空き家の活用で新しいビジネスを

人口減少と空き家の増加に直面する北海道東部の津別町が、一つの建物にとどまらず地域全体を再生していく「道東エリアリノベーション・プロジェクト・イン津別」を進めている。その第1弾として、動画配信スタジオ付きのコワーキングスペースが2019年2月、中心市街地に完成。映像による町の情報発信基地として期待され、町民が集っている。

津別町は釧路や網走といった道東エリアの主要都市の中心に位置する。人口が2011年から2016年にかけて11%減り、その率は道内179市町村のうち13番目に高かった。町内の空き家を調査すると、その数は300を超えていることが分かり、空き家を活用していくことが急務だった。また「津別ファン」になって再訪してもらえるような関係人口を増やすことも課題に挙がっていた。

そこで町は空き家の改修と新規事業の立ち上げに絡め、新しいビジネスや移住者を呼び込もうと、2017年度にプロジェクトを始動させた。地域の拠点として、コワーキングスペースとゲストハウスをつくる計画。先んじてエリアリノベーションが実践されている長野県の善光寺門前を中心に活動する「MN設計共同体・アンド・パートナーズ」に協力を仰ぎ、ノウハウを学んできた。

事務所兼住宅をリノベーションして生まれたコワーキングスペース「JIMBA(ジンバ)」事務所兼住宅をリノベーションして生まれたコワーキングスペース「JIMBA(ジンバ)」

ワークショップを機に期待が高まった、ネットテレビ局

JIMBAのスタジオで作業する立川彰さんJIMBAのスタジオで作業する立川彰さん

津別町にとってどんな拠点が必要なのか、町民がどう関わっていくのか、それをどう実現させるのか。問題意識や方向性を共有するため、町はワークショップやミーティングを6回開催。町民のほか釧路、網走など町外から訪れた有志も参加。空き家改修に向けたイメージを膨らませ、アイデアを出し合った。2017年12月のコワーキングスペースの在り方を考えるワークショップでは、都市部でも家賃程度の収入しか得られない実情が紹介された。そこでコワーキングスペースの機能だけでなく、町の広報番組などの制作を手掛けるインターネットテレビ局「道東テレビ」との連携で独自の価値をつくっていくことが有力な選択肢に浮上した。

コワーキングスペースをつくる上でキーパーソンになったのは、地域おこし協力隊として2016年に移住した立川彰さん。千葉県船橋市で映像制作会社を経営し、津別町のPR映像を制作したのが縁で、津別の自然に魅せられて一念発起した。道東テレビを立ち上げ、町民にカメラとマイクを向けてきた。立川さんとのその相談窓口となり、地方創生を担当する町役場の高橋洋行さんは、「立川さんが町のいろんな人や活動にスポットライトを当ててくれました。『次はこんなことをやろう』『私もやってみたい』と、まちづくりに積極的に関わっていこうという流れができました」。映像を通して町に活力をもたらした効果は広く知られるようになり、道東テレビはコワーキングスペースを運営する事業者に選ばれた。

映像で町の魅力を発信する基地に

テーブルやカウンターの置かれた、1階の共用部(上)。そこに続く、明るい雰囲気の配信スタジオ(下)テーブルやカウンターの置かれた、1階の共用部(上)。そこに続く、明るい雰囲気の配信スタジオ(下)

コワーキングスペースは、「人」が集まる「場」、起業や創業の準備をする「陣場」といった意味をかけて「JIMBA(ジンバ)」と名付けられた。町役場からすぐの中心市街地にある。所有者から「壊すのもお金がかかるので」と立川さんが無償に近い条件で購入した、築77年という町内でもなかなか残っていない時代の住宅兼事務所を活用。ファンや協力者をつくり、愛着を持ってもらおうと、400人を超える町民がリノベーションに携わった。ソファや床板、時計といった備品は町内の施設や住民から提供されたものが置かれている。

リノベーションを経て、2019年2月23日にオープニングセレモニーがあった。JIMBAには大型の65インチ4Kモニターが3台置かれ、スタジオから広報番組などを配信しながら観覧したり、用意された機材で映像を編集したりできる。

立川さんは「今や誰でもブログやSNSで情報発信できる。専門家でなくともユーチューバーやブロガーが使いやすいようにして、ここから津別の情報を発信できるような施設にしたい。町民の方にも気軽に映像編集してもらえるようにしたい」と意気込みを語った。

公と民が連携した「これからの時代の公民館」

2階のレンタルスペース。壁は木の質感を強調し、1階と違った雰囲気を楽しめる2階のレンタルスペース。壁は木の質感を強調し、1階と違った雰囲気を楽しめる

JIMBAを見学させてもらった。外から見える1階の出入り口近くに、間仕切りのないスタジオがあり、道東テレビが収録と配信をする。白い壁が印象的な、明るく開放的な空間。その隣には長いテーブルとカウンターが続き、パソコンを広げて仕事をしたり、話をしたりできるスペースになっている。カウンターの棚には町内の木材を使った。個室として貸し出せるブースもあり、「機材の使い方を町民のみなさんに覚えてもらって、映像編集ができるようになって、思い出の動画をDVDやブルーレイにしたりと、気軽に使えるようになってもらいたい」と立川さん。3月末に設立予定の「北海道つべつまちづくり株式会社」も一部の個室にテナントとして入居する。

2階は木の質感を生かした壁のある、落ち着いた雰囲気のレンタルスペース。ミーティングや異業種交流会、展示会などの利用を想定するほか、1階と同じく大型モニターを備えているため、1階とは違ったシチュエーションで観覧できる。「町の人のコミュニティスペースとして開放できればいいなと考えています」と立川さんは話す。

立川さんは「JIMBAの特徴は、町の協力を受けて民間の業者が入っていること。公と民間が一緒になって情報発信を中心として集まれる場所です。これからの時代の公民館ともいえます。こういう施設がどんどん増えていくんじゃないかなと思います」と期待を込める。

次なる拠点はゲストハウス。公と民の連携で新事業の展開を目指す

プロジェクトで、コワーキングスペースに続くもう一つの拠点として計画されているのがゲストハウスだ。町役場の高橋さんは「泊まって終わりではなく、宿泊者と町内のコミュニティとをつなげ、再訪のきっかけを生み出す地域融合型のゲストハウスが必要です」と言う。元地域おこし協力隊の都丸雅子さんや地元農家の河本純吾さんらが、2019年度のオープンを目指して準備を進めている。

高橋さんは「コワーキングスペースという点、ゲストハウスという点をつなげて線にしたい。津別は移住者を含めていろんなチャレンジをしている人が多いです。いまコワーキングスペース、ゲストハウスに続く、第3、第4の空き家を活用した事業者が生まれる仕組みを作っています。新たなお店や事業が次々と現れる展開になればいいですね」とプロジェクトの青写真を描く。

JIMBA周辺の津別町の中心市街地。活用されていない空き家も多いJIMBA周辺の津別町の中心市街地。活用されていない空き家も多い

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