女性の技術者・技能者を国内にもっと増やそう

一級建築士であり、教育・研修・コンサルティングサービスを請け負う「有限会社ゼムケンサービス」の籠田 淳子さん一級建築士であり、教育・研修・コンサルティングサービスを請け負う「有限会社ゼムケンサービス」の籠田 淳子さん

北九州にいる一人の女性が、建設業界に新たな風を取り入れようとしている。その人の名前は、籠田淳子さん。「有限会社ゼムケンサービス」という女性目線での提案を得意とした特定建設業の会社を営む社長だ。籠田さんがコーディネーターとして国土交通省と一緒に今取り組んでいるのが、2017年9月開校予定の「女性技術者・技能者育成塾」。少しカタそうな名称だが、要は女性の技術者・技能者をもっと増やすための仕組みづくりだ。

“技術者・技能者”――。素人目には2つの言葉の意味の違いが少しわかりづらいが、籠田さんに尋ねると「技術者は、一級建築士や施工管理技士など専門的な技術を持っている人。技能者は、建築現場で作業をする人を指すんです」と教えてくれた。国土交通省によると、平成9年には約26万人いた女性技術者・技能者が、平成26年には女性技術者が1万人、技能者が9万人にまで減少。最近では女性技術者も増加しているが、女性技能者は平成9年のピーク時に比べ、1/3に減少しているという(国土交通省のホームページより)。そこで、国の施策として国土交通省が動き始めた。その事業の一環がこの育成塾だ。

籠田さんが一級建築士の試験に合格した平成元年は、合格者100人に対し女性の割合は5人ほどだったらしいが、今では合格者4人のうち1人が女性。数字上では、資格を持っている人の数は着実に伸びている。「ただ…」と籠田さんは、少し顔を曇らせた。「資格を持っている女性の技術者・技能者を建設業界が受け入れているかといえば、現状はそう多くないんです」と語ってくれた。

建設業界で働く女性は、なぜ少ないのか?

籠田さんが建設業界に入ったのは、今から31年前。当時、業界内で働く女性は「結婚=退職」が当然のごとくあったという。「建設の世界って、男社会なんです。また、昔から培ってきた関係性や文化を大切にする業界でもある。良くも悪くも“変わらないことは良いこと”の考えが浸透している社会の中で、女性が働き続けることはとても大変なんです」と話す。事実、籠田さんも男性専用のトイレしかない現場で働き、図面を見せても相談にのってもらえず、現場の段取りは知らぬ間に喫煙室で決まっていたこともあった。

また、前述の話でもそうだ。一級建築士の資格を持っていても結婚、妊娠・出産などで一度職場を離れると、復帰はなかなか難しい。一般事務職に比べサラリーの待遇は比較的良く、倍はもらえるチャンスはあるのに、女性が働く環境が整っていないがゆえにもどかしさを抱えている人が多い。しかし、仕事の内容を考えると女性ならではの強みが生かされるケースも多々ある。
「施主さんが家を建てるとき、大抵料金を払うのはご主人だけどお話は奥さんが担当することが多いんです。ハウスメーカーや工務店の担当者が女性ならば、同性だからこそ奥さんに共感できる部分はあるし、相手が言葉にうまくできないちょっとしたニュアンスや想いも汲むことができる。これはゼムケンの仕事を通してわたし自身が体験してきたこと。みなさん、とても喜んでくれました。だから声を大にして、自信を持って言います!女性だからこそできるサービスがある、と」。

「業界内では少数派の女性であることでピンチはたくさんあったけれど、その裏にチャンスがあると確信していたんです」<BR />と籠田さん「業界内では少数派の女性であることでピンチはたくさんあったけれど、その裏にチャンスがあると確信していたんです」
と籠田さん

男性経営者たちも気づき始めた! 女性だからこそできる“価値ある提案”

会社経営の他に、母親業、MBA取得を目指す学生業、籠田さんが主宰する「日本女性力活性化協会」で建設業界のダイバーシティ(人材の多様化)を評価する仕組みづくりに力を入れるなど、いつも好きなことに全力投球している籠田さん。仕事のひとつにセミナーの講師業がある。3年間で100回以上講演を続けてきたそうだが、最近、籠田さんが肌で感じていることがある。それは、聴き手である聴衆の受け入れ態勢に変化の兆しが出てきたことだ。

「3年前までは来場者の9割以上が男性で、女性はどこにいるのか壇上からではわからないほど少なかったんです。ただその頃、わたしが建設業界で女性ができる強みについて話すと、会場から女性のすすり泣きが聞こえました。それとは対照的に、大半の男性の態度は冷ややかだったことを覚えています。でも、3年経った今では、前のめりで聞いている男性たちがいる。“女性を応援したい”と思考を切り替えた男性経営者たちが、少しずつ増えてきました。建築業界が、今、変わろうとしている。会場の息遣いがわたしに押し寄せてくるようです。なのに、芽吹き始めたその空気感は女性たちにまだ届いていない。その波をつくるための『女性技術者・技能者育成塾』なんです」。

2017年9月開校予定の「女性技術者・技能者育成塾」について

育成塾卒業後は、工務店と人材のマッチングできるよう話し合いを進めている育成塾卒業後は、工務店と人材のマッチングできるよう話し合いを進めている

2017年9月開校予定の「女性技術者・技能者育成塾」。一級建築士・二級建築士・木造建築士・施工管理技士など一定の資格取得者は受験なしで入塾できるが、建築の学校で学んだことがない人でも試験で合格をしたら入塾できる予定だ。子育てや家庭の事情などで時間が取れない女性に配慮してeラーニングを活用した学びと、組織内でのリーダーシップや仲間意識を育む機会を設けていく。また、3ヶ月に一度、各塾生は居住地域で店を構える工務店へインターンに行き、今のレベルでできることを現場で体験し、インターンの期間終了後はまたインターネットを使って次のステップへ進む。これを何度か繰り返していくという。

これらを実現させるとなると、全国にある工務店の受け入れ態勢も同時に進めないといけないが、周りの力を借りて、今、急ピッチで開拓が始まっている。

「わたしも未来の塾生たちも、これからがスタートライン。何度挫折を繰り返しても、自分が納得するまでリトライしたらいいんです。本当に好きなことだったら、どれだけでもチャレンジできるはず。でも、まずはその土台づくり。建設業界で働くことを一度諦めた人たちに対してどう動機づけをしていくのか、ここがポイントになると思うんです」。

建設業界で働き続けたいのに働けない、そんな悩みを抱えた女性たちを見続けてきた籠田さん。自身の経験も鑑み、“籠田 淳子”にしかできない仕事に取り組みたいと話す。
「結婚をしても子どもがいても、働きたい。何かのために自分のやりたいことを犠牲にしない。それって表に出すかどうかは別にして、みんな持っている想いだと思うんです。家庭の事情に合わせて自分がやりたいことができるなら、それが一番。『建設業界って働きやすいよね』、と思ってもらえる環境をみんなと一緒につくっていきたいと思っています」。

2017年 01月25日 11時05分