築60年余。老朽化した団地の一部が再生された

周囲の建物に比べると低層な堀川団地。端の棟では建替えを睨み、立退きが始まっていた。商店街も残念ながらそれほど賑わっているとは言い難い周囲の建物に比べると低層な堀川団地。端の棟では建替えを睨み、立退きが始まっていた。商店街も残念ながらそれほど賑わっているとは言い難い

幹線道路でも2車線が多い京都市中心部の通りのうち、4車線、場所によってはそれ以上と妙に幅が広いのが堀川通である。その堀川通沿いの、二条城の少し北側に堀川団地と総称される3階建て、6棟の団地群がある。かつてこの地域にあり、市内有数の歓楽街として栄えた堀川京極商店街が戦中に建物疎開(空襲で火災が発生した際に周辺への延焼を防ぐために建物を取り壊して防火帯を設ける措置)させられた跡地に、戦後になって建てられたもので、堀川通が妙に広いのは商店街立退き後の土地の多くを道路用地に充てたため。団地はそれ以外の土地を利用して建設された。

昭和25年から28年にかけて建てられた堀川団地は日本で初めての店舗付き集合住宅として注目を浴びたそうで、1階に店舗、その奥に住宅という店舗付き併用住宅には原則として堀川京極商店街で店舗を経営していた人たちが入居した。その48戸と他に14戸、合計で62店の商店街は戦後復興期にはおおいに賑わい、地域の復興に寄与した。

その堀川団地で老朽化が話題になりだしたのは築後30年ほどだった昭和55年頃から。平成2年には将来の建替えを考慮、新規募集が中止され(その後、1階の商店のみ定期借家で入居再開)、平成15年には耐震診断で補強が必要との結果も。建替えか、耐震補強+リノベーションかで長らく意見が分かれていたものの、最終的に6棟のうち、中心にある2棟を対象に団地再生プロジェクトが始まったのは平成25年。耐震改修、エレベーター設置、高齢者や子育て世帯向けの住戸改修などに加え、平成26年、1階の店舗をリノベーション、交流の拠点として「まちカフェ」と呼ばれる場所が生まれた。

場所と見せ方が変わればモノは売れる

上はチョコレートショップから会議室、カフェを見たところ。下は逆側から。元々は3軒ではなく、大きな1軒のカフェを作るよう要望されたそうだが、小さくても3軒変わるほうが人件費はかかるものの、「変わった」という印象を与えられる。耐震壁を設置したことで内部が変形になっており、最終的には3軒になった上はチョコレートショップから会議室、カフェを見たところ。下は逆側から。元々は3軒ではなく、大きな1軒のカフェを作るよう要望されたそうだが、小さくても3軒変わるほうが人件費はかかるものの、「変わった」という印象を与えられる。耐震壁を設置したことで内部が変形になっており、最終的には3軒になった

京都府住宅供給公社はまちカフェと総称としているが、実際の現地には3軒の店が並んでいる。カフェ、イベントスペースなどとして使われている「KYOGOKU DINING(京極ダイニング)」、住民以外に地域の人たちも多目的に利用できる堀川会議室、そしてもう一軒が遠方からの買い物客を集めるチョコレートショップ「ニュースタンダードチョコレートキョウトby久遠」である。

これらの店舗を立ち上げたのが現在、久遠チョコレート西日本統括リーダーという肩書を持ち、この街出身でもある吉野智和氏である。20歳で社会福祉法人に就職、知的障がい者と授産施設(障がい者自立支援法以前にあった、雇用されることが困難な人を通所させ、自活に必要な訓練を行い、職業を与えて自活させる施設)で働いていた吉野氏は、施設勤務と並行して福祉施設の商品をリデザインする事業を始める。

簡単に言うと、売ることを考えて作られていない福祉施設の商品を売れるようにデザインし直して販路を見つける仕事とでも言えば良いだろうか。最初に注目されたのはパルコ大津店で各地の障がい者施設で作られた商品を集めた期間限定ショップ。テレビ取材が入ったこともあり、1ヶ月分の売上目標を1週間で売り上げるという快挙を成し遂げたのである。続いて、梅田、渋谷と人の集まる街で商品を売り、いずれも話題に。

「場所と見せ方を変えればモノは変わらないのに売れるようになる。バザーで売ると障がい者の商品として安くしか買ってもらえないものを、渋谷に並べるとアート系雑貨になるんです」

「障がい者を一流のショコラティエに!」が現実に

店内のカウンターを挟み、奥は作業スペース。何人かが黙々とチョコレートを作っていた店内のカウンターを挟み、奥は作業スペース。何人かが黙々とチョコレートを作っていた

平成18年に独立、商品のデザイン、コーディネートに続き、飲食店を手掛け、障がい者施設ということではなく、雑誌に登場するカフェを作るなど、障がい者に適正な対価を払えるような仕事を生み出す活動をしてきた吉野氏が次に考えたのは、エリアに対して関わる、エリアを変える店を作りたいということ。そこで堀川団地再生の公募に手を挙げ、まちカフェの運営に乗り出すことになるのだが、面白いことにこのタイミングで新しい出会いがあった。それが久遠チョコレートを経営する一般社団法人ラ・バルカグループ代表の夏目浩次氏が始めた「障がい者を一流のショコラティエに!」というプロジェクトである。

「焼き菓子の場合、焼いている途中で作業をしている人がパニックを起こすと焦げてしまいますが、チョコレートなら途中で作業を中断しても劣化はしません。涼しくて快適な環境で作業しますし、フルーツ全面にチョコレートをかけるのは機械でできるものの、半分だけかけるのは人間にしかできない。しかも、比較的単価が高い。知り合う前にたまたま、ニューヨークのチョコレートショップで多様な人たちが作業をしている映像を見ていたこともあり、一緒にやることを決意。菓子屋にしようと考えていた堀川団地の店をチョコレートショップにすることにしました」。

具体的には久遠チョコレートシェフショコラティエの野口和男氏に指導を仰ぎ、障がい者の人達が作業を学んで店内で販売するチョコレートをひとつずつ丁寧に製造するという形である。

和の素材を使ったチョコレートで百貨店にも進出

上が看板商品の京テリーヌ。チョコレートの中に小豆や柚子などが入っている。下はおかき上が看板商品の京テリーヌ。チョコレートの中に小豆や柚子などが入っている。下はおかき

リノベーションに当たっては元々の建物を大事にした。堀川団地はまだコンクリート建築がほとんど作られていない、モノの不足する時代に作られている。そのため、コンクリートを流し込むために現在使われているコンパネ(コンクリート打設の型枠に用いられる合板)がなく、杉板が使われていた。結果、コンクリートには木目が残されており、今見ると、それがカッコよく見える。大きな石も混じる当時のコンクリートは時代の証人でもある。だったら、それを生かして見せる建物をと考えたわけだ。実際には行政サイドから外観を塗装して欲しいなどの要望もあり、すべてが思った通りに行ったわけではないようだが、出来上がったのはフルオープンになる、シンプルな店内。

商品もシンプルではあるものの、抹茶やほうじ茶、黒豆など和の素材を使ったチョコレートの味わいは新感覚。あっという間に様々なメディアに取り上げられ、2年としないうちに百貨店にも出店するまでに。

「ここは西陣と二条城の間に位置しており、着物、和菓子などの老舗が多い一画。そこに通う百貨店のバイヤーが多く、その人たちが当店に目をつけ、全国7カ所から同時多発的にバレンタイン時に出店してもらえないかと声がかかったのです。この場所にはすごいポテンシャルがあると気づかされました」。

堀川団地だけを見れば、最寄りの地下鉄駅から徒歩15分ちょっとと遠く、古ぼけた建物に空き店舗も目立つ商店街がある、どこにでもある場所だが、それを京都という街全体からみると違う見方ができる。良い商品があれば気づいてもらいやすい、情報を発信しやすい立地だったのである。

特徴ある商品は不利な立地を越える

同店ではバレンタイン時に、百貨店販売を除き、1ヶ月に400万円以上を売り上げるという。「この店をやったことで中心市街地にこだわる必要はないと思うようになりました。良い商品を作り、情報を発信できるなら郊外でも成り立つ。立地の不利は越えられます。商品はあれしかないけれど、あそこでしか買えないとなったら、人は集まる。逆にしょっちゅう買えるものではないので、飽きられる、言葉を変えると消費されにくいというメリットもあります」。

良い商品を生み出すことで立地以外にも越えたものがある。障がい者が作ったモノ=安くて当然という考えである。その昔の授産施設以来、今も同種の施設で作られたモノは『障がい者が作ったモノ』と色眼鏡で見られ、多くの場合、不当に安く売られている。だが、ここでは店内で作業している人たちが見えても、それが障がいを持つ人であるとはたいていの人は気づかない。店側も特にそれを語ることはない。そんなことを言わずとも美味しいモノは美味しく、妥当な値段で売れるのである。

同店のリノベーションがきっかけとなり、現在、吉野氏は各地のリノベーションスクールに関わるようになった。実際に手掛けたリノベーションは1店だけだし、元々は建築分野の人でもない。だが、リノベーションが単に建物を変えるというだけのものではなく、それによって人の行動、考え方や街を変えるという意味を持つと考えると、吉野氏は団地の一角に留まらないリノベーションを行ったわけである。

ただひとつ、残念なのは1店だけでは地域を変えるには至らないこと。現状、同店と雑貨店には、遠方から客が来ているようだが、わざわざタクシーで買いに来た人をもう少し回遊させられれば、地域も変わるだろう。今後さらに魅力のある店舗が増えて、相乗効果で賑わうことを期待したい。


ニュースタンダードチョコレートキョウトby久遠
https://www.facebook.com/NEWSTANDARDCHOCOLATEkyoto/

シンプルに元々の壁を生かして作られた店内。当初はもっといろいろデザインをするつもりだったそうだが、内装を剥がしてみたところ、躯体の持つ力強さに圧倒され、それをそのまま見せるようにしたというシンプルに元々の壁を生かして作られた店内。当初はもっといろいろデザインをするつもりだったそうだが、内装を剥がしてみたところ、躯体の持つ力強さに圧倒され、それをそのまま見せるようにしたという

2016年 12月26日 11時05分