部屋を借りるのは大変?パリの街で暮らすには

「パリ」と聞いて、読者の皆さんはどのようなイメージを抱くだろうか。
エッフェル塔?クロワッサン?パリコレ?……正直なところ筆者はそのくらいのことしか思いつかないが、知人がパリで暮らし始めたことから、せっかくなのでパリの賃貸事情について書かせてもらうことになった。

さて、言わずもがなだが、パリはフランスの首都である。
人口225万人・面積は105km2。フランス全土の人口は6633万人・面積は54.4万km2なので、約4%の人々が、約0.02%の面積に住んでいることになる。パリ郊外も含むと、1200万人(19%)もの人が12012km2(2.2%)の中に暮らしている。さらに、パリには世界中から学問や仕事のために長期滞在する人も訪れる。新築物件はほぼ皆無で、現在の日本の住宅供給事情とは違って、慢性的に賃貸物件不足の状態だ。また、災害の少なさや気候も影響して、建物の寿命が長く、築100年超のアパルトマンはざらにある。大家さんから見れば、古くなっても建物は価値が下がらず、物件は借り手が多い喜ばしい環境であり、借りる側から見ると、「古い物件に高額な賃料を支払って暮らさねばならない住みづらい街」なのではないだろうか。

現在フランス在住の日本人は数年間の滞在や永住権を取得した人、二世三世を含めて約3万人。そのうちの過半数がパリに暮らす。在フランス日本国大使館のホームページでは、住宅の賃貸借契約に関するトラブルへの注意喚起が記載されている。中には、不動産会社に前払金を振り込んだ後にその業者と連絡が取れなくなったとか、入居日に現地に行ったら他の居住者がいたとかいう悪質なケースもあるようだ。

実際、どのような部屋にどのような方法を経て住むことになったのか、現地に暮らす日本人に聞いてみた。

築100年をゆうに超えるパリのアパルトマン(撮影:chikara)築100年をゆうに超えるパリのアパルトマン(撮影:chikara)

賃貸借契約を交わして居住する場合

現在パリに暮らす深田さんと、1年ほど前までパリで暮らしていた桐谷さん(仮名)、それぞれ現地のパートナーと暮らす2人に話を伺った。

「6階建の建物の2階に彼と住んでいます。75m2の4DKでバルコニー付き。家賃は月2000ユーロ(1ユーロ120円前後)です。 3年契約で、建物の地下の駐車場と水道代が月の家賃に含まれた物件です。ペットの飼育と改装はOK。3〜5DKくらいの部屋が1フロアに5部屋あるので、30世帯くらいが1つの建物に住んでいると思います。」(深田さん)
同じような建物が5棟纏まった団地のような所で、深田さんが住んでいる棟は1990年代に建てられたパリではかなり新しい建物だ。インターネットで部屋を探し、気に入ったところが3つあったのでそれぞれ管理している不動産屋に連絡したそう。

「すぐ返事が返ってきたこの1軒だけを内覧して即決しました。パリは空き部屋があまりなくて部屋探しが大変なので、ゆっくり悩んでいたら他の人が契約してしまうんです。保証金として2000ユーロを小切手で支払い、不動産屋への手数料を家賃の1.5ヶ月分の3000ユーロ支払いました。火災保険への加入も必須です。私は1年間で300ユーロでした。」(深田さん)
やはり住まいにかかる費用は高めの印象だ。

「私は、10階建(日本だと11階)のアパルトマンの9階に住んでいました。1973年に建てられたもので、パリではこれは新しい方。40m2で大きめのワンルーム+バス・トイレ・キッチンに夫婦2人暮らし。家賃は水道代込で1000ユーロ。初期費用は不動産屋の手数料のみでした。入居審査は収入査定で、不十分な場合は保証人が必要です。外国人、特に収入のない学生の場合は現地で保証人を見つけなければならないので大変みたい…なので日本人向けの不動産屋さんもあります。あと、2年契約を1年で引っ越しちゃったけど特に違約金とかは取られなかったかな。」(桐谷さん)

パリのワンルームマンションはシャワーだけのことが多いため、浴槽があったことと床暖房があったことが桐谷さんが物件で気に入ったポイントだったそう。

パリの街並み(撮影:chikara)パリの街並み(撮影:chikara)

フランスは厳しい契約社会。パリの賃貸借契約もしかり

日曜日に開催されるマルシェの一場面と、ホームパーティーの準備中(撮影:chikara)日曜日に開催されるマルシェの一場面と、ホームパーティーの準備中(撮影:chikara)

フランスでは原則として、賃貸借契約に在仏の連帯保証人を求められる。ただし、本人の給与が家賃の4倍以上あり、銀行に一定以上の預金があれば、そういった連帯保証人は不要だ。またどうしても在仏の連帯保証人がいない場合、一定額を銀行に預け、それを担保とする「銀行保証」も家賃の保証方法としては有効だそう。

契約書のみならず”etat des liex”(エタ デ リュー:現状確認)を書面として残して入退去時に大家さんとチェックをする必要があること、退去届の方法や期間が日本のそれと比べても厳しいことに驚いた。ただし、通常損耗の場合、日本のように敷金がほとんど返ってこないことはなく、保証金は返金される。

フランスは日本以上に契約社会である。不動産屋を介してきちんとした契約を交わすことで、入退去に関するリスクを減らす。だが様々なタイプの不動産屋が存在するので借主本人の見極めも必要である。

「友人が利用したところは、日本から内覧なしで契約する場合と、実際に内覧して契約する場合とで金額が違って、後者の方が高いみたいです。内覧にお金がかかるなんて!」(深田さん)
不動産のサービスも日本と同じ、とはいかないようである。

不動産屋は部屋を仲介するだけなので、入居後に何かあれば管理会社か大家さんに直接相談するのが普通である。彼女たちは、入居後にコンセントの半分ほどが壊れていたり、入居中に窓からの水漏れがあったりと、トラブルで大家さんに修理を依頼するも、数ヶ月そのまま放置されたという。

「フランス時間ですね」と深田さん。そういった不便さを許容する心の余裕も、パリで暮らすためには必要なようだ。

もうひとつ、賃貸借契約以外での住まい方

chambre de bonneの窓に差し込む街の光と、足腰を鍛えられる8階までの螺旋階段(撮影:chikara)chambre de bonneの窓に差し込む街の光と、足腰を鍛えられる8階までの螺旋階段(撮影:chikara)

高木さん(仮名)の場合は、深田さん・桐谷さんとは少し違う。高木さんは学生時代に1年間留学していた時は、知人伝いに紹介されたルームシェアの部屋に住んでいたそう。
「築50年くらいの建物の5階(日本でいう6階)の部屋に5人で住んでいました。家主の男性とその彼女が1部屋に、僕と桐谷さんが大学の知人の紹介で同じ部屋に。僕らの部屋と引き戸で区切ったリビングルームに家主の弟が。トータルの家賃は1500ユーロだったみたいで、1部屋500ユーロって言われたので僕らは250ユーロを家主に払ってました。水高熱費とWi-Fi込みです。パリの家賃相場からしたらありがたい環境でしたね。」(高木さん)

この頃の暮らしは楽しかったが、ホームパーティーの日は早く寝たくてもうるさくてなかなか寝られなかったり、食材が勝手に食べられていたり、(異性・同性の)カップルが家の至る所でイチャついていたり、ルームシェアならではの経験に少し困りもしたそう。

現在はワーキングホリデーでパリに滞在中で、留学時代にできた友人の両親が所有する”chambre de bonne(シャンブル ドゥ ボンヌ)”に住んでいる。(※シャンブル ドゥ ボンヌ=通称「女中部屋」 ブルジョワスタイルの古いアパルトマンは、かつて最上階に住み込み女中用の部屋があった。女中が寝るだけのための小さくてシンプルな部屋だ。水回りなどはないことが多い。そこを分譲購入して改装し、ワンルームタイプの部屋として貸し出す形も少なくない。)

「うちはシャワールームと小さな洗面が着いた10m2ほどの部屋です。トイレはフロア共同。友人の両親(大家さん)がIHコンロや冷蔵庫、電気ケトル、棚やベッドなどを生活に必要なものをいろいろ準備してくれました。週に数回、洗濯するために2階に行きます。手の込んだ料理をしたい時も。家賃は水光熱費とWi-Fi込みで478ユーロ。契約書は交わさず、2階にある大家さんの家に間借りの状態で住んでいます。築110年の建物なのに、古さを全く感じない素敵な家ですよ。」(高木さん)

このアパルトマン自体はエレベーター付きだが、chambre de bonneは別階段で8階まで上り下りする。かなり足腰が鍛えられるようだ。でも屋根裏独自の傾斜壁がおしゃれで、壁の装飾やドアの可愛さ、窓から見える景色が高木さんのお気に入りだそう。

高木さんのような間借り形式の住み方は、正式な届けをした契約ではないため、アロカシオン(国が支給する補助)等は受けられない。大家さんから諸々の制度の説明を受け、話し合って決めたという。

手続きの煩雑さや、「不動産屋を通すと家賃も手数料も高い」というイメージから、交流サイトなどを通じて簡易契約をして暮らす人も多い。家主と綿密にコミュニケーションを取れたり、関係性が良好なら問題ないだろう。しかしこういった簡易契約の場合、保証金が返金されない・家電の自然故障の弁償を要求されたなど、家主とのトラブルが起きた場合に解決が不可能に等しいため、在フランス日本国大使館のホームページでは注意を促している。インターネットで見ず知らずの人からも部屋を借りられる時代だからこそ、そういったリスクもきちんと理解しよう。

パリ市民が守る街の景観への意識

「洗濯物を外に干せない」……今回聞いた3名とも共通して答えた内容だ。パリでは各アパルトマンの管理規約で、バルコニーに洗濯物を干すことを禁止している。
時代は中世にまでさかのぼるが、パリで建物を新築したり改築したりする時は常に周りとの調和を考えて建てることが要求されてきた。バルコニーに洗濯物を干すと、美観を損ねるとして罰金を取られていたという歴史まであるそうだ。では、どこに干すのか。当然、家の中だ。

「部屋がすごく乾燥しているので、部屋干しでも一晩で乾いて、日本のように部屋干し臭くならないんです。」(深田さん)
そういった洗濯事情もあるのか、街のいたるところにコインランドリーもあるそう。バルコニーは洗濯物を干す代わりに、暮らしを楽しむ「テラス」として利用している。少しスペースがあるバルコニーであれば、パリ市民は椅子とテーブルを置いて、朝食やランチ、夕暮れのディナーを楽しむようだ。

「パリでは、洗濯物は干せないけどバルコニーでバーベキューをしてもOKです。日本とは違いますね。」(深田さん)

それともうひとつ……パリの街には、電柱や連なる電線が見当たらない。フランスの電柱の撤去率は、片田舎の町も含めてほぼ100%だという。電線や上下水道・ガスなどの全てのライフラインは地中にスッキリとおさまっている。建物規制やライフラインの地中埋設など、景観を守る意識の徹底ぶりには感服する。

「街並みが本当に綺麗です。現代と過去が共存している感じ。それに都市が小さくて住みやすいのもいいですよ。」(高木さん)

「パリは歴史と文化で溢れていて、物価は高いけれど、お金をかけなくても豊かな時間を過ごすことができます。いいのか悪いのかわからないけど、一度来てしまうと、街に恋に落ちてしまう。吸い付くような魔性の力がある街です。」(桐谷さん)

市民が作りあげる街の魔力を、ぜひ体感しにパリに行ってみたいものだ。

洗濯物、電線、電柱などの余計なものが風景の邪魔をしないスッキリとした街並み(撮影:chikara)洗濯物、電線、電柱などの余計なものが風景の邪魔をしないスッキリとした街並み(撮影:chikara)

2017年 04月27日 11時06分