2015年は訪日外国人旅行者数と消費額が共に大きく増加

このところ、ニュースや新聞などで多く目にする「インバウンド」という言葉。本来は「入ってくる、内向きの」という意味だが、観光業界においては外国人が日本に訪れてくる"訪日外国人旅行"を意味している。
"爆買い"に象徴される訪日外国人旅行者数による消費活動は、"インバウンド消費"と呼ばれ、国内での消費拡大による日本経済への貢献や地域経済の活性化に寄与するものとして期待されている。

日本政府観光局(JNTO)が平成28年4月5日に発表した「訪日外国人消費動向調査 平成27年(2015年)年間値(確報)」によると、2015年の訪日外国人旅行客は、前年の約1,341万人から47.1%増の約1,974万人と大幅に増加。また、訪日外国人全体の旅行消費額も、前年の2兆278億円に比べて71.5%増の3兆4,771億円にまで増加した。
政府は、2020年の外国人旅行客を2,000万人とする目標が前倒しでほぼ達成できたことを受けて、目標をこれまでの2倍にあたる4,000万人、2030年には6,000万人へ上方修正している。

ビザの有効期間中に何度でも出入国できることを許可する数次ビザの発行や、LCC(格安航空会社)の路線拡大、そして2020年の東京オリンピックの開催など、訪日外国人旅行客の増加を後押しする要素は揃っているといえる。
では、観光立国を目指す日本における、実際の訪日外国人旅行客の現状とは。また、課題には何があるのだろうか?

旅行消費額と訪日外国人旅行者数の推移 出典:日本政府観光局(JNTO)</BR>平成27年(2015年)の訪日外国人全体の旅行消費額は3兆4,771億円と推計され、前年(2兆278億円)比71.5%増。訪日外国人旅行者数(1974万人)も前年(1341万人)に比べ47.1%増と大きく伸びた旅行消費額と訪日外国人旅行者数の推移 出典:日本政府観光局(JNTO)
平成27年(2015年)の訪日外国人全体の旅行消費額は3兆4,771億円と推計され、前年(2兆278億円)比71.5%増。訪日外国人旅行者数(1974万人)も前年(1341万人)に比べ47.1%増と大きく伸びた

訪日外国人旅行客のおよそ半分を占める東アジア

2015年の全訪日外国人旅行客数約1,974万人の内訳を国別に見てみると、およそ4分の1に当たる25.3%が中国で占められており、中国を含む韓国、台湾、香港を合わせた東アジアの割合は67.7%を占める。
また、2015年の訪日外国人旅行者による消費額の合計は3兆4,771億円で、このうち1兆4,174億円(40.8%)が中国による消費である。2位の台湾が5,207億円(15.0%)、3位の韓国が3,008億円(8.7%)であるから、いかに中国による消費額が突出しているかがわかる。
この消費額の内訳をみると、買物代が8,088億円(構成比57.1%)、宿泊料金が2,503億円(同17.7%)、飲食費が2,113億円(同14.9%)、交通費が1,094億円(同7.7%)となっている。
この買物代については、2014年10月に訪日外国人旅行客を対象にした「消費税免税制度」が改正されたことが後押ししている。それまで免税の対象が家電製品やバッグ、衣料品といった耐久財のみだった範囲が、食料品や飲料品、医薬品、化粧品などの消耗品にまで拡大されたことが、「爆買い」を引き起こした理由の一つであろう。

また、中国の買い物代は他国の割合と比較して高いのも特徴だ。訪日外国人旅行客による旅行消費額の買物代1兆4,539億円のうち、55.6%が中国によるものである。一人あたりの旅行支出は、中国は一人あたり28万3,842円と、訪日外国人旅行客の平均消費額17万6,167円より、およそ10万円ほど高くなっている。
現在の日本の観光産業は、中国への依存度が高まっていると言ってよい。

(左図)国籍・地域別の訪日外国人旅行消費額と構成比</BR>(右図)主な国籍・地域別の1人当たり旅行支出</BR>(出典:日本政府観光局(JNTO) 訪日外国人消費動向調査 平成27年年間値(確報))(左図)国籍・地域別の訪日外国人旅行消費額と構成比
(右図)主な国籍・地域別の1人当たり旅行支出
(出典:日本政府観光局(JNTO) 訪日外国人消費動向調査 平成27年年間値(確報))

日本へ訪れた外国人はどこに行っているのか?

しかし、こうした外国人観光客による"インバウンド消費"の恩恵は、免税店が集中する都市部や観光地などに留まり、地方にまで行き渡っていないとの見方がある。
2015年の都道府県別に訪問率をグラフにしてみた。

都道府県別に訪問率をまとめると、実は訪問率が10%を超える地域は、最も多い東京都(48.2%)をはじめ、大阪府(41.9%)、千葉県(40.1%)、京都府(30.4%)、神奈川県(11.0%)、福岡県(10.5%)、愛知県(10.3%)、北海道(10.2%)の8都道府県しかないことがわかる。訪問率1位の東京に接する埼玉県は0.6%となっており、同じ関東圏であっても極端な差が生じている。
さらに、47都道府県中、23県については訪問率が1%未満となっており、東京を出発して、箱根、富士山を経由、名古屋・京都・大阪といった3大都市圏と一部の観光地を周る、いわゆる「ゴールデンルート」にとどまっているのが実態である。

こうした訪問率の偏りは同時に、インバウンド消費の偏りも意味する。
インバウンド消費の主な消費先の一つでもある免税店の数は、2015年4月現在、国内の9,361店舗中、およそ半分の4,172店舗が東京国税局管内の東京、神奈川、千葉、山梨に集中している。
また、経済産業省が平成27年8月25日に公表した「平成28年度税制改正に関する経済産業省要望」によると、地方でよく売れている民芸品や伝統工芸品などは単価が2,000~3,000円程度のものが多く、免税対象となる10,000円以上に満たないことを受けて、対象金額を5,000円以上に引き下げるという要望を提出している。

訪問率が10%を超える地域は、東京都をはじめとして8都道府県しかないのに対し、23県は1%にも満たないの現状だ
</BR>観光庁「訪日外国人消費動向調査」を元に作成訪問率が10%を超える地域は、東京都をはじめとして8都道府県しかないのに対し、23県は1%にも満たないの現状だ
観光庁「訪日外国人消費動向調査」を元に作成

地方への周遊を促進し、消費をさせる政府のビジョンとは?

インバウンド消費の恩恵を地方にまで波及させるため、政府は政府は2020年の年間訪日外国人旅行客数4,000万人という目標達成に向け、2016年3月30日に「観光ビジョン」を策定し、訪日施策を強化する意向を示している。

観光ビジョンは「3つの視点と10の改革」から成り立っている。
【視点1】観光資源の魅力を極め、地方創生の礎に
1.公的施設 「魅力ある公的施設」を、ひろく国民、そして世界に開放
2.文化財  「文化財」を、「保存優先」から観光客目線での「理解促進」、そして「活用」へ
3.国立公園 「国立公園」を、世界水準の「ナショナルパーク」へ
4.景観   おもな観光地で「景観計画」をつくり、美しい街並みへ

【視点2】観光産業を革新し、国際競争力を高め、我が国の基幹産業に
5.観光産業  古い規制を見直し、生産性を大切にする観光産業へ
6.市場開拓  あたらしい市場を開拓し、長期滞在と消費拡大を同時に実現
7.観光地経営 疲弊した温泉街や地方都市を、未来発想の経営で再生・活性化 

【視点3】すべての旅行者が、ストレスなく快適に観光を満喫できる環境に
8.滞在環境  ソフトインフラを飛躍的に改善し、世界一快適な滞在を実現
9.地方交流 「地方創生回廊」を完備し、全国どこへでも快適な旅行を実現
10.休暇   「働きかた」と「休みかた」を改革し、躍動感あふれる社会を実現

特に、『9.地方交流 「地方創生回廊」を完備し、全国どこへでも快適な旅行を実現』は、観光の地域間格差をなくすための施策として注目をしたい取組みの一つである。
また、観光庁及び地方運輸局は、日本各地で地域の名産品等の買い物を楽しむことができる全国46コースを策定し、外国人にはあまり知られていない買い物スポットや、観光地から次の目的地へ移動する途中で立ち寄りやすい買い物エリアの情報を盛り込むなどをしている。

また、都市と地方を結ぶ交通インフラ、交通サービスの整備も重要な課題の一つである。
国土交通省は、空港、港、鉄道駅、バスターミナルなどの整備に加え、デジタル案内板の設置、Wi‐Fi環境を整備するため、「交通サービスインバウンド対応支援事業」を対象として補助金の交付を行っている。今後、外国人旅行者が快適に旅行できるよう、各観光地の多言語対応やクレジットカードの利用環境、そして宿泊施設の受け皿の整備が急がれる。都市部や一部の観光地での宿泊施設では、既に収容能力が限界に近くなっており、収容能力に拡大の余地がある地方における宿泊施設の重要性は、今後ますます高まるのではないだろうか。

訪日外国人旅行者の増加による地価への影響

物販、飲食、宿泊などのインバウンド消費の増加は、新規出店による競争を激化させ、地価の上昇につながる一つの要因である。
国土交通省が2016年3月22日発表した公示地価(2016年1月1日時点)によると、全国全用途平均の地価が0.1%上昇と8年ぶりにプラスに転じている。また、東京、大阪、名古屋の三大都市圏は、商業地が前年比で2.9%上昇、住宅地は同0.5%上昇した。

これらは、インバウンド効果による店舗の賃料上昇などを起因とした地価上昇だと見られており、最も地価が高い銀座4丁目の山野楽器銀座本店は1m2当たり4,010万円となり、リーマン・ショック前のミニバブル期を超え過去最高を記録している。また、全用途上昇率の首位は大阪市中央区心斎橋筋(45.1%上昇)で、上位10地点のうち6地点を大阪が占める結果となった。

都市部の地価上昇が目立つ中、京都・祇園四条(21.2%上昇)、北海道・ニセコ(19.7%上昇)、大分県由布市(15.4%上昇)といった、観光・リゾート地においても、インバウンド効果による地価上昇が目立っている。
しかし、こうした地方の地価上昇も、特定の地域に限られたものなっており、今後訪日外国人旅行者が地方にも足を向けてくれなければ、地価の二極化にさらに拍車がかかる可能性もある。

日本は4年後の2020年、東京オリンピックが開催される年に、未だ経験したことのない4,000万人もの外国人旅行者の受け入れようとしている。しかし、オリンピックの開催に関わらず、地方に存在する日本の魅力を体験し、繰り返し日本に訪れてもらう受け皿を整えることが、観光立国日本が目指すべき姿のように思える。

そうした意味からも、これまで一部の地域に集中していた外国人観光客と消費を、地方まで行き渡らせるための環境の整備は未だ発展段階である。
地方都市へのスムーズな移動インフラやツアー商品の造成といった、観光がもたらす経済効果が最大限に活かされる環境の整備が急がれている。

東京、大阪、名古屋の三大都市圏は、商業地が前年比で2.9%上昇、住宅地は同0.5%上昇した平成28年地価公示</BR>(出典:国土交通省)東京、大阪、名古屋の三大都市圏は、商業地が前年比で2.9%上昇、住宅地は同0.5%上昇した平成28年地価公示
(出典:国土交通省)
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2016年 06月14日 11時10分