“まさかピンクに塗るなんて”

写真で切り取ると、まるで絵画のようにみえる「アパートメント・ハウス」写真で切り取ると、まるで絵画のようにみえる「アパートメント・ハウス」

千葉県、JR・京葉臨海鉄道「蘇我駅」から徒歩15分、戸建てと低層アパートがならぶ典型的な郊外の住宅街に『アパートメント・ハウス』はある。築24年、2階建て上階・下階4戸ずつ全8戸の木造アパートを夫婦と子ども2人(9歳・11歳)が暮らす戸建てへリノベーションした。

中に入ると、あっと驚くアーティスティックな空間がひろがる。玄関を入ると、まるで絵画のようにデザインされたLDK。木の色・パステルピンク・水色に塗り分けられたリビング・キッチンの奥に、少しだけ見えるバスルームや扉…迷路のような空間は歩きまわりたくなる魅力に満ちている。

「まさか室内をピンクに塗るとは思いませんでした。でも、今は100%の満足度です」と話すのはオーナーの佐々木さん。当初、佐々木さんは木造アパートを取り壊して新築戸建てを建てる予定だった。

「もとは親が持っていた木造アパートでした。築年数が経って設備変更が必要になってきたタイミングで半分以上が空き部屋だったので、取り壊して新築戸建てを建てようと考えました。広いリビングに大きなテーブルがあること、小さく部屋を区切らないこと、子ども部屋にはリビングを通る間取りであること、できれば平屋、が新築の希望でした。建築家は、シンプルな設計で以前からオープンハウスで見ていた河内一泰さんに依頼しようと決めていました」

新築戸建て希望から一転、木造アパートから戸建てへ――建築家の河内さんはなぜ、リノベーションを選んだのか?

「リノベーション」という言葉を知らない

「アパートメント・ハウス」の設計者 建築家 河内一泰さん「アパートメント・ハウス」の設計者 建築家 河内一泰さん

「今回の予算が2,100万円だったのですが、木造アパートの解体費に200万円程度かかることがわかりました。施工費などから逆算していくと、新築した場合の建物の面積は今の半分になってしまうため、リノベーションを選びました。今回は、8戸というアパートの広い室内空間をいかしながら“空間に穴を開けていく”感覚で住宅ができないかと考えました。現地調査をしたら、構造的に耐震基準をクリアすることもわかり、リノベーションを提案しました」と建築家の河内一泰さん。

木造アパートをリノベーション――新築を希望していた佐々木さんは、提案を聞いてどう思ったのだろう?
「リノベーションという言葉を知らなかったので、新築じゃないのかと驚きました。ただ、設計プレゼンのときに模型を見て広い空間だなと感じ、悪い印象はありませんでした。河内さんの説明を聞いて、この家づくりは“新しいもの”をつくるのではなく、“新しいこと”をするのだなと感じました。私たちの暮らしを良い方に変えてくれる家になると確信したので、提案通りにリノベーションをすることにしました」

木造アパートを“住み倒す”ためのリノベーション

8戸に分割されている空間を1戸にする――あまり前例のない木造アパートから戸建てへのリノベーションに、河内さんはどう取り組んだのか?
「日本は、各家庭が新築を建てる世界でも珍しい国です。家族のためだけに新しくつくる建物を、住居という狭い空間でどう楽しくしていくかを考えたときに、家の中にいて見える風景が多いと楽しくなると考えました。今回は、8戸に部屋を区切っていた壁をいかしながら、家族の居場所をたくさんつくって、その場所がどこからでも多く見えるように設計をしました。見え方の工夫で、平面のグラフィックデザインみたいに見えるように隣どうしの色が重ならないように色分けをしています」

建築家として住宅設計をメインに行う河内さん、今回の住宅で目指したのは“パッチワークみたいな空間”だという。
外廊下は外して駐車場に、1階にLDKと子どもの勉強部屋・バスルーム・トイレ、2階に2つの子ども部屋・主寝室・書斎・トイレがあり、部屋と部屋のあいだに収納がたっぷりある。どの部屋にいても1階のLDKが少しずつ見えるように工夫された住まいは、個性的な部屋がパッチワークのように見事に組み合わさっている。
賃貸物件としては敬遠されがちな、築古の木造アパートの華麗なる転身――家族が仲良く暮らす、まさに“木造アパートを住み倒す”住宅へ生まれ変わった。

各部屋からのようす。どの部屋からもLDKが見えるようになっている。各部屋からのようす。どの部屋からもLDKが見えるようになっている。

今後はシェアハウスやオフィスにも? “木造アパート1棟を買ってリノベーションする”住まいの選択

リノベーションの可能性を広げる、木造アパートから戸建てへのリノベーションリノベーションの可能性を広げる、木造アパートから戸建てへのリノベーション

「今回の事例で、アパートの面白さがわかりました。アパートには、戸建てにはない規則的なグリッドがあります。このグリッドを複雑にして楽しい空間にしていく作業が面白かったですね。『アパートメント・ハウス』は、木造アパートを1棟購入して戸建てにリノベーションするという持ち家のひとつの方法を示せたとおもいます。古いアパートは上モノとしての価値は無いとされるので、土地の値段で売りに出されます。普通に土地を購入して新築を建てるよりも、広い土地とリノベーションの可能性がある建物を安く購入できる可能性があります」と河内さん。
これまで、各部屋ごとのリノベーションは進んできた。これからは、木造アパート1棟をリノベーションして、シェアオフィス・シェアハウスや商業施設として活用する事例が出てくるかもしれない。

戦後、住宅が不足していた時代に大量に建てられた木造アパートは、供給過多もあり現在では空き家が目立っている。老朽化が進み、賃貸マンションと比べて敬遠されがちなことも、空き家になる一因だ。ただ、木造は筋交いを追加したり梁を架けかえたり柱を補強すれば、空間を変更しやすいという特徴がある。敬遠されがちな建物だからこそ、見方を変えれば価値が逆転しやすい。

「すべて“見える収納”なので、インテリアの工夫をするようになりました。ダンボールに布を貼って外から見えなくしたり、大きな観葉植物を置いてリビングのポイントにしています。天井が高いので、葉が垂れるタイプの植物にも興味が出てきて、成長したときのかたちを調べたり、効果的な肥料の種類を聞いたりと、観葉植物が趣味のひとつになりました」と佐々木さん。
仲良し家族の笑い声が響く元木造アパートは、これからのリノベーションの大きな可能性を秘めていた。

2015年 03月31日 11時07分