建物性能と健康には密接な関係あり

岐阜県美濃市の美しい山間の懐にある「岐阜県立森林文化アカデミー」。演習林の山を含め40ヘクタールという広さ!岐阜県美濃市の美しい山間の懐にある「岐阜県立森林文化アカデミー」。演習林の山を含め40ヘクタールという広さ!

2015年11月27日、岐阜県立森林文化アカデミーによるセミナー「ヒートショックを起こさせない住宅のつくり方」が開催された。

岐阜県立森林文化アカデミーは、林業、森林環境教育、木工、木造建築などのスペシャリストを養成する公立の専門学校。「林業経営に従事」「オーストラリアでエコガイドツアー」といった個性的な経歴をもつ講師が揃うなか、今回のセミナーは、住まいの温熱環境やエネルギー消費について研究し、木造住宅の設計や環境性能評価の講座を多数行っている一級建築士の辻充孝准教授が講演を行った。

セミナーは、建物性能と健康に関する話から始まった。

「厚生労働省のデータによると、日本人の死亡原因で最も割合が大きいのは悪性新生物(がん)で、続いて心筋梗塞などの心疾患、脳梗塞などの脳血管疾患、肺炎、老衰となっています。このうち心疾患、脳血管疾患は住まいの温熱環境と密接な関わりがあると考えられます。今日のテーマであるヒートショック、つまり温度差による血圧変動で脳梗塞や心筋梗塞を引き起こす方も多いようです。肺炎についても温熱環境は関係があり、特に寝室の気温が低いと、寝ている間に冷たい空気を吸い込んで肺の機能が下がってしまいます」

ヒートショックの危険度は交通事故の約3倍

次に、温度環境と心疾患や脳血管疾患の相関性を示す日本を含む世界のデータを紹介し、「スペインやイタリアなど寒さに対する備えが不足している地域ほど冬場の死亡率が高くなり、室内温度が20℃を下回らないよう24時間管理している北欧やイギリスでは死亡率の季節間変動が小さくなる。日本では、夏と冬の温度差が少ない沖縄と北海道で死亡率の季節間変動が小さい」という見解を示された。

さらに、日本の75歳以上の女性10万人のうち20人が浴室でヒートショックを起こしていることにも触れ、「脱衣所とお風呂の温度差は冬場になると25℃以上になることもあり、これが血圧変動を引き起こす原因となる」と指摘された。

ヒートショックは交通事故の約3倍の危険性があるという。建築年代の古い家(2000年以前)は、やはり温度環境が劣るとのことだが、「温度環境を良くする対策を施せば古い家でも心地よく健康に暮らせる住まいにすることは可能」と辻先生は話す。

今回のセミナーでお話ししてくださった辻充孝先生。森林文化アカデミーでは木造建築の授業を担当されている今回のセミナーでお話ししてくださった辻充孝先生。森林文化アカデミーでは木造建築の授業を担当されている

断熱性能を高めて生活空間全体を暖かく

布団の中とトイレの温度差が25℃を超えることもあり、とても危険! 断熱性能の低い住まいで夜中にトイレに起きるときは、上着をはおるなどしたほうがいいかもしれない布団の中とトイレの温度差が25℃を超えることもあり、とても危険! 断熱性能の低い住まいで夜中にトイレに起きるときは、上着をはおるなどしたほうがいいかもしれない

では、どのような対策をすればいいのだろうか? 辻先生はこんな提案をされた。

「大きなポイントとなるのは、温度変化の少ない暖かい住まい。生活空間全体を暖かくするには、断熱性能を上げるのが理想です。窓改修、壁改修、屋根改修など大変な作業をしなくても、たとえば厚手のカーテンを閉めるだけでも熱のロスがなくなります。最近では空気層の入ったブラインドなども出ていますし、そういったものでも簡単に断熱改修はできるので、まずはそのあたりから始めてみてください。トイレ、洗面所、浴室など、寒さに対し無防備になる場所に暖房設備を設置するのも効果があります。部屋の温度差を緩和することはヒートショックの予防につながるので、温度差が出ないようにして健康リスクを回避しましょう」

もう少し本格的に改修をしようという場合には工務店やハウスメーカー、設計事務所などに相談することになるのだが、ぜひ次のことを確認してもらいたいという。

改修を依頼する前に聞いておきたいこと

「これから家づくりをされる方や改修を考えている方は、改修を依頼する前に『断熱性能はどれくらいありますか? どんな効果がありますか?』と聞いてみてください。そして、明確に納得できる答えを返してくれるところに改修をお願いしてください。曖昧に『うちは暖かいから大丈夫ですよ』などと答えるところは敬遠したほうがいいと思います」

住まいの断熱性能を高めることで、さまざまな効果を得られるという。たとえば、暖房費が抑えられる、全館連続暖房が可能になる、無暖房でも室温を高く保つことができるため万一ライフラインが止まっても寒くない、体感温度が向上する、など。

また、暖房器具と加湿器の併用による結露の問題も解決できるという。湿度が90%を超えるとカビの発芽率が急激に上がり胞子を空気中に飛散させるため、それを吸い込むと肺疾患の原因になることから、加湿のしすぎは良くないそうだ。

資料を見ながら辻先生の話を熱心に聞く受講者の方々。皆さん健康で心地いい住まいに対する関心が高い資料を見ながら辻先生の話を熱心に聞く受講者の方々。皆さん健康で心地いい住まいに対する関心が高い

耐震と断熱のセット改修がおすすめ

セミナー終了後には辻先生が受講者から個別に質問を受ける場面も見られた。すでに「温熱性能」に対する意識の高い方もおられるようだセミナー終了後には辻先生が受講者から個別に質問を受ける場面も見られた。すでに「温熱性能」に対する意識の高い方もおられるようだ

断熱リフォームをするのであれば全体を行うのが理想だが、費用の都合などで難しい場合、リビング・寝室・水回りをリフォームすることを辻先生は推奨する。床や天井、窓だけのリフォームは、費用は抑えられるものの断熱効果があるかどうかハッキリわからないため、あまりおすすめではないそうだ。

最後に、辻先生からこんなアドバイスがあった。

「住まいの性能の中で大きく人の命に関わるのが温熱性能と耐震性能です。耐震改修は普及していますが、耐震だけではもったいないですね。耐震改修は壁や屋根が中心なので断熱改修も一緒にできますし、セットで改修すればリーズナブルにできると思います。長年住み続ける家ですから、断熱改修を考えてみてはいかがでしょうか。今日をきっかけに、まずは身近な温度を測るあたりからトライしていただいて、どんな温度環境に住んでいるのかを意識してみてください」

さっそく温度計と湿度計を用意して、部屋の温度環境を確認してみようと思う。しまい込んである小さめの電気ストーブも引っぱり出して、冷え冷えとした浴室の脱衣所に設置しよう!

【取材協力】
◆岐阜県立森林文化アカデミー


2015年 12月25日 11時07分