今年で48回目を迎える九州経済白書。
今回のテーマは「都市のリノベーション」

2015年九州経済白書の編集・発行にあたった公益財団法人九州経済調査協会の調査研究部 次長 岡野秀之氏2015年九州経済白書の編集・発行にあたった公益財団法人九州経済調査協会の調査研究部 次長 岡野秀之氏

1967年に創刊して今回で48回目を迎える九州経済白書。
昨年は「農業」について調査をした白書であった。今回は、過去8回ほどとりあげている「都市」をテーマとして、九州(九州7県に沖縄県と山口県を含む)の131市を対象に調査を行った。その中でも特に「都市のリノベーション(再構築)」に焦点をあて、人口減少下での持続可能でかつ魅力的な「都市再構築」に向けた都市経営のあり方についての展望を試みている。

近年、九州でも鹿児島、福岡、大分、熊本、長崎などの県都で「主要駅」を核とした都市開発が加速しており、市街地の変貌が進んでいる。一方、県都外の人口10万人規模の地方都市はその中心に未利用地が多く存在し、商店街などのシャッター化が見られるところも少なくない。

地方創生元年ということもあり、注目を集めている都市構造の課題。2015年3月3日、福岡銀行本店地下FFGホールで行われた説明会には約300名もの入場者が集まった。説明会では、今回の九州経済白書の編集・発行にあたった公益財団法人九州経済調査協会(以下、九経調)の調査研究部次長 岡野秀之氏より、調査のポイントが説明された。その説明会の様子をお伝えしたい。

九州地域で起こっている「人口と都市の動き」

九州地域の多くの都市がすでに人口減少の様相を呈している。2005~2010年の間で131市中、人口増加都市は30市にすぎず、101市が減少段階に突入しており、今後はさらに多くの都市が人口減少に転じるとみられている。中でも人口5万人未満の地方中小都市での減少は著しい。ちなみに、人口増加がみられる都市は、福岡都市圏・那覇都市圏・熊本都市圏が大半を占めている。

岡野氏は、"集住地区への人口集中と再都市化のきざし"が見て取れるという。
「1960年の高度成長期、都市への人口移動と流入した人口を吸収するべく、郊外に居住機能がつくられました。70年代になると都市部に商業機能・業務機能の立地が進み、地価の上昇も相まって居住地が郊外に移動することになり、さらにバブル期にかけて地価高騰を受けドーナツ化現象が加速。1990~2000年は規制緩和の影響もあり郊外型の大型店舗の立地が進みます。都市の郊外化は商業・教育・業務・行政・交流などを拡大させ、結果的に"まちなか"の活力が分散され低下してしまいました」。

だが、都市の郊外化(アップサイジング)が現在転換期に差しかかっている、と岡野氏は続ける。
「しかし近年、人口増加メッシュが変化してきています。多くの都市で、鉄道駅周辺を中心とする“まちなか”での人口増加が進んでいることが見て取れます。特に地方中枢・中核都市での都市圏のベッドタウン都市でその傾向が高まっています」という。事実、人口増加を示す地図では中核都市の駅周辺でその傾向があらわれており、それが路線に沿って同じような傾向が見られる。

集住地区への人口集中が進み「集中都市」「相対集中都市」が6割を超えるという。いわゆる"まちなか回帰"の動きが見られるというのだ。

福岡都市圏の集住地区と成長点福岡都市圏の集住地区と成長点

「まちなか回帰」と「成長点」づくり

当日は、雨にもかかわらず約300名が会場で説明に耳を傾けた。都市の再構築というテーマの注目度の高さがあらわれている当日は、雨にもかかわらず約300名が会場で説明に耳を傾けた。都市の再構築というテーマの注目度の高さがあらわれている

実際、一時郊外化した都市の機能が「まちなか回帰」になったのは、どのような理由があるのだろうか?
まちなか居住の象徴を示す「マンション居住の動機」にその傾向が見られる。九経調の「まちなか居住の実態に関するアンケート調査」によれば、居住地選択の要件で現役世代は「通勤」「教育」の合計が約3割であったのに対し、60歳代は「買い物」利便性が現役世代と比較して1.5倍高く、加えて「医療、介護」と「親族介護」の合計が約2割と高くなっており、まちなかに生活や医療のサービスを求めて選択されていることがわかる。また、大型商業施設もまちなか回帰の傾向が見られ、駅を中心とした再都市化の動きがみられる。

「今後の人口減下において、成長点をいかに形成していくべきか…そこには民間投資を誘引して、新陳代謝を促す仕組みとダウンサイジングが求められていきます。そしてその成長点の付加価値は、やりたいコトが実現する場だと思います」と岡野氏はいう。

都市創生のデザイン…その方向性とは?

つまりは、戦略的な都市経営のデザインが今後求められていく…と岡野氏は語る。
「集住から民間投資を生み出し魅力ある生活環境としごと環境を実現していくためには、成長点形成に向けて3つのダウンサイジングと都市再構築の5つの取り組みが求められると思います」

3つのダウンサイジングとは、以下
①空間のダウンサイジング → 集住を促し、そのエリアで居住や投資を進める
②規模のダウンサイジング → 事業規模の適正化(経営的に合理的な取り組み)
③行政のダウンサイジング → 公共サービスに民間のノウハウや工夫を取り入れる官民連携の方法
である。

都市再構築の5つの取り組みとは、以下
①空間のダウンサイジングを実現する仕組み
②集住地区未利用地の流動化の促進
③域外からの移住者を呼び込むための空間克服支援
④公共サービス・公共空間における民間活力導入と複合化によるアップグレード
⑤持続可能な都市経営を構想・実行する組織の構築
としている。

最後に岡野氏は「魅力ある地域をどうつくり上げていくのか?生活者、事業者、行政など各主体のひとりひとりの当事者意識と新しい発想の実現が求められています」と締めくくった。

九州経済白書の分析結果及び説明会の内容は、九州だけでなく国のいたるところで同じ現象が起きていると推測される内容であった。都市をどう考え、どこに住まいを構え、どうコミュニケーションをしながら、持続可能で活力のある地域に暮らしていくのか…。
「成長点の付加価値は、やりたいコトが実現する場である」ということは、人と人がまちで活性化した場をつくりあげていくこということに他ならない。私達ひとりひとりが、住みやすい場所選びだけでなく、そこで住民としてどう暮らしていき、どうコミュニティに関わるのかが今後の持続可能なまちづくりに大きく影響していくのだと思う。

取材協力:公益社団法人 九州経済調査協会 
http://www.kerc.or.jp/report/2015/02/-2015.html


今回の説明会の内容の細やかなデータや実際のまちなかの取り組みの実事例など、興味深い内容の</br>2015年版九州経済白書「都市再構築と地方創生のデザイン~集住とダウンサイジングによる成長点づくりの都市経営」今回の説明会の内容の細やかなデータや実際のまちなかの取り組みの実事例など、興味深い内容の
2015年版九州経済白書「都市再構築と地方創生のデザイン~集住とダウンサイジングによる成長点づくりの都市経営」

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