九州の玄関口北九州と、北九州の台所「旦過市場」

「北九州の台所」旦過市場の入り口。郷土料理の「ぬかだき」を扱う総菜屋や鮮魚・生肉・青果店が数多数立ち並ぶ「北九州の台所」旦過市場の入り口。郷土料理の「ぬかだき」を扱う総菜屋や鮮魚・生肉・青果店が数多数立ち並ぶ

北九州市は、古くから関門海峡に接した海上交通の要で、物流や港湾都市として発展してきた。主要駅である小倉駅は、本州と九州の接点であり、山陽新幹線と九州新幹線の全列車が停車する。在来線も、大分・宮崎・鹿児島の東九州を結ぶ日豊本線の起点駅であり、重要な乗換駅だ。多くの列車が小倉駅を始発・終着している。

博多駅から新幹線に乗ること約15分。
小倉駅に降り立ち、南口からほぼまっすぐ歩くと、昭和レトロの風情たっぷりの「旦過市場」に着いた。
全長180mの通りを中心に、路地や横道、枝道が伸びた迷路のような場所だ。ほとんどの建物が昭和30年代築のものだという。鮮魚や青果、惣菜点などの約120店舗が立ち並び、活気がある。献立の相談をする客と店主の距離感にわくわくする。中には今風のオシャレな店舗もあり、雑多な感じも心地いい。こんな市場が主要駅から徒歩10分もしない位置にあるのだ。
地方都市におけるそれは「最大の資産」も言えるだろう。

そんな旦過市場の隣に、2015年9月11日、ゲストハウスと飲食店の複合施設「Hostel & Dining TangaTable」がオープンした。

「リノベの聖地」と謳われる北九州。その理由とTangaTableのはじまり

ホラヤビル4階。窓からは川向いの旦過市場がすぐ下に見えるため、遊び心のあるデザインがホラヤビル4階。窓からは川向いの旦過市場がすぐ下に見えるため、遊び心のあるデザインが

今やリノベーション業界から、北九州は「リノベの聖地」と呼ばれていることをご存知だろうか。その起こりは北九州家守舎が運営する「リノベーションスクール@北九州」にある。
2011年8月から半年に1度開催されているスクールには全国から多くの受講生が集まり、10人ほどのチームを組んで、割り振られた実際の空き物件に対するリノベーションの事業プランを作成する。ここでいう「リノベーション」とは、その空き物件単体の改装の域に止まらない。
どうすればその物件のあるまちが良くなるか、楽しくなるか、賑わいを継続していけるかなど、エリアの価値を上げ、地域を生まれ変わらせる事業やそれに基づく物件の改装プランを、4日という短期間で真剣に考える。
まさにリノベーションスクールは、不動産再生とビジネス形成、事業計画の実践を通して都市再生の手法を学ぶ場なのだ。最終日には各チームが公開プレゼンテーションを行い、スクール後は提案をもとに実事業化を目指す。
TangaTableは、2014年2月に行われた第6回のスクールの提案を形にしたものだ。

人口減少の最中、地方の空き家や空き店舗の増加は著しい。
寂れた駅前の商店街やかつて栄えていたまちの虫食い状の空き地など、全国的に広がる地域の課題を解決し、まちの未来を築いていこうと、この小倉で生まれた「リノベーションスクール」という仕組みが全国に広がりを見せている。

スクールには毎回全国から多様な受講生や講師が集まるが、小倉駅周辺にあるのは、いわゆるビジネスホテルばかりだった。
小倉らしさがあり、かっこよくて、かつ手軽に宿泊できる場所がなかった。
そこに、旦過市場横の「ホラヤビルの4階部分」が、あるチームの対象案件となったのだ。
立地は良いが、約180坪もの広さがあり、そのせいか10年間も借り手が見つからずにいた。
初期投資が大きくかかるためだ。けれど目的性が高く投資回収の目処の立ちやすいものであれば事業の継続は可能である。
「自分たちの欲している宿泊施設と、旦過市場の人や食を組み合わせた”Hostel and Dining”をやろう。」と閃いた。旦過市場自体も、客層の高齢化という懸念を抱えていたため「もっと若い人にも来てほしい。」という店の人たちの思いも汲み取られている。

「地元の食材を使った料理が食べられて、地域の人が気軽に訪れ、旅行者が交流できる、大きなテーブルのような場所。」そのコンセプトは、実事業化した今もブレない。

自分たちでリスクをとるからこそ、責任を持ってまちを元気にする覚悟が生まれる

北九州家守舎と株式会社タンガテーブルの取締役 遠矢弘毅さん(右上)と、2015年10月から加わったマネージャーの井開美恵さん(真ん中左)。井開さんは、初めて訪れた際、「自分のやりたかったことがここにある!」と直感でタンガテーブルに加わることを決めたそう北九州家守舎と株式会社タンガテーブルの取締役 遠矢弘毅さん(右上)と、2015年10月から加わったマネージャーの井開美恵さん(真ん中左)。井開さんは、初めて訪れた際、「自分のやりたかったことがここにある!」と直感でタンガテーブルに加わることを決めたそう

実際にスタートするには多くの苦労があった。
物件を宿泊施設にするために、避難経路の確保など、設計上や法的な問題を一つ一つクリアしていかなければならない。

そして、事業化の最大のポイントは資金調達だ。
まず、TangaTableを運営するための特別目的会社「株式会社タンガテーブル」を設立した。
資本金は北九州家守舎のほかプロジェクトに参加する事業者およびビルオーナーからの出資による。
北九州家守舎はこの出資のために増資を実施し、その際、取締役と全国の事業に賛同する人からの出資があった。
この株式会社タンガテーブルが設立できたことで、MINTO機構(一般財団法人民間都市開発促進機構)の「匿名組合契約に基づく出資」の大臣認定を受け、地域金融機関からの融資も実現し必要資金を調達した。
MINTO機構からの出資受けているということは国からも、人口減時代の新しい仕組みとして期待されているということであり、地域金融機関も新設会社に期待を込めたといえる。

これまで、駅前再開発等には補助金が使われることが多かったが、民間の力でまちを元気にしていくことに彼らはこだわる。
「まちの賑わいを継続していくためには、腹をくくった人間がまず自分たちでその責任を持つことが大事。」だと、遠矢さん(北九州家守舎共同代表・タンガテーブル取締役)は語る。

自分達が、まちの人が、自宅の延長のように人を迎えられる場所として。TangaTableがここにある意義とは

番頭の西方俊宏さん(真ん中)と、ダイニングスタッフの細国さん(左下)、受付の橋部さん(右下写真の右))マリンさん(右下写真の左)番頭の西方俊宏さん(真ん中)と、ダイニングスタッフの細国さん(左下)、受付の橋部さん(右下写真の右))マリンさん(右下写真の左)

ゲストハウスのベッド数は67。
男性用と女性用ドミトリー、3〜4人で一緒に泊まれるものや和室タイプの部屋、大きめのベッドの個室がある。
全てのベッドはこだわりのシモンズ製マットレスで、良質な睡眠を確保できそうだ。
ドミトリーは、プライバシーに配慮した構造になっていて、各ベッドの入り口のカーテンは1つ1つデザインが違い、配色も可愛らしい。
シャワールームとトイレが男女別で各4つずつあり、湯船に浸かりたければバスタブのあるブースもある。
共用のキッチンでは、旅行者が買ってきた食材で自由に調理できる。旅行者同士の交流の場にもなっており、先日は旦過市場から材料を調達してモツ鍋を楽しんでいたらしい。
モツ鍋といえば博多が有名だが、番頭の西方さん曰く、ここは濃い出汁と肉に漬け込まれた甘い醤油があと引く美味しさだという。

宿泊料金は約3,000円〜とリーズナブルで利用しやすく、そのためか、宿泊客の多くは、意外なことに福岡市から来る人だそう。小倉で友人の結婚式や飲み会があった時など、終電を気にせず飲み明かすことができる。
また、小倉の交通アクセスの良さから、早朝出かけて深夜に宿に戻ってくる海外からの旅行者の連泊も多い。出張等のビジネス利用の宿泊客も増えているそう。そして、スタッフやまちの人の友人が全国から泊まりに来る。

何より、スタッフがこの場所を好きなのだ。
友人を気軽に呼べる場所がある。この場所を通じていろんな地域や国に友人が増える。
「誰かが誰かに会いに来る。そんな時の人とまちとの接点になれていると実感する時がある。ここを拠点に自分もまちを楽しめるようになった。」と西方さんが語ったのが印象的だった。

ただ、「宿泊施設」としての目的性の先行と、一見したところの入り口の分かりづらさもあり、「飲食店」としての認知度に課題が残っていた。
そこへ、都内や関西で食に関する仕事に携わり、地元北九州での独立を考えていた現マネージャーの井開さんがTangaTableの門戸を叩く。
「北九州の豊かな食材と環境の良さを活かしたお店をいつかやりたい。」そんな彼女の思いが実現できる場所がここにある。直感でTangaTableに飛び込むことを決めた。
「ゲストハウスが隣接している強みを最大限活かした、北九州を味わえる取り組みをを全てやってみたい。」と、すでに様々な企画開発やその情報発信を積極的に行っている。

稼働率や投資回収など、当初の予定に対し「計画通りとは言い切れないが、想定の範囲内。いい流れになってきました。」と遠矢さんは慎重に、けれども胸を張ってそう語った。

10数名の雇用を生み出し、ダイニングの月の利用客が約1,000人、宿泊客は600人、既に年間約2万人もの人がこの場所に訪れている。
10年間空いていたこの場所が、いまだ空き家だったとしたら、すでにその差は歴然だ。

地元の食材を使い、100人規模の立食イベントも完璧に対応できるダイニングと、飲みすぎてもそのまま泊まれる場所ができた。
北九州の外からも、中からも、きっとここを通して新たな発見があるだろう。
TangaTableは、まだまだこのまちを楽しくしていくに違いない。

2016年 12月06日 11時06分