アパートを新築したら、建設会社が倒産。将来への不安からDIYに乗り出す

「HandA Apartment」の庭に立つ半田兄弟。右が兄・啓祐さん、左が弟・満さん。「HandA Apartment」の庭に立つ半田兄弟。右が兄・啓祐さん、左が弟・満さん。

福岡県久留米市で“リノベ兄弟”として知られる半田啓祐さん・満さん。自ら所有するアパート「HandA Apartment」を拠点にマルシェやまち歩きなどのイベントを仕掛けるほか、団地のマネジメントやシェアオフィス運営など、市内の広範囲に活躍の場を広げている。

それぞれ進学で久留米を離れ、東京で就職。「Uターンは想定していなかった」はずの2人を引き寄せたのは、父が建てた2棟目のアパートだった。完成後、わずか1ヶ月で建設会社が倒産。「管理を任せる人もおらず、早い段階で修繕が必要になるのではないかと危機感にかられた」と、兄・啓祐さんは振り返る。まず福岡市の不動産会社に転職し、経験を積んだ。

新築の2棟目はまだしも、隣にはそれより20年以上古い1棟目もある。ほどなく空室や家賃滞納が目立ってきた。「新しい方は早い段階でペット可にし、さらに入居者が自分で壁を選んだり色を塗ったりできるサービスを始めました」と啓祐さん。問題は古い方だ。「外観やエントランスが汚れている時点で入居者に選ばれないことを、不動産会社での経験から学んでいた」。共用部をリノベーションすれば、全住戸の価値が上がる。しかし父は、副業のアパートに追加投資を考えてはくれなかった。そこで啓祐さんは、自分で外壁を塗り始める。

“大家さんの息子さん”が、連日のようにアパートに通って塗装作業をする姿は、周囲の目をひいた。必然的に、入居者と顔を合わせ、挨拶を交わすようになる。それがやがて、家賃滞納などルール違反の解消につながっていった。アパートの前を通りかかる近隣の人々も、声をかけてくれ、応援してくれた。10代前半で地元を離れた啓祐さんにとって、地縁がつながる契機にもなった。

兄弟揃って久留米にUターン。アパートにつくった菜園が交流のきっかけに

大学で建築を学び、東京の設計事務所に勤務していた弟・満さんも、この頃からたびたび帰省し、啓祐さんを手伝うようになる。
「ちょうど僕自身の関心が、建物の設計から、企画や運営・維持管理に広がり始めたタイミングでもあったんです」と満さん。
空室になっていた3室も、2人の手で改修した。「東京ならリノベーションで家賃を上げられるけれど、久留米では、プロに頼んでいては採算が合いませんから」。

敷地内の空き地を、家庭菜園として入居者に貸し始めたのが2011年のこと。「ほかの物件との差別化が目的でした」と2人。しかし、そこで入居者同士が野菜を交換するようになり、コミュニティが芽生えた。2年が経つ頃には、入居者だけでなく、近所の人も一緒になって、ハロウィンパーティーやバーベキュー大会を開くようになる。この頃、満さんは東京を引き払い、本格的に久留米にUターン。半田兄弟の活動は、建物からエリアへと展開し始める。

左上:築35年のアパートの外壁をDIYで塗装した。 右上:敷地内の空地に広場と菜園を設けて物件の特徴に。 左下:菜園がきっかけに入居者の交流が生まれる。 右下:近所の人々も招いて広場でバーベキュー左上:築35年のアパートの外壁をDIYで塗装した。 右上:敷地内の空地に広場と菜園を設けて物件の特徴に。 左下:菜園がきっかけに入居者の交流が生まれる。 右下:近所の人々も招いて広場でバーベキュー

アパート内にコモンスペースを開設。コミュニティを地域に広げる

「このまちに、人が集まる場所をつくりたい」と考えた2人は、まず「HandA Apartment」の空室や広場を使って、DIYワークショップや青空教室などのイベントを開く。2014年には道路に面した1室をコモンスペースと決め、近所の人にも手伝ってもらってDIYでリノベーションした。
「小さな箱をいくつも重ねて本棚にするとか、モザイク状に板を貼るとか、あえて手数の多いデザインにして、多くの人にかかわってもらいました」と満さん。まちの名をとって「Kushiwara Common」と名付けたこの部屋には、私設図書館「満月図書館」も同居し、入居者が集まるだけでなく、まちのイベントや写真・動画のスタジオとしても貸す。

「HandA Apartment」がただの賃貸アパートからコミュニティに成長したことを象徴するエピソードがある。
入居者の女性が、親戚でもない“大家さん”の2人を結婚披露宴に招待してくれたのだ。結婚後は、久留米から鹿児島への転居が決まっている。席上で彼女は、“結婚までのライフヒストリー”の一部として「HandA Apartment」でいかに楽しく暮らしてきたかを語り、次の入居者を募ってくれた。今、その部屋には彼女の友人が住み、彼女自身もたまに「HandA Apartment」に“里帰り”している。

左上:「HandA Apartment」で行ったDIYワークショップ 右上:周囲の通りも巻き込んで、マルシェを開催 左下:「HandA Apartment」の一室にコモンスペース「Kushiwara Common」を設けた 右下:「Kushiwara Common」でのミーティング風景左上:「HandA Apartment」で行ったDIYワークショップ 右上:周囲の通りも巻き込んで、マルシェを開催 左下:「HandA Apartment」の一室にコモンスペース「Kushiwara Common」を設けた 右下:「Kushiwara Common」でのミーティング風景

団地「コーポ江戸屋敷」を舞台にコミュニティデザインの学びと実践をシェア

2016年から2人は、“ビンテージ不動産”を提唱する福岡市の「スペースRデザイン」プロデュースによる「コーポ江戸屋敷」の管理・運営を担当している。
約1000坪の敷地に築40年のアパートが3棟並ぶ、全48戸の団地型マンションだ。ここでは、早い段階から“いかにコミュニティを育てるか”を意識した。「オーナーや管理会社が入居者に一方的に住まいを提供するのではなく、入居者もともに、自らの住まいと暮らしをより良くしようと考えてほしい」と満さん。

仕掛けのひとつは、団地内で開催するワークショップだ。入居者の誰もに共通する、住まいの課題解決がテーマ。網戸の張替えDIYや緑のカーテンづくりを実践する。黒い網戸に替えれば外の景色がキレイに見え、緑のカーテンを育てれば夏の強い日差しと熱を遮れる。少しの工夫で暮らしが快適になることを体感してもらう狙いだ。

団地の一室には、大工・電気・造園の職人チームがシェアオフィス「BASE」を構える。自らリノベーションし、造作や家具、照明、外構の工夫を見せるショールームを兼ね、団地内のイベントの場として開く。彼らは入居者として家賃を払う一方で、「コーポ江戸屋敷」内の工事も請け負う。拠点を共有することで、職人同士はもとより、運営の半田兄弟とも自由に意見交換でき、風通しのいいコラボレーションが生まれている。

戸数の多い「コーポ江戸屋敷」では、部屋によって“リノベ度合い”が異なる。半田兄弟が手掛けた当初は3室フルリノベーションしたが、状態のいい部屋なら既存のまま貸すこともある。最近試みているのは、“DIY50%賃貸”だ。床は下地だけ張り、必要な設備を整えて、あとは入居者がDIYすることを条件に貸す方法だ。上限15万円の材料費を支給する。「住む人の手で建物の価値を高めてもらう狙い」と2人は言う。室内のリノベはなるべく入居者に委ね、管理側は建物全体の大規模修繕や共用部の充実、コミュニティの運営に力を振り向けたいと考えている。


「コーポ江戸屋敷」をより良くするために始めたワークショップは、昨年、久留米市内外から参加者を集めてまちづくりを学ぶ「筑後ほとめきカレッジ」に発展した。「ほとめき」とは久留米を中心とする筑後地方の方言で「おもてなし」を意味する。

「HandA Apartment」から始まった半田兄弟の活動は、リノベからコミュニティデザインに発展し、さらに周辺地域への波及効果を産んでいる。“リノベ兄弟”というニックネームも、そろそろアップデートする必要があるかもしれない。

HandA Apartment
https://www.facebook.com/handaapartment/

左上:「コーポ江戸屋敷」外観 右上:フルリノベーションした住戸 左下:「コーポ江戸屋敷」内の「BASE 」を拠点にする職人チーム 右下:「BASE」で開かれた「筑後ほとめきカレッジ」の様子左上:「コーポ江戸屋敷」外観 右上:フルリノベーションした住戸 左下:「コーポ江戸屋敷」内の「BASE 」を拠点にする職人チーム 右下:「BASE」で開かれた「筑後ほとめきカレッジ」の様子

2018年 04月02日 11時06分