ペットの室内飼育にはさまざまな悩みがつきもの

「ペットと暮らす住まい作り」を追求してきた金巻とも子氏「ペットと暮らす住まい作り」を追求してきた金巻とも子氏

近年、室内で犬を飼う家が増え、家の傷みや汚れ、匂い、排泄のしつけなど、さまざまな問題が浮上している。また、犬の吠え声が近隣トラブルにつながるケースも多く、愛犬家にとっての悩みは尽きない。

現在、住宅業界各社は、ペットとの快適な暮らしを実現するための提案を行っているが、その多くは建材や設備などハード面の提案にとどまり、根本的な解決策は「しつけ」に頼らざるを得ないのが実情だ。そんななか、人と動物が暮らす住環境の調査研究を行い、ペット共生住宅の設計やコンサルティングを行っている建築家がいる。ハウスクエア横浜(横浜市都筑区)の「イヌと暮らす、ネコと暮らす住まいのコーナー」を監修した、金巻とも子氏だ。

金巻氏がペットの問題と取り組み始めたのは、約20年前。自宅マンションで犬を飼おうと思い、勉強を始めたのがきっかけだった。愛玩動物飼養管理士の資格を取得したところ、飼い主からの相談が次々に寄せられるように。こうして、さまざまな事例やノウハウが蓄積されていった。

「同じような間取りでも、ペットと上手に暮らせている人と、そうでない人がいる。数多くのお宅を拝見するうちに、『しつけとはまた違った、住み方のコツのようなものがあるのではないか』と考えるようになりました。それが、ペットとの暮らしというテーマに本格的に取り組むようになったきっかけです」。そう、金巻氏は語る。

ペットが床で粗相をするのは、トイレの使い勝手が悪いから

かがまなくともペットの世話ができる作業台。その下がペットの居場所になっているかがまなくともペットの世話ができる作業台。その下がペットの居場所になっている

ペットとの快適な暮らしを実現する上で、しつけが重要であることはいうまでもない。とはいうものの、全ての飼い主が、ドッグトレーナーのような手腕を発揮できるとはかぎらない。
特別なしつけの才能を持たない普通の飼い主でも、住まいの環境を整えることによって、ペットにまつわる悩みを解決できるのではないか――そんな発想から、金巻氏はさまざまな試行錯誤を重ねてきた。

「たとえば、愛犬がトイレの場所をなかなか覚えてくれず、リビングの床におしっこをしてしまう。そんなとき、これまでは、リビングの床材を撥水性のあるものに変えるなどの方法が一般的でした。しかし、それでは根本的な解決にはつながらない。なぜ、その犬は専用トイレを使ってくれないのか。トイレで排泄してくれないのは、犬が馬鹿なのではなく、トイレの使い勝手が悪いのではないか――いろいろと考えていくうちに、人間工学ならぬ動物工学にもとづいて、住まいの行動学を考える必要があるのではないか、と思い至ったのです。」

キッチンやトイレ、寝場所などをどのように工夫すれば、ペットが落ち着いて暮らすことができるのか。調査研究を進めるうちに、さまざまなことが見えてきた。

「飼い主が緊張していると、家の中に負の空気が漂い、『なになに、何があるの?』と、犬も緊張し、興奮しやすくなって吠えてしまいます。大切なのは、ペットだけでなく、飼い主がリラックスできるような環境を作ること。たとえば、腰をかがめなくても楽な姿勢でペットの世話ができるなど、飼い主の動線を考えることも、住まいづくりのポイントの1つです」

屋根付きハウスで「隠れ家」を、サークルで「緩衝地帯」を作る

ハウスの周りにサークルで緩衝地帯を作り、ペットを安心させるハウスの周りにサークルで緩衝地帯を作り、ペットを安心させる

ペットを室内で飼育する際、忘れてはならないのが、「隠れ家」を用意してやることだ。地震や雷、来客などがあると、ペットによってはひどく怯えることがある。そんなとき、安心できる隠れ場所があるかどうかは、ペットにとっては死活問題なのだという。

「たとえば、部屋の一角をサークルで囲い、その中に屋根付きのハウスを置いてあげる。この場合、ハウスは究極の隠れ家であり、サークルが外の世界との緩衝地帯になっています。来客があると、ワンちゃんはハウスに隠れてこちらの様子を伺い、『大丈夫そうだな』と思ったら、サークルの入口のところまで出てくる。自分で安全だと納得するまで隠れていることができるので、精神的に安定し、学習能力の向上にもつながります」

金巻さんが、隠れ家の大切さを実感したのは、あるシーズー犬との出会いがきっかけだ。
あるとき、飼い主のAさんから、「飼い犬がリビングの隣の和室のふすまを破いてしまうので、傷がつきにくいふすまにしたい」と相談を受けた。
よくよく話を聞いてみると、その犬がふすまを傷つけるようになったのは、工事のトラックが家の前をひんぱんに通るようになったのがきっかけだという。ほかにも、落雷や来客など、何かしら“怖い思い”をしたときに、シーズー犬はふすまを開けて和室に入り、押入れの中に入ろうとすることがわかってきた。

「潜り込むように隠れたい」という動物の本能を理解する

隠れ家の一例。ペットは狭いところに潜り込むのが大好き隠れ家の一例。ペットは狭いところに潜り込むのが大好き

「和室はほんのり暗くて普段は誰もいない。しかも、押入れにはみっちり物が入っている。そこにワンちゃんが入りたがるということは、『潜り込むように隠れたい』という欲求を持っているということです。自分は安全な隠れ場所に身を潜めて、リビングにいる人たちの様子をうかがいたい。だから、和室の押し入れに入ろうとするのではないかと、ようやく気がつきました。
そこで、和室の中に屋根付きのクレート(※)を試しに置いてあげたところ、それだけでも大分、落ち着かせることができたのです」

Aさん宅の事例に見るように、隠れ家を作るときには、部屋の一角に屋根付きのハウスを置き、サークルで囲うなどして緩衝地帯を作るのがポイントだ。よくある市販の平たいベッドは、それだけでは隠れ家にはなりにくいので要注意。トイレはサークルの中と外のどちらに置いてもいいが、サークル内に置く場合は、犬の動線を考えて設置場所を工夫する必要がある、と金巻氏はアドバイスする。

「動線が悪いと、犬がトイレの上を歩いて、足をウンチで汚してしまいます。たとえば、ダックスフントのように胴体が長い犬種だと、サークルの中で向きを変えるときに、お尻がトイレに入って排泄物を踏んでしまう。このため、犬種や体のサイズ、性別などに合わせて動線を考えながら、トイレの位置を決める必要があります」

※クレート:ペットを入れる持ち運び可能なケース。

「ペット目線」と「人間目線」の複眼思考で考える

部屋の中に作った「ねこうぉーく」。人と動物が楽しめる空間作りの例部屋の中に作った「ねこうぉーく」。人と動物が楽しめる空間作りの例

来客時に気になるのが、ペットの匂い。だが、換気をよくすれば、匂いを解消することは十分に可能だという。
「空気の流れが悪いと、埃に毛やタンパク質などの汚染物質が付着し、雑菌やバクテリアが繁殖して匂いがひどくなります。まめに掃除をして汚染源を取り除き、換気することが大切。また、天井材に消臭効果のあるものを使ったり、シーリングファンで天井に溜まった空気を循環させたりするのもおすすめです」

また、珪藻土等のような調湿建材は柔らかく表面が痛みやすいので、ペットがいる家で使うには不向きだと考えられている。しかし、特に漆喰等の素材には匂いやカビ菌を減らす効果があり、ペットの健康を守る効果があるという。

「飼い主自身がくつろげる家でなければ、ペットがリラックスして暮らすことはできない。したがって、ペットとの快適な暮らしを実現するためには、飼い主が満足できるように、住まいの質感を高めていく必要があります。今、猫の居場所を立体的に作るのが流行っていますが、あれには、飼い主がペットの動きを見て楽しむという効果もある。今後は、ペットと人間が楽しくふれあえる空間をいかに作るかが、大きなポイントとなってくるでしょう。『犬や猫がいるからこそ美しい』という居住空間を作ることが、設計者にも求められているように思います」

ペットと人間とは、習性も生態も大きく異なる。したがって、人とペットが幸せに暮らすためには、動物の不安や欲求を理解しなければならない。「ペット目線」と「人間目線」の複眼思考で住まいを見直すことの大切さを、金巻氏は私たちに教えてくれる。

2014年 06月14日 11時03分