スクラップ&ビルドからストック型の住宅市場へ

人口の減少や建物の過剰な供給によって増え続ける空き家や空き店舗。従来のリノベーションに加えて、既存建築を長く維持しようとする手法の一つとして新しく見出されているのが「DIYリノベーション」だ。
「DIYリノベーション」は、DIYによって、居住者自身が主体的に住空間づくりに参画するリノベーションを意味し、徐々に広がりを見せている。

2016年8月27日、DIYと賃貸と暮らしと経営のかかわりを考える「九州リノベSTUDY 2016」が福岡市で開催された。
主催は、福岡を中心に老朽ビルの再生を手掛ける株式会社スペースRデザイン(以下、スペースRデザイン)。
ゲストスピーカーには、賃貸住宅におけるセルフリノベーション(=DIYリノベーション)の効果を研究する大阪市立大学都市研究プラザ 西野雄一郎氏が登壇し、東京、大阪、福岡の事例を中心にDIYリノベーションが賃貸住宅に与える変化が発表された。

これまで立地や間取りなどの条件から選ばれることが多かった賃貸住宅。DIYリノベーションは、借り手、貸し手のそれぞれにどのような影響を与え、人口減少によって衰退していく地方都市にどのような変化をもたらすのか。
「セルフリノベ研究家」として数多くの事例を研究している西野氏の発表を中心にイベントの様子をお伝えしたい。

会場となったのは、株式会社スペースRデザインが再生を手がけた<BR />1977年築の新高砂マンション1階の空きスペース(旧清川リトル商店街)会場となったのは、株式会社スペースRデザインが再生を手がけた
1977年築の新高砂マンション1階の空きスペース(旧清川リトル商店街)

全国でも独自の動きを見せる福岡のDIYリノベーション事情

「九州リノベSTUDY 2016」主催の株式会社スペースRデザイン代表取締役 吉原勝己氏。福岡市内の老朽化したビルの保存・再生に取り組んでいる「九州リノベSTUDY 2016」主催の株式会社スペースRデザイン代表取締役 吉原勝己氏。福岡市内の老朽化したビルの保存・再生に取り組んでいる

スペースRデザインでは、2003年11月に福岡では初と言われている築36年(2003年11月当時)の賃貸マンションをリノベーションした「山王マンション」や、2006年4月に築47年(2006年4月当時)の賃貸アパートを商業テナントビルに用途変更し、"住まいから活動の場へ"と生まれ変わった「冷泉荘」などを手がけている。さらに2014年からは、福岡市を中心に久留米市や八女市、大牟田市など福岡県各地の再生したビルを巡るバスツアー「福岡DIYリノベWEEK」など、"リノベーション物件"を活用した様々な活動も行っている。

株式会社スペースRデザイン 代表取締役の吉原勝己氏は、これまで福岡県内で登場したDIY型賃貸の事例から、不動産オーナー、つまり、"リノベーションのプロではない人々"が独自の手法でDIYを用いた経営を始めている点が共通している点を挙げる。
「福岡市は政令指定都市の中でも、集合住宅に住んでいる方の割合が特に高い都市の一つです。また、福岡に限らず1960年代以降の建設ラッシュによって建てられた集合住宅は、いま世代交代が起こっています。先代から相続によって賃貸マンションを譲り受けたものの、東京などと比較して低い家賃相場では、低い利回りのために初期費用をかけることができません。人口減少の局面で空き家対策に取り組もうとする際、必然的に初期投資のコストを抑えることのできる"DIYリノベーション"という選択が出てくるんです」と語る。

全国のDIY型賃貸住宅を訪問 調査で見えた住人の変化とは?

賃貸住宅のセルフリノベーションを全国的に調査し、普及する研究を行う大阪府立大学 西野雄一郎氏賃貸住宅のセルフリノベーションを全国的に調査し、普及する研究を行う大阪府立大学 西野雄一郎氏

「私自身、築60年の賃貸物件をDIYで自分の好きな空間にカスタマイズしたことで、部屋に愛着が生まれました。カスタマイズしたこの部屋は、市場価値としても高まっているはずで、物件のオーナーとしても嬉しいはず。こうした賃貸住宅のDIYによって可能性を感じた体験が、賃貸住宅におけるセルフリノベーションの研究はじめるきっかけでした」と語るのは、大阪市立大学都市研究プラザ 西野雄一郎氏だ。

これまで賃貸住宅で行なわれていた従来のリノベーションについて西野氏は、「高度経済成長期に建てられた共同住宅は、公共民間ともにリノベーションが進んでいます。ただ、リノベーションをする主な理由は、建物の老朽化、間取りの変更への対応です。一般的にニーズの高い意見を取り入れ、無機質な白い塩化ビニールの壁紙、無垢材を使用したフローリングといった標準的な空間になってしまいがちです」と語る。さらに、賃貸契約における"原状回復義務"も、住まいに個性を出しにくくさせる要因の一つであった。
そこで西野氏は、これまでDIYリノベーションが可能な部屋を取り入れている全国34の賃貸住宅を訪問し、実際にDIYリノベーションをしながら住んでいる住人と、そうした物件を提供しているオーナー、仲介業者にヒアリングを実施した。住み心地や自分らしい生活の実現などの住み手の立場と、賃貸契約の方法や入居率、家賃設定などの事業としての貸し手の立ち場の両面から、DIYリノベーションが賃貸住宅に与える変化について調査をしている。

調査から見えてきた変化の一つに、住み手の「住まいに対する当事者意識」が挙げられるという。
住人にDIYの目的や箇所についてヒアリングをすると、収納不足の解消などの機能改善という理由が最も多く、次いで壁紙の張り替えといったインテリアの個性化が続く。こうしたDIYの経験が、我が家意識の高まりや愛着に繋がる点に加えて、DIYの知識や技術の共有、作業の手伝いなどを通じて、他の人と人との関係性を築きあげられる点がポイントだ。つまり、「DIY」は関わった人たちのコミュニケーションを生む媒介となるのだ。不動産を所有しなくとも、集住コミュニティに主体的に関わる意識や、"住まいは自分たちでつくるもの"という意識を喚起することができるという。
また、西野氏は「家族構成や趣味志向の変化に応じて、"居住者自身が部屋を変え続けていく"というセルフリノベーション(=DIYリノベーション)は、"持続型居住の本質"に迫るものだと思います」と語る。

従来の賃貸の経営、仕組みの変化までも

一方DIYリノベーションは、貸し手である大家・賃貸経営にどのような変化をもたらしているのだろうか。
意外にも西野氏は、当初、多くの懸念があったという。賃貸契約における"原状回復義務"の存在や家屋の損壊、そして賃貸経営が成り立つのか、という点である。

しかし、調査を進める中で、こうした問題点を解決する仕組みが整いつつあると西野氏は語る。
まず、原状回復義務について有効な手段が、「改修の事前承認制」である。
賃貸契約書に『事前に改修の承認を得たものは原状回復義務を免除する』という条項を追記しておき、DIYなどで改修を行なう場合には住み手が事前に申請し、貸し手がそれを確認・承認をする、という流れだ。つまり、改修箇所と程度を把握し、承認をした段階で、"新しい現状"に再定義されるのだ。申請の手段としては、各物件によって異なるものの、口頭やメールなどの他にスケッチや、フォーマット図面が中心である。

さらに西野氏は、賃貸経営の観点からもDIYリノベーションの事業性が高い点をあげている。
初期投資が不要、もしくは1~5年で回収できるケースが多く、家賃も上がるもしくはそのままという。中には、初期投資をかけていないにも関わらず、家賃をあげているケースも見受けられるという。
「従来のリノベーションは完了した時点が最高で、その後は価値が低下していくのに対し、効果的なDIYリノベーションは、手を加えることで価値を更新していく仕組みです。住戸の個性化や時代に即した改修が進むことで、家賃や入居率の向上、メンテナンスコストの低減に繋がる可能性もあります。長期的にみれば、耐震化などによる長寿命化、魅力化に繋がる可能性もある重要な意味をもっています」と語る。

入居者は決められたフォーマットに沿ってDIYリノベーションを希望する箇所を記入、大家に申請をする入居者は決められたフォーマットに沿ってDIYリノベーションを希望する箇所を記入、大家に申請をする

地方都市の活性化に求められるパブリックの場に対するDIY精神

日本の各地で徐々に広がりを見せるDIYリノベーションだが、この先地方都市の衰退を考える上で、"住民の力"がより必要になってくると西野氏は語る。
「全米随一の人気移住都市として話題のポートランドを視察すると、まち全体が実に綺麗に使われており、自治が機能している印象を持ちます。道路には住民たちが自主的に描いたペイントアートが描かれており、ゴミのポイ捨てに対する抑止力になっていました。住宅のリノベーションの場合、住宅や不動産が好きな人しか興味関心がないという点に限界があると感じており、こうした誰が見てもわかる道路や学校といった公共施設を、DIYによって変化させていくことが、結果的により多くの人が気づき、住民自身が自分たちのまちを変えていこうという当事者意識の変化につながるきっかけだと思います」と語る。

「与えられた住居」ではなく、「自分の住まいをつくりだしていく」ことは、同じ想いを持つ人々、つまり、将来のまちづくりに欠かせない人々を呼び寄せることにつながる。
賃貸住宅に対する愛着を見いだす可能性のあるDIYリノベーション。貸し手と借り手の協働によって生み出される"借りて住むことの楽しさ"は、地域が抱える課題の解決、そして地方の衰退都市に変化をもたらす可能性があると感じたイベントだった。

2016年 10月05日 11時05分