「若い女性の視点」にとどまらない「使えるリノベーション」が洛西NT団地に8住戸登場!

京都市都心部より約10km。洛西ニュータウン内にはURが管理する団地が全部で3,000戸以上ある。京都市都心部より約10km。洛西ニュータウン内にはURが管理する団地が全部で3,000戸以上ある。

京都市西京区にある洛西境谷東・洛西竹の里団地。洛西ニュータウン内の築30年を超える団地で、3,000戸を超える団地群の一つである。ここで、この団地を管理する独立行政法人都市再生機構西日本支社(以下、「UR 西日本支社」)と京都女子大学が「京都女子大学×UR 洛西NTリノベーションプログラム」を2013年4月より実施。2013年12月初旬にリノベーション住戸が8住戸うまれた。

女子大学と組んでのリノベーション。文字の上っ面だけをみて、広告効果をアテにした浮ついた企画だと思ったら、大きな間違い。住戸コンセプト、ターゲット、間取り、デザイン。8住戸ともに大変よく練られていた。「若い女性の視点」といった軽薄な感じではなく、どれも「使えるリノベーション」だ。これからリノベーションをしようとしている人の参考となるような箇所も多くある。

以下、8住戸のうち特に筆者の目に留まった3住戸を紹介する。

「らしく、くらす。」 〜 応募19作品中、学長賞受賞。室内を貫く土間がポイント

土間がど真ん中、しかも曲線で切り取られるようにある土間がど真ん中、しかも曲線で切り取られるようにある

8住戸の中で、群を抜いて目を引いたのが「らしく、くらす」という住戸。特徴的なのは、玄関からバルコニー迄、住戸内を円弧を描いて貫く土間だ。本作品は、19作品あるなか唯一、学長賞を受賞している。

昨今のリノベーションで土間を取り入れたプランはよく目にする。そのほとんどは玄関近くの一室を、もしくは玄関スペースを広げて土間にしたものだ。しかし本物件はそうではない。「既存の間取りの使い方を打破する為には、玄関側の一室を土間で潰すだけでは物足りない。中心空間であるリビングにまで土間=趣味の空間を持っていきたかった」と、京都女子大学の生徒で今回担当した設計者は語る。

リビングとダイニングの間に横たわる土間は、フローリングとの取り合い部分が全て曲線で作られており、その存在だけで部屋の雰囲気が、趣味を楽しむのに相応しい、楽しそうな空間に映る。使い勝手についても、キッチン側に収納家具を置くスペースが少し成約を受けているものの、土間部分で明瞭に分けられたリビングとキッチンの空間はスペースの使い方にメリハリができて使いやすい。リビング側の片面全ての壁材が水色の黒板壁となっているのは、カラーリングの面白さや伝言板や覚え書きに利用できる使い勝手があり秀逸である。

独立した寝室は和室から洋室へと変更した部屋。来客は寝室を通る事なくリビング側に移動できるのでプライベート空間の確保も可能だ。

家に帰って玄関で靴を脱ぐ、キッチンで靴を脱ぐ、リビングで靴を脱ぐ。それだけでも毎日楽しめそうな住戸である。

「視える、魅せる、見つける」〜 大胆な絞り込まれたターゲット、空間の仕切りに工夫

間仕切り壁の冴えるような青が印象的である間仕切り壁の冴えるような青が印象的である

リビングダイニングを突っ切る土間も斬新だが、プレイルームとリビング間を階段状の間仕切り壁で仕切るという発想もまた斬新である。

腰高もしくは成人の背の高さ程度での一様な高さの間仕切り壁ではなく、階段状、しかも歪な形状だ。天井迄届く壁にしなかったのは、リビング向こうにある一段床の上がったプレイルームに子供がいる存在感を、リビングやキッチンにいる親が感じるため。そして、プレイルームにいる子供が親の存在を確認しながら遊ぶ為の施策。壁の高さを場所によって変えているのは、子供の成長し背が高くなっていくと違った場所を使って違った景色が見えるようにする為の工夫である。

ターゲットは「小さなお子様のいる家族」に絞り込まれているとの事だが、プレイルームをセカンドリビングとして利用することも可能であり、壁のデザイン、色使いはむしろカップルで住む為の楽しげな雰囲気を作る仕掛けといってもよいであろう。

「あっ、女の子がつくったのね、といわれたくなかった」というのは設計者の言葉。プレイルームや洗面室に貼られた幾何学模様をあしらったポップな壁紙、カラーBOX・ベニヤ・ペンキ・ガラスタイルを使ってDIYされたキッチン背面のカウンター、サンプルだけ無く実物大になる迄コピーを張り合わせた確認した壁紙の色目。そのこだわりがあふれる住戸を見て「女の子がつくった」といった言葉はまず出てこない。

「shop 『my house』」 〜 コンセプトは「お店のような家」、材料や質感へのこだわり

壁クロス、アクセントタイル、壁面の棚板、支える金具等々ディテールへのこだわりが感じられる壁クロス、アクセントタイル、壁面の棚板、支える金具等々ディテールへのこだわりが感じられる

「視える、魅せる、見つける」の設計者は「女の子がつくった」といわれたくなかった。それとは反対に、この「shop 『my house』」では、設計者は女の子らしさを出す事に注力した。

この住戸は、間取りの変更は非常に少ない。各居室の開口部はほぼそのまま。バルコニー側の居間と和室の間仕切りが取り払われた以外はほとんど変わっていない。こだわったのは間取りではなく、材料、質感だ。

リビングで目を引くのは、アクセントとして壁に貼られたレンガ風ブリックタイル。古木風の木材を使用した棚。全体に、アンティークなヨーロッパ風に仕上がっている。写真で紹介できないのが残念だが、棚の台座金具、キッチン下部戸棚の取手、洗面所のカラン、リビングのスイッチプレート、これらは皆一つ一つ設計者によって選択され、既存のモノから変更されている。

魂は細部に宿る。大きな間取り変更や見栄えのいいシステムキッチンの導入、こだわりのユニットバスといったものは一切使用していない。細かな部分にこだわって全体の統一感を導きだしている。

お金よりも、時間と情熱を割く事で良いプランがうまれる

風呂、キッチン等の設備は積極的に再利用されていた風呂、キッチン等の設備は積極的に再利用されていた

今回の取材では8住戸の見学を行った。誌面が許すならば全て写真で紹介したい出来映えであった。設計に携わった京都女子大学学生の生の声をリノベーションされた住戸の中で聞くことができたが、どの設計者も熱心にその想いを自分の言葉で語ってくれた。

リノベーション住戸はいくつも見てきたが、今回見学した8住戸は、過去に見たプロの設計事務所が施工業者がつくったプランと比較しても遜色の無いプランであった。なぜ一度も現場を経験した事が無い女子大生がそのようなプランを作成できたのか。ポイントはやはり「いいプランをつくりたい」という熱い想いと住戸と向き合った時間であろう。

2013年7月10日の設計コンペでの当選以来、設計者は夏休みも返上しプランの調整や現場に乗り込んでの施工状況の確認等をしている。カラーボックス等の素材を使ってのDIYによる作り付けの家具作成も行っている。竣工は11月末。設計者は約5ヶ月間、担当する住戸にどっぷりと関わっていた事になる。

各住戸毎の施工費は公表されていないが、8住戸の平均価格は100万円未満であったという。数百万円以上かかるリノベーションも多い中、設計者への業務報酬が無料である事を指し引いても破格の安さである。

そこに住む人の生活について時間をかけて深く考えることが、クオリティの高いプランを産む要素であり、コストをかけなくても良いプランをつくる事が可能であることを示した取組みであったといえる。

今回紹介した住戸は2014年1月18、19日に一般向けプレ内覧会。その後賃貸募集が行われ、3月以降には入居可能である。リノベーションに興味がある人には、是非とも見学して欲しい。きっとヒントになる部分があるはずだ。

2014年 01月11日 21時21分