DIYが楽しくて、福岡で引っ越し6回、7軒の家をリノベーション

かつて福岡で、“リノベの女王”として名を馳せた女性がいる。建築家でもインテリアデザイナーでもない。本職は放射線技師の、芳澤瞳さん。
福岡で一人暮らしをしていた15年の間に7軒のリノベーションを手掛けた。すべて賃貸、すべてDIYだ。

「リノベが楽しくて楽しくて、ひとつの部屋が完成したら、また次の部屋をDIYしたくなる。その繰り返しで、2年の1度のペースで引っ越していました」と振り返る。

リノベーション好きが高じて、建築や不動産の専門家たちが集まるシンポジウムにも足を運んだ。のちに「リノベーションスクール」を旗揚げする主要メンバーとも顔見知りになる。「そこには、私が日頃身を置く医療業界とは、まるで雰囲気の違うコミュニティーがありました。よりよい社会をつくろうという熱気に溢れていて、すごく新鮮で刺激的でした」と芳澤さん。

そのリノベ業界のリーダーたちから“リノベの女王”の冠を贈られたのが、ほかならぬ芳澤さんその人、というわけだ。

(左上)芳澤さんがリノベを手掛けた五島の宿「ののや」にて、来客と談笑する芳澤さん。背後の壁の色合いが絶妙だ(右上)芳澤さんが引っ越しのたびに持ち歩くという、リノベ小道具セット(左下)芳澤さんが福岡時代にリノベしたワンルームのキッチン。黒いタイルに木の天板、丸いシンク、可愛らしい水栓金具と“萌え”要素満載だ。狭いながらも棚板2枚、S字フックが掛けられるレール、タオル掛け、と収納も充実している。(右下)ワンルームの壁に棚板を取り付けて“見せる収納”に。高さの異なる天板は、デスク兼収納。髙い方の天板の下にハンガーレールと3段ボックスを取り付けている(左上以外3点写真提供:芳澤瞳)(左上)芳澤さんがリノベを手掛けた五島の宿「ののや」にて、来客と談笑する芳澤さん。背後の壁の色合いが絶妙だ(右上)芳澤さんが引っ越しのたびに持ち歩くという、リノベ小道具セット(左下)芳澤さんが福岡時代にリノベしたワンルームのキッチン。黒いタイルに木の天板、丸いシンク、可愛らしい水栓金具と“萌え”要素満載だ。狭いながらも棚板2枚、S字フックが掛けられるレール、タオル掛け、と収納も充実している。(右下)ワンルームの壁に棚板を取り付けて“見せる収納”に。高さの異なる天板は、デスク兼収納。髙い方の天板の下にハンガーレールと3段ボックスを取り付けている(左上以外3点写真提供:芳澤瞳)

子育てのためにUターンして、生まれ故郷の美しさ、豊かさを再発見

芳澤さんは6年前、生まれ故郷の五島列島・福江島にUターンした。
きっかけは、愛息・夏くんの誕生だ。「子育てするなら島がいい、と直感的に思ったんです。都会より田舎のほうがストレスが少ない。お母さんにストレスがないほうが、きっと子どもにとっても幸せだろう、と」。出産後わずか1ヶ月で、博多ふ頭から福江島に向かう船に乗り込んだ。

福岡に未練がなかったわけではない。「福岡が大好きだったから、離れるときは涙が出ました」と芳澤さんは言う。しかし、福江島に暮らし始めて、改めて自分の故郷の魅力に気付くことになる。「色鮮やかで透明度の高い海。しかも、広々とした砂浜も、変化に富んだ入江も、両方とも揃っているんです。自分の生まれた島がこんなに美しいことを、福岡で働いているうちに、すっかり忘れていたんですね」。

今では島の子どもたちに力説している。「福江島ではタダでお裾分けしてもらうお魚を、都会では一尾600円で買うの。島ではそこらじゅうで見られるキレイなお魚を見るために、都会ではお金を払って水族館に行くんだよ。五島の日常は、都会の非日常。五島では当たり前のことが、都会ではとても贅沢なことなの」。

場所によって様々な表情を見せる福江島の海。(左上)日本一とも称される、白い砂浜とエメラルドグリーンの海が美しい「高浜海水浴場」(右上)「水の浦教会」のある、入江の集落(左下)島北部の奥深い入江は深い緑色の水をたたえる(右下)小さな集落「半泊」の色鮮やかな磯場所によって様々な表情を見せる福江島の海。(左上)日本一とも称される、白い砂浜とエメラルドグリーンの海が美しい「高浜海水浴場」(右上)「水の浦教会」のある、入江の集落(左下)島北部の奥深い入江は深い緑色の水をたたえる(右下)小さな集落「半泊」の色鮮やかな磯

家賃1万円・築40年の一戸建てを借り、26万円で全面リノベーション!

子育てのために五島に帰って、芳澤さんには、ほかにもやりたいことができた。五島の魅力を、広く、多くの人に伝えたいと思うようになったのだ。
「でも、情報発信には時間が必要です。時間をつくるには働く時間を削るしかない。そうすると収入が減る...だったら、節約するしかありません」

家計の節約に最も効果的なのは、住居費を下げることだ。芳澤さんは、家賃1万円で借りられる一戸建てを探し出す。家賃相場が低い五島でも格安の物件だ。築年数は40年ほど、面積50m2の木造平屋、ただし敷地は190坪。

ここは、“リノベの女王”の腕の見せどころだ。くすんだ色の砂壁の上に漆喰を塗り、天井は白くペイント。左官作業は年配の元職人に伝授してもらい、床の張り替えは大工さんにお願いした。専門性の高い仕事は潔くプロに頼むのも、芳澤流DIYの極意。報酬を支払っても、リノベ費用は合計26万円で納まったという。

「DIYリノベといっても、特別なことはしていないんですよ。ペンキを塗る、釘を打つ。義務教育で誰もが教わる技術があればじゅうぶん」。

必要なのは知恵とセンス。既存部分で生かせるものは生かし、材料は使い回す一方で、新しく持ち込む色やデザインには徹底的にこだわる。芳澤さんのリノベは、そのさじ加減が絶妙だ。

(左上)芳澤さんの自宅。広い敷地にぽつんと建つかわいらしい一軒家。外壁は白くペイントした(右上)リノベ前の室内。砂壁が少し暗い印象(左下)リノベ後のリビング。床は杉の無垢材に張り変えた。ダイニングテーブルはその端材でつくったもの(右下)家事をしながら景色が眺められるよう、窓向きに配置したL字型キッチン。カウンターは大工さんにつくってもらい、シンクはIKEAで購入。合計1万6500円でできたという(写真提供:芳澤瞳)(左上)芳澤さんの自宅。広い敷地にぽつんと建つかわいらしい一軒家。外壁は白くペイントした(右上)リノベ前の室内。砂壁が少し暗い印象(左下)リノベ後のリビング。床は杉の無垢材に張り変えた。ダイニングテーブルはその端材でつくったもの(右下)家事をしながら景色が眺められるよう、窓向きに配置したL字型キッチン。カウンターは大工さんにつくってもらい、シンクはIKEAで購入。合計1万6500円でできたという(写真提供:芳澤瞳)

1年の1/3だけ働き、1/3はまちづくり、1/3は島の日常を満喫

暮らしについても、芳澤さんは明快なポリシーを持っている。

時間の使い方、お金の使い方はこうだ。
「五島で夏とふたり、楽しく暮らすのに必要なお金は1ヶ月に12万円。1年に150万円あればいい。その分を稼ぐために、1年の3分の1は放射線技師として働きます。もう3分の1は、五島をよりよくするために、情報発信したり来島者と地元の人をつないだりする活動に充てています。そして残りの3分の1は、夏と一緒に、ひたすらのんびり、ゆっくりと、五島の日常を満喫するんです」。

息子と一緒に見上げる夕暮れの空は、光も色も、雲のかたちも毎日変化して、飽きることがない。「月の満ち欠け、一番星、もっともっと見ていたいし、多くの人に見てほしい」。


芳澤さんがインターネットを通じて発信した五島やリノベの情報は徐々に広まり、テレビや新聞の取材を受けたほか、地元小学校の総合学習の講師に呼ばれる機会も増えた。NPO五島列島デザイン会議の理事に加え、五島市景観審議会委員、2017年からは長崎県美しい景観形成審議会の委員にも任命されている。

今も家賃1万円の一戸建てに住み続ける芳澤さんだが、2016年12月、ついに不動産の購入に踏み切った。目的は「夏がこのまちを、世界一おもしろい場所だと思えるようにすること」。芳澤さんの新たな挑戦については、稿を改めて語りたい。

芳澤さんが初めて購入した不動産。奥行きの深い木造2階建てで、道路面の大きな開口のほか、左手の路地側にも出入り口がある。芳澤さんが初めて購入した不動産。奥行きの深い木造2階建てで、道路面の大きな開口のほか、左手の路地側にも出入り口がある。

2018年 10月06日 11時00分