製材所とクリエイターが協働し、多摩産材を使った木製品を開発

合同会社++のオフィスにて、インタビューに応じてくれた安田知代さん。このプロジェクトを手がけるにあたり、東京・多摩地域の林業の現場や原木市場などにもたびたび足を運んだという合同会社++のオフィスにて、インタビューに応じてくれた安田知代さん。このプロジェクトを手がけるにあたり、東京・多摩地域の林業の現場や原木市場などにもたびたび足を運んだという

家づくりの材料となるのは、スギやヒノキなどの木材。しかし、HOME'S PRESSでもたびたびお伝えしているように、現在、日本で使われている木材の約7割は外国からの輸入材である。日本の国土の約7割は森林で豊富な木材資源をもっているにもかわらず、活用されていないのだ。

そうしたなか、日本の森で育った国産材を使おうという動きが各地で活発になっている。今回クローズアップするのは、東京都の多摩地域でとれる「多摩産材」を使い、DIYフローリングの木製品などを開発するプロジェクト。多摩産材とは、東京都の多摩地域西部(あきる野市、青梅市、八王子市、奥多摩町、日の出町、檜原村)で産出されるスギ、ヒノキである。そうした多摩産材の産地のひとつ、あきる野市の沖倉製材所と、企画・編集・デザインなどを手がける合同会社++(たすたす:東京都三鷹市)が共同で、「SMALL WOOD TOKYO」(スモールウッド・トーキョー)というプロジェクトに取り組んでいる。

筆者が住む東京の地域材「多摩産材」の利用を進める活動である点もさることながら、山側の製材所と街場のクリエイターという、異色なコラボレーションであることに、筆者は興味を感じた。「製材所は木製品をつくる人。そして私たちクリエイターは“つなぐ人”として、広報宣伝や販売を担っています」と、合同会社++で、「SMALL WOOD TOKYO」を担当する安田知代さん。レポート第1回目の今回は、安田さんに「つなぐ人の想い」を語っていただいた。

細い木や曲がった木、節が多い木など、建材になりにくい木を生かす

木のさわやかな香りに包まれた合同会社++のオフィス。築40年の2階建ての店舗を“SMALL WOOD”でリフォームしたという。床はスギ、壁はヒノキ。沖倉製材所のスタッフとともにDIYで仕上げた。1階は木製品のショールームも兼ねている。ⒸSMALL WOOD TOKYO木のさわやかな香りに包まれた合同会社++のオフィス。築40年の2階建ての店舗を“SMALL WOOD”でリフォームしたという。床はスギ、壁はヒノキ。沖倉製材所のスタッフとともにDIYで仕上げた。1階は木製品のショールームも兼ねている。ⒸSMALL WOOD TOKYO

安田さんは、これまでに企業の環境報告書やCSR報告書、地域の本の編集・執筆などを手がけてきた経験をもち、2012年6月に沖倉製材所の代表取締役・沖倉喜彦さん(52)とともに「SMALL WOOD TOKYO」のプロジェクトを立ち上げた。製造・販売する木製品には、スギの一枚板のテーブルや、本などの整理に使える箱型ボックスなどがあるが、中心はDIYで床のリフォームができるフローリング材。いずれも多摩産の無垢の木が使われているのだが、建材になりにくい木を使っているのが特色だ。詳しくは後述するのだが、この建材になりにくい木を、安田さんと沖倉さんは“SMALL WOOD”と名付けている。

安田さんがこのプロジェクトを始めるにいたったのは、「3.11」(東日本大震災)に端を発するという。
「以前から自然環境やエネルギー問題に興味があって、東日本大震災が起きた2011年3月11日を境に、未来の日本の姿についてより深く考えるようになったんです」と、安田さん。そんなあるとき、参加したのが、森林再生に取り組むある団体が主催するワークショップ。そこで目にした森の姿に安田さんは衝撃を受けた。

「木々が細くてひょろひょろとしているうえ、枝がたくさんのびていて暗いんです。下草も生えていなくて、地面もむきだしで…。荒れに荒れた森のなかにいて、涙がでてきました。人が植えた木なのに、手入れをする人がいなくなってこんなにも荒れてしまったのかと。悲しくなりました」(安田さん)。こうした荒れた森を放置しておくと、生態系の破壊や、土砂崩れの原因にもなる。また、森が本来もっている二酸化炭素吸収能力も低下してしまい、地球の温暖化をくいとめる働きが鈍くなってしまうことも知った。「荒れた森をなんとかしなければ、と切実に感じました」と、安田さんは当時をふり返る。

安田さんのこの体験は静岡県でのことだったのだが、こうした荒れた森は日本の森全体にいえる現状でもある。

私たちが森の再生のためにできることは木をたくさん使うこと

沖倉喜彦さん。多摩産材など良材での家づくりをサポートしてきた沖倉喜彦さん。多摩産材など良材での家づくりをサポートしてきた

ここで国内産の木材がなぜ使われていないのか、その背景とどんな問題が起きてしまっているのか、説明させていただきたい。
およそ55年前の1960年には日本で使われた木材の約9割が国産材だった。第2次世界大戦後の復興策と高度経済成長によって需要が高まるばかりで、木材を得るために政府がすすめたのは拡大造林政策だった。全国の森でスギやヒノキがどんどん植林されたのだ。しかし、スギやヒノキは、住宅や公共施設などの建物を建てるのに使えるような太い木に育つまでには50年以上の長い歳月を必要とする。その間の木材需要を補うために始まったのが木材の輸入の自由化だった。当時急騰していた国産材の価格に比べ、値段の安い輸入材がたくさん出回るようになり、輸入材の価格に影響を受けて国産材の価格も下がってしまった。
そうした動きにより、深刻なダメージを受けたのは木材を生産する林業で働く人たちである。収益が下がって林業経営が立ち行かなくなり、結果として林業従事者の減少を招いてしまった。総務省の国勢調査によると、1960年には約26万人の林業従事者がいたのが、年々減少していき、2010年には約5万人と激減してしまっている。

林業の担い手が減ってしまうと、手入れや定期的な伐採をする人がいなくなり、荒れた森が増えていくことになる。こうした荒れた森を放置しておくと、前述のように土砂崩れや、花粉の大量発生を引き起こす原因にもなるし、地球温暖化も進んでしまうことにもなる。

こうした状況をよい方向に変えていくために、私たち一般消費者ができることはどんなことなのか? それは日本の森で育った木を使うことだ。私たちが国産材を使うことが木材を育てた林業従事者の収益につながり、その収益を森林の手入れや次の木材を育てる費用に充てるという、よい循環が保てるのだ。

さて、安田さんのインタビューに戻る。静岡で荒れた森をみて、「私が住んでいる東京の森や林業はどうなっているんだろう? 東京の森や林業のために何かやりたい。そう思うようになったんです」と、安田さん。

そうして知人の紹介で出会ったのが沖倉製材所を営む沖倉喜彦さんだった。沖倉喜彦さんは1950年に創業した沖倉製材所の二代目として、日々、木々と接している。東京の多摩地域に唯一残る木材組合「秋川木材協同組合」(東京都あきる野市)の理事長をつとめ、長年にわたって多摩産材を広めることに力を尽くしてきた。いわば、多摩の木の魅力を知り尽くす人である。

沖倉さんに会い、東京・多摩地域の森も、他の林業地と同じように林業従事者が減り続け、手入れをされない森が増えているという危機的状況にあると知った安田さん。東京の森、林業の再生のために「一緒に何かをやろう!」と、沖倉さんと意気投合したのだった。

DIYで無垢の木のよさを体感し、森を身近に感じてほしい

部屋の寸法に合わせた「割振り図」にしたがって、敷く。基本的には当て木(商品に付属)を添えて、カナヅチで材をはめていく作業。材の長さの調整が必要になった場合は、ミニノコギリやカンナなどでカットする。床のほか、壁のリフォーム材のオーダーにも対応している。ⒸSMALL WOOD TOKYO部屋の寸法に合わせた「割振り図」にしたがって、敷く。基本的には当て木(商品に付属)を添えて、カナヅチで材をはめていく作業。材の長さの調整が必要になった場合は、ミニノコギリやカンナなどでカットする。床のほか、壁のリフォーム材のオーダーにも対応している。ⒸSMALL WOOD TOKYO

では、どんなことができるのか? 安田さんと沖倉さんが話し合いを重ね、行き着いたのが、今、伐られている木をたくさん使うこと。「木をたくさん使う方法というと、木造住宅を建てることになるのかもしれませんが、家を建てるのは多くの人にとってたやすいことではないと思うんです。土地や資金も必要です。そこで、家を建てる機会のない人でも、日常生活に気軽に取り入れられるような木製品を開発しようということになったのです」と、安田さん。

二人が着目したのは、「建材になりにくい木」の存在。東京・多摩地域の森は、2006年にスタートした東京都の花粉発生源対策事業により、スギやヒノキが大量に伐採されているのだ。
「花粉対策事業の目的は、花粉を減らすことです。花粉を出す木を伐採して、花粉の少ない木へ植え替えるというものです。そのため、手入れをされていない木もたくさん伐採されるようになり、市場に出てくるようになりました。細い木や短い木、曲がっている木、節の多い木などですが、これらは建築用材になりにくく、ほとんどが低価格で取引されて合板やチップにされています。私たちはそれらの木々に価値を見出し、“SMALL WOOD”として木製品をつくっていこうと決めました」(安田さん)

木の節は、樹木の成長過程で幹に包み込まれてできるもの。「だから節があるのは木の自然な姿だと思うんです。節の出方は木によってさまざまですし、人智を超える美しさがあるなと感じました」と安田さんは話す。

そうした自然が創り出した木材の特長と風合いを活かすことにこだわり、開発されたのが無垢の木のフローリング材「敷くだけフローリング」。その商品名が物語るように、無垢のフローリング材(スギ、ヒノキともに厚さ15mm)を1枚ずつ、DIYで床に敷き詰めていく。
「自分で敷くことで、多摩産材の無垢の木に直接触れながら木のやわらかさを体感し、森を身近に感じていただきたいと思います。塗装や防腐加工は施していないので、ほおずりしても大丈夫ですよ」(安田さん)
古い床材をはがしたりする必要はなく、接着剤や釘は不要。寸法通りにカットされた1枚1枚の材の側面には凹凸の刻みが入れられ、詳細な割振り図にしたがってはめ込んでいくだけ。床の上でも畳の上でも敷けて、原状復帰もできるので賃貸住宅に住む人でも利用できる。

マンションや一戸建て、店舗、オフィスなど利用者が広がっている

部屋のサイズに合わせて一枚一枚、丁寧に材をカット。沖倉製材所では多摩産材の仕入れから製材・加工、仕上げまでの一切を担っている。ⒸSMALL WOOD TOKYO部屋のサイズに合わせて一枚一枚、丁寧に材をカット。沖倉製材所では多摩産材の仕入れから製材・加工、仕上げまでの一切を担っている。ⒸSMALL WOOD TOKYO

この「敷くだけフローリング」をお客に提供するまでのプロセスで、安田さんはじめ、合同会社++のスタッフ2名が関わる業務は多岐にわたる。お客からの問い合わせの対応、設置予定場所や部屋の寸法など注文内容のヒアリング、見積もり書作成、沖倉製材所への発注、代金入金や配送・納品の確認などだが、特に注文内容のヒアリングはきめ細やかに行なう。部屋にぴったり敷きたい人のために、材の長さと置く位置を指定した割振り図を作成するのだが、その際に部屋の形状なども把握する必要があり、お客から図面や写真を送ってもらい、綿密な聞き取りを行なう。また、要望に応じて寸法を測りに出向いたり、フローリング材を敷くサポートのため現場へ出向くこともあるという。ホームページや販売サイトの更新の業務もこなしている。

安田さんはこうした一連の作業のなかで、ただ売るのではなく、無垢の木の魅力や、“SMALL WOOD” を使うことが東京の森や林業の未来にとってどんな社会的価値があるのか、背景も含めてお客に伝えることにも注力しているという。そうした積み重ねのなか、「敷くだけフローリング」を取り入れるユーザーは、賃貸マンションや一戸建てに住む人をはじめ、店舗やオフィス、保育所など、広がってきている。「店舗やオフィスですと、従業員のみなさんが一緒に体を動かし、力を合わせてフローリング材を敷いていくので、チームビルディングにも役立っているようです」と、安田さん。

ニーズは少しずつ広がっている。しかし、今現在、課題もある。それはビジネスとしていかに確立させていくかだ。初年度と2年めの商品開発などでは、東京都「多摩産材利用開発事業補助金」を活用していたが、問題はこれからだ。
「私たちがめざすのは東京の森や林業の再生です。それにはこのプロジェクトに関わるすべての人に無理を強いることなく、利益のでるような “適正価格”にこだわりたいと考えています。その適正価格で“SMALL WOOD”の製品がたくさん売れるようになれば、建築材にならない材にも価格がつき、林業で働く人たちに収益として還元され、その結果、手入れの行き届いた元気な森が増えていく…。そういう循環をつくりたいのですが、まだまだ事業としての目標には遠いのが現状です」(安田さん)。

この“適正価格”については、「SMALL WOOD TOKYO」を開始して2年経過した今も、模索が続いている。この7月には2度目の値上げに踏み切るという苦渋の決断をした。現地へ寸法を測りにいくかどうか、敷くためのサポートに出向くかどうか等にもよるが、現在、スギのフローリング材の目安は12畳で63万8000円(税抜き)。これは部屋にぴったり敷けるようにカットした木を敷くケースだが、定型サイズにカットした木を購入するケースではスギ1畳で4万7700円、ヒノキ1畳で6万5900円(いずれも税抜き)。

通常、DIYショップなどで国産のスギ・ヒノキのフローリング材を購入すると、この半分以下の価格で手に入れることができるだろう。しかし、安田さんは価格で競争するつもりはない。前述のように「SMALL WOOD TOKYO」には社会貢献という高い付加価値があるし、ボランティア感覚ではなく事業として成り立せることが東京の森や林業の未来につながるという揺るぎない信念がある。「沖倉製材所の製材・乾燥・加工の技術はとても高く、信頼できます。そして、私たちは2年間かけて工夫を重ね、素人でも楽しみながら無垢の木の床をきれいに敷ける仕組みをブラッシュアップしてきました。丁寧な手仕事でオーダーサイズに仕上げられた木製品です。この価格でも納得していただけると思います」と、安田さんは言う。

では、沖倉製作所の技術とはどういうものなのだろう?
次回レポート記事では、沖倉製材所・沖倉喜彦さんの「つくる人の想い」をお伝えしたい。

<参考資料>
林野庁「木材需給表」(平成25年)

<取材協力>
●SMALL WOOD TOKYO

合同会社++(たすたす)
有限会社沖倉製材所

2014年 08月27日 11時16分