映画のロケ地にも!黒塀の蔵が建ち並ぶ風情を残す半田運河

市の景観計画で設定された半田運河の景観形成重点地区にある3つの橋のうち、中央の源兵衛橋(げんべえはし)から見た南側(写真下)と北側(写真上)の風景。黒壁の蔵は、昔は木の板の表面を焼いて炭の状態にし、近隣で火事が起きた時には壁に水をかけて火の粉が飛んできてももらい火をしないようにという工夫があったとされる。2015年に誕生したMIZKAN MUSEUMは、その昔ながらの黒壁の景観を継承した市の景観計画で設定された半田運河の景観形成重点地区にある3つの橋のうち、中央の源兵衛橋(げんべえはし)から見た南側(写真下)と北側(写真上)の風景。黒壁の蔵は、昔は木の板の表面を焼いて炭の状態にし、近隣で火事が起きた時には壁に水をかけて火の粉が飛んできてももらい火をしないようにという工夫があったとされる。2015年に誕生したMIZKAN MUSEUMは、その昔ながらの黒壁の景観を継承した

物資輸送や人の移動など交通手段のひとつとして、船の通航のために人工で造られた運河。よく知られているパナマ運河やスエズ運河をはじめ、世界各地にある。陸路が発達したことによって消滅もしているが、現存する中には観光スポットとして人気のところもある。

日本では北海道の小樽運河が代表的だが、名古屋市の南、知多半島に位置する愛知県半田市にある半田運河もそのひとつ。十ヶ川(じゅっかがわ)の下流域に位置する半田運河では、黒塀の蔵が建ち並んでいるのが大きな特徴だ。

実はこの半田運河、“世界のクロサワ”ともいわれる黒澤明監督のデビュー作で、1943(昭和18)年に公開された映画「姿三四郎」のロケ地にもなっている。主人公・三四郎が師匠となる矢野に出会うシーンなどが撮影され、黒塀の蔵も背景に映っている。

半田市では、この蔵と運河の風景を残す景観形成を行っており、今回はその取り組みについて迫りたい。

半田運河の成り立ちとミツカン

半田市は江戸時代から醸造業が盛んな土地で、商品が運河から海を経て航路で江戸などに運ばれていた。運河沿いに醸造の蔵が建ち並ぶ風景は、現在の半田運河の景観の礎となった。そんな醸造業者のひとつが、日本を代表する企業となったミツカングループだ。(以下、ミツカン)

ミツカンは、造り酒屋から分家独立した初代中野又左衛門が1804年(文化元年)に創業。この初代が江戸を訪れた際に、寿司が流行の兆しを見せ始めていたことにヒントを得て、酢作りに着手。そして海運力を活かして江戸に運び、商いを成功させた。

では、その海運力として大きな役割を果たしたと思われる半田運河の歴史はどうなのだろうか。「半田運河は十ヶ川の下流に位置しますが、この地域は昔から大雨が降ると川が氾濫して、周囲が浸水してしまうところでした。それで、川の流れを変えるために、人工的に運河を造ったというのが、半田運河の成り立ちです」と教えてくれたのは、半田市役所・都市計画課の近藤佑也さん。

十ヶ川は、半田市のある知多半島の最大の川・阿久比川と並行している。この阿久比川は、川底が周辺の平野面よりも高い天井川だったため、たびたび氾濫を起こしており、治水のために流れを変える工事の中で、十ヶ川が開削された歴史を持つといわれる。そして、1855年(安政2年)の大水害からの改修を経て、現在の運河のような姿になったとされる。

実はこの運河形成にもミツカンが関わっている。1855年の大水害の前年は、安政の東海大地震が起きており、このエリアでは続けて大きな被害を受けた。ミツカンの三代中野又左衛門は、その復興に自らの資金を投じて尽力。その中で半田運河も手掛けた。

半田運河沿いに建つ、ミツカンの蔵や工場跡地。それぞれの建物にはミツカンマークが描かれている。左側奥に見える高いビルが、ミツカン本社半田運河沿いに建つ、ミツカンの蔵や工場跡地。それぞれの建物にはミツカンマークが描かれている。左側奥に見える高いビルが、ミツカン本社

半田運河を意識するまちなみづくりへ

半田市では1990年に、市の総合計画を策定し、地域の歴史と特性を活かしたまちづくりを目標の一つとした。翌年に半田市都市景観基本計画を作成し、半田市の景観の3つの柱として、山車、蔵、南吉を取り上げることに。蔵は主に半田運河周辺に立地し、半田市の産業の礎となる港の歴史をふまえ、活気や文化を活かした景観づくりを目指している。山車とは、国の重要無形民俗文化財に指定されている亀崎潮干祭を始めとする山車行事のこと。山車の曳き廻しが映えるまちなみの形成を目指すものだ。南吉とは、童話「ごんぎつね」で知られる新美南吉のことで、童話の舞台となる岩滑地区の風景を活かしたまちなみ保存を目指す。それらのため、1995年に景観条例が制定された。

「当時はまだ市民の方々も景観ということに対してあまり意識がない時代だったかと思います。どちらかというと、規制緩和の流れで、いろいろなものが緩和されていく中で、景観条例により、建物の色や形に制約が出てくるということに、運河周辺の方たちから反発もありました」と近藤さん。

そんな状況が変わったのが、2003年ごろ。「運河のちょうど中央に源兵衛橋がありますが、その付近にホテルが建つという噂が出て、地元の人々から反対運動がおこったんです。運河の景観についての意識を持っていただけたのかなと思います」。

景観条例では、景観形成重点地区である半田運河周辺地区に建物を建てる時には届け出制度を設けて、全体のまちなみの調和を図っている。また、景観アドバイザーとして専門家のアドバイスを受けながら、整備も進めてきた。半田運河周辺の道路は、景観に配慮した茶色の脱色アスファルトに。周辺の観光スポットだけでなく、半田運河周辺のまち歩きを楽しんでもらい、回遊性を高めるのが目的だ。住宅では新築やリフォームでは、黒い蔵の色合いに合う外観になるべくしてもらうようにしたり、まちなみの連続性が出せるように道路沿いに緑を増やしてもらったりといった提案もしている。

確かに、観光スポットとして代表的に紹介されている施設を訪れたり、運河をひとつの所から全体を見たりというのではなく、実際に色が異なったアスファルトに沿ってぐるっと巡るように歩いてみると、緑のある風景の心地よさと共にひっそりと残されているような古い建物なども見られて、より半田運河の雰囲気を感じられた。

整備された半田運河沿いの様子。脱色アスファルトにした道路で半田運河の景観を意識させる作りに。緑のある風景もいい。写真下は、運河沿いにある観光スポットとして親しまれている半六庭園。江戸時代から海運業、醸造業で栄えた豪商の庭園だ整備された半田運河沿いの様子。脱色アスファルトにした道路で半田運河の景観を意識させる作りに。緑のある風景もいい。写真下は、運河沿いにある観光スポットとして親しまれている半六庭園。江戸時代から海運業、醸造業で栄えた豪商の庭園だ

平成29年度 都市景観大賞を受賞。今後の展望は…

(写真上)MIZKAN MUSEUM 前の風景。オープンに合わせ、道路や街路樹が整備された</BR>(写真下)今回お話を伺った、半田市役所 建設部都市計画課の近藤さん(写真上)MIZKAN MUSEUM 前の風景。オープンに合わせ、道路や街路樹が整備された
(写真下)今回お話を伺った、半田市役所 建設部都市計画課の近藤さん

「運河の景観の代表的な蔵というと、ミツカンさんのものが挙げられ、再整備という形で古い蔵を新しくされる際にも、昔ながらの雰囲気が出るように配慮をしていただきました。そのため、ミツカンさんの協力によって半田運河の景観が保たれているところも多分にあると思います」と近藤さんは語る。
2015年には半田運河沿いに、ミツカンの歴史と食文化を伝える体験型博物館「MIZKAN MUSEUM」がオープンした。この建物も黒塀の蔵の景観継承がされている。

これまでの取り組みが認められ、2017年に半田運河周辺が「平成29年度 都市景観大賞」を受賞した。
「ミツカンのご担当者様がお話しされていたのは、企業単独で受賞できるものではなく、半田市の景観アドバイザー制度なども活用して、周辺とも合わせながら一体で取り組み、整備していったところに今回の受賞があったのではと」。
審査講評では、企業と市民、そして自治体のコラボレーションが「運河沿いの景観を変化させながらもつないでいる」と認められている。

「半田運河の会」という市民団体の活動も注目される。「基本的には運河周辺をきれいに保つクリーンアップをする団体ですが、水仙を植えて景観をよくする取り組みもされていますし、夏には手作りいかだのレースを開催しています。また、昨年からは商工会議所をはじめ、中心市街地の活性化を目指す団体により、半田運河の水面にLEDの“ヒカリノ玉”を浮かべるキャナルナイトというイベントが開催され、人が集まる取り組みもされています」。

今後の展望については「いま進めている整備がすべて終わったあとは、地域の方たちと景観を守る取り組みを続け、観光客の方にも半田運河の良さを知っていただけるようにさまざまなイベントの開催も必要かなと思っています。また、市民の方でも運河周辺にお住みでない方は、運河周辺がこのようになっていることを知らない方もいらっしゃると思うので、半田運河へ出かけてもらって愛着を持っていただくとともに、景観を理解していただくきっかけになると良いと思っています」とのこと。

企業、自治体、そして市民への広がりが形になっている半田運河地区のまちづくり。伝統、歴史を未来へつなげる取り組みが実ったまちの魅力を、多くの人がぜひ訪れて楽しんでほしい。

取材協力:半田市役所 建設部都市計画課 http://www.city.handa.lg.jp/
掲載協力:ミツカングループ http://www.mizkan.co.jp/

2017年 08月26日 11時00分