、人に会うことを目的とした来訪者が増え、人と人の縁ができることでより深い交流が生まれるのではないか、と後藤さんは考えた。一方、面白い活動をしている人たちは、意外と互いを知らないことにも気づき、情報発信メディアとして「江田島人物図鑑」というWebサイトと冊子を自らつくった。そして、その「面白い人」たちにリアルに出会える場として、フウドをつくったのだ。

フウドは地域の交流の場であると同時に、移住促進というミッションも担っている。1階の正面には、移住希望者の相談を受けたり、空き家情報・地域情報の提供と移住後のケアを行ったりするカウンターがあり、スタッフが常駐している。
移住促進に重要なファクターは「住まい」と「仕事」である。住まいについては、江田島市の「空き家バンク」と連携している。一方、仕事については、残念ながら少ないのが現状だと後藤さん。そこでフウドでは、まず場所を問わないデザイナーやWebエンジニア等のクリエイターのために、コワーキングスペース、Wi-Fiなどの環境を整えた。2階にはテーブル席とソファ席を用意し、資料作成やミーティングにも活用できる。

また、施設の1階を奥に進むと広いキッチンがある。シンクとコンロが各5台あり、こちらは食を通じて新たなつながりを生み出す場所として、商品開発や料理教室、イベントなどに利用されている。

集会所が空き家になると聞き、すぐさま企画提案

フウドの建物は、もともとは地域の集会所だ。ところが2017年3月に、集会所機能が向かいの新しい市民センターに移り、市の遊休資産になることになった。築30数年のこの古い建物は、維持管理費用が上がっており、それが移転の理由だ。

移転の前年である2016年12月、市役所から後藤さんに前もって移転の情報がもたらされた。後藤さんはここを利活用できないかと思い、すぐに江田島市に企画提案をした。市と調整しながら、2017年春に最終企画案が採択された。後藤さんによると、新しいコミュニティースペースとして、「しごと」「くらし」「食」をキーワードに「縁づくり」の場、それがコンセプトだと言う。

このコンセプトに思い至った経緯を後藤さんに聞くと、「移住は一般的にハードルが高く、まずはこの島が良いと思ってもらえる『きっかけ』のための舞台装置が欲しいと考えました」。まさに移住の拠点づくりの企画提案だった。沖美町は江田島の西端であるものの、瀬戸内海の夕景が見えるなど、風景の素晴らしさから比較的移住者が多いエリアでもあり、この界隈で成功する可能性は高いと踏んだのだ。

2017年7月からリノベーションに着手すると、島のいろいろな場所から仲間が応援に駆けつけてくれた。木材屋さんの倉庫に余っていた角材も活用し、設計の大枠はあらかじめ決めておいて、細かいところなどは現場で臨機応変に対応できるようにした。

2017年10月にプレオープン。試験運用期間の半年を経て、2018年4月にグランドオープンとなった。レセプションには、市長や市会議員など行政の方々や、地域の方々が訪れた。
ちなみに、建物は引き続き江田島市の所有で、その管理団体として、江田島市交流定住促進協議会があり、江田島市の他、市の商工会青年部、JA等が顔をそろえる。そして社団法人フウドが市から運営委託を受けるスキームだ。移住促進の運営を市の外側に置くことで、自由度があがり、後述するがいろいろなイベントや交流を実現している。

床の角材は、もともと余っている倉庫の角材を利用。半分ほどしか在庫がなく、残りは人工芝を敷き詰めたところ、コントラストが面白く、子どもたちが走り回るような楽しいスペースになった床の角材は、もともと余っている倉庫の角材を利用。半分ほどしか在庫がなく、残りは人工芝を敷き詰めたところ、コントラストが面白く、子どもたちが走り回るような楽しいスペースになった

リアルにつながることで、化学反応が起きてきた

上:子どものためのイベントを開催して好評だった/下:スイス人ツアー客が、製麺所探訪の後でフウドに立ち寄りうどんをすすった上:子どものためのイベントを開催して好評だった/下:スイス人ツアー客が、製麺所探訪の後でフウドに立ち寄りうどんをすすった

グランドオープンしてから1年以上が経った。後藤さんによると、最初はいろいろな方々が覗きに来る印象だったが、やがて常連さんが4、5人ほど定着して、パソコンを持ちこみ作業をしているそうだ。

フウドは異業種が出会える場所にもなっている。ここのリノベーションを行った工務店が、自社ホームページをつくる際に、コワーキングスペースのクリエイターに仕事を発注したという。
昨年はサテライトオフィスの誘致事業を進め、今後さらに多様な人材がやって来るだろうと後藤さんは期待を寄せる。

また、ぶらりとおしゃべりをしに来る地元の年配者や、2階で子どもたちを遊ばせに来る若いママさんたちもいる。地域の方々が気軽に立ち寄れるスペースとしても認識されているのだ。

昨年子ども向けのイベントを企画したところ、島外からも多くの参加者が訪れ、反響があったという。一般的に集会所では、利活用に地元地区の方々が優先されるが、フウドでは地区以外、島以外の方々も利用できるので、企画の自由度が高く、新しい交流の形になりつつある。例えば2019年2月に開催した「フウド蚤の市」では、島外の人たちも多くやってきて、沖美町の景観を楽しんでもらい、魅力的なエリアだと知るきっかけを提供できた。

魅力的な人を結ぶ場として展開中

上:フウドの入口に置かれている冊子。島全体で面白い人を選んだ人物事典もある/下:後藤さんはこの近所に家族で暮らし、江田島の未来に夢を馳せる上:フウドの入口に置かれている冊子。島全体で面白い人を選んだ人物事典もある/下:後藤さんはこの近所に家族で暮らし、江田島の未来に夢を馳せる

2019年4月には、スイス人の観光ツアーの10人がやって来て、地元産のうどんを試食した。実は製麺所の見学が目的だったのだが、そこでは試食ができるスペースがなく、フウドのシェアキッチンを活用したのだった。
このツアーをコーディネートした日本の会社は、後藤さんのつくった「江田島人物図鑑」を見て、製麺所を訪ねたいとオファーしてきたそうで、フウドで実際に交流もできた。

後藤さんは、フウドのコンセプトをこの建物で完結させるものではなく、今後は島全体で、同じように交流活動を広げていきたいと抱負を語る。例えば「江田島人物図鑑」で取り上げた人に会うためのツアーなど、着地型のツアーの造成にも力を入れていきたいという。今後の交流の広がりが楽しみだ。

2019年 06月07日 11時05分