多世代交流を育む東京都のモデル整備事業として第一号選定

2025年には65歳以上の人が3600万人を超え、総人口に占める65歳以上の割合は30%を超えるなど、世界でも類を見ない超高齢化が進む日本。高齢者夫婦のみでの生活や、単身高齢者の増加は、買い物弱者を生み出し、家族による介護だけでは支えきれないケースも多く聞かれるようになった。
家族の介護だけでは難しい場合の受け皿となるはずの特別養護老人ホームも、現在入居待ちの状態が続いている。厚生労働省の発表によると、こうした"待機シニア"はおよそ52万人超に上るといい、"高齢者の住まい"は未だ多くの課題を残している。

こうした高齢者の住まい不足などの問題を解消するため、2011年10月の"高齢者住まい法"の改正にともない登場したのが「サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)」である。
東京都はサ高住の供給促進に向け、高齢者が様々な世代や世帯とふれあいながら暮らすことができる住宅のモデル整備事業「一般住宅を併設したサービス付き高齢者向け住宅整備事業」を2014年から公募している。東京都は、選定された事業者に対し、東京都が設計費及び整備費を補助する。その第一号認定プロジェクトとして選ばれたのが、東急不動産株式会社(以下、東急不動産)による、「世田谷中町プロジェクト」だ。
「世田谷中町プロジェクト」は、東京都世田谷区の約1万坪という広大な敷地内に、東急不動産が販売する分譲マンション「ブランズシティ世田谷中町」と、株式会社東急イーライフデザインが運営するサ高住「グランクレール世田谷中町」が併設されている。

過去10年間で、第一種低層住居専用地域の複合開発としては都内最大規模となる今回のプロジェクト。分譲マンション、シニア住宅のそれぞれの担当者の方に、プロジェクト開発の経緯、そして"今後の高齢者の住まいのあり方"についてお話しを伺った。

高まる"近居"ニーズ。きっかけは、都と共通した「サ高住」の課題認識

(左)東急不動産株式会社 シニア住宅事業部 グループリーダー 林靖人さん (右)首都圏住宅事業部 グループリーダー 鈴木崇之さん(左)東急不動産株式会社 シニア住宅事業部 グループリーダー 林靖人さん (右)首都圏住宅事業部 グループリーダー 鈴木崇之さん

分譲マンションとシニア住宅を併設した背景について、東急不動産株式会社 シニア住宅事業部グループリーダーの林さんは次のように語る。

「マンション販売を長年続ける中で、お客様の中にも、定年退職後も趣味や様々な活動に意欲的な”アクティブシニア”と呼ばれる方々が増え始めました。同時に、お子さん夫婦をご自身の住居の近隣に呼び寄せたり、反対に首都圏に住むお子さん世代が、地方に住む親をに呼び寄せるといった"近居ニーズ"の高まりを感じていました」。

東京都が公募している"一般住宅を併設したサービス付き高齢者向け住宅整備事業"に事業プランを提出した理由については、現在のサ高住に対する課題の認識が一致していたことも大きな理由だという。

「東京都でも、国の補助金などもあり、サ高住の供給が促進されたものの、既成住宅地から離れた利便性の悪い場所に建つことが多く、東京都自体もこれを課題として認識していました。そうした中で公募がはじまった「一般住宅を併設したサービス付き高齢者向け住宅整備事業」のコンセプトは、これまで、"自立型"の高齢者住宅をメインに供給してきた弊社にとって、既成住宅地から離れた利便性の悪い場所ではなく、できるだけ若い世代が多く住み、そうした世帯と関わり合いながら暮らすモデルを目指すという点で、ビジョンが一致する部分が多かったんです。こうした社会的な課題に対して、民間のいちデベロッパーではあるものの、何らかの形で答えていくべきという想いから、社内の部門を横断して取り組むことになりました」。

子どもから高齢者まで、幅広い世代が交流するまちへ

子どもから高齢者まで、様々な世代が交流できるまちを目指しているという「世田谷中町プロジェクト」の敷地内には、いったいどのような機能をもつ施設があるのだろうか。

敷地内の住戸は、6棟の分譲マンション(252戸)に加え、高齢者向けの食事や家事手伝いなどのサービスを提供する自立型シニアレジデンス(176戸)、介護が必要な高齢者に対応するケアレジデンス(75戸)からなるシニア住宅(251戸)を提供している。

その他に、共用棟である「コミュニティプラザ」は、分譲マンション、サ高住の両入居者に加えて、周辺住民も利用ができる”まちに開かれた多世代交流拠点”として活用される。1階にはコミュニティサロンを設置し、カルチャー教室やフィットネスなど様々なプログラムを提供し、住民の皆さまにも講師を務めていただけるようサポートをしていくという。

さらに、近隣住民も入園申込が可能な「認可保育園」の設置に加え、定期巡回・随時対応型訪問介護看護と、小規模多機能サービスを提供する「介護事業所」を設置。地域包括ケアの拠点として、介護が必要な状態になっても、住み慣れた地域、コミュニティで安心して暮らし続けていくことができる体制を整えている。その他にも、ライブラリーラウンジや菜園・果樹園といった共用施設も設け、コミュニティ運営の専門家によるコミュニティプログラムが策定されるなど、幅広い世代をサポートする施設、世代を超えて住民同士が交流するきっかけとなる施設とプログラムが用意されている。

「世田谷中町プロジェクト」は、NTT東日本の所有する約1万坪の土地に70年定期借地権を設定し、マンション全6棟、シニア住宅1棟を整備する計画だ(外観完成予想図 画像提供:東急不動産株式会社)「世田谷中町プロジェクト」は、NTT東日本の所有する約1万坪の土地に70年定期借地権を設定し、マンション全6棟、シニア住宅1棟を整備する計画だ(外観完成予想図 画像提供:東急不動産株式会社)

住み慣れた地域に暮らし続けていくことができる"終の棲家"としても

「グランクレール世田谷中町」では、元気なうちに分譲マンション、自立型レジデンスへの入居をしたのち、いずれ介護が必要な状態になった場合も、介護が必要な高齢者に対応するケアレジデンスへの住替えが可能となっている。

"地域包括ケアの拠点として、高齢者が住み慣れた地域に暮らし続けていくことができる"という概念は、1970年台にアメリカで登場した"CCRC(Continuing Care Retirement Community:コンティニューイング・ケア・リタイアメント・コミュニティ)"の概念にも共通する部分がある。
健康なうちに特定の施設へ移住し、介護状態になっても転居することなく継続的にケアが受けられるコミュニティを意味しており、日本においては、首都圏の高齢者施設不足を解消する狙いとして、現在その構想が策定されている。
この点について、林さんは、
「当然、今回のプロジェクトの誕生には、アメリカのCCRCの概念を参考にした部分もあります。しかし、海外で誕生したCCRCを、どのようにして日本人のライフスタイルに馴染むように持ち込むか、活発に議論、研究を繰り返しました。この世田谷中町プロジェクトは、そうした日本版CCRC構想の一つの答えになるのではと思っています」と語る。

現代社会が抱える様々な課題解決に向けた「世代循環型」のまちづくり

分譲マンションとシニア住宅、保育園に介護事務所など、世田谷中町プロジェクトの敷地内には、家族のライフステージの変化に対応した住まいがある。親子の近居はもちろんのこと、元々分譲マンションに住んでいた親世代が高齢者住宅に移り住み、子ども世帯が分譲マンションに入居するなど、多彩な住まい方が可能である。
つまり、入居者の年齢が築年数と共に一方的に上がっていくだけではなく、子育て世代+高齢者という形や、年齢や健康状態が変わっても永続的に住み続けやすい環境など、常に新しい世代が敷地内を巡る「世代循環型」のまちづくりといえるのだ。

「世田谷中町プロジェクト」が「世代循環型」を促進する背景には、物件の"資産性の維持向上"という一面もあるという。
木造戸建て住宅の資産価値が約20~30年で失われると言われる現在、いかにして住んでいる不動産、まちの資産価値を維持向上させていくかという点は、住む人の豊かな生活、QOL(Quality of Life)を考える上で重要だと鈴木さんはいう。

「これまで日本のマンションは、同じ時期に同じ年代の世帯が同時期に購入し、入居されるパターンが多いために、数十年後、一気にその資産価値が落ちてしまうという将来的なリスクを抱えていました。世代を循環しつつ、資産価値を維持しながら、住み慣れた場所に住み続け、家族に見守られたいという要望を実現するのが"近居"だと考えています」。

こうした"近居"や多世代に見守られるという環境は、本来、日本の各地域で見られた地域コミュニティの"共助"の姿そのものではないだろうか。「世田谷中町プロジェクト」には、少子高齢化や待機児童の増加、介護離職といった現代社会が抱える諸問題の解決へ繋がる答えが潜んでいるように思う。

個人や家族の価値観が多様化している時代、日本が抱える様々な課題の一つの答えが、</BR>多世代交流という暮らし方にあるのかもしれない(外観完成予想図 画像提供:東急不動産株式会社)個人や家族の価値観が多様化している時代、日本が抱える様々な課題の一つの答えが、
多世代交流という暮らし方にあるのかもしれない(外観完成予想図 画像提供:東急不動産株式会社)

2016年 08月25日 11時05分