一般の上陸が解禁された「第二海堡」とは?

第二海堡を示す「FORT NO.2」の文字が残っている第二海堡を示す「FORT NO.2」の文字が残っている

神奈川県横須賀市と千葉県富津市との間、東京湾に浮かぶ2つの人工島がある。富津岬寄りの島は第一海堡(かいほう)、それより少し横須賀寄りにあるのが第二海堡だ。
「海堡」とは、戦争の際に首都東京や横須賀軍港を守るため、明治政府が作った海上の要塞。1881年から工事が始まり、約40年もの時を経て3つの海堡が完成した。当時はまだ重機がなかったため、石や砂を船で何往復もして運ぶなど、一大工事だったそうだ。
海堡には船を攻撃するためのカノン砲などが配備されていたが、風浪の影響や関東大震災の被害によって、実戦で使用されることはほとんどなかったという。中でも第三海堡は震災の被害でほとんどが海に沈み、航路を妨げていたため撤去されている。残る第一海堡と第二海堡は、第二海堡に灯台や消防演習場の施設が置かれているものの、これまで両島とも一般の立ち入りは禁じられていた。

しかしこのたび、国土交通省が「魅力ある公的施設・インフラの大胆な公開・開放」の一環として、第二海堡への上陸をプランに組み込んだ観光ツアーの実現を目指して動き始めている。

第二海堡上陸解禁の背景

猿島から第一、第二海堡を望む。奥の半島の手前、左手に見える島が第二海堡、右手にあるのが第一海堡猿島から第一、第二海堡を望む。奥の半島の手前、左手に見える島が第二海堡、右手にあるのが第一海堡

「観光先進国」を目指す政府は、2020年までに訪日外国人旅行者数4,000万人などの目標を掲げており、その実現に向けて、関係行政機関や有識者が参加した「観光戦略実行推進タスクフォース」が開催されている。タスクフォース出席者からの『魅力ある公的施設・インフラの大胆な公開・開放』という提言を踏まえ、国土交通省が提案したのが、既に見学会を実施している「東京湾アクアライン」や「首都圏外郭放水路」の公開拡充、そして、立ち入りが禁止されていた「第二海堡」上陸ツーリズムの早期実現であった。

「インフラ施設は全国にたくさんありますが、中でも普段立ち入れないような珍しい場所がよいのではないかと検討した結果、国交省が管轄している第二海堡が候補となりました。そこで、第二海堡上陸ツーリズム推進協議会が立ち上げられ、具体的な動きが始まったのです」
そう話すのは、窓口を務める国土交通省 関東地方整備局 港湾空港部 港湾計画課の能登谷健一さんだ。

協議会は国交省、海上保安庁、富津・横須賀の近隣自治体、そして日本旅行業協会や全国旅行業協会などから構成され、官民連携の体制をとっている。7月の頭には第1回の協議会を開催し、まずはトライアルツアーを行って課題を洗い出し、今後の可能性について検討することに。そして、7月半ばにはトライアルツアー実施者を公募、8月24日にはトライアルツアーの実施へと、スピーディーに動いていった。

第二海堡上陸ツアーへ

今回、クラブツーリズムが実施する9月16日9:30のトライアルツアーに参加した。これまでに4回の実施日があったが、いずれも台風や天候の影響で欠航となり、この日が初めてのツアー催行となった。

ツアーのスケジュールは、横須賀の三笠桟橋より、旧日本軍の要塞として使われていた無人島・猿島を経由して第二海堡へ渡り、三笠桟橋へ戻った後、昼食をとって解散という流れ。主催する旅行会社によっては、三笠公園に展示されている戦艦三笠の見学などをセットにしているところもあるようだ。

猿島までは横須賀から船で10分程度。この猿島の砲台跡と、千代ヶ崎の砲台跡の2つは「東京湾要塞跡」として国史跡に指定されており、年間を通して多くの人が訪れている。今回は3グループに分かれ、それぞれについたガイドに旧日本軍の遺構を案内してもらった。島内に残されている兵舎や弾薬庫にはガイドツアーでしか入れないそうで、貴重な機会だ。
猿島を1時間ほど散策し、いよいよ第二海堡へ渡る。船で30分程度かかるが、船上では東京湾を行き交う船や、第二海堡についての案内もあり、思ったよりも短く感じられる。

第二海堡では、2つのグループに分かれてガイドツアーがスタート。崩落の危険がある場所など立ち入り禁止区域があり、自由に見て回ることはできない。離れてもガイドの声が聞こえるようイヤホンガイドをつけ、指示に従って進んでいった。この日はあいにくの天気だったが、晴れた日なら景色にも期待できそうだ。

第二海堡の見どころは、灯台や砲台跡、そしてレンガ造りの建造物。ここで見られる建造物は、攻撃されることや、波・風雨による被害を想定し、いずれも耐久性を重視している。例えば島の北側に見られるレンガ製の掩蔽壕(防空壕)は、猿島でも見られる「イギリス積み」という積み方で作られており、使用されているレンガは「焼き過ぎレンガ」と呼ばれる耐水性に優れたもの。また、桟橋のそばにある倉庫は、レンガ造りの壁にコンクリートの天井、さらに防水のためアスファルトとモルタルも使って建てられている。貴重だったコンクリートに加え、アスファルトも組み合わせるのは当時の最先端技術だったという。このように、第二海堡の遺構には当時の最新技術や独特の工夫が見られ、歴史だけでなく建築の観点からも非常に重要な場所だ。
猿島よりも小さな島ではあるが、島に遺された砲台や防空指揮所(トーチカ)跡、現在も使用されているコンビナート火災にも対応した消防演習場など、ガイドの説明を聞きながら回ると、あっという間に1時間ほど経っていた。

この第二海堡の上陸解禁を記念し、横須賀市の一部の飲食店では近海で獲れる新鮮な魚を使った「横須賀海堡丼」と称した特別メニューを用意してあり、多くのツアー内で食べることができる。各店それぞれに工夫が凝らされ、旅行会社だけでなく、まちとも協力して第二海堡上陸ツーリズムを盛り上げようという空気が感じられた。

(左上)第二海堡にはレンガの建造物が多い。耐水性の面から通常より長めに焼いた「焼き過ぎレンガ」が使用されていたという(右上)レンガの中には検品用の桜マークがついたものも<br />(左下)灯台は現在も使用されている(右下)東京湾を見渡せるトーチカ。残念ながら登ることはできない(左上)第二海堡にはレンガの建造物が多い。耐水性の面から通常より長めに焼いた「焼き過ぎレンガ」が使用されていたという(右上)レンガの中には検品用の桜マークがついたものも
(左下)灯台は現在も使用されている(右下)東京湾を見渡せるトーチカ。残念ながら登ることはできない

増加するインバウンド需要への対応が課題

近年注目されている猿島では、インバウンド向けに英語のガイドツアーも実施されている近年注目されている猿島では、インバウンド向けに英語のガイドツアーも実施されている

今回は朝9:30に横須賀中央駅に集合し、14:00ごろ終了する約半日のツアーだったが、周辺の観光地を組み合わせれば、丸一日楽しむ行程も組むことができそうだ。また、能登谷さんによると、「現在は船の手配などの関係で横須賀から出航するツアーのみですが、今後は千葉県富津市から出航するツアーも開催する予定です」とのこと。参加者にとってはツアーのバリエーションが増えることになり、より参加しやすくなりそうだ。

「現在は日本語のみによる案内ですが、今後は当然、外国人観光客の参加も想定されます。しかし、まだパンフレットやガイドの多言語対応が追い付いていません。そうした点も含め、まずはトライアルツアーで洗い出した課題について、今後どのように解決していくか、国としてどのような支援ができるのかといったことを考えながら、来年以降の実施につなげていきたいと思います」

今回の第二海堡のように、観光ツアーの行先候補となるインフラ施設は各地に存在している。今後も、一般の人が普段なかなか訪れない場所、例えば貿易港である東京港や横浜港などに対象を広げることも検討していきたいという。

始まったばかりの第二海堡上陸ツーリズム。今回の取り組みがどう展開していくのか、トライアルツアーの成果と今後に注目したい。

2018年 10月20日 11時00分