江戸時代から続く趣を残したMIZKAN MUSEUM

以前、運河沿いに蔵が並ぶ街の景観を守る取り組みを取材(参照:蔵のある半田運河の景観を守る。市と企業、市民が取り組むまちづくり)させてもらった愛知県半田市。その中でも紹介した企業、ミツカングループが運営するミュージアムがある。

MIZKAN MUSEUMは、本社社屋に隣接。元は工場があった場所で、1986年に開館した日本唯一の酢の総合博物館「酢の里」が2015年11月に生まれ変わった。ミツカンの酢づくりの歴史や食文化を楽しみながら学べる体験型博物館となっている。

すぐ横を流れる半田運河は、江戸時代に酢を江戸まで運ぶルートだった。運河沿いに黒壁の蔵が建ち並ぶ風景は、その歴史をあらわしている。ミツカングループは、生産工場機能を各地に移設したのに伴い、本社周辺の整備を図ることにした。機能がなくなった古い建物と、それらが作り出している美しい景観を守ることを配慮して再整備。MIZKAN MUSEUMも黒壁の塀で昔の趣を残した建物になっている。このあたりは先の記事で記した通りだ。

今回、日本建築学会東海支部が建築文化週間2018の企画として、10月13日に実施したMIZKAN MUSEUMの見学会に参加させていただいた。MIZKAN MUSEUM が2017年度日本建築学会東海賞の作品賞を受賞したことに伴うもので、設計者である株式会社NTTファシリティーズの髙橋勉さんの解説付きで見学できるという貴重な機会となった。

<写真左上>手前がMIZKAN MUSEUM、奥の高いビルがミツカングループ本社。その間(左側)にある建物は研究棟<写真右上>MIZKAN MUSEUMのすぐそばの半田運河。対岸に見えるのは旧工場建屋。景観を守るために修繕して保存している<写真左下>MIZKAN MUSEUMのロゴマークは、愛称であるMIM(ミム)を、工場の三角形の屋根をイメージして作成された。建物とロゴの調和が評価され、第50回日本サインデザイン賞の大賞を受賞<写真右下>設計者・髙橋勉さんは、「長年地域に親しまれてきた景観に手を加えることへのプレッシャーは非常に大きく、一つ一つ丁寧に慎重に検討を重ねました」とも語った。建物各所のモックアップ(原寸大サンプル)を作り、おさまりを確認したり、現場で職人さんの意見を聞いて試行錯誤もした<写真左上>手前がMIZKAN MUSEUM、奥の高いビルがミツカングループ本社。その間(左側)にある建物は研究棟<写真右上>MIZKAN MUSEUMのすぐそばの半田運河。対岸に見えるのは旧工場建屋。景観を守るために修繕して保存している<写真左下>MIZKAN MUSEUMのロゴマークは、愛称であるMIM(ミム)を、工場の三角形の屋根をイメージして作成された。建物とロゴの調和が評価され、第50回日本サインデザイン賞の大賞を受賞<写真右下>設計者・髙橋勉さんは、「長年地域に親しまれてきた景観に手を加えることへのプレッシャーは非常に大きく、一つ一つ丁寧に慎重に検討を重ねました」とも語った。建物各所のモックアップ(原寸大サンプル)を作り、おさまりを確認したり、現場で職人さんの意見を聞いて試行錯誤もした

「伝統」「革新」「環境」の融合がテーマ。古くて新しい外壁とは?

見学会は、髙橋さんの解説を本社の会議室で聞いた後、MIZKAN MUSEUMの外部と内部を回った。今回は、解説の中からポイントごとにまとめてご紹介していきたい。

本社周辺の再整備にあたり、3つのエリア分けがされた。本社と研究棟のあるエリアは「革新」と位置づけされ、常に企業活動の中心であり続けるエリア。本社の場所から半田運河を挟んだ対岸にある第二工場跡地は、歴史的な景観を継承する「伝統」のエリアとして、古い建物が残されている。そして、本社と第二工場跡地の間にあるMIZKAN MUSEUMは、新築された中間実験棟を含めて、「伝統+革新」という、歴史を継承しながら、新たな価値を生み出すエリアとされた。

MIZKAN MUSEUMという施設をつくるにあたっては、その「伝統」と「革新」に加え、常に自然に寄り添って行われてきた酢づくりの精神を受け継ぐという形で、「環境」というキーワード
も取り込み、「『伝統』『革新』『環境』の融合」が大きなテーマとなった。

「建物ボリュームは以前の建屋からひと回り大きくなっているのですが、敷地境界から少し内側に入れることで、街路を歩く人にとってスカイライン、空の見え方ができるだけ変わらないように配慮しました。エントランスの建物も新築していますが、従前のおもかげを大切にして、ほぼ同じ意匠を踏襲しています」と髙橋さん。

近隣の住人や、かつてここを訪れたことのある人々の記憶にある運河沿いの景色。その最たるものが、黒壁の蔵だ。MIZKAN MUSEUMの建物も黒壁があるが、実はその素材は現代的なもの。

「もともとは木の外装だったのですが、防火とメンテナンスの面から金属のアルミを採用しました。木の素材が持っていた不均質さを金属で表現するために、10mm、15mm、20mmの3種類の凹凸幅のパネルをランダムに貼り、壁面の陰影に変化をつけました」。

機能面で新しい素材を活用しつつ、瓦葺の屋根ということもあり、周囲の景観に見事に溶け込んでいる。

また、一部分、煉瓦の壁もある。工場だった時の名残だ。「木造の建屋がつながっていたので、防火壁として煉瓦の壁があちこちにあったんです。従前の風景をつくっている重要な要素であったので、煉瓦という素材をアイキャッチとして壁面に利用しました」。

<写真左上>MIZKAN MUSEUMの入口<写真左下>敷地の一角にある稲荷まわりは風景として重要な部分であったため、できるだけ既存の樹木を保存、移植して従前の雰囲気を残した</BR><写真右上>金属を使用しつつも、古くからの景観を守っている外壁<写真右下>アイキャッチとして再生された煉瓦の壁。 “焼き過ぎ煉瓦”を使用。高温で焼き込むことでグレーの焼きムラができ、独特な表情になっている。表と裏の焼き肌パターンをいろいろ組み合わせて表情を出している<写真左上>MIZKAN MUSEUMの入口<写真左下>敷地の一角にある稲荷まわりは風景として重要な部分であったため、できるだけ既存の樹木を保存、移植して従前の雰囲気を残した
<写真右上>金属を使用しつつも、古くからの景観を守っている外壁<写真右下>アイキャッチとして再生された煉瓦の壁。 “焼き過ぎ煉瓦”を使用。高温で焼き込むことでグレーの焼きムラができ、独特な表情になっている。表と裏の焼き肌パターンをいろいろ組み合わせて表情を出している

昔の景観を作り出している煙突と壁は自然換気の仕組みも備える

<写真上>おなじみのミツカンマークがある壁が、半田運河に沿った東側の面。下部に通風口があり、河川風を取り込む。2本の煙突は太陽熱を利用して中の空気の上昇を促す仕組み<写真下>南側の街路に沿った外壁。上部のガラスがある部分が二重構造になっているところ。ガラス面とその内側の木製壁の間が換気スペースに。ちなみに内側の木製壁は、かつて工場の外壁に使用されていた杉板が利用されている<写真上>おなじみのミツカンマークがある壁が、半田運河に沿った東側の面。下部に通風口があり、河川風を取り込む。2本の煙突は太陽熱を利用して中の空気の上昇を促す仕組み<写真下>南側の街路に沿った外壁。上部のガラスがある部分が二重構造になっているところ。ガラス面とその内側の木製壁の間が換気スペースに。ちなみに内側の木製壁は、かつて工場の外壁に使用されていた杉板が利用されている

創業以来、この半田市に根差しているミツカングループ。その点を施設づくりに取り込むため、設計前に環境のポテンシャルを考えたという。「知多半島にある半田は、全国の中でも日照時間が長い地域の上位に入っていました。あとは、海から半田運河を沿って流れてくる冷やされた河川風。そして、昔、酢づくりに使っていた井戸水」と、この場所にあった要素に着目。それらを組み合わせて、CO2(二酸化炭素)排出量を削減する、環境負荷の少ないシステムがつくられている。

河川風を取り込んだ自然換気システムは、煙突と外壁を利用。煙突のあった過去の風景を、自然換気を行う環境装置の煙突として再生した。建物の東側になる、半田運河側の外壁の通風口から取り込まれる河川風は、煙突の下から上へ抜けるルートと、建物南側の窓のほうへと流れるルートがある。

建物南側の窓は、壁が二重構造で、間の空間は換気スペースに。夏期は壁の間の熱い空気を外側の壁の開閉窓から逃がし、室内に届けにくくする。冬期は換気スペースで温められた空気を室内へ取り込む。春や秋の中間期は、自然換気を促す。日照による空気の温まりを生かしながら、季節に合わせたシステムを構築している。

井戸水と太陽熱の自然エネルギーを空調に。水を活かした自然採光

<写真上>中庭の水盤。あいにく取材時の撮影が夕方遅くになってしまったが、天気のいい昼間は水面がきらきらと美しい。地域に開かれた使い方もされ、半田市で春と秋に行われるまつりでは、水盤の水を抜いて山車がこの中庭にひきこまれる<写真下>入口の右側にも水辺があり、中庭の水盤と一面ガラスの廊下を挟んで空間のつながりを出している<写真上>中庭の水盤。あいにく取材時の撮影が夕方遅くになってしまったが、天気のいい昼間は水面がきらきらと美しい。地域に開かれた使い方もされ、半田市で春と秋に行われるまつりでは、水盤の水を抜いて山車がこの中庭にひきこまれる<写真下>入口の右側にも水辺があり、中庭の水盤と一面ガラスの廊下を挟んで空間のつながりを出している

井戸水は、MIZKAN MUSEUMの南側にある中間実験棟の屋根に設置された太陽熱温水パネルと共に空調に利用されている。温水と夏冷たく冬温かい井戸水を適宜使い、空調負荷を軽減する。

また、空調で利用した井戸水は、中庭に設けた水盤の水に活用される。一番深いところでも8cmほどという水盤は、中庭の美しい景色をつくる要素でありながら、水盤とその横の建物の庇(ひさし)で太陽光を反射させることで、ミュージアムの部屋の奥まで自然光が届くようにしている。なお、この自然光が届くミュージアムの部屋は、「光の庭」と名付けられ、寿司や鍋をテーマにした体験を通じて、食の魅力を学べるスペースになっている。

酢づくりから始まったミツカングループということで、「非常に水を大切にしている企業なので、その姿勢が館の随所で体感できるように」と工夫されたシステムのひとつというわけだ。

館内から半田運河の風景を眺められる

MIZKAN MUSEUMでは、古材を随所に使っている。屋根の鬼瓦や醸造に使われていた桶の板を使った塀。ミュージアムの展示室のひとつ「大地の蔵」の骨組みは、以前の建屋に使われていた古材だ。「新しい建物なのですが、古材を使ったことで経年した素材の温かみや、親しみやすさといったものを感じられます」と髙橋さん。

また、MIZKAN MUSEUM館内にも半田の風景を感じる見どころがある。昔の写真などが飾られた「風の回廊」というゾーンには、大きな窓が設置されている。「展示でこういう歴史があったんだなというのを見て、最後に今の風景を見る」という、横を流れる半田運河の風景を眺めて街とのつながりを感じるためのデザインだ。

実は2018年5月から休館して、7月にリニューアルオープン。事務所の位置を移動してイベントホールを新設したほか、それまであった全館を見学するコースのほかに、江戸時代の酢造りや、現代の醸造の様子などが見られる「大地の蔵」ゾーンだけを自由に見学できるコースが新しくできた。

ニーズに合わせてコースを楽しめるが、まずはぜひ、全館コースで展示と共に建物の随所の工夫も見て欲しい。地域を大切にする企業の精神が息づいている。

取材協力:日本建築学会東海支部 http://tokai.aij.or.jp/
     MIZKAN MUSEUM http://www.mizkan.co.jp/mim/
     (※MIZKAN MUSEUMは事前予約制)

<写真左上>半田市の情景やこれまでの歩みを、写真と音の演出で感じられる「風の回廊」。進んだ最後に大きな窓が<写真左下>「風の回廊」の窓から見られる、今の半田運河の風景<写真右上>江戸時代の酢づくりの解説や現在の醸造の様子が見られる「大地の蔵」。骨組みに古材が使われている<写真左下>「時の蔵」では、江戸時代に活躍していた長さ20mの船を再現。甲板の上で半田から江戸に酢を運ぶ映像を見られる<写真左上>半田市の情景やこれまでの歩みを、写真と音の演出で感じられる「風の回廊」。進んだ最後に大きな窓が<写真左下>「風の回廊」の窓から見られる、今の半田運河の風景<写真右上>江戸時代の酢づくりの解説や現在の醸造の様子が見られる「大地の蔵」。骨組みに古材が使われている<写真左下>「時の蔵」では、江戸時代に活躍していた長さ20mの船を再現。甲板の上で半田から江戸に酢を運ぶ映像を見られる

2018年 12月09日 11時00分