土壁の上に漆喰などを塗って仕上げた土蔵造りとは?

蔵造りの街並みが広がる埼玉県の川越蔵造りの街並みが広がる埼玉県の川越

昔ながらの町並みを歩くと、真っ白な壁の家を見かけることがあるだろう。それが「土蔵造り」の家だ。土壁の上に漆喰などを塗って仕上げたもので、その名の通り、蔵に多い建築様式なのだ。

漆喰とは水酸化カルシウム(消石灰)を主成分とした建材で、「石灰」を中国語(唐音)で読むと「しっくい」になる。「漆喰」は当て字だ。漆喰は耐水性と耐火性に優れており、土台となる土壁は調湿性を持つので、大切な品をしまう蔵に多用されてきた。

本来の漆喰の主原料となる消石灰は、サンゴなどの化石を塩で焼いて作った。これに海藻を炊いて作ったのりや、麻の繊維などを混ぜるのだ。これを本漆喰と呼ぶが、ほかにも発酵させた藁と水を混ぜ、さらに熟成させた「土佐漆喰」や、藁を混ぜた後にすり潰す「琉球漆喰」などもある。
本漆喰など昔ながらのものは、空気中の二酸化炭素と反応して固まるが、自然に乾くまでに時間がかかる。これに対して現代の漆喰には化学物質が含まれており、ひび割れづらく乾きやすいなどの利点もあるが、商品によっては有害な物質が含まれている場合もあるので、家に漆喰壁を設けたり、改築したりしたい場合は、どのような漆喰を使用するか確認した方が良い。

土壁に漆喰を塗る利点

漆喰は強アルカリ性なので、カビが発生しづらい特長がある。外気に比べるとひんやりした感触で結露しやすいように感じるが、本漆喰ならば防カビ処理をしなくても、1年以上カビが生えないのだとか。もちろん、蔵は長年にわたって使用するものだから、防カビ剤を塗ったり、水滴を拭いたりといったお手入れは必要だが、他の素材に比べれば難しくない。
また、土台が土壁なので通気性が良く、内部に湿度がこもりにくいのも長所。耐火性にも優れているので、大切なものを長い間しまっておくには最適なのだ。新聞などで、旧家の蔵を整理した際に、珍しい絵画や骨董品が発見されたとニュースになることがあるが、長期間しまわれたままにも関わらず、カビが発生しないのは、土壁の調湿性のおかげだろう。
また、土蔵などは30センチ以上も漆喰を塗り盛っているものが多く、耐火性が強化されている。「火事と喧嘩は江戸の花」と言われたように、火災の多かった江戸の町だが、大火で町が焼け落ちても、蔵と、その中の品物は無事だった例も多いという。

だから、普段はめったに入らない場所でありながら、蔵は家の中でも重要な場所と考えられていたようだ。たとえば、「蔵ぼっこ」と呼ばれる妖怪がいる。柳田国男も『遠野物語』や『妖怪談義』の中でこの妖怪について触れているが、小さな子供の姿をしており、火事の際は貴重品を蔵の中に運び入れて扉を固く閉じ、家の宝を守ったという話も伝わっているから、良い妖怪で、座敷童の一種だと考えられる。
確かに、暗い蔵の中には、この世のものではない「何か」が潜んでいても不思議はない。座敷童に会いたい人にも、蔵造りの家はお薦めかもしれない。

蔵造りが江戸時代に流行した?蔵造りの歴史とは

蔵造りがいつごろから始まったのか、起源ははっきりしない。江戸時代には漆喰仕上げが完成したとされるが、その耐火性能から戦国時代の城郭や天守にも使用されており、土壁と漆喰の組み合わせの歴史はさらにさかのぼるだろう。2015年に大改修が完了した姫路城は、「白すぎる」と話題になったが、姫路城の別名を「白鷺城」と呼ぶのは、この白さゆえ。池田輝政が行った1601年の大改修当時から、壁はもちろん、瓦の継ぎ目にも漆喰を塗りこめていたため、城全体が白く見えたのだ。もちろん今回の大改修では、防カビ剤を塗布したそうだから、しばらくは白いままのはずだが、輝くばかりに白い姫路城を見るなら、早い方がいいだろう。
また、住居ではないが、たとえば高松塚古墳は漆喰の上に描かれた美人画で有名だ。古墳内部には貴人の遺体を納めるので、防火性のある漆喰が使われたと考えられる。

人々が江戸に密集して暮らし、火事が増えた江戸時代は、土蔵造りの建造物が増え、漆喰細工も盛んとなった。たとえば壁面に平たい瓦を並べ、その目地に漆喰を塗り込んだものを「なまこ壁」と呼ぶ。倉敷の美観地区や広島市の酒蔵通りで見かけた人もいるだろう。
また、こてを使い、漆喰を盛り上げたり削ったりして表現する「こて絵」も、江戸時代に流行した。

その白さから「白鷺城」と呼ばれる姫路城その白さから「白鷺城」と呼ばれる姫路城

住まいとしての蔵造り

現代でも酒蔵で酒造りをする酒造は多い現代でも酒蔵で酒造りをする酒造は多い

江戸時代には、店舗兼住居として建てられた「見世蔵」が登場する。店舗なので、蔵のように入口や窓などの開口部を最小限にすることはできず、建造物内の間取りも店舗や住居に準じており、土蔵のようにシンプルな造りではない。本来の土蔵に比べると、火災の際の耐火性能は劣るが、土壁でできているので夏の湿度が低くて涼しく感じられるし、木造住宅よりは耐火性能が高いのが特長だ。

現代でも、古い街並みには土蔵造りの家や土蔵が残されている。たとえば酒造りをする蔵を「酒蔵」と呼ぶが、現代でも多くの酒造が土蔵造りの建物の中で作業をしている。酵母や麹の活動は気温や湿度に左右されるので、調湿性が高く、涼しい土蔵造りが醸造に適しているのだ。

また、倉敷市や鳥取県の若桜宿など、蔵の立ち並ぶ景観で知られる町は全国にある。たとえば若桜宿は鳥取と姫路を結ぶ若桜街道の宿場町だが、明治時代の大火の後、土蔵以外を建築するのを禁じられたため、蔵通り一帯に土蔵が立ち並ぶのだ。

夏に向かうこの時期、見世蔵を訪れて自然の涼しさと歴史情緒を感じてみてはいかがだろう。

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