首都圏から地方へ、アクティブシニアの移住を想定した「日本版CCRC」

「CCRC」という言葉を聞いたことがあるだろうか。「Continuing Care Retirement Community」すなわち「継続的なケアが受けられる高齢者コミュニティ」の略語で、米国で生まれた概念だ。

日本では2015年頃から、主に「地方創生」とセットで議論されてきた。つまり、東京圏はじめ大都市のシニア世代が、元気なうちに地方に移り住むことを想定したまちづくりだ。「日本版CCRC」は「生涯活躍のまち」を掲げ、「多世代と交流しながら健康でアクティブな⽣活を送り、必要に応じて医療・介護を受けることができるような地域づくり(日本版CCRC構想有識者会議最終報告)」を目指す。

アクティブシニア移住の受け皿として、早くから手を挙げていたのが福岡県北九州市だ。政令市で最も高齢化が進む、いわば課題先進都市(2016年3月31日時点で高齢化率29.0%)。その一方で、医療や介護に比較的余力があり、住宅ストックの充実や各種施設の整備、多様な雇用機会など、大都市ならではの強みもある。昨年12月16日に開催された「北九州市版生涯活躍のまち」説明会から、その具体的な内容を紹介しよう。

2017年12月16日に開催された「北九州市版生涯活躍のまち」説明会風景。壇上は北九州市企画調整局地方創生推進室の岩田健地方創生担当課長2017年12月16日に開催された「北九州市版生涯活躍のまち」説明会風景。壇上は北九州市企画調整局地方創生推進室の岩田健地方創生担当課長

移住情報を配信する「北九州市すまいるクラブ」や「お試し居住」も

北九州市は、東京・有楽町の交通会館に事務所を置き、移住を検討する人の相談に応じたり、移住セミナーを開催したりしている。希望者に定期的に移住関連情報を届ける「北九州市すまいるクラブ」もあり、現在290人ほどが登録しているという。会員になると、「住むなら北九州市!応援団体」に登録した企業などによる特典が受けられるそうだ。

また、実際に北九州での生活を体験してみたい人のために「お試し居住」という制度もある。市が用意した住まいに1週間〜1ヶ月滞在。地元の移住コーディネーターが、それぞれのニーズに応じた訪問先を選び、施設や地域活動の見学などをアレンジしてくれる。

移住する際、多くの人が一番の不安に感じるのは「仕事」ではないだろうか。北九州市では市内と東京事務所の両方でU・Iターン時の就職・転職相談を受け付け、求人情報を提供している。アクティブシニア向けには、役職経験者のセカンドキャリアを支援するプロジェクトが組まれているほか、50歳以上の求職者を対象とした「シニア・ハローワーク戸畑」が常設されている。

「北九州市版生涯活躍のまち」の特徴は、既に豊富にあるコミュニティや施設を活かし、行政と民間企業・団体が連携して「日本版CCRC」の実現を目指す点にある。中でも特に有望な地域資源を持つ6つのモデルエリアを決め、取り組みを先行させる計画だ。説明会では、6エリアの中でも最も早くまちづくりが進む、洞南地区の取り組みが取り上げられた。

洞南地区の取り組みを紹介する、一般社団法人北九州おたがいさま推進事業協会代表理事の権頭喜美惠さん洞南地区の取り組みを紹介する、一般社団法人北九州おたがいさま推進事業協会代表理事の権頭喜美惠さん

特養にカフェやFMスタジオを併設。地域の人との自然な交流を生む

北九州市西部に位置する洞南地区は、人口約2万人。「生涯活躍のまち」の中心的役割を、一般社団法人北九州おたがいさま推進事業協会(以下、協会)が担う。名付けて、“ど〜なん縁が輪コミュニティ”。協会代表理事の権頭喜美惠さんは、コミュニティの理念を次のように説明する。「赤ちゃんから高齢者まで、すべての地域住民が、それぞれ自分にできることをして、“おたがいさま”の気持ちで助け合うこと。赤ちゃんにだって、みんなを笑顔にすることができます。そして何より大事なのは、その精神を次の世代に伝えていくことです」

地域の主な交流拠点となるのは、特別養護老人ホームでもある「銀杏庵穴生倶楽部」だ。1階にカフェやコミュニティFMのスタジオが併設されており、ホームと関係がない人も自由に出入りできる。ランチタイムには、小さな子どもを連れたお母さんたちで賑わうことが多いそうだ。まだ、最上階には地域の人が借りられるスタジオや学習室があり、ヨガやリトミックなどの教室、学習塾も開かれる。入所者にとっては、自然に外部の人々と接する機会になる。

説明会当日は、月に1度の「もやいマルシェ」の日でもあった。「銀杏庵穴生倶楽部」の内外に野菜や鉢植え、パンなど様々な出店が並び、お菓子づくりなどワークショップも開かれた。ほか、地域の医師による健康チェック、ドラッグストアから派遣されたインストラクターによる体操教室と、盛りだくさんの内容だ。権頭さんは「始めたばかりの頃は参加者もお客さんもなかなか集まらなくて、くじけそうになりました」と振り返るが、31回目を迎え、地域のイベントとしてすっかり定着したようだ。この日は小雨模様の寒い日だったにもかかわらず、大勢の人で賑わっていた。

「もやいマルシェ」の様子。「銀杏庵穴生倶楽部」の内外に出店が並び、体操教室やワークショップなどのイベントも開催される「もやいマルシェ」の様子。「銀杏庵穴生倶楽部」の内外に出店が並び、体操教室やワークショップなどのイベントも開催される

サ高住に学生が同居。認知症患者の捜索訓練もまちぐるみで。

ユニークな試みのひとつに、2016年4月から始めた「ひとつ屋根プロジェクト」がある。これは、サービス付き高齢者向け住宅の空き部屋を、大学生に提供するというもの。家賃を免除する代わりに週3回、高齢者と食事をともにし、地域のボランティア活動にも参加してもらう。前出の権頭さんは「サ高住の入居者さんも、学生たちと暮らすことで確実に若返りました」と語る。

2017年には、協会と警備会社ALSOKの協働で、認知症行方不明者捜索の模擬訓練も行った。子どもから高齢者まで、幅広い年齢層が、捜索役と行方不明者役に分かれて地域内を歩く。行方不明者役は認知症患者が身に付ける小型端末を持ち、捜索はチームで行う。通りすがりの人にも挨拶して協力を呼びかけた。

ほか、1年に1度、市長も招待して「繋がるまちづくり大発会」を開催する。地元企業やボランティア団体、社会福祉協議会などがそれぞれの活動を発表し、情報共有に役立てる狙いだ。「地元でも、お互いに知らないことはたくさんあります。“知らない不幸”を、“知る幸せ”に変えていきたい」と権頭さんは語った。


北九州市に移住・定住するための北九州市公式情報サイト「北九州ライフ」
http://www.city.kitakyushu.lg.jp/page/kitakyushulife/index.html

2018年 01月28日 11時05分