大家公認のボロ家を月額5万円で借りてゲストハウスに

女性ほど自営業をやるべきと熱田さん。休みたくなったら休めるなど、自分のペースで仕事ができるというのがその要因女性ほど自営業をやるべきと熱田さん。休みたくなったら休めるなど、自分のペースで仕事ができるというのがその要因

いずれは出雲に帰ってシェアハウスをしたいと考えつつ、神戸で会社員をしていた熱田糸帆さんが現在、出雲ゲストハウスいとあんになっている建物に巡り合ったのは2014年の5月。30年ほど前まではビジネスマンを相手にした旅館として使われていたそうで、その後は賃貸住宅となり、熱田さんが出会った頃には長らく空き家状態。市役所で調べても築年数は分からなかったというから、かなり古いものらしい。

「シェアハウスに住んだ経験から出雲にはまだないシェアハウスを自分で立ち上げてみたいと地元の友人に面白い物件が出たら教えてと依頼していたら、わずか3カ月ほどでこの物件を紹介されました。長らく空き家だったようで、見せてくださいと言ったら、大家さんには借りてくれるの!と喜ばれました。ただ、シェアハウスにしたらいいんじゃない?ともおっしゃっていたので、そういう感覚もある人なんだなとは思いました」。

当初は月額3万円(!)という話だったが、1階に大家さん負担でトイレを増設することになり、その分がアップされ、月額5万円で借りることに。

「ただの住居であるシェアハウスではなく宿として営業するゲストハウスにするため、大家さんとしては家賃などをあげることも考えたようですが、最終的には『若い人ががんばっているので応援したい』と賃料もそのままで借りることができました。現時点の出雲では空き家を活用するという考えがないので、その価値を分かっていない人が多く、今なら安く借りられるみたいですね」。

空き家の活用はできるものから考えたほうが現実的

2階、階段を上がってきたところ。いかにも旅館という雰囲気だ。3室それぞれへのアプローチは異なる雰囲気になっている2階、階段を上がってきたところ。いかにも旅館という雰囲気だ。3室それぞれへのアプローチは異なる雰囲気になっている

当初はシェアハウスを考えていた熱田さんだが、元々が旅館だったことから建物の用途変更をしていないのではないかと考え、それならわざわざ変更するのはもったいないと考え、ゲストハウスに方針を転換した。

「延床面積100m2以上の建物をゲストハウスとして使うためには旅館業法でクリアしなければならない項目がいくつもあります。そのため、延べ床面積100m2以上の一戸建てをゲストハウスとして使うのは非常に難しいのですが、最初から合致していれば問題なし。それに駅から徒歩5分、近くに温泉もあるという立地を考えると、生活の場となるシェアハウスより、短期滞在のゲストハウスのほうが良いかなと。昨年夏には出雲大社近くに出雲初のゲストハウスが先にできてしまいましたが、物件を借りた時点ではまだゲストハウスはありませんでしたから、それにしようと。空き家の活用はできるものから考えたほうが現実的とも思っていましたから、どうしてもシェアハウスというこだわりはありませんでした」。

物件を決めてからは週末の度に帰省しては掃除をしたり、許可申請の書類を用意したりといった作業を続け、会社を辞めたのは9月になってから。許可が下りたのは11月の終わりで、その後、12月半ばから2015年2月半ばまでは伊勢のゲストハウスでスタッフとして働きながら運営のノウハウなどを学び、改修にかかったのはその後である。

創意工夫した往時の大工さんに敬意を表し、元の雰囲気を大切に

一般にリノベーションと聞くとある種、モダンでクールな洋のイメージを持つ人が多いが、いとあんはどちらかと言えば和風。元の建物の雰囲気を大事にしている。

「この物件で最初に気に入ったのは5室それぞれに異なった意匠の飾り窓の意匠でした。さらによく見てみると、各室、天井の作り方も違うんです。そんな高級な宿でもなかったのに、できる範囲で創意を凝らした大工さんの心意気のようなものを感じ、それを尊重したいと考えました。それに1階奥の部屋に珪藻土を塗っている時の職人さんの鏝使いを見ていたら、とても素人にはできないとも思いました。だから、外側の、見えている部分は基本、職人さんに頼みました」。

その一方で見えないところは自分でやったそうで、お伺いした中ですごいと思ったのは床下の調湿対策。1階の2室の畳を外して、傷んでいた座板(床板)を交換、床下にビニールを敷いて、調湿剤を敷くなどしたのだとか。かなりの重労働だと思うが、ご本人は飄々とした表情。脱帽である。

1階の廊下も壁板、床板を剥がして出てきたオリジナルの建物を生かし、ほぼそのままで使うことに。「ここに使われているタイルは今ではないもので、貴重。大事に使うことにしました」。

左上/1階の廊下。合板の壁を剥いで出てきた重厚な木をそのまま見せている。右上、右下/2階の部屋の入り口。部屋ごとに造りが違う。左下/丸い飾り窓左上/1階の廊下。合板の壁を剥いで出てきた重厚な木をそのまま見せている。右上、右下/2階の部屋の入り口。部屋ごとに造りが違う。左下/丸い飾り窓

職人さんに直接発注で経費を抑え、でも、使うところには本物を

右側の襖下部に貼られているのが斐伊川和紙。特注品というわけだ右側の襖下部に貼られているのが斐伊川和紙。特注品というわけだ

とはいえ、和風になりすぎないように気を使ったとも。「全部和風だと若い人に抵抗があるんじゃないかと和風過ぎないものにと、畳の縁などは安いけれど、ポップなものにしたりしています」。

必要なところには本物を使ってもいる。それが襖の下部に貼られた斐伊川和紙。和紙職人さんとコラボ、一見グレーだけれどべんがらで少し赤の入った独特の色を出してもらい、それを使っているという。「いずれは外国人にも投宿してもらいたい。その時に出雲の品で、それも本物を見てもらいたい。だから、贅沢かなと思いましたが、ここは奮発しました」。

結果、かかった費用は設備、備品なども入れて400万円弱。ただ、現在進行形でもあり、まだこれからどうなるかは分からない。「貯金が450万円くらいはあったのですが、200万円くらいでなんとかなるかと思っていました。やはり、古い物件は難しいですね」。とはいえ、その金額で済んだのは工務店さんを間に入れず、直接職人さんとやりとりした結果だろう。

「一度工務店さんに頼んだことがあるのですが、窓口の人と施工する人が違うため、自分の意思を伝えにくい部分がありました。そのため、個別に友人を通じて職人さんを紹介してもらい、その方々にお願いすることにしました。手間はかかりましたが、安くしてもらいました。また、他の現場ではできないからと実験的な資材を使うなど、職人さんたちにも楽しんで施工してもらえたようです」。

ちなみに改装中は忙しいにも関わらず、毎日自分で昼ご飯を作り、みんなで一緒に食べていたという料理好きの熱田さん。その甲斐あって今では職人さんと施主ではなく、友人として付き合う仲となり、うち一人はいとあんに住み込んでいるとか。良いモノを作ろうとしたら、まず人間関係からというわけだ。

いずれは空き家利用で若い人の集まる場を作りたい

1階の共用スペース。料理好きとあってこだわりの調味料などが置かれている1階の共用スペース。料理好きとあってこだわりの調味料などが置かれている

2015年3月初旬にプレオープン、その後4月6日に正式にオープンしたいとあんだが、現状は赤字にはなってはいないものの、まだ、お給料は出ていない状態。それでも開業前に修行に行ったゲストハウス、その他のゲストハウス仲間の紹介やネット経由で着実に利用者は増えており、シェアハウスでなくて良かったと熱田さん。「状況を冷静に考えると、まだ、出雲でシェアハウスは時期尚早だったかなと思います」。

さらにゲストハウスだけにとどまらず、もっと何かやりたいと物件探しは続行中。「父は不動産会社を経営しており、いびつな土地を宅地分譲するのが得意な人でしたが、その背中を見ていたからでしょう、私も変わった物件を見ると血が騒ぎます。面白い物件があったらいずれシェアハウスはやりたいし、小さな映画館ができそうな物件を見つけたので補助金をもらって、そこでシアタールーム兼図書室兼……のようなイベントスペースも考えています」。

いとあんでも客室を使ったイベント、ワークショップ、映画の上映会などを開催しているものの、スペースに限りがあることから、もっと本格的なイベント向きの空間が欲しいのだとか。現状、地域にそうした場がないわけではないものの、おそらく、公共のモノでは物足りないということだろう。空き家を利用した、もっと自由に使える場ができれば街も活気づくはず。熱田さんの次なるチャレンジに期待したい。

出雲ゲストハウスいとあん
http://guesthouse-itoan.com/

斐伊川和紙
http://www.co-unnan.jp/sachi_hito.php?logid=637

2015年 05月26日 11時06分