沿線地域の資産である建物を再生し、「住みたい沿線日本一」へ

保育園とソーシャルアパートメントに生まれ変わった元社員寮。その背景は?保育園とソーシャルアパートメントに生まれ変わった元社員寮。その背景は?

神奈川県川崎市にある築27年の、某企業の元社員寮。空き家となっていたこの建物が、ソーシャルアパートメント「ネイバーズ宮前平」と認可保育園「クレアナーサリー川崎」の複合施設として生まれ変わり、今年3月と4月にオープンした。この改修プロジェクトを手がけたのは、東京都の城南エリアから神奈川県を走る複数の路線をもつ、言わずと知れた鉄道会社の東京急行電鉄株式会社(以下、東急電鉄)だ。

今回のプロジェクトは、沿線地域の空き家や老朽化した建物の再生事業である、「まるサポ」の一つとして進められた。
「まるごとフルサポート」を略した「まるサポ」とは、沿線地域を形成する要素であり、資産である不動産を、所有者のニーズに合わせて再生して価値を高めるため、市場分析から運用管理までを一括して行うサービスだ。通常、手続きの窓口が多くなる取引を、東急グループの強みを活かしてワンストップで行うことができる。

「私たちは、東急沿線を”住みたい沿線、日本一”にすることを目指しています。人口減少社会のなか、人が減り、まちの賑わいが減り、それによってさらに人が減っていく…という負のスパイラルは、ゆくゆくは交通が成り立たなくなることにつながります。人口の減少が顕著な地方で廃線に追い込まれるローカル線が多いことからも明らかです。東急線は幸いにも、すぐに廃線の危機があるという状況ではありませんが、沿線地域のにぎわいや価値向上に貢献するため、こうした事業に取り組んでいます」と、都市創造本部 運営事業部 営業三部 住宅資産課の平井祐太郎氏は話す。

オーナーの求める「安定した賃貸収入」への答えとは

ソーシャルアパートメントの共用ラウンジはとてもゴージャスな仕様。こうした暮らし方を求める人のニーズを狙うことで、高い水準での安定収入を得られるというソーシャルアパートメントの共用ラウンジはとてもゴージャスな仕様。こうした暮らし方を求める人のニーズを狙うことで、高い水準での安定収入を得られるという

今回のプロジェクト対象の社員寮はもともと空き家だった。昨今、問題となっている通り、空き家の増加は地域の治安悪化につながる。空き家対策としての改修が求められるのに加え、築年数の古い建物の維持管理をするために、収益性の向上も必要だったという。
「オーナー様へのご提案に際し、”収益性を上げたい”と考えましたが、単一用途では収益向上が難しいため、ソーシャルアパートメントと保育園、2つの用途を選定しました。この2つにしたのは、地域に根ざし貢献できるものをつくるということと、店舗・事務所の設置ができない用途地域であるという、2つの背景があります」(平井氏)
保育施設の不足と、それによる待機児童増加の課題は川崎市も例外ではない。そうした状況のなか、認可保育所を設けることで地域への貢献も実現するということだ。

一方のソーシャルアパートメント「ネイバーズ宮前平」の企画・運営は、実は東急電鉄ではなく株式会社グローバルエージェンツが、東急電鉄からのサブリースという形態で担当している。特徴的なコンセプトのソーシャルアパートメントづくりのノウハウに定評がある同社が運営する他の物件では、空室待ちの入居希望者がいる物件もあるという。
「”安定した収入”を実現しようとすると、賃貸住宅の場合、戸数が必要になります。それができる今回の物件では、高く安定した賃貸収入を見込めるので、オーナー様のニーズにも応えられると考えました」と話す平井氏。

複数の用途且つ安定的な収入を見込める仕組みを設けたことで、物件オーナーの期待に応え、さらに地元にも貢献する。建物の改修だけでない、沿線地域に様々な価値を生み出す仕組みだと感じた。

対象は「バブル時代の社員寮」。特徴ある建物をどう活かす?  

改装された建物は、いわゆる”バブル時代に建てられた建物”らしく、社員寮ながら1階エントランスの先に広いホールを設けたゆとりのある設計だ。「現在のニーズに合わせてこのホールをどう使うか、悩みどころでした」と平井氏は話す。結果、旧エントランス部分を保育園の園児たちが広々と使えるエントランスホールにすることで有効活用を実現した。
また、元々ボイラー室だった部分は吸音材が付いていたこともあり、リノベーションしてソーシャルアパートメント部分のサウンドルームに転用。「まだ使える部分」はうまく活かして新しいものに生まれ変わらせることができた。

完成したソーシャルアパートメントは、アメリカのニューヨークシティをテーマにしている。ヨガスタジオをイメージしたスタジオや、スパのイメージの足湯を設けたりと、ゴージャス感のあるつくりだ。
「一般的なシェアハウスは、賃料の安さが目的で入居を希望する方が多い傾向にありますが、この『ネイバーズ宮前平』は、周辺の賃貸物件と比較して、決して賃料が安いわけではありません。コンセプトを明確にし、豪華で充実した共用施設のある暮らしを望む方が集まっています」(平井氏)
収益性の向上と安定を狙ったコンセプト設計が、実際に成功したと言えるだろう。

また、「住宅と保育園の併設」ということで、ファミリー向け住宅の方が親和性が高いようにも見え、単身者向けのシェア住宅というコンセプトは少し意外にも感じた。しかし、日中は入居者が不在であることが多いことから、保育園の園児たちが遊ぶ声や音など、騒音のトラブルになりにくいというメリットがあるという。逆転の発想により、一つの建物の中に二つの機能がうまく共存する方法が考えられている。

中央のエントランス部分を保育園のエントランスにし有効活用。</br>また、緑色の太線の間仕切り位置を変更することで、保育室の広さを創出した中央のエントランス部分を保育園のエントランスにし有効活用。
また、緑色の太線の間仕切り位置を変更することで、保育室の広さを創出した

「鉄道会社のまちづくり」の今後は

今回お話を聞いた、東京急行電鉄株式会社都市創造本部 運営事業部 営業三部 住宅資産課の平井祐太郎氏今回お話を聞いた、東京急行電鉄株式会社都市創造本部 運営事業部 営業三部 住宅資産課の平井祐太郎氏

「鉄道会社のまちづくり」というと、電車広告などでも多く見られる住宅の分譲がイメージされやすく、それらに比べると、沿線価値の維持・向上のため、既存建物のリノベーションを行うという事業は、比較的まだ知られていないのではないだろうか。
しかし空き家の増加が課題となる昨今では、既存建物のハード面・ソフト面ともに再生していくという取り組みは今後もニーズが増えていきそうだ。
長く地域の街づくりに密接に関わってきた鉄道会社だからこそ、地域の特色やニーズをうまく反映でき、さらに東急グループの総合力を活かした提案とワンストップでのサポートによって、オーナーにとっても低リスクの空き家対策を可能にすることを目指している。

今後について、「さらに地域に貢献していきたい」と語る平井氏。東急電鉄では、地域に開いた多世代型賃貸住宅も開業しているという。地域の価値と”運命共同体”と言える鉄道会社が行うまちづくりは、今後も時代のニーズに合わせ、様々なかたちで発展していくのかもしれない。

2015年 08月09日 11時10分