同一フロアに客室と住戸が共存する、福岡市初のホテル&レジデンス

montan HAKATA改装イメージ図(資料:インテリックス)montan HAKATA改装イメージ図(資料:インテリックス)

2017年10月、1棟の中に客室と賃貸住宅が共存するホテル&レジデンス「montan HAKATA」がオープンした。所有者は、中古マンションの再生流通事業を手がける株式会社インテリックス(本社:東京都渋谷区 以下インテリックス)。運営は株式会社ベステイト(本社:福岡市博多区)が行う。
montan HAKATAは、福岡空港からも近く、博多駅から徒歩8分ほどの位置にある築30年の賃貸マンションをリノベーションしたもの。福岡市の旅館業法施行条例改正が後押しとなり再生された、福岡初の大規模混在型物件である。
9階建のこの建物は現在、全94部屋の内、賃貸中の住戸を除く48室が客室となっている。建物の概要は以下の通りだ。
■7-9階:レジデンス 各フロア12室
■4-6階:ホテル&レジデンス 各フロア12室(20.4~29m2)
■3階:ホテル12室(同)
■2階:ホテル15室(同)内ドミトリー3部屋 共用トイレ/洗面/シャワーブース/ランドリー
■1階:フロント・ロビー・オープンキッチン・縁側 / テナント
4~6階は今後、賃貸住戸で退去のあった部屋から客室にリノベーションしていく(最大60室まで)。7階以上のフロアは、法令の関係で客室にすることは難しいが、旅行者とのコミュニケーションを軸としたシェアハウスなどを検討中だという。動向を見ながら今後もニーズを探っていくそう。
1階の共用部は、居住者や旅行客だけでなく地域住民にも開けたコミュニティースペースとしての機能を持ち、フロントに常駐するスタッフが利用者間の交流をサポートしていく。

物件取得から再生の経緯、montan HAKATAを拠点とした今後の展望について、インテリックス代表取締役 山本卓也氏、同社取締役・ソリューション事業部長 俊成誠司氏に話を伺った。

リノベーションをもっと広めたい!物件の取得と再生の経緯

2017年6月に23期目を迎えたインテリックスは、グループで年間約1000戸のリノベーション物件を流通させている。リノベーションを全国に広めたいとの思いから現在全国に7拠点を置く同社が、福岡に事業所を出したのは4年前のこと。立ち上げに伴い、俊成氏は「福岡は多様性を受け入れるまち」との印象を持ったそう。アジアの玄関口としてのポテンシャルがあり、若者の人口流入の多さはリノベーションとの親和性も高い。そうした「まち」への期待から同社は福岡での物件取得を決定し、3年前にこの建物を購入したという。
もとは企業の社宅として建てられ、その後ワンルームタイプの賃貸住宅となっていたこの建物は、アクセスの良い立地と、土地面積に対して容積率が未消化であるという規模感(改装や建替えでバリューアップができる)、吹き抜けの中庭がある建物空間自体の面白さが購入の決め手だったそう。
とはいえ、購入時の入居率は7割ほど。そのまま賃貸マンションとして運用しては、空室リスクにさらされるだろう。また、1部屋毎にリノベーションをしても現在の賃料水準ではコストが合わない。そうした多くの築古の賃貸物件が抱える問題を、この建物でどう解決するかが鍵だ。
マンスリーやウィークリーマンションとするには、収益性や法的な問題が懸念事項となった。シェアハウスにするには、特徴をいかに出していくかが肝となるだろう。民泊は、ニーズは高いもののその多くが違法状態にあり、法整備も未成熟だ。「ホテルが取れない!」と度々耳にする福岡ではあるが、条例が厳しく、ホテル化での収益見込みは薄い…。
検討を重ねる中、福岡市の旅館業法施行条例が改正され(2016年12月施行)、共同住宅の住居と宿泊施設の混在禁止規定が緩和された。1棟毎やフロア毎ではなく、1部屋単位での旅館業申請が認められたため、同一フロアに居住者とホテル滞在者が隣接していても営業許可が取得できる。この条例改正によって同社はホテル&レジデンスへの再生に踏み切った。

各種部屋写真。ツイン(左上)、トリプル(右上)、ドミトリー(左下)、シャワー・洗面ブース(右下)その他にも、和室や4人部屋、ファミリータイプなど、様々な部屋タイプを比較的リーズナブルな価格で用意したそう。(写真:インテリックス)各種部屋写真。ツイン(左上)、トリプル(右上)、ドミトリー(左下)、シャワー・洗面ブース(右下)その他にも、和室や4人部屋、ファミリータイプなど、様々な部屋タイプを比較的リーズナブルな価格で用意したそう。(写真:インテリックス)

よりローカルに、よりグローバルに。「おかえりなさい」で迎える場所

読者のみなさんは「ニューツーリズム」という言葉はご存知だろうか。明確な定義があるわけではないが、物見遊山的にその地に行くのではなく、よりテーマ性のあるそこでしかできない体験や、出会う人々との交流とそこで生まれる何気ない出来事を求めて旅をする人が増えている。
例えば筆者も、旅先のふらりと入った居酒屋で常連さん達と一緒に飲んだ経験や、異国の地で、たどたどしい英語と現地の単語で試みたコミュニケーションが受け入れられたこと、その場にあった笑顔や温かな空気感は、忘れられない素敵な思い出になっている。おそらく、そういうことだ。誰かにとっての日常は、別の誰かにとって特別な体験になることがある。そんな想いがmontan HAKATAに組み込んであるように思う。
コンセプトは『暮らすように泊まり、友のように語る。』
名前のmontan(モンタン)には、フランス語の「私の時間(mon temps)」と、日本のある地方の方言「帰ってきたんだね」という2つの意味が込められている。
フロントでは、居住者も旅行客も「おかえりなさい」と出迎え、1階共有スペースは近隣の住民にも開放しているそう。ロビーに併設されているオープンキッチンや卓球台を利用して、地域に開けた料理教室や卓球大会なども企画していく予定だ。
10月初旬に行ったお披露目会では、「工事期間中にご迷惑をおかけしたので」と入居者や近隣住民を招いたところ、夕刻から夜更けまでとても賑わったという。
ちなみに、主な既存の入居者の層は20-40代の単身者とSOHO利用者。入居者からは概ね良い反応を得られているようで、暗かった入口が明るく一新されたこと、フロントができたことから「コンシェルジュ付きのマンションみたい!」という喜びの声もあるそう。

また、山本氏は「ゆくゆくは単なる賃貸とホテルではなく、パブリックなスペースを活用し、レジデンス部分をより旅行者とコミュニケーションのとれるシェアハウスにしていきたい。」述べている。

エントランス(左上)、縁側をイメージした共用リビング(右上)とオープンキッチン併設の共用ダイニング(左下)、中庭(右下)1階のこれらのスペースは、入居者も旅行客も地域の人も自由に利用できるそう(写真:インテリックス)エントランス(左上)、縁側をイメージした共用リビング(右上)とオープンキッチン併設の共用ダイニング(左下)、中庭(右下)1階のこれらのスペースは、入居者も旅行客も地域の人も自由に利用できるそう(写真:インテリックス)

エリアリノベーションの発信源となる

内覧会にて。左から、髙田郁氏(ソリューション事業部)・俊成誠司氏・山本卓也氏・野尻祐介氏(シェアハウス・ホテル立上げ担当)(撮影:山口)内覧会にて。左から、髙田郁氏(ソリューション事業部)・俊成誠司氏・山本卓也氏・野尻祐介氏(シェアハウス・ホテル立上げ担当)(撮影:山口)

montan HAKATAは、大規模な修繕改修やエレベーターの増築等の工事を行い、建物全体で検査済証を取得した。同時に、「共同住宅」から「ホテル・共同住宅」への用途変更も行っている。工事費用については「建替えた方が安く済んだかも…、相当の費用をかけてリノベーションしました。ですがそれに見合う利益を見込んでいます。」と俊成氏。
多くの空室に悩む不動産オーナーが、仮に宿泊施設として空き部屋を活用しようとする場合、このような設備投資をすることは難しいだろう。この点においても、「エリアの活性につなげられれば」と触れた。
慢性的なホテル不足による観光需要や国際会議・国際大会等の取りこぼしを懸念する福岡市は、先の改正条例で主に、
①簡易宿所における玄関帳場(フロント)設置の規定
②共同住宅での住居と宿泊施設の混在禁止規定
③客室等の面積・定員に関する規定
などを緩和して、合法的な宿泊施設の増加を促している。ただし①は、各部屋の入口に宿泊者の出入りが確認できるよう、ビデオカメラを設置することと、10分以内に駆けつけられる範囲に管理事務所を設置し、部屋の鍵を渡す際は宿泊者と顔を合わせることなどが条件だ。(宿泊者の安全を保つためと、犯罪や事件の温床となるリスクを想定し、誰が泊まっているかわからない状況を避けるため。)
この「10分以内」とは、徒歩で800m・自転車で1800m・車やバイクなら2.5kmほどの距離。つまり、montan HAKATAに管理事務所(フロント)を置くことで、周辺の不動産オーナーは比較的容易に空室を宿泊施設にすることができ、2.5km圏内の空き部屋の有効活用や経済循環が期待できる。
「今後、運営状況や実際のニーズを見ながらにはなりますが、montan HAKATAを起点として、エリアリノベーションの発信源になれたらと考えています。」(俊成氏)

不動産ストックの資産化・有効活用を促す新たな仕組み

インテリックスは、「アセットシェアリング」という現物の不動産を小口化して資産運用する独自の資産商品を提供している(不動産特定共同事業法に基づくもの【任意組合型】)。事業参加者(投資家)が任意組合契約に基づき共同出資をしたうえで、専門家(インテリックス)に業務の執行を委託して不動産取引を営み、そこから生じた収益を事業参加者に分配するものだ。
不動産は相続や贈与・資産運用・資産組替えにメリットが多いため、それらの対策の1つとして検討する人も多い。しかし、良質な不動産は購入時に多額の資金が必要で、個人ではなかなか購入しがたい。また、物件管理の煩雑さや入居者トラブル、空室リスクもある。そもそも不動産は現物であるため分割しづらく、相続に不向きな場合も多い。不動産を売却して現金化してしまえば、資産運用としての行為は意味をなさなくなってしまう。
アセットシェアリングは「現物不動産」である良さはそのままに、そうしたボトルネックを解消する商品として人気があるようだ。
montan HAKATAも、運用を開始して利回りが確定してきたら小口化して販売する方針だという。山本氏は「目標値は配当で4%!」と意気込みを見せた。

少子高齢化に伴う人口減少や社会構造の変化により「空き家大国」や「家余り時代」と言われる昨今、今後ますます「不動産」の扱いは難しくなっていくだろう。20年以上に渡ってリノベーションと不動産ストックビジネスを牽引するインテリックスが、知恵を絞って手掛けた「場」であるmontan HAKATAと周辺の変化に、今後も注目していきたい。

駐車場部分を増床し、広々とした共用部に改装した。縁側部分から外に漏れる光は、通りを明るく照らす(写真:インテリックス)駐車場部分を増床し、広々とした共用部に改装した。縁側部分から外に漏れる光は、通りを明るく照らす(写真:インテリックス)

2017年 12月08日 11時04分