マンション建替えは今後進むのだろうか?
以前、【10年後には築30年超マンションが4割に。それでもマンション建替えが進まない理由】でマンションの建替えについて取り上げたが、マンション建替え円滑化法等に関する法律の一部が改正されたのはご存じだろうか?今年2月に閣議決定されて6月に公布された。現在日本にあるマンションのストック数は約590万戸。その内、1981年以前の旧耐震基準で建てられたマンションが約106万戸あるという。しかしその一方で、マンション建替えは183件(2013.4時点)で約14,000戸の実施にとどまり、国土交通省が耐震性不足マンションの建替え促進をするべく、制度の改正が行われた。
これまで区分所有者の全員合意がなくてはマンション建替えはできなかったが耐震性不足マンションという制約はあるものの、区分所有者の4/5以上の合意で一括売却できるようになる。また、耐震性不足マンションの建替えにあたって特定行政庁の許可により容積率緩和が認められるなど計7つの改正が実施された。
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(1) 耐震性不足の認定を受けたマンションについては、区分所有者等の4/5以上の賛成で、マンション及びその敷地の売却を行う旨を決議できることとする。
(2) 決議に係るマンションを買い受けようとする者は、決議前に、当該マンションに係る買受計画を作成し、都道府県知事等の認定を受けることができることとし、決議で定める買受人は、当該認定を受けた者でなければならないこととする。
(3) 決議合意者は、決議合意者等の3/4以上の同意で、都道府県知事等の認可を受けてマンション及びその敷地の売却を行う組合を設立できることとする。
(4) 組合は、決議に反対した区分所有者に対し、区分所有権及び敷地利用権を時価で売り渡すことを請求できることとする。
(5) 都道府県知事等の認可を受けた分配金取得計画で定める権利消滅期日に、マンション及びその敷地利用権は組合に帰属し、当該マンション及びその敷地利用権に係る借家権及び担保権は消滅することとする。
(6) 組合は、権利消滅期日までに、決議に合意した区分所有者に分配金を支払うとともに、借家権者に対して補償金を支払うこととする。
(7) 耐震性不足の認定を受けたマンションの建替えにより新たに建築されるマンションで、一定の敷地面積を有し、市街地環境の整備・改善に資するものについて、特定行政庁の許可により容積率制限を緩和することとする。
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そんな中、旭化成不動産レジデンスでは「マンション建替えレポートvol.2」を発刊。同社が実施したマンション建替えを例に、現在どんなマンション建替えが行われているか今回具体的に探ってみる。
マンション建替えの事例として…
旭化成不動産レジデンスが手がけたマンション事例を見ると、建替え前と後を比べて後の方が建物面積が増えて部屋数も増加しているケースがほとんだ。普通に考えれば、建替え時にマンションが小さくなってしまったら、既存のマンション所有者からも不満が出るし、部屋数が増えないと新規入居者がいないことから住民負担が大きくなる。
信濃町近くにあるシンテンビル(左門町ハイツ)はその中でも特殊な事例だとレポートでは書かれている。マンションは1962年に建設され、28戸の住宅で構成されている。権利自体も入居者全員が区分所有者ではなく、地下1階~4階の事務所の区分所有者が地主で、上の階に住む住民区分所有者は借地権者(地上権)という複雑な形だ。
借地権のマンション事例は他にもあるものの、この物件の大きな特徴は既存不適格マンションだということだ。また、管理組合も特殊で、住居する区分所有者の管理組合はあるものの非住居を含めた管理組合はなかった。こうした複雑な事情が背景にあったが、2007年に行った大規模修繕の検討において耐震性が不足していることが判明し、建替え検討が始まったという。
そうした中で、旭化成不動産レジデンスがサポートして、既存不適格状態での建物計画を行い権利関係の整理が行われた。話が進まない時もあったそうだが、検討中に東日本大震災が起こったことで、建替え計画に同意が得られ建替えが進んだということだ。
マンション建替えの課題は?
マンション建替えを促進するために制度の緩和が行われたが、その他にも様々な課題があるのはご存じだろうか?
小規模マンションなど建替えるための費用が不足しているマンション、既存建物よりも狭い床面積でしか建てられない既存不適格マンション、地上権(借地権)マンションなどだ。また、こうしたマンションに住む入居者は60代以上の世代が多く、高齢者対応力が重要となっているという。
キーポイントは「合意形成」。制度緩和が行われたとはいえ、やはり4/5の同意は必要だ。現在の時点でも高齢者対応が重要だというが、今後少子高齢化が進む中、さらに高齢者への対応力は重要となっていくと考える。
今後のマンション建替えは?
実際の都市型マンションのほとんどはバブル期までにできた公団・公社分譲マンションなどの一部を除き、建ぺい率、容積率も余裕がないものが多い。建替え後、明らかに建物面積が縮小して専有面積も狭くなるとしたら、その時入居者はどのような反応になるのだろうか。シンテンビルの例のように、耐震性への意識が高まりスムーズに建替えが進めばいいが、地震の記憶も年月が経つことで残念ながら薄いものになってしまうのも事実だ。
今回の改正を機にマンション建替えが進むことを期待したい。
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