京都造形芸術大学大阪サテライトキャンパスでの活気あふれる意見交換会

活気のある会場。50名を超える多くの人が集まった意見交換会の様子活気のある会場。50名を超える多くの人が集まった意見交換会の様子

2月19日(水)18時~20時 京都造形芸術大学大阪サテライトキャンパスで行われた松村秀一氏著『建築-新しい仕事のかたち ~箱の産業から場の産業へ~』の意見交換会へ参加した。
このイベントは、建築関連分野で研究・活動を続けてきた筆者がその著書をもとに、大きな時代の転換期にあってこれからの建築関連分野の仕事のあり方を広く議論してもらおうというもの。東京・福岡と行われた意見交換会の4回目、会場は50名を超える多くの人が集まった。

今回の大阪での意見交換会パネルディスカッションは、著者の東京大学大学院工学系研究科建築学専攻教授 松村秀一氏、「人の居方」という場と人との関係を研究をしている大阪大学大学院工学研究科准教授 鈴木毅氏、コミュニティデザイナーという立場で「まち」と「人のつながり」をキーワードに活動する株式会社studio-L代表 山崎亮氏、リノベーションビジネスの先がけとして精力的にストック住宅の再生に取り組む株式会社アートアンドクラフト代表 中谷ノボル氏の4名で行われた。

本来は「建築」という分野における産業の変革から仕事のあり方、望まれる人材、また人材育成の観点での意見交換会ではあったが、一般消費者である私たちにも考えさせられる内容であったため、その意見交換会の様子をお伝えしたい。

「箱の産業」から「場の産業」に変化していく建築という仕事

松村秀一氏の著書『建築-新しい仕事のかたち 箱の産業から場の産業へ』松村秀一氏の著書『建築-新しい仕事のかたち 箱の産業から場の産業へ』

冒頭、著者でこの意見交換会のパネリスト松村氏より以下の言葉が述べられた。
「建築分野でいうと、建てる(設計したり、施工したり)という仕事がなくなるわけではない。しかし、これだけのストックがある実情と、たくさん造ってきたにもかかわらずそれらが空き家や空きビルという形でかえって荷物となりつつあることも散見される。せっかく資源としてあるこれらをどうやって私たちの豊かな暮らし・生活に役立てていけるのか、というのがこの本の主題のひとつです」。

人口の減少、都市の空洞化、空き家問題など、造る建築の仕事の場は少なくなりつつあるように思われる。しかし、松村氏の著書では従来のスクラップ・アンド・ビルドの「箱の産業」ではなく、利用の構想力が試される「場の産業」への転換という立場に立つことで、「新しい仕事のかたち」が生まれ、新たに建てられなくても、建築にかかわる仕事はむしろ増えていくと述べられている。

"新しい仕事のかたち"が実際に増えつつある実感は、意見交換会のパネラーの発言からも感じられた。パネルメンバーは、それぞれ「リノベーションの現場」「まちのコミュニティデザイン」「次代建築業界を担う人材教育の現場」で活躍する方々である。
中谷氏は「現場にいて思うのは、これから業界で必要とされる人材は、業界の論理・会社の論理でなく、プロとしての技術を持ちながら、ユーザーオリエンテッドというか、ユーザーの立場で具体的な案をつくることができる人、コミュニケーションできる人が強く求められていくと感じる」と述べ、山崎氏は「地域コミュニティデザインの場で感じることは、手伝う我々ももちろん自分事としてリアルに街をとらえていくことが必要だが、まず大切なのは住んでいる住民の“自分たちの街のことは自分たちでやろう”という意識。きちんとした成果を出すために、我々は、そこを引き出しながらリアルかつクールに考えていくことが求められていくと思う」と語った。
また、教育の現場からは「大学で教える場としては、建築を学ぶ人間の中に街や文化に興味がない人がいることは少し懸念している。価値を発見して人に伝えようとするスキルは、今後建築という現場で働く人材には必要ではないか、とみなさんの話を聞いて感じている」と鈴木氏は感想を述べた。

私たち自身が「箱」ではなく「場」として、
今ある空間資源をどう活かすかを考える

パネルディスカッションは終始、熱くまたざっくばらんに建築という仕事とこれからの人材の未来像について語られた。

確実に人口減・少子高齢化に向かう我が国の中で、地域で暮らすことと人と人とが幸せになるコミュニティのあり方、空間の活かし方の課題は、今回述べられた新しい建築の仕事のあり方の課題と表裏だと感じる。パネラーの方々の話を聞いて、今まで「街の活性化」や「地域コミュニティの形成」というと新しい箱(ふるさと館や○○コミュニティ館など)をつくりそこに頼りがちな施策が多かったように思うが、住民自身がその地域にすでにある空間資源に注目し、いかに活用できるかに視点を当てて考えることが必要だと感じた。膨大なストックを活かすことは、決して「古いものを再発見し、大切にしましょう」というノスタルジックなことでなく、「今ある空間資源を幸せのためにどう活かすか」というもっと賢く、現実的な未来の可能性へ向かうことである、と思った。

建築の仕事の内容が幅広く変容をとげるように、私たち自身が「箱」に頼る単純な環境づくりでなく、「場」を生み出すことでできる環境づくりを意識すること、またその中でどうストックを活かしていくかが、私たちの住まう環境を幸せな形にするためにも必要なことだと思う。

写真右から、著者の松村秀一氏、鈴木毅氏、中谷ノボル氏、山崎亮氏写真右から、著者の松村秀一氏、鈴木毅氏、中谷ノボル氏、山崎亮氏

2014年 03月14日 08時57分